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“パーフェクト バナナの浜に波寄する” 糸の芭蕉
奄美大島篇 #73
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2024.05.23
“Perfect waves”
水際にいる僕。目の前に切れ目なく押し寄せる波が落ちてくる。
ここは亜熱帯、奄美大島の宮古崎。西海岸の真ん中あたり。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
雨があがって雲も段々抜けてゆく。一面のブルーになってきた海にまぶしいホワイトがあちこちで混じる。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
盛り上がってゆく波のカーブが美しい。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
崩れてしぶきになってゆく波の先端。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
そしてまた、一気に山のようにもりあがってゆく。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
頬に飛んでくる水しぶき。砕ける波の音。潮の香。まぶしい色のドラマ。
体中の感覚で味わう景色。いつまでも飽きない。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
猛烈に高い波が来た。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
一瞬、山のような霧が波の上に生まれて後ろの方に流れていった・・
太平洋にも東シナ海にも囲まれた奄美大島には12か所以上のサーフィンスポットがある。僕がもしサーフィンができたら、足元に広がるサンゴ礁の上で波を待ち、あんな波に乗って、あのメロディも、あ、あの歌も口ずさんでみたい・・・ 僕が出会ったPerfect waves.
“大和村 (やまとそん) の岬”
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
宮古崎(昔は都崎)は西海岸の大和村(やまとそん)の面する思勝湾 (おんがちわん)先端にある。押し寄せて入り込んでくる波が海際の岩盤にぶつかっては一面真っ白になって広がってゆく。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
この岬、なんと、かつて遣唐使たちを乗せた船が行くときにも、帰ってきたときにも目印にして立ち寄ったといわれているんだ。この大和村、大和朝廷(4~7世紀)当時から「大和人」が住んでいたとのこと。 この海の向こうに大陸が・・・。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
西表島から沖縄島北部・徳之島・奄美大島までの列島(琉球列島)は約1,200万年前はユーラシア大陸の一部!だったんだね。それが200万年前頃までにフィリピンプレートが沈み込んで大陸からはがれ、以降、氷河期を何度も繰り返し、島々に分断されて現在のようになったとのこと。そんな地球のすごい歴史が秘められているなんて・・・。
体中を包む海の音の中、この岩肌を見ていると一気に時空間を飛んでゆける。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
少しでも日が差してくると雲も波も一緒になってダイナミックな景色を見せてくれる。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
急な斜面に放射状に葉っぱが育つ蘇鉄。いつから芽吹いて育ってきたんだろう?
黒い岩にくだける波。吹き上がってくる風に蘇鉄の葉が揺れる。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
海辺から岬の上に登ってくるとゴツゴツした岩肌はグリーンで覆われてやさしい表情に変わってくる。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
岬の突端から人々の歓声。 海を真下に見下ろしているんだけど、まるで高原の上から見ているような不思議なそして圧倒される景色。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
そして、こんな時間もあったのだ。
丁度、潮が一番引いたとき、風が止まり、陽が差して、波静かになった・・
目の前で遭遇した景色はどこまでもフラットな巨大なコバルトブルーの湖面。
そのままスーッと舟で漕げば大陸まで行けるかのような・・・ 呆然・・
“崎の細道”
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
わーい。気持ちよく広がっている。開放感いっぱい。まさに岬が緑の高原のよう。
この緑、実は笹。リュウキュウチクといわれる種類で屋根を葺く材料としても使われてきたそうで、ここは笹の広場、ササントウと呼ばれている大事な群生地。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
海側から見るとこんな感じのスロープ。岬の 奥の細道。ちなみに、NHK大河ドラマ、「西郷どん」のオープニングシーンのロケ地にもなったところ。崎から奥まで細道が続いている。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
湾の奥方向に細道をゆくと元気いっぱいでじゃれあっている?二羽のカラス。
あのすぐ後ろが絶壁で海なんだけど・・・
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
目の少し上の方から賑やかな蝉の鳴き声、ジーッジーッ・・・
目に入ったレッドブラウンの姿。琉球アブラゼミね。10月になってもまだ元気よく鳴いているんだよ。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
蝉の声にまじって鳥の声。生き物たちの合唱の中の細道は賑やかで楽しい。
すれ違う人達とはつい笑顔で会釈してしまう。
車を止めたところと岬の突端とは15分ほどのウォーキング。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
まあるいボンボンのような白いお花をつけているのは、アカシアギンネム。東南アジアでおなじみのお花にも遭遇できる。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
こちらは斜面に大きく育った木性シダのヘゴの木。葉っぱの緑に染まる光線が美しい。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
これから葉っぱに広がって育つヘゴの木の芽。
くるくるくるっと巻いた模様が面白い。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ちっちゃな羽がはばたいてきてヘゴの葉っぱに着陸。
シジミチョウね。薄い紫でかわいい。
宮古崎, 大和村, 奄美大島 by T. T. Tanaka
思わず立ち止まって見入ってしまった。
えっ、地面に落ちているお豆さんみたいなこれ、動物のフンよね。
ネズミのじゃないみたいだけど、もしかして、アマミノクロウサギ君のかしら・・?
“Japanese Banana”
宮古岬の体験にぼーっとしながら、北方向に車を走らせていたらこんな標識に出会って思わず止まった。安木場(あんきゃば)というところ。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
うん・・?
バショウって芭蕉。確かバナナのことよね・・。
えっ群生しているの?
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
海と逆方向の急な山の斜面を見ると、わー、すごい。斜面の中腹までツンツンと育っているのはバナナの木たちではないか?
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
それぞれが1~3mくらいはある。
大きな葉っぱ。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
バナナです。バナナです。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
幅は40cmくらいはある薄い緑のやわらかく大きな葉っぱ。子供の時、お庭の芭蕉の葉っぱを切って絨毯みたいにひいてままごと遊びをして楽しかった記憶が・・・ なんと、西遊記にこの葉っぱで作られた「芭蕉扇」が登場し、風や雲を呼び、雨や霊水をもたらしている。さらにこれ、ドラえもんにも登場! ダイヤルを回すといろんなことができる扇なのだ。 人々を引き付ける何かがあるのよね。江戸時代には鑑賞用として、江戸で沢山植えられたらしく、深川ではあの松尾芭蕉の庵でも大きく育って名物に・・・ 「松尾芭蕉」の名前の由来との説もあるんだ。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
結構、大きな実! もうすぐ食べられる? 今回初めてわかったんだけどNO.
これバナナでもJapanese Banana、イトバショウ「糸芭蕉」といわれる木。実は種が多くって食用じゃないんだ。食用バナナは「実芭蕉」といわれる別物。この「糸芭蕉」はまさに「糸」用なのだ。昔から奄美大島では芭蕉衣(バシャギン)という着物に使われてきた貴重な植物。日本三大古布の一つとされ、伝統の祭祀で神様が着る着物でもある。
三年ほど育った「幹」を刈り取り、薄く剥ぎ、島で育つガジュマルの木の灰と釜で煮て、竹のハサミでしごいて繊維を取り出してゆく。結構大変。
島津藩下にあったこの島は江戸時代に入ってこの貴重な布は貢納され、また税として徴収されていったんだそうだ。その後、絹×芭蕉糸 で絣(かすり)模様が入った大島紬になってゆく・・
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
V字の大きな芭蕉の葉っぱの間に垂れ下がった花のつぼみ。
花が咲き、「バナナ」が実り、その種からまた育って、糸につながってゆく。
亜熱帯ならではの景色。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
っと、足元を見ると、白い帯の蝶、ホシミスジ。あら、あそこにも、そこにも飛んではとまる。白い花があちこちで広がっているみたい。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
目が慣れてきたらこんな蝶も飛来していたことに気が付いた。 これは、本州ではみられない南方のアオタテハモドキ(Blue Pansy)。まるでさっきみた海のブルーよね。ちょっと赤い目玉みたいな模様も目立っている。黄色いお花が好きみたいというから、なるほど。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
と、そのすぐ近くに目を高速で横切ってはホバリングするものが・・・
えっ! ちっちゃなハチ鳥みたいに見えるけど、口から蜜をすうストローみたいなのが伸びているし・・ 翼みたいな羽を器用にばたつかせて空中停止。えいっと吸っては隣の花にどんどん移動。
イトバショウ群落, 龍郷町安木屋場 奄美大島 by T. T. Tanaka
以前、一度、伊豆半島で少し離れたところからみかけたことがあったんだけど、そのときは何かわからないうちに見失ってしまった。ここでは割と近くに飛び回っていて撮ることができた。目も鳥のようだけど、ちっちゃな目があつまってまあるく一つに見えているだけらしい。これは、ホウジャク(蜂雀 Hawk Moth)というスズメ蛾の一種。いやー。調べてみたらびっくり、移動は時速50km/h ホバリング中も目に見えないくらい高速で羽をはばたかせている。大きさは4cmくらいだけどそれと同じくらい「ストロー」も伸びるとのこと。食欲旺盛で嫌われることもあるみたいだけど、植物の受粉にも貢献。ちっちゃいけどすごーい生き物。
自分の足元のこんな近いところにもドラマが展開されていて、すごい。
ドラマいっぱいの奄美大島、ありがとー。
まだまだ行くよ~
“パーフェクト。バナナの浜に波寄する” 糸の芭蕉
亜熱帯の島々。
旅人たちにとって魅力なのは、なんといっても目の前に広がる海と空、打ち寄せる波。
でもそこに身を置いていると、身近なものもどんどん見えて更に楽しく面白くなってくる。
外洋に面した湾の入り口。面白く素敵な景色だった。
波がそこで終わらず中に奥に入ってゆく。目の前を流れゆく波は表情をどんどん変えてゆく。
お日様の当たり方も、潮の満ち引きも、風の流れも方向も変わるからね。
いつまで見ていても飽きない。その音も香りも。
そしてふとその波が沖までなくなったときの景色はまたすごく面白い。
湖のようにつながってゆく海。ずっと先にあるはずの大陸が近い存在になってくる。
そう。そして、芭蕉。江戸時代鑑賞用に人気を博し、松尾芭蕉の庵にも植えられたという芭蕉。僕も小さい頃近所の子たちと、大きく薄いやさしいグリーンの葉っぱをお庭にひいて遊んでいたことを思い出した。ピンク色の大きな蕾からちっちゃなバナナが育ってゆくのを見ては、暑い島に行きたいな~ きっとそこで実るバナナはもっともっと大きくなって食べられるのになあ・・と思っていた。ずっと芭蕉=バナナ くらいの感覚だった。 まさかの西遊記、ドラえもんとのつながりにもびっくりしたけど、自然に立派に育つ糸芭蕉たちは、バナナをとるのではなく、その幹から多くの工程を経て「糸」になり、貴重な地元の着物、芭蕉衣になってきたのだった。
高速移動+高速ホバリング。そんな生き物、ホウジャク (蜂雀。スズメ蛾の一種)にこの芭蕉の木の根元で遭遇するとは思っていなかった。まるでハチドリ、そしてまるでミツバチのように花から花へ。
岬から波の音を聴きながら歩いていった細道。
はるか遠くのところにも時代にもつなげてくれた。
“パーフェクト。バナナの浜に波寄する” 作者;糸の芭蕉?
奄美大島。ありがとう。
Photos, essay by T. T. Tanaka
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。