“行くだけで贅沢”な純喫茶。

My Favorite Things #1 / 純喫茶

“行くだけで贅沢”な純喫茶。

Photographer: Junsuke Obi
Writer: Aika Matsuzaki

By / 2021.01.27

「古くてチャーミングなもの」をキーワードに、
今回CREOLMEデザイナー兼ディレクター:工藤三咲さんがお話を聞いたのは
「純喫茶」を偏愛する、東京喫茶店研究所二代目所長の難波里奈さん。
おじゃましたのは、東京・小岩にある創業60年の純喫茶「木の実」さんです。





「純喫茶へ行くと、ひたすらその空間を体全体で味わっています————」
と、純喫茶への偏愛ぶりを語ってくださった難波さん。
純喫茶。それは、昭和の時代からずっとありつづける、純粋にコーヒーや軽食を楽しめるお店です。
今回はそんな純喫茶の“チャーミングな話”、たっぷりと聞いてきました。


工藤:難波さんが純喫茶にハマったきっかけはなんですか?
もともと、昭和の時代に使われていた家具や雑貨、古着などが好きで。見つけるたびに買っていたのですが、集めすぎて部屋に入りきらなくなってしまって……。そんなとき「部屋を模様替えするのではなく、部屋を着替えるように純喫茶へ行けば、楽しいかも!」と、気がついたんです。

工藤:それはいつ頃ですか?
10数年前です。その前から好きでふらっと入ることも多かったのですが、「日替わりの自分の部屋にしよう!」と気がついてからは、ブログに記録するようになって。

工藤:そこには “好き”が詰まっていたんですね。
そうですね。どこか懐かしい、“おばあちゃんち”みたいな空間はもちろん、椅子、ランプ、カーテン……。その一つひとつすべてに心が踊り、ほっとしました。

工藤:「木の実」さんはどんなところがお気に入りですか?
「木の実」さんは、内装がとにかくお気に入り。秋には紅葉といちょうの装飾が綺麗で、マスターに素敵ですって伝えたら、『そこにきづくの、いいねえ』って(笑)。他にも、バラや緑の造花もあって、この空間は他にあまりないですよね。店内も広くて、森のなかにいるみたいです。私、ここにくるまで会社にいて、カチャカチャパソコン打ってたので……。電車に少し乗っただけで、こんな非日常にトリップできるなんて! 食事メニューも豊富で、見ているだけでも楽しいです。







工藤:純喫茶にまつわる思い出深いエピソードを教えてください。
幼い頃、母親がたまに連れていってくれたんです。グラスの穴から出るストローから飲める “緑色の液体”(メロンジュースかな?)が、甘くておいしかった。それが、最初の純喫茶の記憶です。「あの場所へ行くと、甘くておいしいものが飲める」と、子どもながらに思っていました。お店に入るのに階段を上がっていくのとか、入り口のメニューケースとかも、ほんのり覚えています。そのお店は、残念ながらもう閉店してしまったのですが……。

工藤:そんな思い出が、今に生かされていますか?
幼い頃から楽しい時間が純喫茶には息づいていたな、って思います。

工藤:純喫茶の一番の魅力とはなんですか?
やっぱり、空間! 少しほの暗い照明や昭和レトロなものに囲まれると、気持ちが落ち着きます。
そして、マスターたちがみなさん優しかったり、おもしろかったり。街に何十年も根付いているからこそ語れる「昔はこうだったよ」という話を聞くのも、楽しいです。
純喫茶には、ほかにはないそういう付加価値が、いっぱいあります。飲み物や食べ物はもちろん、心地よい温度、流れる音楽。雑誌が置いてあって読めたり、マスターとお話したり、一人で本を読んだり、手紙を書いたり……。常識的なマナーの範囲で楽しめることがたくさんあるんです。行くだけで、贅沢な気持ちになれる場所だと思います。みなさんの暮らしている地域にも、探してみると近所に1軒か2軒はあると思いますよ。散歩して見つけたら、ぜひ入ってみてください。



工藤:純喫茶でいつも頼む定番メニューはありますか?
ブレンドコーヒー。そのお店の顔だと思うので。コーヒーが好きで喫茶店を始めたマスターさんも多いと思いますし、力の入ったメニューだと思います。それが自分好みかそうでないかは別として、このお店はこの味でやってきたんだ、と知ることができる。あとコーヒーと一緒に何か、は絶対に頼みます。ゴハンものが多いんですけど、甘いものもたまに頼みます。
「木の実」さんでは、マスターお勧めのホタテサンドと泡コーヒーを美味しくいただきました。





工藤:とくにこれが好き!というメニューはありますか?
え〜! 迷いますね。そのときによって変わるんですけど……、一時期オムライスばっかり食べてたことがありました。2週間くらい、昼も夜もオムライス(笑)。その前は、ナポリタンばっかり食べてた時期もあれば、カレーばっかり食べてた時期もあったり。近い期間に色々なお店で食べると、味の違いがわかって楽しいんですよね。

工藤:確かに!
例えば一言でプリンアラモードといっても、お店ごとに器も違うし、乗ってる果物や盛り付けも違う。まるっきり同じものは、本当にないんです。そこでしか食べられない味っていうのに、注目しています。

工藤:だから、いろいろなお店に行きたくなる?
そうなんですよ。以前、平日の昼にもオムライスが食べたくなってしまって。会社のお昼休みは1時間しかないのに、少し離れたところに行ったら、行くだけで30分くらいかかってしまって。10分で食べて、タクシーで急いで帰ってきた……なんてこともありました(笑)。昨年までは土日のたびに地方に行って、6〜7軒まわったりも。

工藤:純喫茶に行ったらつい気になる、細かい“フェチポイント”は?
ドアノブの形、床の模様、壁の素材、天井の色、机の形や手触り、椅子の素材、マスターの衣装、シュガーポットの形、メニュー表の書き方、グラスの形、コーヒーカップの柄、マッチの有無……。本当にもう、全部気になりますね(笑)。







工藤:注目するポイントが“純喫茶ラー”という感じがします(笑)
じつは、まだまだあるんですけどね(笑)

工藤:純喫茶では、いつもどんな過ごし方をしていますか?
ひたすらぼんやりしています。藻のように(笑)。周りの会話を聞くでもなく聞いたり、BGMに身をゆだねたり。本を持っていくこともありますが、結局置いておくだけ。ひたすらその空間を、体全体で、味わっています。
私たちの日常って、朝起きてから帰ってくるまで、慌ただしいじゃないですか。私にとって喫茶店は、その慌ただしい日常の、中継点。家と会社の間にあるもの。会社から家に帰るときに、ワンクッション置きにくる場所です。だから、何もしたくないんです。好きなインテリアに囲まれて、ただひたすらぼうっとしてます。「何かを考えてます」って顔しながらも、脳みそは抜けているような感じですね(笑)

工藤:一人で来ることが多いんですか?
そうですね。一人で来て、注文して、運ばれてきたものをいただいて、ぼうっとして、一人で帰る……。たまに友達とも来ますけど、お互い無言です(笑)

工藤:自分の癒し方をわかっているって、いいですね。
ぼうっとして、輪郭がしゅ〜っと溶けたくらいくつろいだら、さっ帰ろ、となります(笑)。滞在時間は、3〜40分くらいかな。あまり長居はしないです。それでも喫茶店に来ると、自然に気持ちがリセットされます。

工藤:最後に……「古くてチャーミングなもの」の魅力を教えてください!
知らないのに知っているような、懐かしさ。時を経ても色褪せない、モダンさ……ですかね。斬新だからとかじゃなく、誰が見てもやっぱりよくて、変わらずそこにある。それは、雑につくられてないからこそ、だと思います。そして「一度好きになったものは変わらない」、そう安心させてくれる存在です!

「どこの純喫茶も違って、個性があって、愛しい。マスターの人生や愛が、空間に爆発していますよね。空間全体でそれを感じる時間が至福です!」と、純喫茶のチャーミングさについて、熱く語ってくださった難波さん。「輪郭がしゅ〜っと溶ける」感覚を味わいに、早速近くの純喫茶を、訪れてみたくなりました。



難波里奈/純喫茶好きが高じて、東京喫茶店研究所二代目所長として活動中。日中は会社員、仕事帰りや休日にひたすら純喫茶を訪ね、ブログ『純喫茶コレクション』やInstagram(retrokissa2017)にその魅力を綴る。『純喫茶、あの味』、『純喫茶とあまいもの』、『クリームソーダ 純喫茶めぐり』、『純喫茶の空間』、『純喫茶とあまいもの 京都編』、など、著書多数。

木の実
住所:東京都江戸川区西小岩1-20-20
TEL::03-3657-5669
営業時間:平日8:30~17:00 土日~20:00
定休日:無休(年始3日間のみ休業)




OTHER RECOMMEND.


他にもこのお店!



1. カフェ アルル(新宿)
「可愛らしい二匹の猫も正社員。気ままにお客さんのところへやってきて膝の上で眠ることも。ナポリタンを注文すると、陽気なマスターが『ニャポリタンです』と運んできて下さいます。オムライスにスパイシーなカレーがかかった『インドオムラ』も人気。店内には漫画や写真集もたくさん置かれているので、一人で訪れても退屈することはありません。いたるところに飾られているピエロはマスターが長年かけてこつこつ集めたコレクション。」(難波さん)



カフェ アルル
住所:東京都新宿区新宿5-10-8 1F
TEL: 03-3356-0003
営業時間:[月~土] 11:30~22:00(※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間が記載と変更となる可能性がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。)
定休日:日曜

2. COFFEE LAWN(四谷)
「昭和29年創業、著名な建築家 高橋靗一氏の弟子によって設計された価値ある建物の中でひと息つくことができます。重厚な石の入口に透明なドア、珍しい吹き抜けの構造、螺旋階段をぐるりと上がって2階席にも真紅のソファ…と、どこを見てもうっとりする造りです。マスターが好むビートルズが流れている店内で過ごす時間はあっという間に過ぎてしまうので誰かとの待ち合わせにも最適です」(難波さん)



COFFEE LAWN(コーヒー・ロン)
住所:東京都新宿区四谷1-2
TEL:03-3341-1091
営業時間:[月〜金]11:00〜17:30LO(※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間が記載と変更となる可能性がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。)
定休日:土曜、日曜、祝日


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