Back to Beach.
Contributed by Ryo Sudo
Pick-up a day / 2018.05.18
「明日晴れたら海へ行こう」
こんなに誰かの気持ちをざわめかせる言葉を、他には知らない。
少しでも気持ちが海に向いてしまったら、ウキウキと高揚する感情を隠していつものように振る舞うことは、とても難しい。
それなのに実際に海を見てハイになるのは、最初の数分だけだったりする。
あとは、ゆるやかに、だんだんと自分自身が目の前の風景の中に飲み込まれていく。
ものごとの輪郭を滲ませて、柔らかい一体感とともに、かたちも、気持ちも、いつの間にかすべてを包み込む。
誰もがぼんやりと、海を見る。
ふいに涙がこぼれたりするのは単なる現象であって、実際の感情とは少し違っている。
そういう言い方はフェアじゃないけど、感受性のスイッチがぐにゃぐにゃになる場所。
海では、目に見えるものも、そうでないものも、実際にはあらゆるものが絶え間なく動き続けている。無数の規則性や秩序が何層にも折り重なりながら、表面上はどこまでも無秩序に、不規則に。
スチールカメラで撮った写真がふいに動き出すような、そんなイメージ。デジタルとはまるで違った、とろりとなめらかな粒子。
その微妙な不安定さが生み出すゆらゆらとした静寂を、論理的にではなく直感的に眺めてしまうのだ。
その瞬間は、誰もがひとりきりだ。
快楽とか興奮とか、そういうものじゃなくて、善悪とか好き嫌いとか、そういう意味でもなくて、なんというか、存在そのものに惹きつけられる。
海には具体的な「かたち」がない。ぼんやりと相対的なイメージだ。なにか大切なことを思いつく直前の、もやもやとした感じ。
驚くほど感受性が刺激されて、自分自身のことがいろいろ見えてくる。
いろんなものが、あるべき場所に、一度にリセットされる。
「ああ、そういえばそうだったね」と、考えるよりもずっと早い速度で、頭の奥の方に正しい答えが入り込む。はぐらかすことは絶対にない。
だから、自分の気持ちとかそんなものを、出し惜しみせずに全部明らかにしたくなる。
世の中と自分との小さな食い違いをどうにかしようと毎日あれほど頑張っているのに、ほんのわずかな水面の動きでそんなことはどうでもよくなって、なんとなく気持ちが前を向く。
今まで食べたポテトチップの総量とか、いつの間にか無くなった三角定規のこととか、そのくらい些細なことみたいに。
もちろん、どんよりとした曇り空のビーチを歩きながら、「なんて理不尽なんだろう」と思うこともあるけれど。
持って来た荷物を、ほんの少し引き受けてくれる場所。
もしあれこれ揚げ足をとる人がいたとしたら、それはきっと、この場にいられないことが悔しいからなんだと思う。
anna
have a good day !
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anna magazine vol.11 発売!
特集" Back to Beach.”
11号目を迎えたanna magazineの特集は、初心に帰って“BACK TO BEACH”。
anna magazineのルーツであるビーチカルチャーを、ワールドワイドに大特集します。
定番ロードトリップは、憧れのメキシコ、バハ・カリフォルニアのカラフルな旅にはじまり、オーストラリア・バイロンベイ周辺のオーガニックなライフスタイルを探す旅、さらにはテキサスからヴェニスビーチまで、ジャニス・ジョップリンの足跡をたどる旅。
その他、カリフォルニアの特別な「光」のひみつを探してみたり、サンフランシスコの夜のビーチの人々をスナップしたり、ビーチサイドの住人たちの部屋を覗き見したり。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。