THE FINAL DAY

Couch Surfing Club -Seoul Art Walk編- #6

THE FINAL DAY

Contributed by Yui Horiuchi

Trip / 2024.09.03

海外へ何度行ったって、旅慣れなんてない。旅で出会う全ての人にフランクに接し、トラブルだって味方につける。着飾らず等身大で、自分のペースで旅を楽しむアーティストYui Horiuchiさんの連載『Couch Surfing Club』。今回からは“Seoul Art Walk編”として、怒涛のスケジュールで巡った韓国・ソウルでのアートトリップの様子をお届け!

#6


3日目、と言ってももう最終日。
変わらず早めの朝の9時出発。



初めてホテルの1階のカフェスペースが開放されていたので、やり切るぞと意気揚揚と大きく始めの一歩を踏み出した。



昨日、お土産に買いたいものを品定めしておいたおかげで歩を早めることができた。
というのも出掛けはお天気が良さそうだったのに、少し曇ってきたのだ。



天気が怪しいので、川沿いは避けて地上の大通りを歩いて広蔵市場に向かってみたら驚いた。
秋葉原を彷彿とさせる電気やネオンの専門店、あと便器やシンクの卸屋だろうか軒並み同じようなお店が並んでおり、目に賑やかだった。



道中、ヤクルト的な配達車両を見かける。
よく寝れると聞いていた乳酸飲料の広告が貼ってあるが、まだどこでも見かけてなかったので欲しいところだったが肝心の運転手が見当たらないので諦めた。



雨に降られるのを避けて早々と広蔵市場の西側にある生地の問屋街からアーケードに逃げ込んだ。
たまたま入ってすぐのところにノースフェイスのB級・アウトレット店があったので、念の為と思って防水のハットもゲット。



土曜日だからだろうか、前日と比べて賑わいが増しているように思える市場。
ここは鍋屋さん、ちなみにここは外、というか通路。
市場を歩いていると割とむき出しな、色んなものを見てきたので抵抗感はすでにかなり薄まってきている。



友人に頼まれていた生搾りエゴマ油をこちらでゲット。
奥のタライに積まれているのは、唐辛子のようだ。
店内でお会計を済まそうと一歩踏み込んだら大気中に漂うカプサイシンが目や鼻を刺激してきた。



今日もシッケを道中ゲットし、目的だった自分のお土産を物色しに韓食器のお店に向かった。



おばあちゃんが一人切り盛りしているような調理器具専門店。
キッチン周りのものは大体なんでも揃いそうなお店だ。
値段がなかったけど、一通り欲しかった食器や鍋、お土産にと思って他にも色々細かいものをひと集めに抱え込んでおばあちゃんのそばまで持っていく、お会計は四千円程度。
いいお土産だなと個人的に思ったのは、場所は取るけどアルミ鍋も冷麺のボウルもとにかく軽い!
ちなみに化繊のお花はばら撒き用の食器洗いのスポンジ。



まだ少し時間に余裕のある朝、十字に展開する市場を詳細に散策してみた。
あずき粥やかぼちゃ粥に並んでトッポキを販売している屋台も。
甘いも辛いも今朝の気分じゃなかったけど、カボチャ粥が特に気になった。
また別の機会に食べてみたい。



おかしのまちおかを彷彿とさせる屋台も、日本の製品もたくさんあるなか、中央に鎮座しているキャベジンと太田胃酸がとても気になったよ(笑)。

各観光名所には赤いハットにベストを着用したボランティアガイドさんがいて多言語対応可能だよ、と友人から聞いていたものの、今まで見かけたことがなく今朝初めてお目にかかれた。
聞きたいこともあって日本語で声をかけたらとっても流暢な日本語でお姉さんが対応してくれたので、お昼の候補を聞いてみることに。



アワビ粥が食べたいと伝えると近くに人気店があるよというので向かってみたら特に日本人に人気のお店だった(笑)。
現地の人に人気のお店を聞くべきだったな。



店内はカフェよりも狭く、1人じゃなかったら荷物の置き場所もないくらい。
肝入りのアワビ粥があったが値段が明らかにリーズナブルで、粥としては破格だけど肝入りアワビで1500円はまずアワビ入ってないんじゃ? と一瞬頭をよぎった。


予想は的中、アワビどこ? といった感じ(笑)


まあ、これはこれで思い出。



実は年始に改めて再訪したソウルで念願の肝アワビ粥を食すことができたんだが、これこそ思い描いていた、まさにと言うアワビ粥だった。
母親が頼んだエビきのこ粥も最高に美味しかった。
日本語も通じて食べ放題のチャンジャも美味な明洞にある瑞源(ソウォン)というところ。
話は逸れたがこっちは本当に人におすすめしたいお店。



ヒョンデシティアウトレットの真裏から昼食を終えて次の目的地、ロッテ百貨店に向かった。
道中、日本でも流行った性格診断「MBTI」の結果を元にしたおみくじ屋を発見。
16タイプの性格別におみくじを引いて盛り上がっている子たち、なんて書いてあるのか気になった。



移動中の地下鉄内にはWi-Fiのサイン。
自分のスマホはデータを買ってあったので試みなかったけど実際に接続できたらとても便利。
どうやら、2020年からソウル市内の公共バスや地下鉄内でWi-Fiが無料で利用できるようになったようだ。

しかも、ソウルの森やヨイド(汝矣島)公園のような大型公園では、データ使用量を気にせずにYouTubeで好きな音楽を聞きながらジョギングまでできるらしい。
外国人観光客も簡単にアクセスできるようになっているようだけど、駅構内のフリー充電スペースといいレストランやカフェの充電ウエルカムな姿勢だったり、こうした取り組みは日本でも東京オリンピックを機に導入するとかしたとか言ってたんじゃないっけ。
そんなことが頭をよぎったが土地と人口の比率を考えたらなかなかスムーズにいかないのも想像に容易い。



そんなことを思いながら電車に揺られ目的のユルジロ1(イル)ガ駅に到着したら降り口のドアの横に座ってたお爺さんのキャップに目が。
ザ赤面? かと思ってググったら韓国の登山ブランドだった(笑)。


日本では見かける機会がなかなか減ってしまったロッテリアもお目見え


感覚的には伊勢丹にマックが入ってるくらいの温度感なんだが、さすがロッテ傘下、心なしか黒を基調に場に馴染んではいるようだった。
15の頃の初めてのバイト先がロッテリアだったことも相まって若干エモーショナルになりながら、地下通路で直結する本館の食料品コーナーに向かった。



以前友人のお土産でもらって美味しくて感動したあずきカボチャコーンヒゲ茶を買い占めにきたのだ。
デトックスにいいらしく整形後の浮腫取りによく飲まれているらしいが、単純に味が美味しいのとノンカフェインなので時間を気にせず飲めるので気に入ったのだ。
ここでもばら撒き用の歯ブラシをゲット、歯科美容も進んでいる韓国、美白歯磨き粉やいろんな種類の歯ブラシも見かけた。



帰り際免税の手続きをしようと出口に向かうと突然実物大の馬が、、、実はこれ頭と尻尾が動いていたので、一瞬本物がいるのかと錯覚してしまった。この遊び心は記憶に新しい初日に立ち寄ったワックス製の巨大な猫がいたTAMBURINSのお店。
膨れ上がったエコバッグが二つ、さすがにこれで美術館巡りはできないので、一度ホテルに荷物を置きに戻ってから再出発だ。


📍ILMIN MUSEUM
✔️I Like To Watch



最終日のアートスポット1ヶ所目はILMIN MUSEUM。
実は初日のバス移動中に見かけた美術館、リストには上げてなかったのだが吊り広告が目に入って、気になって調べてみたら良さそうな展示をやっていたので最終日にねじ込むことにした。
ホテルからも行きやすく、江南方面に出る前の寄り道のつもりが大正解。



こちらの建物も文化財の一つのようで、表にあった標識を翻訳してみた。
“1926年12月に完成したこの建物は、韓国で最も古いオフィスビルであり、1992年まで東亜日報社が使用していました。建物には印象的な湾曲した大きな窓(ベイウィンドウ)があり、屋上まで延びたメインポーチが特徴的です。これは、1920年代の韓国建築スタイルを反映しており、20世紀初頭のこの地域で現存する唯一の建物です。”


湾曲したガラスの大きな窓とはこのことだろう。確かに特徴的だ



1968年にはリモデリングが行われ、1996年以来、この建物はイルミン美術館に




2001年には大規模なリモデルと拡張プロジェクトが行われたものの、建物の内装の一部と外装はオリジナルの状態で保存されているそうだ。
エントランスにはこじんまりとしたレセプションにミュージアムショップ。
奥にはカフェもあったが、このカフェがやたら賑わっているようだった。



美術館では、ロンドンベースの作家、ISSY WOOD(1993年生まれ)の『I Like To Watch』彼女の韓国初となる個展を開催中。
やはりフェアの期間内だからだろうか、多くの場所でアジア初、韓国初という謳い文句を目にした気がする。







Woodの作品は、シュルレアリスムを取り入れた独特のダークファンタジーのような絵画作品をベースに展開されていて、モチーフや切り取られた場面がとても印象的だった。



少し不気味で何が描かれているか分からないけど凄まじい画力によって描かれた絵ということはビルの吊り広告を一眼バスの中から見かけただけだったけど、展示を見たいと思ったきっかけもなったくらいのインパクトがあった。



自分も学生の頃は油絵選考でそれなりに絵画を見ても描いてもきたものけど、絵画が好きなだけに絵画展は時々期待しすぎてしまって実物を展示室で見るのと至近距離に耐えられない画面があることを認識しているつもりだったが、彼女の作品やプレゼンテーションは期待を裏切らないものがあった。



コンセプトにも興味があったのでここで紹介しよう。
“アーティストを圧倒する突然の不安は、気候危機、文化的退行、戦争、そして不安定な政治情勢といった無形の脅威から生じます。これらの不安は、画像が引き起こす過剰なメッセージや意味と無関係ではなく、そうした脅威の物質的な基盤から生じています。ウッドは、自身の生活の中で見つけたシンボルやイメージを象徴化し、それらを驚くほど無関心な態度や脆弱なオープンさで巧みに再構成しています。”
テキストにもある『驚くほど無関心な態度』っていうのがいかにもって感じで画面から伝わってくる。



絵を描いてる時、とくにモチーフが実際にあるものだったりするとよく観察をすることが大前提にあるわけだけど、描き込みのない時は特徴をよく捉えるように、描き込みのある時はそれだけ加筆がされるわけで無関心でいることが難しかったりする。にも関わらず、脅威である対象を描くことへの彼女の無関心さというかモノとしてのモチーフの扱い方がとても上手だとおもった。画面の構成の一部に描いた、白菜っぽい漬物とかもまさにそれ。





ウッドの作品は、16世紀から19世紀にかけてのヨーロッパのネオクラシック絵画や、古典美術の影響を受けており、形状や色、構図の不完全さを意図的に取り入れているらしい。物語性や作品の制作の背景は違うものがあっても、17世紀のロマン主義の絵画が好きな私にはどおりでというかどこかじんわりとくるものがあって今日の世界での絵画の意味や立ち位置を再評価しようと試みようとしているようにも見えた。



支持体を変えて衣類のペイントシリーズが展示してある二階のスペース。この見せ方はウッドの、クラシックな美術表現を超えて、形式や内容のバイナリー(2分法)を乗り越えようと試みているシリーズだそうだ。絵画作品の中でも具象と抽象の境界を曖昧にしている表現は見てとれたが、さらに絵画のルールに従わない新しい表現の可能性を探求しているようだった。



展示室の奥には彼女が作曲したミュージックビデオも再生中。全8作品をループ再生していたがトータル20分くらいだろうか、プロデュース力が高過ぎる、面白すぎて全て見入ってしまった。オンラインのどこかで彼女の映像作品が見れるかもしれないので、気になった方は是非ググってみてほしい。





帰りしなにミュージアムショップとしては破格のオリジナルグッズのボールペン(一本100円くらいだった)をまとめ買い。良心的、そしてむっちゃでかい袋もくれた。心身共に満たされる美術館訪問だった。



美術館を出てすぐには光化門駅、どうやら普段からデモが行われる場所らしく本日の横断幕の内容は「北韓(北朝鮮)のテロ技術を輸入したハマス、イスラエル攻撃!大統領が謝罪を放棄した『9.19軍事合意』ムン・ジェインを拘束せよ!」
このメッセージは、北朝鮮のテクノロジーがハマスによって使用され、イスラエルに対して攻撃が行われたことを非難し、ムンジェイン元大統領に対して、2018年9月19日に締結された韓国と北朝鮮の軍事合意に関して批判し、彼を拘束するよう求めている内容だった。時期的にもデモの内容としては予測可能ではあったけど、北朝鮮のテロ技術についてまで触れられているものとは思わなかった。



駅に向かうと構内広告に貼られたたくさんのポストイットを見かけた。
推しへのメッセージだろうな、なんて思ってパパゴで翻訳してみると
「ビン、ありがとう」「君の歌を永遠に覚えているよ」「ムンビン、いつも君が恋しいよ」「いつまでも忘れないよ」(韓国語のメッセージと日本語のメッセージが混ざっているポストイット)
ああそうか、記憶に新しい K-POPグループASTROのメンバーだった故ムンビンへのファンからの思いを込めて書いたメッセージだった。
キラキラしてる側面をすごく見てきている韓国滞在だったが、韓国芸能界の闇とメンタルヘルスの問題については今後も広く議論されていくべき的だろう。



電車に乗ってハンガンを渡るといよいよ本日のメインのエリア、高層ビルが立ち並ぶ江南区が見えてきた。



チョンダム駅を降りるとソウル内でも屈指の高級層の人々が訪れるという、東京でいうなら銀座みたいなエリアにやってきた。そして整形手術でも有名らしい。


📍GLADSTONE GALLERY
✔️ALEX KATZ


一番最初に訪れたのはGladstone Galleryで開催中のAlex Katz展




御年97歳のAlex Katz、代表作は人々の顔画面いっぱいに描いた肖像画のシリーズが有名で多作なことでも知られている。世代を超えて他の作家たちに影響を与えてきたペインターのうちの一人だろう。



Gladstone Galleryは、アメリカに拠点を置く現代美術ギャラリーで、1980年代にBarbara Gladstoneによって設立された老舗ギャラリーのうちの一つ。



ソウルの店舗は地上1階と地下のスペースの2フロアで構成。
ハンドアウトには作品同様、物語性の高い文面が並んでいた。



“アレックス・カッツは蜂です。彼の筆と油彩の花粉で、私たちの想像の中の花々を受粉させます。
蜂のように、彼はここになかったものを存在させました。蜂のように、花から花へ、花弁から花弁へ、雄しべから雄しべへと移動します。彼は本能の指示に従い、着実に作業を続けています。
アレックス・カッツは洞窟画家です。我々の時代の洞窟画家であり、まだ来ぬ時代のために、私たちは切実に祈っています。もし四万年後に、花が存在しなくなっていたとしても、その場に作者がいなくともそこに絵画が残っているでしょう。敬意を込めてその絵を見つめる人々は、それが人間の手によって作られたものであると確信するでしょう、そして、それだけが重要なのです。”


もしかしたらその四万年後には人も存在していないかもしれないけどと脳裏をよぎったが、ロマンのあるプレゼンテーションだった



Gladstoneを後にして、次の目的地SONGEUNに向かった



道中横切る高級車、車線は片道6車線。対向車線と合わせたら12車線もある、信号を渡りきるのも一苦労



大通りに面したビル群も目を引くデザインのものばかり



そんな中でも一際目を引く建物が



📍SONGEUN
✔️PANORAMA



そう、これが2021年9月に開設された非営利文化空間「SONGEUN(松隠・ソンウン)」スイスの建築デュオ、ヘルツォーク&ド・ムーロンによる韓国初のプロジェクトだ。



入口にはSeung Hye Hongの『A Certain Panorama』という映像作品。
開催中のPANORAMA展の冒頭に位置する「A Certain Panorama」(2023年)は、入口のメディアウォールに展示されており、展覧会に参加する16人のアーティストやその関連プログラムが様々な形に変化し、時には一緒に浮遊し、時には宇宙空間に散在する様子を描いている。ホンは、これらの有機的な相互作用によって生み出されるパノラマに焦点を当て、観覧者を展覧会スペースへと導き、彼女の心温まる想像力を共有しようとしているそうだ。



2001年には、松隠芸術賞を設立し、有望な現代韓国アーティストを排出・支援・育成。
韓国の現代美術を牽引する存在として、アーティストの成長と美術の発展に大きく貢献してきた。
松隠(ソンウン)芸術文化財団は、1989年に設立された非営利組織。
以来30年以上にわたり、特に若い韓国人アーティストの創作活動を支えるために貢献。
財団の名前「松隠(ソンウン)」は、「隠れた松の木」を意味し、まさに「隠れた松の木」のように、財団が目立たない形でアーティストの成長を支援する姿勢を反映している。
この展覧会「PANORAMA」では異なる世代からの16名の有望な韓国のアーティストの才能を紹介している。
こちらもボリュームのある展覧会だが、入場料は無料。



エレベーターで最上階の展示フロアまで上がってから階段で降りてくるルートで回ることにした。
3階では、キム・ジヨン、イ・ジンジュ、パク・グリムが、それぞれのアイデンティティを追求し、1枚の画面内に多層的な時間性を織り交ぜた作品を展示し、劇的な雰囲気を創り出す構成のようだ。
よし行ってみよう。



パク・グリムのプレゼンテーションは、「Shimhodo」シリーズに焦点を当て、アーティストが少数派としての経験を仏教絵画の伝統的なイメージである「十牛図(Shimudo)」(じゅうぎゅうず:悟りにいたる10の段階を10枚の図と詩で表したものと巧みに融合させたもの)、修行者が自己の本質を探し求める過程を、牛を探す旅にたとえて描いたスタイルである。



「Shimhodo」は、アーティストが小さな田舎町で成長し、比較的マイナーなジャンルである仏教芸術をクィアとして実践してきた個人的な物語を追いながら、自己の真の本質を再発見しようとする人間共通の葛藤に取り組んでいる。



展示会場には、視覚的に印象的な中心展示として「Shimhodo_Chosen」(2023年)が展示されていて、この作品は、2人の優雅な菩薩が虎を抱えている描写であり、その虎はアーティスト自身を象徴しているそうだ。



実は、この虎ちゃんがめっちゃチャーミングに描かれていて、菩薩とのコントラスト、愛嬌の溢れる仕草、立体作品にも展開されており目を引いた。
この作品は、2018年に制作された同じタイトルの作品の変形版らしい。



アーティストが「十牛図」における牛と少年を菩薩と虎に置き換えたように「Shimhodo_Chosen」を再描写するプロセスは、作品の形、スタイル、物語が交差するさまざまなポイントを記録するための緻密な試みとなっているようだ。



同フロアで展開されていたジンジュ・リーの作品は、東洋風の絵画技法を思わせる色彩技術を用いて、現実的でありながら奇妙な生活の場面を巧みに捉えた具象絵画作品。
技法は違ってくるが、表現のスタイルにパク・グリムと共鳴するところがあって見やすい展示構成だ。



リーのキャンバス内の独自の空間配置は、支持体そのものが展覧会のタイトルにもなっているパノラマを提示しているようだ。
たとえば、伝統的な巻物形式で発表された「The Lowland」(2017年)は、観客が物語の流れを追い、移動することを促し、混合された視点と断片化された時間性の魅惑的な組み合わせを提供している。
リーはその卓越した才能と技術で観客を作品の中への没入体験へと上手に誘っている。



かなり壁面から浮いた状態で作品が展示されていたこともあって、キャンバスの背面も気になった。





記憶が定かではないのだが、おそらく過去にこの手の作品をどこかで見ているような気がしていた。
潔く壁面のマージンを絵画作品の背景のように取り入れている。



観客の足を止めていた黒塗りの西洋絵画のような先ほど見た手の中に割れた卵が描かれているシリーズ。
命を象徴する卵だが、とても繊細で割れやすいものであり、彼女の作品に描かれている女性のストッキングが皮膚をしっかりと覆っているように、非常に薄くて柔らかく壊れやすいにもかかわらず暖かさを保つという相反する性質を持つ代表的なモチーフとして使用されているようだ。



彼女の作品に繰り返し登場する女性の姿は、最初は彼女自身のアイデンティティのイメージとして誕生したが、次第に彼女の作品を観察するオブジェクトアイデンティティの投影となり、記憶の伝統的な語り手としての役割を果たすようになったという。



3階最後の展示は比較的小規模だったが、キム・ジヨンのプレゼンテーションが。
彼女の作品シリーズ「Glowing Hour」は、誕生から死に至る人生の旅路と、光を生み出すために燃え尽きる必要があるロウソクを比較した油絵で構成されていた。



階段を見つけたので降っていくと、オーディトリアムにインバイ・キムの作品が。
キムの作品は、人物の後ろ姿に対応する輪郭の一部を選び、それを三次元空間でアルミ、ステンレス、木を用いて彫刻として具現化している。



2階のスペースでは、キム・インバイ、イ・ヒジュン、シム・レジョンが新作を発表し、日常の体験や習慣に隠された側面をさまざまなメディアで探求している。





黄色いブラインドカーテンを開けるとシム・レジョンの展示が、シムは、死をテーマにグロテスクなイメージを描き出す作風を持つ。
今回の展示では、彼女の過去の作品「BATH HOUSE 1」(2020年)に基づき、新たな作品「BATH HOUSE: Dr. Pali’s Bathing Method」(2023年)を発表。
一室を使ったインスタレーションでは、架空のキャラクターであるDr. Paliが、哺乳類のあらゆる病を治癒するための入浴法を開発し、最終的にはその理論を証明するために人間での実験を行うという物語が描かれていた。



イ・ヒジュンは、急速に変わる都市環境と現代生活の複雑さの中で、フォトコラージュ技法を使って画像を捉え、それをキャンバスに転写して物語を展開しようと試みている。
「Scaffolding」シリーズは、完成した空間から始めるのではなく、建設プロセスの予測できない変化を取り入れることを好む彼のスタイルを反映しているそうだ。



次に、一階へと続く階段オーディトリアムでは、時間の経過を再構成したり、変化し続ける視点や認識から過去の作品に再び取り組んだクォン・ヘウォン、リ・ジェ、リュ・ソンシルのビデオ作品が上映されている。



オーディトリアムへと続く、踊り場ではアルテックとフォルマファンタズマによる「スツール 60」の90周年とフィンランドの森を讃えるインスタレーションが 。
フォルマファンタズマがキュレーションするこのインスタレーションは、アルテックが共に開発した新しい木材選定基準「Wild Birch」を採用した、最後の90周年モデル「スツール 60 ヴィッリ」が出迎えてくれた。



映像作品を見終えてからオーディトリアムをそのまま降っていくとエントランスフロアに戻ってきた。
素晴らしい動線、美術館として設計された建築物だからこそできたデザインだろう。



最後ロビーには、アーティストとしての自伝的で断片的な思考をキャンバスに投影したチョン・ヒョンスンの絵画が展示されていた。



帰ってきてから気がついたことだが、地下にも展示スペースがあったのに見落としてしまっていたらしい。
こういうこともある、無料だしありがたくまた再訪させてもらうとしよう。


Seoul Art walk #6の話は一旦ここまで!
最終日#6~#7でめぐった場所はMAPをご参照ください。





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