proof of living

London, Can you wait? #16

proof of living

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2025.03.31

ロンドンに来てみた。実際に住んでみたら、自分は何を感じてその先に何を求めるか見てみたかった。ロンドンに拠点を移した会社員・Chika Hasebeさんによる、社会との体当たり日記。現在と過去を交互に綴ります。

#16


今回は最近の話。

その日暮らしの生活をしているからか、日々仕事以外で数ヶ月先の予定を見ることがない。カレンダーの2/28の欄に、「ビザ有効期限切れる」の書き込みを見つけたのは、年が明けてからだった。

「ああ、ここで終わるはずだったんだ」と不思議な感覚になった。以前はあった現実がいざ目の前から消えると、それを受け入れきれていない自分が浮いたままになっている。なんとなく自分の人生じゃないみたいに思えてきた。



YMS(Youth Mobility Scheme、いわゆるワーホリ)で2年間イギリスに滞在する権利を得たのが、2023年始め。そこから約2年が経ち、本来であればビザが切れる2025年2月のタイミングで、日本に帰国するか別の国に行くか、何かしらの形でロンドンの生活を終えなければならなかった。

それが今なぜこんなにのんびりとしているかというと、会社にスポンサーしてもらう就労ビザに切り替えたことで有効期限が伸びたから。#0でも書いたように、働く環境に恵まれてありがたいことだと思う(#0執筆時はまだスポンサーしてもらえるかどうかは分からなかった)。

それでも、日本にいたときとは違って、選択の不自由さは生じている。自分の生活の権利が(わたしの場合は)会社の都合に依存していているからだ。自分が日本で生活するには、日本人であるという事実だけが重要で、自分が何者であるかなんて証明する必要なんてない。ただ外国、特にイギリスのような多くの人が来たがる国では、「どうして自分がイギリスに住むに値するか」をずっと証明できなければ、住むことさえ許されない。



わたしは会社員なので、会社がビザをスポンサーしたいと言えば、その会社で働く価値がある人材と認められたことになる。そしてそれはわたしがイギリスで住む権利に繋がる。例えばアーティストなら、自分の作品や活動、世間での評判をアピールし、イギリスで活動するに値する人と国から認められる必要がある。

自分の居心地がいいから住みたいだけなのに、住むためには“許可”をもらわないといけない。“want”だけでは通用しなくて、“can”の証明がずっと付き纏う。

会社に自分の生活の基盤が依存していることは、メンタル的にもあまりよくない。会社の雲行きが怪しくなれば、真っ先に首を切られるのは移民であるコストの高い自分だ。会社を去るということは、ビザも手放すことになるので、次に就労ビザをスポンサーしてくれる転職先を見つけなければ、イギリスでの生活も終了することに。仕事の基盤が崩れると、生活の基盤も途端に怪しくなる構造だ。

ビザを会社がスポンサーするかどうかの判断も極めて属人的だし、ビザのスポンサーにより会社に経済的な負担がかかっている手前、昇進や給与交渉もしにくい。



このように、仕事上での選択に制限がもたらされるのは国籍によって条件は違うものの、わたしの場合は少なくとも5年間。この5年を乗り切ればと思うが、20代の自分にとって5年は長い。本当はビザが出る会社とか考慮せずに勤め先を選びたいが、ビザがもらえないとそもそもここに住み続けることすらできないので、その選択は現実的には難しいところだ。

だから今の会社でビザを更新できてよかったと思う。更新したくてもできない場合はたくさんある。そこには運も絡んでくるし。


#17につづく




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