
London, Can you wait? #15
Would it be crime to spend so much time on music?
Contributed by Chika Hasebe
Trip / 2025.03.26
#15
今回は音楽について。
「休みの日何してる?」「普段(仕事以外で)何してるの?」と聞かれたら、なんと答えますか?
わたしは間違いなく「音楽」と答えるだろう。イギリスに来て最もよかったと思うことの一つは、見たいアーティストがほぼ必ず見れるということだ。日本だったらずっと待っていても来ないような人たちのライブやパーティが、毎週のように順々にやってくる。ロンドンで活動するアーティストならば、突然近所でフリーパーティを開催することも。自分の日々の生活が目まぐるしいのは音楽のせいもあるかもしれない。
テクノで全部振り払う
特に渡英してきてから自分の生活を変えたのはテクノだと思う。日本でも週末パーティに行くことはあったが、どちらかというと友達が主催するイベントや、誰かと飲んだ延長でクラブに行くことが多かった。自分がテクノのどんな音が好きで、何に踊らされているのか、そのときはちゃんと分かっていなかったからかもしれない。
イギリスに来てすぐに仲良くなった友人が、たまたまテクノが好きな人たちだった。彼らに連れられて名前だけ知っていたクラブ「FOLD」に初めて足を踏み入れてから、わたしの音楽漬けの日々がスタートした。それから一年半経って、色々な意味でやっと今の生活が染み付いてきた気がする。やりすぎになりがちなパーティを行き来する生活ともバランスを見出した。

わたしにとってクラブで体感するテクノは一時的な現実逃避。仕事でハードな週があったり、自分の現在地に迷ったりすると、踊りにきてshake it offする。もちろん“一時的”だから悩みそのものや疲れは取れない。むしろ朝まで踊るから疲れは貯まる一方だ。それでもビートで内臓まで揺らす行為は、心や身体にまとわりついたものを振り払ってくれる。
だからそのゾーンに入るためには、気を散らさない環境が欲しい。クラブで踊っていて嫌な気分になったことはたくさんあるから、みんなが全力で踊りに来る「FOLD」のようなクラブにイギリスで出会えたことは奇跡だと思う。もちろん「FOLD」でも不愉快な思いをすることはある。それでも多くの人の意識は、音楽とそれに向かって動く身体に集中していて、一体感といった暑苦しさではないけれど、フロアに浮遊しているみんな(crowd)の高揚感を感じられるのは特別なことだと気づいた。
エクスペリメンタルからカリビアンまで、なんでもあるロンドン
テクノ以外でも、音の反響を身体の芯から感じる体験はたくさんある。今月Daniel Blumbergのアカデミー作曲賞受賞のスピーチで話題になったロンドンの「Cafe OTO」は、ほぼいつも実験音楽のライブをやっているので、音楽に浸りたいときはたまに行ったり。昼間は開放的なカフェでもあるので、読書目的でもグッド。

Cafe OTOの近くにある「The Jago」も平日はフリーライブをしていて、適度に巻き込まれる感じがとてもよかった。当時のフラットメイトとキッチンで話していて、「なんか音楽聞きたいよね」と突然思いついて連れてきてもらったのもよかったな。楽器も持ち込み、マイクも飛び込みありの自由なカリビアンナイトだった。

あとは、先日鑑賞したミュージカル『Cabaret』も印象的だったので記録しておこう。わたしが鑑賞したのは、1960年代に演出家Harold Princeが作ったもののリバイバル版。1930年代のベルリンにあるキャバレーKit Kat Clubの物語という設定で、ベルリンの代表的なクラブの一つKit Katの名前の由来は、この劇からきているらしい! 全然知らなかった!
キャラクターの感情の高まりと共に物語の進行が一時停止し、歌がエンドレスに始まる感じが、どうしても苦手でミュージカルはあまり好きじゃないのが正直なところ。ミュージカル映画も同様の理由でNG。観たい気持ちはあるけれど、どうしても楽しみきれない。
Cabaretは、開演前から客席までの導線で踊り子たちが踊っていたり、以前NYで体験したイマーシブシアター『Sleep No More』を彷彿させる参加型に近いタイプで、本当にキャバレーに遊びにきた感覚を味わうことができた。

写真:Official London Theatre.comより
特に気になったのは衣装! キャバレーの踊り子設定ということもあり、衣装もメイクもみんな個性的で終始目がハートに(笑)。メインキャラクター二人の声が特に太くて、R&Bソウル好きな自分にとっては音楽も物語以上に中身が濃くて楽しかった。
昨日行ったロンドンのジャズバー「Night Jar」も、空間、お酒含め雰囲気が良くて大人になった気分を味わえるいいスポット。音楽は毎日ゲストがいるので日によって違う。昨日は金曜だったからか、有名なポップソングのアレンジカバー多めのトリオバンドが出演。カクテルで気持ちよく酔っ払って帰宅した。

こうして音楽に浸かりながら生活している日々。通勤中も作業中も、家でゆっくりしているときも、友人や彼氏といるときまでも一緒に音楽を聞いている。寝ているとき以外ずっと何かしらの音が耳に入っているような生活だが、最近気づいたのは何も音を流さない素晴らしさ。脳内の静けさにあえて向き合ったり、家の目の前のパブで飲んでいる人たちの話し声が聞こえてきたり、スピーカーからの音によってかき消されがちな静けさと雑音に耳を傾けてみる。日々音楽に囲まれているからこそ、音楽がない日もコントラストがあっていい生活かもしれない。

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Chika Hasebe
1998年生まれ。2023年5月よりロンドンに拠点を移し、報道記者の仕事に従事する一方、フリーライターとしてカルチャーについて発信もしている。










































































































































