小さな会社のメディアの作り方 #2
「やりたいこと、伝えたいこと 」前編
Contributed by Ryo Sudo
By / 2018.05.02
13年前に発行したものの、ほとんど誰の目にも触れることはありませんでした。5000部近い在庫は、会社の倉庫の中で何年も眠っていました。後ろ髪を引かれる思いでしたが、数年前の大掃除の際にほとんど処分しました。
今回は引き続き、初代「CONTAINER」の失敗を振り返ってみようと思います。
いったいどうしてうまくいかなかったのでしょうか。
メディアというのは(SNSやZINEなどのパーソナルなメディアは少し話が変わりますが)、当然ですがひとりで作ることはまずできません。
例えばごくシンプルなフリーペーパーだったとしても、
編集者・カメラマン・ライター・イラストレーター・デザイナー・広告営業・流通担当者、なんとなく羅列してみただけでも、メディア制作にはこれだけたくさんのプロフェッショナルが関わっています。
「そんなこと、あたりまえじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、編集業界で働き始めて10年近く経っていたのにも関わらず、当時の僕にはそんな「あたりまえのこと」が、まったく理解できていませんでした。もちろん、関わるメンバーたちの「関わり方」がとても重要だということも。
『自ら考えた面白い企画と、センス、あとはそれに沿って集めた素材を編めば、かっこいい本は作れる』
掛け値無しに、そう思っていました。
今思えば、本当に大切なことを何ひとつ理解していなかったんですね。
もちろんCONTAINERの制作には、社内のアートディレクターや同じ部署の若手エディターたちをはじめ、たくさんのスタッフが関わってくれました。けれどそれは、本当に「関わってくれた」だけだったのです。
このメディアが何のために発行され、何を大切にしていて、読んだ人は何を手に入れられるのか。
なにより編集長である自分自身が何をしたいのか。
僕はそうしたメディアの本質的なことを、誰にも伝えていませんでした。
ゴールも目的も伝えずに「とりあえず川へ飛び込んでみて。面白いから」。僕がしていたことは、それと同じくらい乱暴なこと。相手が何をしたいのかも、具体的に何が手に入るのかもわからないことに本気で向き合おうと思う人はいません。関わる誰かを本気にさせるような「伝え方」をすることなく、自分ひとりでメディアを作っている気分になっていたのです。
それでもアイデアを周囲になんとなく話すと、
「面白そう。それならMacを使わず、全部アナログで版下をつくらせてよ」
「5000部くらいだったら、東京中のカフェに置いてまわれるよ」
と協力を約束してくれる人は、自社のスタッフを含めたくさんいました。
「よかった、わかってもらえた」。ずっと、そう思っていました。
けれど実際に制作がスタートする時になって、自らの甘さを嫌という程実感させられました。
「例のメディア動くから、一緒にやろう」と伝えると、みな同じ言葉を口にしたのです。
「今忙しいんだよね」
あれれ、口約束だったのがよくなかったかな。最初はそう思いました。
けれど、本当は違っていました。
CONTAINERが何を置いてもやりたいこと、やるべきことだとは、
僕以外の誰ひとりとして思っていなかったのです。
もちろんコンセプト設計はびっくりするほど甘かったです。
「手を加えないことがこのメディアのあり方」と格好つけて言っておきながら、いったい何に手を加えないのか、僕を含めて誰にもさっぱりわからないのですから。
「なんとなくわかるでしょう?」
コンセプトを聞かれると、僕はみんなにそう言い続けていました。
本当はその設計の甘さに気づいていたからこそ、質問される前に逃げていたんです。突っ込まれたくなかったんですね、自分の詰めの甘さを。
けれど僕の最大の失敗は、コンセプトワークよりも、参加してくれるメンバーの「気持ち」や、共感してくれる人々の「ネットワーク」を軽視したことでした。
「かっこいいメディアを作る」という行為そのものにひとり陶酔し、コンセプトや情熱を伝えることもせず、ただ自己満足だけを追求していたのです。参加してくれたメンバーたちのほとんどは、目的もはっきりせずスケジュールも曖昧な進行の中、「とにかくかっこいいことをやって」という僕の指示に、どんどんモチベーションを落としていきました。
僕はひとり、ふてくされていました。
どうしてみんな、かっこいいことができるチャンスに一生懸命にならないのだろうと。現場はどんどん殺伐としていき、校了前の数週間にもなると、もう誰ひとりとしてこのメディアに本気で向き合ってるメンバーはいませんでした。
そんな白けた空気が流れる中、なんとなく完成したのが初代CONTAINERだったのです。
何を伝えたいのかまったくわからない、からっぽなメディア。
それこそ中身の何も入っていない「からっぽなコンテナ」ができあがりました。
制作にかけた期間は数ヶ月だったでしょうか。
もちろん流通のことや、コストのことも、何ひとつ計算していませんでした。最後に残ったのは、膨大な在庫とスタッフとの微妙な距離感、そしてなにより、からっぽになってしまった自尊心。
「これは会社案内の代わりだからこれから使えるよね」とひとり言い訳してはみたものの、なんの説得力もなく。
一番申し訳ないと感じていたのは、参加してくれたクリエイターの方々に対してでした。
満足な説明もないままのオファーにも関わらず、全員が、参加する必然性をなんとか模索しながら一生懸命テーマを掘り下げてくれました。けど、僕自身の読みの甘さと傲慢さから、メディア自体がほとんど人目につかないまま闇に葬り去ることになってしまったのです。
それまでの自分の不遜な態度を、とても恥ずかしく感じました。
(今読んでもひとつひとつの写真や文章はとても魅力的で面白いのです。けれど編集のまずさから、それぞれの魅力が光り輝くどころか、恣意的に隠されているようにすら感じます)
後半に続く。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。