happy hippy in Bristol

London, Can you wait? #12

happy hippy in Bristol

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2025.01.31

ロンドンに来てみた。実際に住んでみたら、自分は何を感じてその先に何を求めるか見てみたかった。ロンドンに拠点を移した会社員・Chika Hasebeさんによる、社会との体当たり日記。現在と過去を交互に綴ります。

#12


今回はロンドンを出て、ブリストルとブライトンに行ってみた話。

ロンドンに住み始めてから一年半ほどが経とうとしている。以前書いた通り、まだまだロンドンはおろか、イギリスについて全然知らないと思う。日々いろいろなことが起こるので、ロンドンでお腹いっぱいだが、大切な人たちのお陰で、週末足を伸ばすきっかけができた。ヒッピーな街と言われるブリストルとブライトンで吹く風は? 前編はブリストル。


09 Nov - 10 Nov ブリストル

友人のHarryが「ブリストルで面白そうなイベントがあるんだけど、どう?」とある日突然メッセージを送ってきた。彼の誘いはいつも前触れがなくて、面白い。日程が自分の誕生日と重なっていて一瞬考えたが、ほぼ二つ返事で行くことにした。

去年、Harryとりょうくんとウェールズでキャンプした以来、久しぶりに二人とドライブをした。いつも本当に長距離運転ありがとよ、Harry。今回は、まゆちゃんも一緒。キャンプしたとき、まゆちゃんはまだイギリスにいなかったのか。時間って本当に飛んでいる。


「まゆちゃんが撮った写真」


小さいときは車に乗っても、全く酔わなかった。絵を描いたり、本を読んだりしてもへっちゃら。それが今では本を開けたらほんの数分で頭がぼーっとしてくるし、スマホも連続して見るのがキツくなった。車に乗っているだけでも、ちょっと違和感を感じることが増えてきた。車酔いしやすい母がよく「ジェットコースターは酔っちゃうから乗れない」と当時の自分には全く理解不明の現象を主張していたが、わたしもいつか乗れなくなる日が来るのかもしれないとジワジワ思い始めている。

昔、Harryが通っていたという大学を通り過ぎてから、ブリストルの街に出てきた感じがした。車を降りるまでに見た、100人近くの通行人のほとんどが若者。ロンドンよりも割合が高くてびっくりした。わたしたちが走ったエリアが大学周辺だったこともあるが、どうやらブリストルという街自体が学生都市らしい。元気、希望という影のないポジティブさが似合う街というよりは、もっと血生臭く生きている感じがした。



まずみんなで橋を見に行った。橋を歩くのかと思いきや、案内人のHarryは橋には目もくれずに脇道の坂を登っていく。ついていくと、途中真っ暗な中で複数のグループが各々夕方の時間を過ごしているのが見えた(ちなみに外はもう真っ暗、冬って早いね)。道から離れた薮で集っている人たちもいて、みんな自由。登りきった先では綺麗な橋を眺望できた!



この橋のあるエリアはブリストルでも最も高級な住宅エリアらしく、イギリスでは珍しい、バルコニー付きのパリスタイルフラットを散見。パリのフラット懐かしい。そして羨ましいぜ。



そのあとHarryの大学時代の友達たちと会って、夕飯を共にし、飲みに出た。そのうちの一人のAndrewが、この二日間を通してわたしが見たブリストルを総括するに最もふさわしい表現で、街を紹介してくれた。「ブリストルには、いいクラックヘッズがいっぱいいる」と。

必ずしも街に中毒者が溢れているということではない。ロンドンの方が路上生活者、酔っ払いを見かけることは多いと思う。”いい”の定義は難しいが、なんとなくロンドンにいる人たちよりも、顔が明るい感じがする。

Tescoの前でバケツに座ってタバコを吸うおじさん。広い屋上で年季の入ったソファに集う中年の三人組。Turbo Islandでお喋りをするおじいさん二人組。にっこりしながら階段に座って道路を眺める人。パーティで見かけた、奇抜なメイクをした爆踊りするお姉さんが、イベント終わりに、わたしたちが乗る車の前を自転車で爆走していく後ろ姿。

多分わたしにとっての“いい”は、その人自身が自分らしくいることができているように見えることなんだろう。ゴーイングマイウェイだね。


Turbo Island よく焚き火をやっているたまり場


みんなで食事をしたときにちょうど、Andrewたちが最近観た、世界で長生きの地域を紹介し、その秘訣について探るドキュメンタリーシリーズ『Live to 100: Secrets of the Blue Zones』の話になった。ドキュメンタリーでは、世界中の長生きする人たちをインタビューしていて、沖縄も特集されている。Andrewたちは全エピソード観て、「コミュニティが長寿の秘訣」という言葉に一番納得したという。



もちろん健康的な食事や運動が大切なことは広く知られているが、それよりも心の健康を維持することが大事なようだ。わたしはシリーズを観ていないので感想を言えないが、その話を聞いて、ブリストルの街には、それぞれの人が居場所を見つけられるようなコミュニティが存在している雰囲気がして、だから流れ者にとっても住みやすい場所なのかもしれないと思った。





夜は4人でパーティに向かった。箱は教会(?!)で、久々に踊る楽しさを噛み締めながら音楽に突き動かされる時間だった。空間も音楽もわたしたちも周りの人も、みんなが自由だった。


負けるな街よ!

環境保護・平和などを掲げるリベラル政党「緑の党(Green Party)」が多数派という、反骨精神に溢れた自由なブリストル。そんな都市も資本の波に飲まれることは避けられない。



パーティ明け、4人でぼーっとした頭と身体を引きずりながら、りょうくんとまゆちゃんが、Two Shellのパーティでオーガナイザーの一人に教えてもらったというカフェバーMickey Zoggsに行ってみた。入ってみたら、雰囲気は喫茶店そのものだった。コーヒーもビールもあるし、ケーキやパスタ、アランチーニ(ライスコロッケ)まである! 店内は古めの木の椅子と机がランダムに並んでいて、ちょっとした本棚とたくさんのポスターや絵が飾られていた。カフェの隣にはラジオスペースがあって、店内にもその音楽が流れてくる。



最高なスペースだねと店員の人にみんなで話しかけたら、でも来週で閉店することになっていると残念な顔をされた。建物が売りに出されることになり、リース契約が終わるタイミングで退去しなければいけないらしい。え!!!!

文化が大きな力でにじり潰されるとき、わたしは本当に怒りを感じる。文化をなくした先に待つ結末に、資本家は何も興味を示さない。金になるものに飛びついては、壊すだけ壊して、賞味期限が来たらすぐ捨てる。元はと言えば賞味期限なんてなかったはずの文化を、資本家たちが使い古すからダメになってしまうということに、いつになったら彼らは気づくのだろう。



このカフェはまだ権利を取り返すという希望がある。頑張ってほしいな。


街を眺めて

Massive AttackやBanksyを生んだブリストル。日本からイギリスに足を踏み入れて根を張るには、ロンドンよりも良いスタートが切れそうな雰囲気がする。ロンドンはインターナショナルで、日々の生活で日本人を見つけるのにも苦労しない。ブリストルは白人の比率が高くて、その中でも多分イギリス人が多いのだろう。わたしは二日間でアジア人を一度も見かけなかった。移民として生活するには、アウトサイダーが多い、ロンドンのような場所の方がやりやすいと思っていた。困ったときには慰め合えるし。



それでもブリストルの方が住み良いのではないかと今回思ったのは、自分もフィットするようなコミュニティがどこかしらにはあるんじゃないかと希望を持てる空気を感じたから。ロンドンは、応援はしてくれるけれど、支援はしてくれないドライさがある。日本から右も左も知らずに飛んできて、そこでハッスルするって結構大変なことだ。ブリストルのようなインクルーシブな街でジワジワと活動を広げ、準備運動ができたらロンドンという本戦に挑む方が、なんとなくスムーズにいきそうな感じがしたんだよな〜。ただの勘だけど。


日本系のパブでもないのに、居酒屋の提灯。ちょっと馴染んでいる。


わたしはもうロンドンに住んで一年半が経ち、大切な人たちに囲まれて、生活も安定してきたので、今すぐ引っ越したいとは思わないが、移住前の自分がブリストルのことをもっと知っていたら、選択を変えていたかもしれない。それぐらい興味深い街だった。



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