
Beginning of my new Life #49
MUSICAL
Contributed by Asuka Naka
Trip / 2025.03.05
番外編として高校生の頃に訪れたアメリカでの交換留学の様子をお届け中。
2学期の私のスケジュールは中々にハードだった。なぜならミュージカルとウィンターガードのクラブを掛け持ちしていたからだ。
3月に入れば放課後に授業が終わってスクールバスで帰ることはほとんどなくなっていた。放課後には練習だ。ミュージカル本番は4月。2日間の本番のために3ヶ月間毎日のように放課後に練習がある。美女と野獣だったのでもちろん主役のベルや野獣役の子達は、覚える量のレベルが違った。私には彼らがプロにしか見えなかった。そのくらいとても歌も上手で何より自信を持っていた。私はワンシーンだけ主役たちに混ざって舞台に出ることがあったのだが、私のような脇役がこのシーンを台無しにするわけにはいかないと必死だった。歌のレッスン、ダンスのレッスン、劇のレッスンがあり中々に覚えることが多く、多忙だった。最初のうちは基礎から入るので、思っていたのと違い、役をおりる子も多くいた。オーディションを一緒に受けたアメリカ人のエンジェルと、韓国人留学生のスヨンは見事一緒に受かったものの、すぐに辞めていってしまったのだ。
私は美女と野獣が好きというホストファミリーのためにやると決めたので、辞めるという選択肢はなかった。とはいえやはり英語を完全に理解できるわけでもなく、一人何が起こっているのかわからずポカーンとしていることもよくあった。しかし練習を重ねるごとに助け舟を出してくれる子達や先生もいて、何とか本番まで練習を続けることができた。
本番数日前に初めて全体を通すリハーサルをした。ミュージカルなのでおよそ2時間にもわたる長いショーである。このリハーサルで初めてベル役の子の歌声を聴き、演劇を見た。感激という言葉が正しいのだろうか。年も変わらないこの女の子が舞台では女優さんにしか見えない。みんなに幸せを運ぶような綺麗な歌声、ずっと聴いていたい歌声だった。そしてプロさながらの演劇力。アメリカはやはりレベルが違った。高校生の劇程度だと思っていた私がバカだった。私にはなぜこの主役の子たちがまだこの普通の高校に通っているのかわからないくらい、本格的でとにかく本物だった。この時高校生だった私たちは今大学を卒業した歳。果たして彼ら彼女らはどんな大人になっていっているのだろうかとふと思う。ただ物ではない美声を持つベル役だった彼女が今でも人前で歌声、そして彼女の存在を披露している人物だったらいいなと思う。世の中そんなに甘くない。そして悪者が目立ちやすいこの世界。彼女みたいなキラキラみんなに幸せを運ぶような人たちがより目立つ世界がそこにあったらいいな。
4月に入りドキドキしながら美女と野獣ミュージカル本番の日がやってきた。とても緊張しながら学校に行き、最後のリハーサルをする。大丈夫だよね、とお互いに励まし合いながら、公演の時間がやってくる。1日2公演を2日続けて行うため全4公演あった。そして私のホストファミリーはそのうちの2公演も見にきてくれた。劇が始まると何だかとても寂しかった。この通しをやれるのもこの本番の回数だけ。これだけ練習したのに本番が始まると終わりに近づいていると思い、とても悲しかった。しかし、本番はとても楽しかった。練習したことを出し切るのみ。いつも通りに美しいベルの歌声で始まる。そしてみんなが順調に劇を進める。
私の出演しないシーンのある歌の最中に何だか様子がおかしいことを感じた。周りがざわついている。何かと思って舞台上を覗くと、そこにはサプライズでMr.マイヤーが劇の中の役に混ざっていた。本当にとことん面白い先生である。みんなの緊張も少しほぐれて笑顔に包まれた。私は無我夢中で自分のパートをやり切った。今まで何回も通しの練習をしていたが、やはり観客がいる公演は雰囲気が違って楽しさが増した。


この劇の見どころの一つにキスシーンがある。最初の読み合わせの時に先生がベルの子に確認すると、「彼氏に聞いてみるね!」と返答する彼女。なんてオープンな国なんだアメリカは、と私はついていけずにいたが、そのシーンは舞台の袖からしか見たことがないので仕上がりは分からずじまいであった。高校生のミュージカルでキスシーンなんてドラマの世界のようで、ハイスクールミュージカルを夢見ていた私には夢のような環境だった。


劇の最後には主役から順に舞台に出ていき観客の前で全員が舞台に揃う。盛大な拍手と共にやり切った感がすごかった。これができるのもあと2回、1回と公演が終わっていくにつれて貴重さを感じていた。ある公演の後に外に出るとそこにはミンジ、ハヨン、エミリーがいた。公演を見にきていたらしい。みんなすごかったよ! と感想を伝えてくれた。そしてエミリーは、感動して泣いちゃったという。アメリカに来た時からすごい成長をしたという気がして感動したそう。それを聞いて私は心の底から嬉しかった。そう言われればそうだ。言葉もわからない、誰も知らない、外国から来た高校生が数ヶ月でその環境の中で現地の子たちと舞台に立っていたのだ。そして来た当時からエミリーは留学生の私たちに優しく接してくれて、それぞれの成長を近くで見てくれていた。このミュージカルにトライして良かったと心から思えた。
最終公演まで終えてお家に帰ると、ホストファミリーがプレゼントをくれた。ホストファミリーのおじいちゃんおばあちゃんたちも公演に来てくれていた。家族揃って見に来てくれるなんて思ってもいなかったのでとても恥ずかしかったけど、同時に嬉しかった。家族の一員として本当に受け入れてくれていたのだ。この公演を見せることで少しでも恩返しができればと思っていたので、やり切れて本当に良かったと、気持ちが落ち着いた。そしてアメリカでの留学生活の見せ場も終わり、残りのおよそ1−2ヶ月を楽しむだけであった。

アーカイブはこちら
Travelling is my Life 過去の記事はこちら
Tag
Writer
-
Asuka Naka
湘南出身、イギリス在住。アメリカ高校留学を経験し、イギリスの大学に進学。高校生から旅人デビュー。現在はヨーロッパを拠点に旅する真面目大学生。海外生活、旅をトピックにシェア。









































































































































