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“Travel is ENCOUNTERS” (アソーレス篇) #27
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2020.05.25
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“Take five”
体の下の方からズザーっと噴き上がってくる波の音。
クールな風もかけあがってくる。
延々とつながる溶岩のかけらにかかる白い波しぶき。
溶岩は段々小さくなって大海の沖に沈んでいる。
今いるところは火山の諸島、アソーレス。
大西洋のど真ん中。
海いっぱい。
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崖の上には白い花が一気に広がって雲のよう。
セリの花みたい。ふっといい香りがしたし。
まるで伊豆半島みたいなんだけど、広がっている海は太平洋じゃなくて大西洋。
どこにいるか錯覚してしまいそう。
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「あ、こんにちは。いいお天気。素晴らしい海ですよね。船とか見えるの?」
「あら。こんちは。ううん。全然何もないのよ。この大西洋、ここをずっとまっすぐ行くと赤道も超えて南極になるのよね」
「え、南極?。。 そうか。。」
「そうそう。昨日はクジラが潮吹いてたのよ~」
「ク、クジラ!」
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あ、あの女性は望遠鏡のぞいている。
「こんにちは。ク、クジラwatchですか?」
「Whale watchingのツアーに勤めているの。どこにいるか見つけて船に連絡するのよ。
今日はまだなの。出る時もあれば全然のときもあるの。クジラちゃんだものね」
素敵なウィンクが返ってきた。
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発電室の壁。クジラちゃんの尻尾!
ああ時間があったら船に乗ってクジちゃんみたいよ~。
なんとアソーレス諸島には24種類ものクジラの仲間が見られるからwhale watcherたちには注目の場所らしいの。マッコウクジラ(Sperm whale)、イワシクジラ(Sei whale)、ナガスクジラ(Fin whale)、ゴンドウクジラ(Pilot whale)。。。などなど。 すごいね。
澄んだ水で餌が自然にたーくさんあって汚れも少ないからクジちゃんたちにとってはすみやすいし訪問しやすいところなんだって。
このペイントの尻尾はね。きっと、ナガスクジラ。
尻尾がV字型に切れているから。時速は33㎞とクジラ最速?で水中を突っきっていくらしい。
かっこいい!
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ピンズとマグネットを売っている女性が。。
あら、クジちゃんに、イカちゃんに、鳥ちゃんにお魚さんたち。
いろいろかわいいこと。かわいいこと。
よくみたらクジラちゃんたちもいろいろ。上からイワシクジラ、ナガスクジラ、マッコウクジラね。
オルカの上にはかわいいヘアスタイル? のイカちゃんたち。
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ハリネズミちゃんもいるし、あら、このかわいい鳥さんたちはなにかしら?
「こんにちは。素敵な顔たちね。全部ご自分製なの?」
「はーい。ありがとー。そう。私が描いてるの。お天気の日にはここにきて売っているのよ」
「ほんとに優しい感じですね。このかわいい鳥さんはなーに?、あ、このカラフルなお魚さんは?」
「Bullfinchっていうのよ。そっちのお魚は Ornate wrasseなの」
綴りがわからなくってお願いしたらメモ帳に書いてくれた。
Bullfinchはすずめと親戚のウソ。日本でも口笛のような鳴き声でかわいい。アソーレス固有のウソは年々減っていて心配されている。
お魚は「ベラ」の仲間。カラフルで海の中を小さなおちょぼ口でプランクトンをつっついている。
かわいくて全種類欲しかったんだけど。。
気が付いたら手にはベニアジサシ(Rosette tern)とミズナギドリ(Shearwaters)ちゃんもくわえて5個のマグネット。
ほんの5分だったけど、この夢中になる寄り道時間が楽しい。
Take 5。
普段と違う5拍子が嬉しい。
このマグネットをみると彼女の素敵なやさしい顔を思い出す。
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“Relaxin’ at Azores”
海の音が体中にふりかかってくる。
わ、わ、なに、このまあるい大きな穴。
満潮になると大西洋のフレッシュな水が入り込む。
ごつごつのかたい溶岩もこの辺りだけは削られてつるっとしている。
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もう少し先にいくと、この通り。
ざっばーんんん。
釣り人と迫りくる潮とダイナミックだ~。。
きもちいいほどしぶきが舞っている。
すごい。
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磯の割れ目にクリアブルーの水が入り込んでくる。
泡がわっと盛り上がって低い音とともに一瞬にして消えてゆく。
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岩にはへばりついた藻。奥に入り込んだ海水は一瞬音が消えたかと思ったら一気に滝みたいにおちてゆく。水の流れる音もうれしい。
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滝つぼに静かにおちてゆくしずく音も。あら、滝つぼの上はピンクの藻。
海面の端っこがうわーっと盛り上がってくる。
砕ける音、入りこむ音、流れる音、滴り落ちる音、盛り上がる音。。
全身で海を一気に感じるとすーっとすーっとクールになってゆく。
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あれ。君はいつの間にそこにいたの?
ここは君のお気に入り場所ね。
岩になじんでいた君に僕が気が付かなかっただけね。。
僕もきっと岩になじんで君と同じような色合いになったかしらね。
君と一緒に大西洋を体いっぱいに感じられるなんて幸せだ。
ありがとう。
Relaxin’ at Azores.
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“ほほにかかる涙Una Lacrima sul viso (Uma lágrima no rosto)”
Atlantic ocean!
自分のまわりは大西洋だけ。
おっと、あなたと大西洋だけね。
五感いっぱいに感じる。
大切な人もね。
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「昨日のタコ料理、美味しかったな。。」
「そうね。やわらかくて。素敵ね、あのレストラン」
「アソーレスワイン、いいもんだな。ピコ島の涙。おすすめしてくれた彼女、可愛かった」
「あら。お料理じゃなくて彼女みていたの。。?」
「わ、わ、ワインの説明がお、おいしそうだったね。。。 う、海の音が気持ちいいぜ」
お日さまいっぱい背中に頭にあびながらの会話。
大西洋の効果音がうれしい。
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「そろそろ戻る?」
「うん。どこまでも海だ。すごいな。来てよかった」
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公園に一つある水道。
おおきなしずくが今にも落ちそうだ。
6月の太陽はじりっと喉を乾かす。
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公園の工事に来ているおじさんたち。今日の仕事は終わり。暑かったね。
道具を洗って帰路に。
おっと、ワンちゃんがおそるおそるおじさんのところにやってきた。
毛がモップみたいになっちゃった野良犬ちゃん。
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よし。よし。お手もするんだね。
おじさん、お水を飲ませてあげた。
ごろん。
おじさんもにっこり。
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おじさんはお家に向かう車待ち。
横顔が素敵だ。
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あ、ワンちゃん。おじさんを見つめてる。
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「行ってしまうの。。。。 お家に帰るの?」
さびしそうで。。
涙が見えた気がした。。
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“My favorite things”
海沿いにはかわいい町がぽつんぽつんと続いている。
古い狭い通りを歩くのも楽しい。
海の音にまじって、ヤギの声やワンちゃんや牛の声も混じってくる。
かわいいお家たち。
赤い屋根に紺色枠のハートの窓カバー。
あ、こっちは緑の扉にハートの切り抜き。
いいなあ。家の中からの景色はハートにおさまるんだ。
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あらま、なんか空に動く影がと思ったら。ネコちゃん、ひょっこり。
めったにいないものね。通りをゆく異邦人。。
チェックされてしまいました。
大丈夫。いい子で育ってね。
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わ。びっくりした~。番犬が飛び出してきたかと思った。
ガレージにとめてあるボートのイラストね。
大海に出る時は守ってもらわねば。
あ、ブルドッグ、好きなんです。
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あらー。低い声で通りをゆく僕を待ち構えていると思ったら小さいワンちゃんだった。
かわいい。
あ、後ろには大きなラプラドールちゃんも。
イエローの素敵なおうちね。
お顔がちょうどはまる柵のデザインもいい感じ。
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ブルーラインに沿って、わーい。
走りだした男の子。
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そ。お母さんと一緒にお買い物。
サングラスのママがにっこり。
今日もいい天気。
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青い帽子。後ろ向きにかぶっていてかわいい。
駆けっこ大好き。
いえーい。
Go, go!
私の好きなことがたくさん。
My favorite things in Azores
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“There will never be another you”
B&Bに戻って部屋をあけるとゴールドの光がそそいでいる。
カーテンをあけたら一面に大西洋がキラキラ反射している。
岩がキャンドルみたいなシルエット。
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Sunset.
ずーっとずーっとみつめている。
そう。これからもどれだけ日没をみることだろう。
そして思うのだ。
この景色にかわる景色なんてないよ。
秋が来るし春も来るけど。
色々な島や海岸に行くけど。。
この景色はこれしかないのだ。
この出会いをありがとう。
There will never be another you.
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おはよう。
目が覚めるとグリーンとブルー。
ブレックファストタイムがうれしい。
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セサミブレッドにクロワッサンにパイナップルデニッシュ。
キーウィにグレープにブラックベリーにパイナップルスライスとソルベ。
どれも島でとれるフレッシュ食材いっぱいで嬉しい。チーズとハムもね。
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灯台の横にお魚さんとヒトデさん。
カラフルなお花のデコレーションにもそろそろお別れしなければ。
灯台にはLife is better at the beachって書かれている。
ほんと、人生でいいビーチに来れると幸せだもの。
嬉しい感じ。
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「出発するよ~ありがとー。Antonio*。教えてもらった海岸もタコの看板のあったレストランもよかったよ~」
「よかった。よかった。日本からのお客さんは初めてだったよ。ここ日本みたいだろ?」
「え、日本にいったことあるの?」
「ううん、ないんだけど、是非行ってみたいんだ。来る人たちの多くはさ、アジサイとか杉とか海辺がとっても美しくて日本的っていうんだよ。それにこのSao Miguel島の人達は働き者で勤勉だからアソーレスの日本人っていわれるんだ」
「え。。あななたたち、日本人っていわれているの?」
「そうなんだ。 Tanakaさん、お互いジャポネーズ(Japones)ね。兄弟、会えてよかった」
こんなとこ、他にある・・?
There will never be another you.
(*Antonio)は仮称です。
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“For once in my life”
まわりは海だもの。
でも、Ocean を目いっぱいこんなにも感じることができるなんて思っていなかった。
海の水がエネルギーにあふれてしぶきをあげて滝のように流れていった。
その水の色はクリスタルブルーに光っていた。
体中で海を浴びる感じは人生で初めてだった。
まわりは海だもの。
でも、すんでいる人たちのお互いを思いやれる気持ちをこんなにも感じることができるなんて思っていなかった。
野良犬をいたわる工事のおじさんたちはやさしかった。
僕にも手を振ってくれたけど。。
やさしさに頬に涙が流れるのは人生で初めてだった。
この島にきてよかった。
人生強く生きていける気がするし、
夢も叶えられそうな気がするんだ。
この初めての気持ち、
ありがとう。
For once in my life.
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※こちらの記事は2019年の取材を元に書いています。
イラスト by 瀧口希望
アソーレスに関することはこちらのアソーレスノートをチェック。
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
カリブ篇
アリゾナ篇
ワイオーミング篇
アソーレス篇
グリーンランド篇
ネブラスカ篇
ラトビア-バルト海篇
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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