my milli mile #6
“COWBOY CALLED ME” ーカウボーイはね、山も谷も越えられるー
Contributed by Yuka Ishiyama
Trip / 2024.12.05
大学生のYuka Ishiyamaさんがフィンランド留学中のあらゆる瞬間を独自の視点で切り取り、出会いのストーリーとして全8回でお届け。
#6
ドイツの南に位置する街、コンスタンツにはスイスとオーストリアとの国境をまたぐ海のように広大な湖が広がっていた。共に旅を続けるモニカの旧ルームメイト、ララが住んでいるその街に2人で足を運び、ララが街を案内してくれた。結局、私たちは観光というよりジェラート片手に水辺に座り、お別れ前のたわいもない会話と共に、自然の優しい空気に包まれながら時間を過ごした。
そこから私とモニカは、船でオーストリアに向かう
ヨーロッパの旅先としてメジャーではないオーストリアに行くのは、一緒に旅をするモニカのアイデアだった。ヨーロッパの山をみたい! と言っていたのを思い出し、私たちはそれを叶えるために最高の決断をした。
オーストリアでの初めての朝、目覚めとともにふと窓から見えたのは澄んだ空と鋭く青い山々。
夏の暑い日、太陽の真下、オーストリアにあるインスブルックの山の頂上で、モニカと2人で来世は鳥になると誓った。あ〜いいな、飛びたいな〜。自由に飛び回る鳥になって世界中を旅したいね、と遠くを見つめながら同じ言葉を交わし続けていた。
ため息ができるほどに圧倒された私たちの目の前には、100回見ても500回見ても足りないほどの眩しい山々が連なっていた。
そこから見た世界は、全てが小さく感じて、人間は立場をなくしたただの豆粒だった。あの国の偉い人やお金持ちでさえ、地位や名誉に関係なく全てがフラットに見えたのはあれが初めてだ。
やっぱり特別なのは何事も中身なんだろうと、その豆粒一つ一つを味見してみたくなった。自分が楽しむことに、自分の中の幸せを見つけていくことに1番の輝きが詰まっているんだと、自分自身の内側が躍ることの大切さに気がついた。
それにしてもこの旅路で、人の温かさを感じる瞬間に何度出会っただろう。
日々触れているはずの温かさは、ふと気がつくと触れたまま温度がわからなくなることがある。冬の室内であたたかい飲み物を飲み、心からホッとするあのたまらん瞬間は、そこまで耐え抜いた寒さがあるから。それと似たものだろう。
やはり旅をしていると、思いもよらぬ所でその温かさに出逢う。そしてその温かさといえば、真冬に飲むスパイスのよく効いたチャイラテのように、わたしの心を掴んでじんわりと奥まで沁みてゆく。
—-
話はオーストリアに戻るが、私たちはあっという間にインスブルクでの2日を過ごし、大荷物と共に街を歩いていると、自転車に乗った住人らしき女性が前からやってきた。工事中の安定しない足場に気をつけながら彼女の方へ目をやると、その後ろからヘルメットを被った前屈みでエンジン全開の少年が、その小さな足でタイヤをフル回転しながらやってきた。その勢いになんだか目が離せずにいると、少年は突然 「ヒャッホー!!!」と声をあげ、私の目の前にあった道路整備でできた小さな山(段差)を飛び越えていった。
私はその瞬間、なんだかハッとした。
あ、この子はその勢いでどこまでも行ける。行ってほしい。そう願った。
少年は大きな馬に乗ったカウボーイのように、あの小さい山でさえ全力で超えていった。
それを見た時私は、自分もその心をいつまでも忘れないでいようと、心に誓った。
——
モニカとの最後の旅先はハンガリー、ブダペストだ。また目の前の世界ががらっと変わりはじめる。10時間のバス移動にも慣れ始めた気がした頃だが、深夜2時に降ろされた見知らぬ暗いバス停で過ごす2時間はさすがの私でもドキドキした。
ブダペストは大好きな街だ。週末マーケットでは大勢のコレクターが街のあちこちに集まり、私は終始興奮がおさまらなかった。そこで出逢った年代物のポスターや切手、カメラ達は今でも私の宝物だ。
あのカメラ屋さんの白髭おじさんは、まだあの場所で古いフィルムたちを売っているだろうか。おじさんの記憶に私たちがいるかはわからないけれど、私達の中で一生忘れない思い出があの場所で生き続けているのは確かだ。
そう、ブダペストといえば、焦って下ろした60,000円。6,000円のはずだった60,000円。ゼロがイッコ多いんや……。と出てきた分厚い紙の束をみた瞬間に、私は一瞬で大きなミスを犯してしまった事に気がついた。
ブダペストでの最後の夜、ハンガリーでは名の知れた聖イシュトヴァーン大聖堂に辿り着いた私達は、その日の観覧時間が既に終了している事を知り、がっかりしていた。するとスタッフの人がやってきて、あと5分で始まるオーケストラのチケットを買えば中に入れるよ、と教えてくれた。
大聖堂×オーケストラなど、そんな響きはなかなか贅沢というか、私の人生では初めてのことだった。その緊張感のある状況に焦りつつも、私たちはその場の勢いで観る事を決めた。
チケットの値段は割とお手軽だったが、着いたばかりなので現金がないこと気がつき、私は近くのATMにダッシュした。そう、その瞬間での60,000円である。6,000円のつもりの60,000円だ。ハンガリーではその物価の安さから60,000円など数日間の旅行ではまず必要ない。私はその札束を恐る恐る手にして会場まで走り、無事に私たちはオーケストラの公演を大聖堂で観られることになった。
なんとも神秘的な会場だ。私は自分の過ちと近い未来への不安を頭によぎらせながらも、黄金に輝く空間に圧倒されていた。オーケストラの音色と天高くまで広がる迫力のある黄金空間が、美しすぎるほどにマッチしていた。夢のようだった。目の前に広がる光景が非現実的だからか、目に焼き付けようと思えば思うほど難しい。これでもかと目を凝らして隅々まで見渡してみるが、あまりに夢のようで、吸収しきれないのだろう。本の1ページを読んでめくると直ぐに粉になってしまうかのように、目の前の景色はすーっと私の記憶から消えていくようだった。不思議な感覚だ。
ただ、それは今でも言葉では表わしきれない程に、ただ、とてつもなく美しかった。
その日の夜は、モニカとの旅の最終日だった。
あの時うまく吸収できなかった全てが、今ではこれでもかと鮮明に蘇る。
Special thanks to Monica for the amazing trip ♡
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旅の余談ではあるが、私はオーストリアを移動中、家族に手紙を書くことにした。
ヨーロッパでの一年間、家族とは数えられるほどの連絡しか取らなかった。母との一度の電話ですら、帰国の一ヶ月前だ。だけど、その分の思いを紙の上に記して送るのが、私には一番心地がよかった。フェイクでもなくリアルすぎもしない、ぼんやりした中で1番大事なことをうまく伝えられる気がした。
ドイツにあるミュンヘンの道中で一目惚れをした、ビール片手の泥酔おじさんのモノクロ写真を手紙用のポストカードに選んだ。
お酒が大好きな我が家にはぴったりの完璧なポストカードに嬉しくなり、家族がそれをみて笑っている様子を想像しながら、私の想いをのせた。家族を思いながら眺める電車の窓からは、山と緑と湖が瞬時に混じり合う、私の知らない世界がキラキラと輝き続いていた。
それにしても、そのドイツの泥酔おじさんと裏に綴った私の言葉は今頃世界のどこを彷徨っているのか、私にはわからないのだ。家族の元まで届けたかったが、しょうがない。後になにかの拍子で気づいたのだが、私はそのポストカードに宛先も書かずに出していた……。ほんと、そんなことばかりの旅である。
でも、そんなことばかりの旅が、愛おしくて仕方ないのだ。
今ではそんなことも、無条件の愛で包み込まれてしまうほどに儚くほろ苦い、大切な思い出となって私の中で生きていた。
私が旅の話をする度に、誰かから旅の話を聞く度に、“そんなことばかりの旅”は、結局どこかで誰かの愛に包まれているなと感じる。
ふと、またオーストリアで見たあのカウボーイを思い出した。私は「ヒャッホー!」と大きな声をあげ、大事なものを握りしめ、どこまでも駆け出したくなった。
LOVE,
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Yuka Ishiyama
東京生まれ育ち、ひとり時間もパーティもコーヒーもビールも大好きな欲張り大学生。ヨーロッパ留学と旅を経て世界の広さと同時にその近さを実感し、誰もが持つ個々のストーリーをエンパワーし、表現したいと活動している。現在は日本のホステルで働きながら、世界と自分との出会いの旅を続けている。