
London, Can you wait? #17
London is fun, but what about English?
Contributed by Chika Hasebe
Trip / 2025.03.31
#17
今回はこれからの話。#16のつづきです。
でも、この2年間で何かを成し遂げただろうか? 正直、何もした気がしない。ロンドンに来た目的は、英語で文章を書くことだった。それなのに最近はポートフォリオとして見せられるような作品がないことに気づいて焦るばかり。ここ一、二ヶ月は特に公募の受付ラッシュだった。いくつか試してみて、わずかしかない希望すらも応募するたびに削り取られていくことに凹んで、最後の方はもう募集を探すのもやめた。
そもそも、ここに2年もいたのになぜ何もないのか考えてみた。確実にサボっていた。それに英語で書くことの“want”と”can”が釣り合わないことをいつまでも行き来していたからだと思う。最初は英語で文章を書こうとしていたし、比較的自由な形で言葉を紡ぐことができる詩という手段に出会ってから、少しずつはじめてみた。しかしそれは直ちにお金にはならないし、今もまだそれで食べていけるような段階からは程遠い。できないことの多さも相まって、そこまで筆は進まなかった。

今の仕事につくタイミングで、書くことと今後どうやって向き合うかのある程度方向性は固まったつもりだった。会社が日系ということもあり、英語で文章を書くという最初の方針を改め、日本人である特性を生かしてイギリス含め海外について日本国内向けに発信する方が向いているのではないかと考えるように。日本語の“can”を伸ばす方向だ。ネイティブとボキャブラリーに雲泥の差がある現実も理由の一つだった。

しかしそれがまた揺らぎ始めたのが年明けぐらい。前述の通り、2月末で日本に帰国するという当初の予定がなくなったことで、自分はどうしてイギリスにいるのか再考する機会になった。これからどれくらい住むかまだわからない。それでも、文化を考察し社会に切り込む雑誌やメディアの姿勢が好きで元々ロンドンに引っ越してきたことは変わらないし、まだまだ面白いメディアに出会っていきたい。DAZEDやi-Dを生んだロンドンでは、世界的な出版業界の縮小の波に負けないように、みんながメディアの新たなあり方を悲観的ではなく革新的に模索している。
刺激を受けたわたしもやっぱり英語で書けるようになりたくなった。素敵な本や文章に出会うたびに、ここから吸収したいというワクワクと、自由に表現できないもどかしさが同時に襲ってくる。だから結局わたしは2年前の目標に戻ることになった。英語で書くことをもっと探求してみようと。

そこで同時に疑問が生まれる。書けるようになるために、ロンドンに住み続ける意味はあるのか? もし目標が今度こそブレなければ、多分ここから数年間は修行期間だ。英語文献を読み、フィクションを読み、新聞を読み、自分の頭の中の言葉と向き合い、吐き出す作業。これを行うに最も必要なのは時間であり、環境はさほど大切ではない。
最近帰国した友人は、またロンドンに戻る予定だが、それまでの準備期間は実家で制作に集中すると話していた。わたしも収入など生活基盤の心配をせずに、今自分に必要なことに集中できる環境が欲しいなと思った。そうなると、物価も安くビザの心配もいらない日本に拠点を戻すのが現実的なのではないか。最悪の場合、実家の両親も一時的にわたしを受け入れてくれるだろう。なんだ、ロンドンにいる必要ないかも?
彼氏にそれを話してみた。なにもまとまりのない断片的な考えを。今思うととても無責任なことをした。でも彼は「多分いつかは帰るんじゃないかと思ってたよ」とあっさり。この人はわたしの頭を先に読んでいる!? 彼もイギリスに移住してきた身だから、数年住むとここに住み続ける意義を考えることは自然だという。「今は仕事も生活も安定しているなら、数ヶ月考えてみて結論を出したら?」と諭され、その日は落ち着いた。

一人になってからまた考えてみた。また数ヶ月後自分の考えは変わっているかもしれないけれど、今はロンドンにいたいと思った。確かに渡英したての頃よりも生活は単調で、毎日は繰り返しのように感じるときがある。それでもわたしはロンドンから刺激をもらっていて、日々発見と驚きの繰り返しだ。自分がちょっと浮いていても誰も気にしないオープンさも好きだ。英語も毎日いろんなところで教えてもらっている。看板、ニュース、知らない人、同僚や友人からももちろんだ。街中やパブで聞こえてくる人々の会話も面白い。
だから外国語として出会った英語に、自分はどんな向き合い方ができるのか、ロンドンでもうちょっと探ってみようと思う。わたしが書く英語は歪な形をしている。意味はわかるけれど、肌触りがゴツゴツしているような英語。それが丸くなるのか、形を変えるだけで歪なままなのか、自分自身を実験台にやってみたい。
これからも頑張って生きていこう!

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Chika Hasebe
1998年生まれ。2023年5月よりロンドンに拠点を移し、報道記者の仕事に従事する一方、フリーライターとしてカルチャーについて発信もしている。










































































































































