
Mis Pato aventuras #8
ミラクルが起きるとはこのことか
Contributed by Ayaka Suita
Trip / 2025.03.31
#8
市場でチョコレートシェイクを飲んでいるとき、ある1人の女性に話しかけられた。
名前はジェシー、オアハカの隣の州チアパス出身だった。彼女はたまにガイドとして欧米人をテオティトランに連れてきているらしい。

彼女がチョコレートシェイクを売っているおばちゃんに代わって、壺にはいっているチョコレートを木の棒で混ぜ始めた。

カカオと牛乳、砂糖、シナモンを壺に入れて チョコレートシェイク専用の棒(モリーニョ)で泡立てる。
「これはサポテコ族がよく各家庭でつくっていて 朝食の時に飲むの。チョコレートシェイクにパンを浸して食べるとより一層美味しいのよ」
そして彼女は不思議そうな顔で「ひとりで観光?」と尋ねてきた。
私は初めてオアハカを訪れ、サポテコ族の自然染色に魅了されたこと、その自然染色の技術を活かしてラグを作り、日本で広めたいことを彼女に説明した。彼女は私の話を一生懸命聞いてくれた。
そして、彼女は嬉しそうに「わたし、あなたの力になれるかも」と。

「午後も空いてる? 私の知り合いで、ラグを自然染色で作っている家族を知ってるの。午後もし時間があるなら紹介するよ。私は英語が話せるから、あなたの言いたいことを通訳できるし」
いきなり胸が高なり出した。
「え、これはもう準備をしてからじゃ遅い。今ブランドをつくってしまえということか!?」
オアハカに来る前は、スペイン語がある程度話せて、デザインを勉強して、おそらく3年後ぐらいにはブランドづくりができる準備が整いはじめるだろうと考えていた。だが、このときの私はもうそんな“準備”なんて必要ないのかもしれないと思っていた。
スペイン語が話せなくても
デザインが分かっていなくても
これからやりながら学んでいけばいいのかもしれないと
彼女との出逢いが、私をそんな考えに変えさせてくれたのだった。
私は彼女との出逢いでさらにブランドづくりへの火がついた。
しかし彼女が何者かはいまいち分かっていなかった。もしかしたら紹介手数料やガイド代を要求されるかもしれない。
そんな不安と興奮を巡らせながら、彼女の背中を見ながらひたすら歩いていった。
ここだよと紹介された家はとても大きく、広い扉を開くと大きなラグが現れた。

奥から1人の若い青年がこちらに向かって歩いてくる。
家族全員で 糸を紡ぐところから自然染色で糸を染め上げラグを織っているという。
そして、有名なデザイナーのラグもオーダーを受けて制作しているという。
小さなサイズから大きなものまでなんでも対応できると自慢げに話してくれた。

アジア人と仕事はしたことがないけれど、日本人と仕事ができるのは嬉しいと言ってくれた。
「今日はお父さんたちがいないから、来週またここに来てくれる? 自然染色やラグの制作現場を見せてあげるよ」

今日村に来て初めて自分の存在を受け入れてもらえた気がして嬉しかった。そして、一気にブランド作りへの道筋が見えてきた瞬間だった。
ジェシーは「この家族はとても優秀だから、必ずあなたの力になってくれると思う。何かあったら私に連絡をくれてもいいし。スペイン語はこれから勉強したらいいじゃない」と心強い言葉を私に伝えてくれた。気がついたら もう夕方であたりは暗くなっていた。
彼女は今日私のために1日中大事な時間を使ってくれたのだ。これは何を請求されても文句は言えない。
私が「今日のガイド代を払いたい」と彼女に伝えると、彼女は驚いた顔で「え! どうして? そんなものは必要ないでしょ。だって私たち、友達じゃない」と言った。
私も「え!」という表情をして、2人で笑い合った。
「私はチアパス出身だけどオアハカが大好きで、そんなオアハカの民族と日本人のあなたが何かしたい! って嬉しいから。ブランドづくりを頑張ってほしい」と。
そして私たちは永遠のさよならをした。
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Ayaka Suita
1991年生まれ奈良県出身。メキシコオアハカ在住。オアハカ先住民の色彩感覚に魅了され、現在民族とインテリアブランドづくりに奮闘中。先住民が作ったチョコシェイクが大好物。










































































































































