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“Travel is ENCOUNTERS” (アリゾナ篇) #15
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2019.05.20
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No pizza, no happiness. No people, no pizza.
わーい。Pizzaを指さす口ひげのおじさん。おいしそうでしょ?
そう。ピザ生地が分厚いモチモチ、ホカホカのピザ手にして運んでいくよ~!
イイ感じイイ感じ。La Piazzaの文字も踊っていて楽しい。
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真っ赤なサラミ(ペッパローニという。辛いソーセージね)スライスがたっぷりのっかってピリッとしているのね。きっと。とろけるモッツアレラチーズの上にのってあぢぢで反っているよ。これぞアメリカンピザ。そう薄い生地のイタリアのピザはアメリカで変身しながら大人気になったんだ。アメリカの成長とともに。チェーン店もいろいろ生まれたものね。
ピザがあると皆でわあわあ楽しくなれる。Pizza makes people happy.
このシェフ?おじさんの目もくっきりいい感じでしょ?
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でも、そうなんだ。この看板くすんでいなければもっとおいしそうだし、食べに入ったんだけど。。
閉鎖してもう何年になるんだろう。
ペイントの色は日よけの屋根の下でまだ鮮やかさを残しているけど。。
ここはアリゾナの西のカリフォルニアとの州境の町、パーカー(Parker)。砂漠を切って流れるコロラドリバーに面し、カリフォルニアに通ずる街道も通っている。人口は3000人で年々減っている。
前は活気があったことをピザ看板が語っている。
消火栓の赤い色をみていると美味しそうなサラミに見えてきてしまった。ここで夜、ピザと飲むビールは楽しかっただろうね。でも今やってくる人はいない。
おっと、そもそも朝食のレストランが見当たらなくって探していたんだった。ちらと昨日見えたスーパーのデリでサンドイッチを作ってもらおう。そう、ベーコン、レタス、トマトじゃなくて、サラミ、レタス、トマト。あ、モッツァレラチーズも。砂漠の旅の一日が始まる。
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Reflection of the past
夜があける。顔を洗っているとホテルの外から汽笛がピーっと響いてきた。一時間に二三回は聴こえる。
アリゾナからカリフォルニアまで貨物列車が元気にゆく。この鉄道(Arizona-California鉄道)はもともとこの町Parkerに1905年にひかれた。メキシコまで広がるソノラン砂漠を南北に流れる目の前のコロラドリバーを西に越してカリフォルニアに入りCadizまで130kmがつながった。「旅客列車」は1937年には一日数本この駅から往復していたけど1955年には終了してしまった。ハイウェイが通りみんなが車を使うようになったからね。その当時の列車が置かれて朝日に反射していた。
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車体は立派だよね。武骨。
鉄板の上から、縁に、窓のまわりに、鋲が打って止めてある。鉄がしっかり組んであってがっしり骨っぽいんだ。
1947年なんて刻印があるから今から70年以上前。頑張って汗だくで作り上げた職人たちの気配であふれている。ずしり、重たいんだよね。きっと。しかも、人が掘り出した石炭を、人が一生懸命焚いて水を沸かして蒸気を作ったんだ。その蒸気で機関車たちが列車を引っ張っていた景色。エネルギーに満ち満ちていたんだろうね。ちょっとうらやましい。
四駆の車を借りて、砂漠の中を快適に来てしまったけれど、僕も車もとっても軽く見えてしまった。列車の車体に手を触れて出発した。朝だからひんやりしていたけど、命のぬくもりを感じた。
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For California, to the west!
鉄橋だ~! あの鉄橋を渡るとアメリカ大陸の西岸の州、カリフォルニア。
東海岸のニューヨークから西海岸のロサンジェルスまで3900km。この砂漠の町Parkerから400km行くと太平洋になるんだ。そう、日本で見ているあの海。
1905年に鉄道が引かれるまでは、何マイルも上流や下流の橋のあるところまで砂漠の中一日がかりで移動して、橋をわたったり、一番浅いところで船で対岸に渡ったりしていたから、これが完成して汽車が渡ってゆくのをみた人たちは歓声をあげたに違いない。だって、今みても嬉しいもの。煙が砂漠に噴き上げるのを目にし、汽笛を聴くと新しい時代を実感できたんだろうね。
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砂漠の中にそびえたつ岩山を遠方に臨む。手前は、コロラドリバーの川堤。水っ気があるからヤシの木も青く育っている。
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それにしても見事なアーチの鉄組み。100年以上両岸を繋いできた。表面は錆びているけど。立派立派。レールの留め金は1945年って彫ってあるね。終戦の年だ。
多くの人々はもうなくなってしまったけど、この鉄は呼吸しつづけて錆びを身にまといながらこれからも生き続けてゆく。
遠くを見やりながら感慨にふけって手元のカメラに目を落としたら、その先にかわいいお花たちが線路脇にいたよ。キュートにビビッドに素敵に咲いて。つい使っちゃう「荒野」って表現、撤回します~。ごめんね。
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Born with bone
びっくりした~!! スーパーから出て一気にメキシコ国境方向に舵をきってアクセルをふかしたとたん、大きなもかたまりが右手に見えて強くブレーキを踏んで止まった。 全身茶色い毛におおわれた動物かと思った。
1930年代のシボレー(今はGM)。鉄さびでたっぷり覆われた全身は流線形でころんとしている。ホイールやタイヤは落ちてしまって地面にそのまま鎮座していた。ボンネット、グリル、窓のライン、ドアハンドル、鍵穴の蓋、後ろのトランクまで優雅なラインでやさしく主張している。
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そして、床は抜けてしまっていたけど、しっかりフレームが前後にわたって、ダッシュボードもシートもハンドルもすべて表面は落ちてしまっているけど芯の鉄がしっかり残っている。今なら樹脂がほとんどだから時間がたつとボロボロになってこんな芯が残ったりなどしない。まして鉄が使われていることはないよね。
この光景に茫然としてしまった。80年も前の現物に出会ったことも驚きだったけれど、時を経て残った鉄のフレームに圧倒されてしまった。まさに生きものの骨。当時はしっかり作り上げられた骨の上に体がのり、お洋服を着てドレスアップして時代を闊歩していたんだね。その骨は時代を超えて残っていた。ドライブハンドルにも鉄の骨が入っていたなんて。
今の世の中のものたちは、骨をつくってその上に組み立てられたというより、殻全体でささえられているものが多い。。。。
すごいなー。。
くじらちゃんの骨や恐竜ティラノサウルスの骨を思い出してしまった。
昔の職人たちは、一生懸命生きもの作っていたんだね。
昔の物たちは出会うとやさしいもの。。
じゃあね。会えてよかった。
砂漠でこんな生きものに出会えるとは思わなかった。
ありがとう。うん。骨ある人を目指すよ~!
あ、だめじゃん。朝食ちゃんと食べなかったよ~~。
さあ、砂漠ど真ん中行くよ~!
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Here comes the green forest!
来たよ~!
真南に真南に。Ajoから60km。検問を過ぎて、メキシコ国境に接する広大なOrgan pipe cactus国定公園。4WDで未舗装道路をゆく。一台もすれ違う車はなかった。あっというまに二時間がすぎてゆく。
遠くから見えていた緑の林はサボちゃんたち。あ、あれ、断層じゃん。岩肌に亀裂。どれくらい前なんだろう。ただただ茫然と。。地球にいることを感じる。
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タイヤの上でも圧倒されるんだけど、自分の靴で地面を歩いて感じたい。ゴツゴツもざらざらも。目の前にはふわふわにトゲがのびているサボちゃんもいるし、ぷくっと横から小玉が増えているサボちゃんも、地面からほんの10センチくらいのチビサボちゃんもいる。黄色のお花をバックにスタイル決めているサボちゃんも。
人は全然いないんだけど、寂しくはないんだ。イキイキしていて。。。
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わ。緑じゃない木立があると思ったら維管束だけのサボテンの骨だった。地面に注意を払っているとときどき出会う横になっている維管束たち。あらら。今朝、出会ったあの車のフレームみたいだね。
このしっかりした骨があるから栄養も水分もしっかり全身にゆき渡るし、体をまとって色々なスタイルも緑のお洋服も決まるんだ。わあ。ここでも出会ってしまった。骨っこ。
不思議に悲惨な感じはなくって、この骨は自然がデザインしたみたいできれいだった。
そっとかけらを手に取ったらとっても軽かった。吹いてきた風に乗ってどこまでもどこまでも飛んでいきそうだった。
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風の向こうには、すくすく、でも何年も何年もかかった育っているサボちゃんの大集団と
昔は雪に覆われて氷河だった岩山がそびえていた。
命をいっぱい感じさせてくれてありがとう。
また、来るよ。
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No bone, no life. No life, no pizza.
いやー。80年前、1930年代の車がそのまま目の前にあったのにはびっくりしたよ。まさか砂漠の地で会えるとは思っていなかった。110年以上前にできた鉄橋にも目を丸くしたし、60年前? の旅客用車輛にも驚いた。大都市の博物館の中で出会うというのはあるけど、実際の生活の中にこれぐらい前のものが残っているというのはなかなかすごいことだよね。
至近距離で見られるし、また、実際に触ったりもできる。
これぐらい昔のものに繰り返し遭遇する機会はあまりない。
おかげさまで気が付いたんだ。その頃の多くのものって骨組があって成立しているってこと。生きものと一緒。あ、脊椎動物ね。私たちと同じだ。臓器も筋肉も脳みそも手足も頭も、骨がなければのっからない。ましてや皮膚もその上に装う服も。
そしてその骨は鉄だったんだね。「鉄」ってすごい。
当時、その鉄も掘り出し、精錬して、溶かして、形にして・・すべてに人のエネルギーが込められていた。だからそれが動いて私たちの前に現れて動くと、初めてのいきものに出会ったかのように感動したと思うんだ。
歓声が、嬉しい声が聞こえてくる。
だいぶ、うらやましい。
そう。でもすっかり頭になかったことがある。
サボテンに「骨」があるなんて。
あの砂漠でしっかり育っていくためには必要なのだ。
寿命、200歳だったりするから。
No bone, no life。
そう。そして、骨ある人達が集えば、幸せになれるピザが待っているんだ。
No life, no pizza.
骨ある人に乾杯! from Arizona.
Photo, essay by T.T.Tanaka
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アリゾナに関することはこちらのアリゾナノートをチェック。
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
カリブ篇
アリゾナ篇
ワイオーミング篇
アソーレス篇
グリーンランド篇
ネブラスカ篇
ラトビア-バルト海篇
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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