London Calling! #5
Birthday10 〜ロンドンで誕生日を祝う10の方法(できればチープ・ラヴリーに)〜
Contributed by Chihiro Fukunaga
Trip / 2024.10.10
そんな漠然とした願いが突如、切符となって目の前に差し出された。ロンドンで新たな生活をスタートさせたフリーランスの編集者・ライターChihiro Fukunagaさんが、生活拠点をつくるまでの様子を全6回でお届け!
#5
年に一度の誕生日。「お祝いするような年でもないし」とクールな謙遜を見せる年上の人を見て、大人っぽい! いつかああなりたい! と思うけど、私は浮かれてしまう。
カッコつけて言えば、自分がここまで辿り着いた軌跡を讃える日。カッコつけずに言えば、自分のためにお金をドカンと使っていい日。道を行く人に「今日、誕生日で〜す!」と声をかけ、手を振って歩きたくなるようなウキウキ気分が0時まで続く一日。
私はロンドンで、27歳の誕生日を迎えた。
ロンドンに住む人はパブを貸し切ったり、公園にブルーシートを広げたりして、仲間をたくさん集めたバースデーパーティーを開く。私も何度か、近い業界で働く日本人の先輩たちのバースデーパーティーに呼んでもらって、楽しい交流をした。でも、私はシャイ・ガイで、パーティーをオーガナイズできるほど友達も多くない。そういうわけで、いつもの一人の誕生日のように、街に出ることにした。
今回のテーマは、「ロンドンで誕生日を祝う12の方法」。物価の高いロンドンで大事なお金をセーブしながら自分の誕生日をできる限り盛大に祝う方法を、紹介させてください……。
1:メッセージをくれた人々の顔を思い浮かべる(10:00)
2:好きな服を着て街に出る(10:00)
この日は鉄の意志で早起き。こちらより8時間進んでいる日本の家族や友人から、おめでとう! のメッセージが届いている。どんな人からでもおめでとうメッセージが来ると嬉しい。意外な人からだと、なおのこと。私も、しばらく連絡してない人の誕生日に気づいたら、「そんなに親しく人ないけど、誕生日に気付いているの、キモくないかな…?」とか考えず、どんどんメッセージを送っていこうと思った…♪
化粧をし、髪をセットして、水玉のキャミドレスを手に取る。このドレスは肌がずいぶん出るので、普段は恥ずかしくてなかなか着られない。でも、誕生日にかこつけて、着ちゃうぜ! この日は、どんどんかこつけていきましょうね。
3.バースデープレイリストを作る(10:30)
バスの中で、バースデープレイリストを作る。これは本当なら前日までに済ませておくのが良い。私は旅行に行く時も必ずプレイリストを作る。音楽の、記憶を真空パックのように閉じ込めておける力はすごい。プレイリストを作るのも、思い出を閉じ込めて、その曲を聴くたびに特別な日の天気や匂い、街の景色を思い出せるようにしておくためだ。
(ちなみに私は岡村靖幸のアルバム「禁じられた生きがい(1995年)」を18歳の誕生日にディスクユニオンにて数百円で買って聴いたので、そのアルバムを聴くたびにその暑かった1日と、自分へのプレゼントに今はなき東急渋谷で買ったM.A.Cのリップの甘いバニラの匂いを思い出す。)
4. お気に入りのカフェで年間目標を立てる(11:00)
週3くらいで通っているカフェ。店内にはフォトブックがずらっと並んでいるけど、地元の人に人気なのはテラス席のよう
いつもPC作業をする時に行く、お気に入りのPhoto book cafeに到着。Photo book cafeは写真にフォーカスした、ギャラリーを併設しているカフェで、世界の写真集や地元のフォトグラファーのPhoto ZINEを読みながら、コーヒーや食事、お酒をいただける。Yohji Yamamotoの写真集や日本の小さなフォトマガジンも置いているのも、日本人としては嬉しい。
いつもはアメリカーノしか頼まないけれど、この日は誕生日。バナナブレッドも注文した!
そして手帳を開き、27歳の目標を考える。これは私が毎年必ずやっていることで、仕事と生活、交友関係などそれぞれの項目において1年間どのように過ごしていくべきか、計画を立てる。
目標を書いたページはその後、あんまり見返すことはないけども、誕生日という節目に向こう1年間のことを考えるだけで、意外とその内容が頭に残る。そして、地味にちゃんと毎年の目標を達成できているから、意味のあることだ。
5.誕生日プレゼントを買う(12:00)
6.1年間、纏う香りについて考える(12:00)
悩みに悩んで誕生日プレゼントに買ったDiptyqueの Eau des Sens。使い始めてから、頻繁に人から褒められている
Dries Van Notenのフレグランス…!ボトルのデザインはもちろん、香りにも一筋縄ではいかない意外性があった。いつか必ず手に入れるぞ!
自分への誕生日プレゼントを買いに、Shoreditchへ。今年はフレグランスを買うと決めていて、今は断然グリーンかシトラスの気分。日本で買えないブランドにしようと思っていたけど、結局Diptyqueの Eau des Sensをゲット。Dries Van Notenのフレグランスの、2つのパターンを一つに集約したボトルも、喉から手が出るほど欲しかったけど、フレグランスに£250を出せる気がしなくて断念。もう少しお姉さんになったら、必ず……。
DiptyqueのEau des Sensは、トップノートにオレンジの花がフレッシュかつエレガントに香るけれど、ビターオレンジの苦味もある大人っぽいフレグランス。この香りは以前少しバイトしていた先の美人で厳しいボスが気に入っていたもので、最初は肌に乗せるたびに彼女の顔がチラついて怖かったけど、1ヶ月経った今はもう私の香りになった。10年後、街のどこかでこの香りに出会った時に、ロンドンで過ごした日々を思い出すことを今から楽しみにしている。
7.バースデープレイリストを聴きながら移動する(14:00)
バスでロンドンの大きなアートギャラリー、Tate Modernに向かう。友達に教えてもらった、Anthony McCallの展示を観に行くためだ。
道中、バースデープレイリストから、2015年まで東京を中心に活動していた日本のインディーズオルタナティブロックバンド、昆虫キッズの「27歳」を聴く。27歳。才能あるたくさんの若いロックスターが、彗星のように時代を駆け抜けて、死んでいった年。私はロックスターではないけれど、初期衝動的なものに突き動かされて、いても経ってもいられなくなるような、そういうことがどんどんなくなっていくのかと、少し寂しくなる。私もよくある若者の例に漏れず大人は分かってくれない、といつも思っていたけど、私も20歳前後の若い世代から見たら「分かってくれない大人」側に片足を突っ込みつつあるんだろうな。私はいつまでも満たされない気持ちのまま、イライラしていたい。
8.自分の守備範囲から少し外れた展示をチェック(15:00)
Tateを訪れたのは、ロンドンに来て4ヶ月経ったこの時が初めて。館内の螺旋階段の曲線が綺麗だった!
Anthony McCallのインスタレーションの展示。リアルな人影が加わることで、より異世界感が強調される気がする。
光が広がるタイプ以外にこんなものも
Anthony McCallは、イギリス出身のアーティスト。プロジェクターを使って暗い部屋に3次元の光の彫刻を作り出す、インスタレーションの作品群「Solid Light Works」で知られる。インスタレーションは、普段の私なら注目しないジャンルだけど、この日は誕生日。せっかく友達が教えてくれたし、いつもと違うことに挑戦するのもいい思い出になるはず。彼のインスタレーション作品は、光の放出の仕方や濃淡の変化によってシェイプを作っていて、まさに“光の彫刻”。形があるのに触れられない、幻想的な作品だった!
9.気になっていたバンドのGIGを観に行く(19:00)
10.自分の姿を写真に撮っておく(19:00)
Home CountiesのGIGのために訪れたOMEARA。石造り?のような壁で、天井はアーチ型。日本のライブハウスとはまた違う。
プリクラ機?のようなもので記念写真!
2024年の誕生日の一番の目玉イベントは、Home CountiesのGIG。彼らはロンドンを拠点に活動する6人組のインディーロックバンド。ポストパンクやニューウェーブなどから影響を受けたサウンドと男女のツインボーカルによりユーモラスでシニカルな詞を歌うのが彼らのスタイル。
私は彼らの存在を、昔から知っている音楽業界の先輩に教えてもらった。曲ごとに、いや1曲の中でも目まぐるしくムードが変化する切り貼り感覚と、キャッチーなのにエッジィなサウンドの虜になった。そんな彼らが、私の誕生日にサウスロンドンに位置するライブハウス、OMEARAのフリーエントリーのイベントに出演するということで、行く以外に選択肢はなかった!
ロンドンではミュージックバーのような会場も含めるとフリーエントリーの音楽イベントが毎夜いろんなところであるから、夜にふらっと気軽に音楽を楽しめる。
この日は彼らを含めて3組のバンドが出演していた。一度騒ぎたがりの連中が我慢し切れずモッシュピットを作ってしまうと、その後はもうメチャクチャ、というのは、本場ロンドンのライブハウスも同じだということが分かった(笑)。
転換中、会場に無料のプリクラ機のようなものがあったので、記念写真を撮った! そうそう、誕生日に自分の写真を資料として残しておくのも、すごく大切。
Home Counties!素朴な見た目なのも、またかっこいい
Home Countiesはこのイベントのメインアクトで、最後の最後にステージに現れた。Apple Musicで散々聞いた楽曲が次々と披露されるけど、ライブで見るのは全然違う。メンバーが6人いるこのバンドには、6つの声と12本の腕がある。それぞれ誰が何をするのか観ているだけでも全く飽きない。曲によっては、トライアングルやカウベル、ギロ、リコーダーなどが登場し、プレイフルな楽曲にチャーミングな色気を添えた。
私にとってそれは、忘れられないライブ体験になった。私は文学部出身だったこともあって(?)、とても長い間、作り手のスタンスやその曲でフォーカスされているテーマを重視する音楽の聴き方をしていたんだが、大人になってようやく音楽を「音が重なった結果、生まれた成果物」として聴けるようになった気がしていた。このGIGを見て、それが確固たる確信に変わり、自分の中に言葉を介さず音楽を楽しむ受容体があることを知った。
彼らはどんなことを歌っているかを正確に聞き取れなくても、音だけで楽しませ、踊らせてくれた。日本人の私の勝手な妄想を押し付ければ、なんとなく彼らはいつか日本に来て、FUJI ROCK FRSTIVALなんかのステージでも演奏してくれる気がした。
私の27歳はこうして始まった。物価が日本の2倍も高いと言われるロンドンには、お金をかけなくても心を満たす方法がたくさんあった!
アーカイブはこちら
Tag
Writer
-
Chihiro Fukunaga
1997年生まれ、神奈川県横浜市出身。幼い頃から手描きの雑誌を作り、家庭内で発表する。高校生になると編集者を職業として意識し始め、大学在学中に編集プロダクションに所属。その後、INFASパブリケーションズに入社し、ファッションメディア「WWDJAPAN」の編集部に編集記者として参加する。2024年春に渡英し、フリーランスの編集者・ライターとなる。ルポルタージュやスナップが好き。美しいだけでないリアルや、多様な価値観に迫りたい。