London, Can you wait? #10
summer breeze
Contributed by Chika Hasebe
Trip / 2024.09.27
#10
今回は最近のこと。
8月の下旬、週末の柔らかな暑さが過ぎ去った週明け、身震いする寒さのせいで長袖に手を伸ばす。もう夏も終わりか。あんまり夏という夏を感じることなく、今年はこのまま終わりそう。
日本のジメっとした夏の夜に、ビーサンで近所まで散歩をしてアイスを買う。そんなかつての習慣は、こっちに来てからすっかりなくなってしまった。ビーサンも、この間チャイニーズをテイクアウトしに行ったときにこの夏初めて履いたぐらいだ。普段サンダルを履くほど暑くならない。
曇りの多いロンドンだが、今日の夜は雲一つなく空が澄んでいる。今の家に引っ越してきて以来、部屋の窓からよじ登り、屋根の上から外を眺めることが習慣になった。今日は一段と綺麗なので写真を撮った。
写真を撮りながら思い出したのは、月の写真を撮ろうとして、三階のテラスから転落して亡くなったアーティスト、SOPHIEのこと。Chali XCXのアルバム『BRAT』でも、SOPHIEを想う曲が挿入されている。亡くなったことは知っていたが、まさかそんな事故だとは思ってもみなかった。そのニュースを初めて聞いてから、月や星が綺麗な日にときどき思い出す。もう彼女はここにいないけれど、少なくともいい写真が撮れたときの、「あ!いけた!」という感覚を握ったまま、天国に行くことができたのならばいいな。
ロンドンは東京と同じくあまり夜の空は暗くない。庭で静かな夜に空を見上げても、星だと思った光はヘリコプター。動いてないよね? 今度こそ星じゃない? あーやっぱり動いている。この間もそんな会話をしたばかりだ。
小学校で後悔していることは、理科の星座の授業を真面目に受けなかったこと。あのとき星座をちゃんと覚えていたら、今でもどこの国にいても星座と星座にまつわるストーリーを思い出すことができたのに。
わたしは近しい人によく、空が綺麗だから見て! とメッセージをすることがある。いつも送りあっている(ほぼわたしが勝手に送りつけている)あの人が今週はロンドンにいない。空は繋がっているというけれど、やっぱり離れていちゃ同じ空は共有できないじゃないか。
イギリスに住み始めてから、日本にいる友人とめっきり連絡を取れなくなってしまった。時差はサマータイムの今でも8時間、冬になると9時間。アメリカと日本よりはまし、とよく職場でも話になるが、それでもコミュニケーションの足枷には変わりない。十数時間かけないと辿り着けない国が母国なんて、ここに住むヨーロッパの人からしたら信じられないらしい。渡英して数ヶ月は、時差を考えながら時間を調整して日本の友人と電話をしていた。今の仕事に就く前は、自分の予定ももっと自由だったから合わせやすかったのかもしれない。でももう最近は、家族ぐらい、友人でも一人か二人ほどとしか話せなくなってしまった。かつて夜遅くまで喋りが止まらなかった友人とも、最後に連絡をしたのが思い出せないくらい、一度距離と時間が空いてしまえば、今更突然「元気?」とメッセージするのも気が引ける。わたしは元々こまめに連絡を取れるタイプでもなく、大事なことは会ってから話せばいいやと必要最低限のコミュニケーションしかしてこなかった。そのツケがここで回ってきたのかも。
今自分が見ている空と同じ景色を見ている友人も、いつかはどこかへ離れていくのだろう。もしかしたら自分が離れるほうかもしれない。ロンドンは「来るもの拒まず去るもの追わず」の街だからこそ、同じ空を共有できるって、多分人生の中じゃ一瞬の出来事なんだろうな。
友人が一年前に『Live Fast, Die Pretty』というタトゥーを入れたことを思い出した。わたしにはあまり長生きしたい願望がないので、かっこよく終われたら本当にそれが一番。気づいたら季節が移り変わって、これから日がどんどん短くなっていくけれど、一瞬の出来事の積み重ねの毎日をなんとなく生きないで、噛み締めていきたいね。
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Chika Hasebe
1998年生まれ。2023年5月よりロンドンに拠点を移し、報道記者の仕事に従事する一方、フリーライターとしてカルチャーについて発信もしている。