小さな会社のメディアの作り方 #4

「しごと」と「現在地」

Contributed by Ryo Sudo

By / 2018.05.29


「しごと」と「現在地」


今回は今までとは少し視点を変えて、「しごとと現在地」というテーマで話をしようと思います。

前回までにお話しした通り、初代「container」が大失敗に終わり、僕たちはそれから数年の間は、自社でメディアを立ち上げることはしませんでした。僕たちはそもそも広告制作会社としてスタートしましたので、さまざまなクライアントのPRツール制作という本来の仕事を続けていました。雑誌やムック制作はもちろん、国の次世代プロジェクトの広報向けツールに学校の広報誌、金融機関のブローシャー、商業施設のチラシ、会計会社のリクルートツールや、CIのお手伝い、アパレルブランドのカタログ、果ては社章の制作にいたるまで、本当に様々なお客様とたくさんのお仕事をさせていただきました。

「なんだか面白そうだ」と、モーグリーンに参加してくれるデザイナーやエディターの仲間も少しずつ増えてきたのですが、そうした中で僕が常々感じていたことがありました。それは、こうしたクリエイティブ業界で働く人々が求める「仕事」と、実際の「仕事」との間にある「ギャップ」についてです。

こうした業界で働く若手の多くが、メディアを通して自己実現をしたいと強く考えていて、そのほとんどが「好きなメディアに関わる仕事をしたい、自分が好きなようにディレクションできるメディアをつくりたい」と思っています。もちろん僕も例外ではありませんでした。
そうした中で、僕らが生業としているクライアントの課題解決や依頼されたテーマでの雑誌や書籍作りを、本来自分が目指しているメディアへの関わり方と少し違う、と感じるメンバーが現れたのです。

彼らの多くは、自分の好きなメディアや好きなカルチャーをベースにした制作業務に関わることが目標で、普段の業務はそのための修行期間であると考えます。なので、今手がけている仕事を続ける中で、次々と現れる様々なニーズに都度答えることや、時には意にそぐわないアウトプットを求められることがとても苦手です。

「どうしてこんな無茶な要求に応えなければならないのだろう」
「いつまで今のようなアシスタント的な作業をこなさなければならないのだろう」
「やりたいこと、やるべきことは本当は他にあるのかもしれない」
「意にそぐわない仕事で疲弊して、成長が止まってしまっているのじゃないか」
「ここは自分の居場所じゃないんじゃないか」

そんな風に、漠然とした不安にとらわれるタイミングは、どんな人にも訪れます。

ただ、僕はこう思うのです。
今いる場所こそが、自分自身の正確な現在地なんだって。
どんな仕事でも、どんな作業でも、今与えられているタスクは、そのまま自分自身を表すものであって、それ以上でもそれ以下でもない。

あんな仕事がしたい、もっと高度な作業がしたい、もっとクリエイティブなことがしたい。
じゃあ、どうして自分はそういう仕事に関われないのか。

それはつまり、今の自分が与えられた目の前の仕事を100%以上で返していないからだと思うのです。いただいた仕事や作業を100%の精度で完遂させることはもちろんですが、もっと言うなら110%、いや実際は150%以上で返した先に、ようやく新たなステージが見えてくるものです。


ワッフルハウスのレシート。手書きだけど、とてもわかりやすい。

どうしたらクライアントにさらに喜んでいただけるか、どうしたら読者がもっと楽しんでくれるのか、どうしたら関わるスタッフが最高に気持ちよく仕事ができるのか、そうした100%を超えた「余白」部分をイメージする想像力、それこそがクリエイティブと呼ばれる力なんだと思います。

モーグリーンのアートディレクターである三浦くんは常々こう話します。

「デザインとは、お客さまへのプレゼントだと思う」

僕はこの言葉に全面的に共感します。
言葉を少し変えれば、どんな職種にでも当てはまりますね。

「編集とは、お客さまへのプレゼントである」
「進行管理とは、すべての関わるスタッフのプレゼントである」
「営業とは、クライアントへのプレゼントである」
「メディアづくりとは、読者へのプレゼントである」

誰だって大切な人へ贈り物をする時は、できる限りの想像力を駆使して、最大限相手が喜ぶことをしようと考えますよね。仕事もそれと全く同じことだと思うんです。今与えられた役割、与えられた仕事、与えられた作業をすべて相手へのプレゼントだと思って、相手を喜ばせる「余白」をできるだけたくさん乗っけて返す。それを受け取って喜んでくれた誰かが、必ず会社や自分を進むべき新しいステージへと導いてくれるんだと思います。

そんなわけで、モーグリーンがスタートしてから15年間、僕の「やりたいこと」はずっと、「今していること」なんです。

苦しい場面はあれこれたくさんあったけれど、今している仕事をつまらないなと思ったことは一度もありませんでした。いつかはメディアを作りたい、という大きな目標はもちろんありました。ただ、僕たちはそのために何か特別なことをしたわけではなくて、「今していること」でとにかく愚直に、100%以上の答えを返し続けてきたんです。その延長線上に、たまたま今の自分たちのメディアづくりがあった、ということ。Containerやanna magazineやsukimono bookは、おかげさまでたくさんの人々に読んでいただけるようになりつつありますが、まだまだ足らない部分や伝えきれていないことがたくさんあります。そうした不具合も含めて、僕たちの「現在地」そのものなんだと思います。

かっこいいものをつくる、先鋭的なものをつくる、それは僕たちのクリエイティブの本質ではありません。また、メディアをつくる、ということ自体が目的でもありません。

「何かを伝えたい」と自分たちを信頼してくれる人たちに、自分の「現在地」において、できる限り喜んでいただける最高の答えを考え抜く。それこそがクリエイティブのだいごみだし、僕らの仕事の楽しさなんですね。

もし仕事がなんとなくつまらないな、とか、自分の正しい居場所がわからなくなっている人たちがいたら、今いるその場所こそが絶対に正しい現在地だから、「とにかく今の仕事を一緒に頑張ろうぜ」と伝えられたらいいなと思っています。


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