小さな会社のメディアの作り方 #7

「情熱と個性」前編

Contributed by Ryo Sudo

By / 2018.10.09

情熱と個性。





今回から、anna magazine創刊の話をしようと思います。

anna amagazineが創刊したのは2014年の秋のこと。

マガジンハウスから発行していた“Flower”が残念ながら2号目を最後に見送りとなってしまった僕らは、日々本業であるクライアントワークに集中していました。当時10期目を迎えていた会社の業績はとても順調だったのですが、クライアントとの関係性というか、距離感の変化をぼんやりと感じていました。それまで、ほとんどのお客様はモーグリーンの個性的な企画アプローチと距離感の近さ(相談しやすさといった方がわかりやすいですね)、あとはどんな小さな仕事でも楽しむ情熱的な雰囲気を評価していただいていたのですが、長くお付き合いしていくうちに、いつの間にか「何でも頼める便利な会社」的なムードになってきていたのです。

「クライアントの気持ちとニーズにできる限り寄り添って、その商品やサービスを最も魅力的な形で伝える」というスタンスで仕事をしているつもりが、社内で人の入れ替えが繰り返されているうちに、社内のスタッフの中で、「とにかくお客様の言うことをなんでも聞くことが正解」というような解釈で仕事が進められることが多くなっていました。

クライアントの言葉の意味やプロジェクトの目的について考え、自分なりに解釈するプロセスを飛ばし、参加していただいているスタッフにお客様からいただいた言葉を”そのまま”伝えるだけのスタイルが主流となっていたのです。当然お客様からいただく仕事の内容も、一緒に考えながらものづくりする“チーム”というよりも、自分たちのニーズをとりあえず実現するための“生産工場”的な仕事がオーダーされることが多くなっていました。

それまでどんな仕事をするときでも「僕らは他にはない面白い企画を、高度なアウトプットで、なおかつ情熱的にできる!」ということを信じていましたから、僕たちの意見がお客様にあまり必要とされていない雰囲気に、日ごとに違和感が強くなっていったのです。

そうした中で僕は、「自分たちらしさってなんだろう」、「僕たちの強みってなんだと思う?」と当時一緒に働いていたメンバーに片っ端から問いかけるようにしていたのですが、「モーグリーンらしさなんて、わからないです。とにかく今仕事がたくさんあるんだから、それでいいのでは?」という返答がほとんどでした。きっと誰もが忙しすぎて、そんなことを考える暇がなかった、ということなのだと思います。

僕は内心、相当焦りました。会社をスタートして以来、どんな仕事と向き合う時も、「誰かにとっての特別な価値を、最も魅力的に伝える」ことをスタッフみんなで大切にしてきたつもりだったのですが、実際はほとんど伝わっていなかったのですから。僕は勝手に、普段の仕事をしている中で、そうした考え方をメンバーも当然のように共有していてくれていると勘違いをしていたのでした。

どうしたら自社が大切にしてきたことをメンバーを始め、関わる人々にきちんと共有できるだろうか。

そこで僕たちが考えたのが、自社メディアをスタートさせるというアイデアだったのです。

「そうだ、名刺代わりに自分たちらしい雑誌を作ろう。企画やコンセプト、デザインや文章、進行管理に売り方まで、自分たちが大事にしてきたことの集約をこの雑誌に詰め込もう。誰かにモーグリーンはどんな会社ですか、と聞かれたら、それ読んでいただけたらわかりますよ、と言えるような自分たちらしいメディアを作ればいいんだ」

折しも当時は自社ウェブをオウンドメディア化することが流行しだした頃でしたが、あえてオールドスクールな雑誌というメディアを選ぶことが、僕たちらしさの演出のひとつでもあったのです。

このメディアを読めばたくさんの人々に大切にしていることを理解してもらえるし、なによりメディア制作のプロセスの中で、関わる自社のスタッフにこの会社のものづくりの核を理解してもらえると思ったのです。





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