小さな会社のメディアの作り方 #6
「見た目と、本質。」後編
Contributed by Ryo Sudo
By / 2018.07.18
「見た目と本質。2-2」
何を一番、伝えたいんだろう?
メディアの役目とは、大雑把に言ってしまえば「情報を編集し、伝える」ことです。そして、情報を編集するためには、必ず骨子となるテーマやコンセプトが必要です。膨大な情報の中から「あるテーマ」のもとに必要な情報を集め、それらをテーマが最も伝わりやすい構成で編み込み、理にかなった形でアウトプットされてこそメディアはその役割を果たします。
どれだけ美しいビジュアルを並べてみても、何を伝えたいのか分からなければメディアとは呼べません。情報を検索することを目的に設計されているポータルメディアなどはその役割は少し変わりますが、それでも「何をする(伝える)ためにそのメディアが存在するのか」という目的を明確にすることは、絶対的に必要な条件です。
なので、無作為に集められたかっこいいビジュアルやかわいいビジュアルの塊、というのはたとえそれぞれの絵柄がどれだけ質の高いものであったとしても、それ自体はあまり意味をなさないことにその時の僕は全く気づいていませんでした。
もちろん例外的なメディアもあります。例えば、発信者本人がメディアとしての機能を果たしている場合。例えば「ブラッド・ピットが好きなもの100」という本なら、単純に彼が好きなものをアーカイブしていくだけでも十分に「伝わる」コンテンツになり得ます。それはその人自身が強力な発信者であり、「彼自身が好きなもの」という切り口がそのまま強力なテーマとなるからです。
乱暴な言い方をすれば、“Flower”は僕の頭の中にあったかわいいものがきれいにコラージュされただけのパーソナルアルバムみたいなものだったということ。ブラッド・ピットと違って、誰かが興味を持つような発信を1ミリもしていなかった僕自身がこのメディアのテーマそのものだった、というわけです。そんな名も知らない誰かの個人的な趣味を「読みたい」と思う人はいないですよね?
それでも参加したクリエイターの方々が、テーマ不在の中、それぞれの解釈で指針となるコンセプトを設定してその抜群のセンスと技術を発揮してくれたことと、「どこかの誰かの好きなもの」というぼんやりした取捨選択基準だけはあったことで、パッケージとしては「なんとなくかわいい女の子の雑誌」風には仕上がりました。
そんなわけで「この雑誌かわいい!」と思っていただけた方の多くは、部屋に飾っておくインテリアとか、何かを作るときの参考資料とか、きっとそんな感じで購入いただいたに違いありません。いずれにせよ、なんとなく好きな感じのビジュアルをコラージュしただけの“Flower”という雑誌に見た目のかわいさ以外の印象がなかったのは、あたりまえのことだったのです。なにしろ伝えたいテーマについて、僕たち自身がはっきり理解していなかったのですから。
今は「おとなこども」なメディアがたくさん。
レイアウトソフトや発信するためのプラットフォーム、そしてデジタルカメラや3Dプリンターといったハードウェアまで、圧倒的なテクノロジーの進化のおかげで、今は以前では考えられないようなクリエイティブスキルが手軽に手に入るようになりました。(実際にはそのことで逆にハードルが上がっていると言えるのですが…)。それだけに怖いのは、「なんとなくかっこいいもの作ろうぜ」というカジュアルなノリでメディアづくりをしても、見た目だけならなんとなくムードのあるアウトプットを誰にでも作れてしまうということ。今はそんなふうに作られた、何が言いたいのかよくわからないメディアや、伝えたいテーマよりも、伝える仕組みやシステムばかりにフォーカスされた「伝わらない」メディアをよく見かけます。美しい外見の大人なのに、話してみたら全然奥行きがない子供のような人だった。
僕たちが手がけた“Flower”もまた、そんな感じの「おとなこども」なメディアだったのです。
この雑誌の制作プロセスを思い返してみると、かわいいビジュアルはいくらでも思いつくのに、他メディアとは違った独自の企画や切り口はほとんど思いつきませんでした。尊敬する編集長から「なんだかぼんやりした雑誌だよね」と言われたこともあったけれど、「そのアンニュイな雰囲気がいいところなのにわかってないな」と言い訳してひとりで勝手に納得していました。
そもそも「誰に、何を伝えたいか」というテーマが明確で、制作に参加するメンバーがはっきりとそれを共有できている場合、切り口というか、企画は次から次へと思いつくものです。例えば「カレーを食べたい」という気分がはっきりしていれば、「どんなカレーを食べようかな」「食べる時間はどれだけあるかな」と、決断に必要な具体的な判断基準を思い浮かべるのは簡単です。けれど「おなかが減ったな、なんか食べたいな」という曖昧な気分だと、判断すべき基準になる要素が無限に広がってしまい、考えがなかなかまとまりません。
僕たちがさまざまな課題解決のお手伝いをさせていただく時も、お客様の中で「伝えたいこと」がはっきりしているときは、最初の打ち合わせから、解決手法が次々と浮かんでくることが多いものです。けれど、伝えたいことがぼんやりしている場合は、そのお客様が一番伝えたいことを明確に浮かび上がらせるためのインタビュー作業にできる限り長い時間をかけます。
伝えようと強く思うことがなければ、何かが伝わるわけがありません。メディアとして何かを発信しようと考えるのであれば、まずは自分たちが(発信者が)「何を伝えたいのか」を極限まで追求しなければならないということ。雑誌やウェブのようなメディアではなく、町内会のお祭りのポスターやお母さんに感謝の気持ちを伝える手紙のように小さく個人的なメディアだったとしても、それは同じこと。近所の人たちやお母さんに自分はどんなことを一番強く伝えたいのか、それをできる限り考え抜くほど、読み手の心は大きく動く。それがあらゆるメディアづくりの本質なんだと思います。
僕がハマっていた「見た目」の追求は、伝えるための「手段」であってそれ自体が「目的」ではありません。メディアを運営すること、さらにそれがお客さまが大切なお金を支払って手に入れる「商品」である以上、本質がないもの、つまり伝えたい中身が曖昧な状態のままアウトプットされたものは、それはもはやメディアとは言えないのです。
僕たちは2冊の“Flower”を制作しましたが、「見た目がかわいい雑誌」という読者の方々からいただいた評価以上の広がりや画期的な結果を残すことはできませんでした。それでも僕らのディレクション力が評価されたと、しばらくの間は満足感に浸っていました。けれどそのちいさな自己満足は、 “anna magazine”創刊時に「よく考えたら僕たち、本当は何を伝える、どんなメディアを作りたかったんだっけ」というメディアづくりの根源的な疑問や決断の恐怖に苦しめられまくることで、あっけなく吹き飛ばされてしまいました。
ちいさな会社のメディアづくり、5つの基本。
“Flower”でのさまざまな経験は、僕たちにメディアづくりの基本の「き」を嫌という程教えてくれました。そんなわけで今では「伝えたいこと、伝えるべきこと」を発見する“掘り下げ力”については、どんなチームにも負けない自信もつきました。お客様の課題解決ワークでもパブリックなメディアづくりであっても、その基本的な考え方や思考のプロセスが変わることはほとんどありません。そこで最後に、僕たちが未熟な経験の中から発見した「小さな会社のメディアのつくりかた」(ようやく連載タイトルにたどり着きました!)を紹介させていただこうと思います。
1 「伝えたいことはどんなことなのか」を極限まで研ぎ澄ませること。
しつこいようですが、伝えたいテーマがはっきりしていなければ「伝わる」メディアづくりは絶対にうまくいきません。どんなことを、どんな人に伝えるメディアなのか、ということを人にスラスラと説明できるようになるまで追求するべきだと思います。
2 「どうしても伝えたい」という情熱を燃やすこと。
制作者の情熱は、そのままコンテンツの熱量へと反映されます。どうしても伝えたい、という熱い気持ちを持つ、またはそういう気持ちを持てるように自らテーマに興味を持つように努力する、ということが大切です。
3 「切り口」を明確に、具体的に設定すること。
伝えたいことが決まったら、どう伝えるかという「切り口」を具体的に設定します。インタビューなのか、口コミなのか、はたまたビジュアルだけで伝えるのか。さまざまな切り口の中から、そのテーマが「最も魅力的」に伝わる手段を見つけ、設定します。
4 テーマと切り口に沿って「情報を取捨選択」すること。
世の中に散らばった膨大な情報の中から、自ら設定したテーマに則って情報を集め、切り口に沿って編んでいきます。テーマや切り口が具体的であればあるほど、当然ながら情報収集、取捨選択の精度は高まります。
5 文章執筆やデザインといった具体的なスキルでアウトプットする。
編集した情報を、最も魅力的な形で伝えるために、ビジュアルディレクションや文章執筆、デザインといった具体的なスキルを使って具体的なアウトプットを作る。これらは鍛錬や経験によって身につくもので(もちろんセンスも大切です)一朝一夕に手に入るスキルではないので、この部分はそれぞれの専門家に依頼することがほとんどです。このパートことだけを指して「クリエイティブ」と呼ぶことも多いのですが、あくまでもメディアづくりのひとつのパートを担当するスキルである、ということは強く意識しておきたいところです。とにかく、鍛錬あるのみ!
どれも当たり前のことばかりなのですが、こうしたひとつひとつのプロセスにできる限りていねいに向き合うことで、最終的なアウトプットは圧倒的に「伝わる」ものになります。これからメディアづくりに取り組もうとされている方に、少しでも参考にしていただけたら幸いです。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。