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“Travel is ENCOUNTERS” (アリゾナ篇) #13
photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2019.03.18
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“Why?”
ホワイ, ソノラン砂漠, アリゾナ州
砂漠を運転していたらわけわかんない時間が突然やってきた。。
“Why”って標識に書いてある。ん? 何聞いてるわけ?
それがどうも地名だったんだ。
人家がずーっとなかったのに、交差点にぽつんとレストランとガソリンスタンド。
それに、なになに。。。? これ~~!
錆びて廃車となったふるーいピックアップトラックから水がこんこんと出ている。”Why?”って聞きたくなるのはこっちだよ~。。
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“Why”はメキシコ国境から50kmもないところで人口110人くらい。州道85号と86号が交わっている。いつ町になったのかわからないんだけど、州で町の名称を正式に決める時に道路交差がY字だったから”Y”と申請したらしい。すると3文字以上じゃないとダメといわれ 2文字足して音感も近いWHYになったとのこと。。体中の、ち、力が抜けていく。。
奇想天外な発想で存在感高めたいのかしらね。うん。
トラック噴水も見事だけど、壁のペイントもすごい。スカイダイビングしている人はいるし、鷲が空を舞うし、クーガー(ひょう)もにらみを利かしている。みんなでどうして(Why)君はアリゾナにくるのかい?とたずねているみたい。
その夜、メキシコ料理を食べながら、Why 砂漠? Why アリゾナ? Why タコス? Why コロナビール? Why ライム? ・・・と自問の嵐になってしまった。
でもビールタイムだもんね~。うれしい。飲もーっと。
わーい、わーい! あ。。。ほわーい、ほわーい!
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“アーホなの”
アーホ、ソノラン砂漠, アリゾナ州
Why?, Why?と連呼してたらなんと忽然と現れた隣町は “アーホ”(Ajo)だった。“Why, アーホ?”
ここは元メキシコ。スペイン語でアーホは「にんにく」でその関係かしら? と思ったら、先住民パパゴ族言語で絵を描くことを意味するとのこと。しかもこの辺で赤い絵の具もゲットしていたらしい。その赤ってもしかして銅かも。。だってこには銅山があったのだ。
1876年にシカゴから西への大陸横断Southern Pacific鉄道がもう少し北にひかれた。Ajoからは70kmほど距離があったんだけどここの大きな銅山ビジネスのため単独でそこまで鉄道がひかれた。
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1985年まで続いた鉄道。貨物も旅客も乗せた路線が70年も続いたのは全米では珍しいらしい。鉱山閉鎖で鉄道も廃止になったんだけど、駅まわりはゆっくり観光資源になってきた。鉄路もほら残っているし、アーチ状の駅舎は反射とシルエットが美しい。
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旧駅の目の前に昔からの郵便局がみえた。お散歩してみようっと。
“わーすごい! 60’sのクラシックカー。現役ですね。これ、あなたのですか?”
“いや、同僚の。すごいだろ?”
“縦目珍しい。全身綺麗なブルーですね。カッコいいって伝えてね~。”
エンブレムや、テールランプのプラスチック。当時は斬新な素材で衝撃的だったんだろうね。。。 すごいイノベーション。
あ、このボディーカラー、アリゾナの空の色だ。
この空の色をデザイナーが採用したのかな。。。
車に乗ったまま、砂漠から空に向かって飛んでいきたい。
あのサボちゃんたちも飛び越してゆくのだ。。
そんなアーホな。。
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“アーホなアート”
アーホ, ソノラン砂漠, アリゾナ州
つい何年か前までどの町でも、人が集まるところにはセルフ新聞販売機があった。
quarter(25¢)コインを何枚か入れると蓋を手前にあけられ、中に積んである新聞をとりだせた。よくフリーペーパーやチラシも近くに並べておいてあった。スーパーやドラッグストアなどの場所などもわかるし、何よりその土地の様子を感じられるからホイっと手にしてカフェで読んだりするのが楽しかった。 スマホであたりはつけるんだけどちょっとさびしい。
旧駅まわりをあるいてると楽しげな壁が目に飛び込んできた。
うん。空いっぱいMusicだね。サボちゃんも歌っているし、フレームもnativeタッチの素敵なデザインだ。町の人たちが、旅行者たちが微笑んで過ぎてゆく。
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絵一枚でうきうきして、駅前広場をもう一回り。
おっと、ありました。ありました。
トナカイ君の絵。目がくりっと。
おっと、こっちは違う作者だね。発泡スチロールかしら。リボンを背景に雪だるま君が葉巻を加えてこっちをちらと。
おっと、チョコクッキー君。おいしそうなスマイル。蝶ネクタイが決まっているね~。
かつての銅鉱山の町は、もうトラックも貨車も人々も昔のようにひっきりなしに行き交うことはない。でもこんなやさしさに出会うことができる。素敵なコミュニティーだね。
そうだチョコレート! 今日もメキシカン料理しかないけど、デザートはブラウニー食べようっと。
スイートは、いやアーホはスマイルをくれるから~
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“Hello! Morning painter!”
ソノラン砂漠, アリゾナ州
“おはよー! そうなの。朝早く来てお絵かきしているのよ~!”
“わー、綺麗な山のカラーですね~。”
“ありがとー。あ、そのベンチにあがると下がよく見えるわよ~。
あら、日本、大好きなのよ。またいきたいわ。”
日曜の朝、「山」の上でMauraさんに出会った。
ここはAjoの銅鉱山。露天掘りだったところなんだ。
アリゾナ州は今でも数か所銅鉱山があって 全米の2/3の銅を採掘する最大州なんだ。開拓時代, 人々が金や銀を求めて大陸を激しく移動した時から銅はワンテンポ遅れたけどビジネスとして一気に開発されていったらしい。Ajoではちょうど今から100年前から30年程前まで掘り続けられて地表から340m! の深さにまでなった。Sonoran砂漠の中の一点。かつては人々がぎゅっと集まっていたけど、今はひっそり廃鉱山。「山」の上はその跡を見下ろす観光資源になっている。
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“わ、わ、わ~。そ、底が見える~”
“こ、こわー。すり鉢じゃん。下に緑の水が光っているよ~”
“ぐるぐるまわりながらふかーくふかーく掘っていったんだね。”
“あ、堀った後の壁、茶色も、青も混ざっているよ~”
ずーっとながめていると、人々の声や工具の音、トロッコやトラックの色々な音が賑やかに聞こえてきた。でも目を閉じると、ピーっと鳴く鳥の声と、たまに観光に砂利道を上ってくる車のタイヤの音だけだ。
不思議な不思議な気持ちだった。タイムスリップもできたし、自然の地中の中にも出会えた。
振り返るとMouraがにっこり。ありがとー。
あ、そうだった。アーホ(Ajo)ってお絵かきの意味だったね。Moura知ってた?
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“Mine’s Church”
ソノラン砂漠, アリゾナ州
鉱山の後ろ。山のてっぺんがそこに。
ああ、ここもサボちゃんが元気に育っている。砂漠の中なんだもんね。
その中にピカリ、白く建物が。
鉱山の中に昔からある。Sonoran砂漠を望む素敵なところ。
きっとここで働いていた人たちはいつも目にしていたんだね。
年季の入ったランプの向こうには砂漠の中の山のシルエットが見えている。
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教会のまわりを歩くと、裏手の斜面に、十字架が見えていた。
鉱石運搬の荷車。鉄の輪は錆びても残っている。
あ、このちらし、150周年のだけど、がーん。すでに、15年経っている。。
人々の歩みも、自分の歩みもあっという間なんだ。
その中は様々なドラマが。。
一瞬一瞬のさりげない出会いも大切に大切に次に進んでゆきたい。
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“Why, アーホ?”
アーホ(Ajo)。
このちょっと変わった名前には引かれるよね。それだけで是非きたかったのだけれど、実はこの場所に来るには少し心にひっかかりがあったの。。。自然が傷ついているから。
でも気が付いた。自然も人と同じで傷つくことがあるんだと。自分のせいでなくてもね。深く。。
でも傷ついたその自然に寄りそうことも素敵なんだ。
君のおかげでここに来れたし、遠くの山々も見ることができた。
ふかーい地底には染み出た銅イオンの緑色の水がひっそり光っていた。
そのとき、なぜか思い出したのだ。小さい時のこと。夜真っ暗がこわくて寝付けない僕のために父親が天井に小さな緑色の電球をわざわざ買ってきてつけてくれたこと。闇の中、緑の明かりがほんのり素敵でながめているうちに夢の世界に入っていくことが出来たのだ。
たまたま無邪気にお絵描きをしているMauraさんに出会って気持ちが一気に晴れた。
アーホははるかか昔、パパゴ族がお絵かきの意味として言葉に使っていた。絵に描きたくなるくらい素敵なところ。。
無邪気に描きたい心、無邪気に描きたくなる自然を大切に歩んでいきたい。
これからもアーホなこころを持ち続けていくね。
アーホ(Ajo)に来れてよかった。
Why アーホ(Ajo)?
フォト、エッセイ by T. T. Tanaka
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イラスト、ロゴデザイン by 瀧口希望
アリゾナに関することはこちらのアリゾナノートをチェック。
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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