As I Like It #29
特別で、幸せな食卓
Contributed by Utano Katayama
Trip / 2024.09.25
#29
イギリスへ来て、私は無事に誕生日を迎えた。今回はその時の、愛しくて忘れられない1日について。
私にとって誕生日は、昔から本当に特別な1日だった。小さい頃はプレゼントを貰えるし、1つ歳が増えるだけで少し大人に近づいた気がしてとってもとっても嬉しかったのを覚えている。
しかし、大きくなるにつれ、逆に歳をとりたくないと思い始めてからは幼い頃のように首を長くして待つようなことはなくなった。イギリスで迎えた誕生日も、今日が誕生日だということさえ忘れていたくらいだ。
誕生日当日、友達のSNSに私の誕生日がリマインドされたみたいで、みんなから続々とメッセージが届いた。その時にようやく、そういえば! と実感したのだ。この日はいつも通り学校へ行ったけれど、実は夜に大切な予定が待っている。
前々から……というか何ヶ月も前から、一緒に暮らすアニータに「誕生日はいつ?」「誕生日パーティーをするから予定を空けておいてね!」と念を押されていた。
誕生日はまだまだというのに、「予定入れてないよね?」「ディナーに何を作るかもう考えているの」と、私よりも心待ちにしている様子が可愛らしくて、「入れるわけないじゃん!楽しみすぎるよ」と毎回答えるのが定番のやり取りだった。
そしていつものように学校から家に帰ると、アニータとパートナーのデイヴがキッチンに立って夕ご飯の支度をしてくれていた。キッチンには勝手口が付いていて、扉を開けるとすぐに広い庭に出られるようになっている。アニータは料理の出来を逐一覗きながら、いつものように庭のテラスでお酒を飲んで、陽をたっぷりと浴びている。
私が帰ったのに気づくと、こっちこっち!と 手招きして、庭でお祝いのシャンパンをいれてくれた。知らないうちに仲の良い隣人夫婦も参加していて、まだパーティーは始まっていないというのに、とっても賑やか。もうすでに楽しい!
アニータの夕飯の準備も、私たちのボルテージも完ぺきだ。
アニータが手の込んだ料理たちを大皿に盛って、「出来たよ〜!」と私たちに声をかけた。もう見る前から美味しい匂いにやられそう。出来上がった料理たちを運ぶのを手伝って、全員でテーブルを囲む。私が誕生日席で、アニータとデイヴ、そしてこの家で暮らす私のお姉ちゃん的存在のスティーヴィーももちろん参加してくれている。
本当の家族みたいな3人が祝ってくれることにニヤついてしまう私の横で、アニータがせっせとみんなのグラスにシャンパンを注いでくれた。
アニータの得意料理の数々
元旦那さんが中国人シェフだったということもあって、中華料理も彼女のお手のものだ。お箸をとっても上手に使って取り分けてくれた。どの料理も彩りが良くてキラキラして見える。「ハッピーバースデー!」とみんなが言ってくれた後、グラスで乾杯した。たくさんある料理をまずは一口ずつ食べてみる。
ん〜。どれも美味しすぎる! 期待以上すぎる味に感動が止まらない。
アニータが前日から材料を切ったり漬け込んだりしてくれていたのを知っていたから、本当に本当に楽しみにしていた。アニータの料理は周りからも評判で、店を開けるよとみんな口を揃えて言う。食べる手が止まらなくて、お腹がもう苦しい。こんなにはち切れそうになるまで食べたのは久しぶりだ。みんなと食卓を囲んでご飯を食べるのってこんなにも幸せなんだ。この瞬間を忘れないように、ずっと記憶に留めておきたい。
デイヴがミント味のチョコレートをくれたんだけど、そこから思わぬ遊びが始まった。
初めスティーヴィーがやり方を見せてくれたけど、あまりの変顔っぷりがみんなのツボにどハマりで、終始笑いが絶えない。
その遊びとは、目の上にチョコレートを置いて、手を使わずに口まで運ぶゲーム。
変顔必須だから盛り上がりたいときにはおすすめ。
やり切って満足そうなスティーヴィー
余韻にしばらく浸っていると、部屋が急に真っ暗になって前には光の灯ったケーキを持ったデイヴが!
まさかケーキまで用意してくれているなんて
予想していなかったサプライズに胸が張り裂けそうな私。バースデーソングを歌ってくれた後に、ドキドキしながらろうそくをふーっ。と吹くと、みんなが改めておめでとうー! と言ってくれた。
本当に嬉しくて少しうるっときた。日本から遠く離れたこの地で、本当の家族みたいに大切な人ができるのってこんなにも嬉しいんだ。
今日そして日頃の感謝を伝えて、部屋に戻ったあともみんなからもらった手紙を大切に、丁寧に、ずっと眺めた。
何より私のために私以上にこの日を楽しみにしてくれていた、その気持ちだけで胸がぽっと熱くなる。その思いがみんなからの何よりのプレゼントだった。
今年もいい年になりますように。そして周りの人を大切にする。そう決めた!
つづく
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Utano Katayama
2000年生まれ、京都在住の大学生。自分探しも兼ねてイギリスのBrightonという海沿いの街に留学中。イギリスのカルチャー、世界観にますます惹き込まれている日々を綴った"As I Like It"をContainerにて連載中。自慢できることは何でも食べられること。食、アクション映画が好き。