ドキュメンタリー『長﨑の郵便配達』

今あらためて考える、「その日」のこと。

ドキュメンタリー『長﨑の郵便配達』

川瀬美香監督インタビュー

Contributed by anna magazine

Local / 2022.08.05

2022年8月5日(金)から全国公開されている、ドキュメンタリー映画『長﨑の郵便配達』。
ピーター・タウンゼンド元空軍大佐が、新聞配達中に被曝した谷口スミテル氏と出会い取材し、1冊の本を出版する。『長﨑の郵便配達』は、ピーター氏の娘であるイザベル氏が2018年の長﨑を舞台に、父の著書とボイスメモを頼りに、父とスミテル氏の想いを紐解くドキュメンタリー映画。今回は監督の川瀬美香氏にメールインタビューに応じていただきました。





「原爆」や「平和」といったテーマを扱うことに対して、どう向き合われましたか?

いくら考えても自分の進むべき道が見えず、難しかったです。時間をかけて自身と向き合いながら、制作を進めていくしかありませんでした。

映画の原案となった、ピーター・タウンゼンドさんの著書『ナガサキの郵便配達(原題:THE POSTMAN OF NAGASAKI)』を読んで、どんな感想を抱きましたか?

被爆後のスミテル少年の自生を描いているところが良かったですし、かなり丁寧に取材をされていると思いました。ピーターさんが元軍人だった影響もあるのか、戦争が進んでいく過程や計画に関わる人々の描写が綿密でした。

実際に対面したスミテルさんはどんな方でしたか?

しっかりとご自身の意見を持っていながら、冗談をたくさん話されるような一面をお持ちでした。格好いい方でした。

スミテルさんが亡くなり、映画の構成を変更されたそうですが、当初はどのような構成を想定していましたか?

「ピーターさんの娘であるイザベルさんが、スミテルさんに会いに行く」というシンプルな構成を考えていました。

イザベルさんとそのご家族が長崎に滞在する中で、印象に残っていることを教えてください。

長﨑のいろいろな場所に行きたいとか、長崎の人に会いたいなど、常に前向きに長崎の文化に触れようとしていたことでしょうか。イザベルさんの娘さんたちも広島平和記念資料館に同行するなど、自分たちの目で長﨑の歴史を知ろうとする姿が印象に残っています。

中高生主導の試写会などを実施されていますが、若い方にこそ映画を観て欲しいと考えているからでしょうか?

歴史に触れていただくことで、若い方々の今後の人生に何かプラスとなってくれると嬉しいです。でも鑑賞を強制はしたくありません。

戦争体験者が少なくなっていく中で、私たちのような世代が戦争の歴史を知ることはどんな意味を持つと思われますか?

先代たちが背負った歴史を知ることは「自分たちの未来に直結する」と、私は思っています。




戦争を体験していない世代の僕たちにとって、戦争は身近なものではなく、どこか「非日常の出来事」として捉えてしまうものです。今回この『長崎の郵便配達』という作品に触れて、あたらためて僕たちと戦争との距離感について考えてみました。
1945年8月9日、谷口スミテル氏は新聞配達の最中に被爆して大火傷を負いました。その瞬間までは、彼にとってはあたりまえの1日になるはずだったに違いありません。つまりそれは、戦争というどこか非現実的に見えるものが、実は平凡な僕たちの暮らしと地続きにある、ということに他なりません。
この映画では、スミテル氏と交流があったピーター氏の娘イザベル氏が長崎を訪れ、父たちの軌跡を追っていきます。この映画を観れば、僕たち同様に戦争を体験していないイザベル氏の目線を通して紡がれるストーリーを共有しながら、過去の悲惨な戦争について今あらためて考え、何かを感じることができるでしょう。
僕たちにとっては平和に見える毎日も、いまだロシアのウクライナ侵攻は続いていて、世界は予断を許さない緊迫した状況の真っ只中にいます。日本の戦後77年を迎えるこの夏に、この映画を通して僕たちひとりひとりが戦争について考えることが、平和の大切さを知るための小さな一歩に繋がるのかもしれません。


infomation
生涯をかけて核廃絶を訴え続けた、谷口稜曄(スミテル)さんをジャーナリストのピーター・タウンゼンド氏が取材し、1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を出版する。映画『長崎の郵便配達』は、タウンゼンド氏の娘であり、女優のイザベル・タウンゼンドさんが、父親の著書を頼りに長崎でその足跡をたどり、父と谷口さんの想いを紐解く物語。

8月5日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
『長﨑の郵便配達』公式サイト
https://longride.jp/nagasaki-postman/

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