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“Travel is ENCOUNTERS” (グリーンランド篇) #30
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2020.08.24
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“North by Northwest”
アイスランドのレイキャヴィークで乗り継いでここグリーンランドに着陸。
南のNuuk(ヌーク)。
目的地のIlulissat(イルリサット)行きフライト出発までには3時間ある。
日本から西に西に飛んできて時差は日本から遅れること、-11時間。
ベンチだけの簡単な待合室は閑散として…。
あら、ハスキー犬が前に。
グリーンランド、一緒に移動中なのね。
そう。道路は海岸沿いにプツップツッと短いのが数本と、町中と町まわりにあるだけ。グリーンランド内の長ーい移動は飛行機か、船で大回りするしかない。
ワンちゃんお行儀がいいこと。
時計の針の動く音に合わせて目がトロっトロっと。おねむ。
聴こえてくる飛行機のエンジンの音。高くなったり低くなったり。
時間があるものね。グリーンランドの地面を歩いてこよ。
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扉をあけると外はうっすら雲がかかる青い空。9月。
行き先標識は一つだけ。Nuuk(ヌーク)。
Nuukとはエスキモー系の言葉で半島の意味。紀元前2000年頃にはすでにエスキモーが住んでいたとのこと。グリーンランド最大の町で2万人が住む。北緯64度。
ここから真北に560㎞飛ぶと目的地 Ilulissat(イルリサット)、北緯69度となる。
北緯66度33分より北は北極圏。冬至を中心に真冬は太陽が昇らない極夜に、夏至を中心に真夏は太陽が沈まない白夜となるんだ。
さ、行こ。北極圏。
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滑走路の一番奥のプロペラ機に乗りかえるんだ。グリーンランドエア。
うーんと。座席がいつまでたっても決まらない…。どうするんだろう…。え、自由席?!
そういえばボーディングパスの座席には何もプリントされていない。
ま、混んでないからいいか…。でも不安。
タラップを上がった。
あ、飛行機のクルー達は同じ人たち。
どこに座ろうか、一瞬、迷っていたら、スチュワーデスの彼女が僕にウィンクして手で合図している。前じゃなくって後ろの方の右側のところに座りなさいって感じ。
さっきのフライトで全然笑わない人だったから,な、何だろう・・? と不安に思いつつシートベルトをした。まわりには誰も座っていない。
動き出す前に彼女が近くまで来てくれた。
「そこはね、私が一番好きな席なの。写真撮るんでしょ? ここから綺麗に氷河が見えるのよ。」
初めてみた彼女のスマイル。
「わ、あ、ありがとー。素敵なフライトに乗れてうれしい~!」
もうどんどん陽が傾いてゆくよ~。
早く、早く、飛び立って、飛び立って~。
ぶーーーーーんぶーーーーーーん。プロペラが回った。
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ものの30分くらい。
雲が切れてきた。
真っ青、真っ白。わ、海岸線。
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海に入り込む半島。雪で覆われていて、ところどころのブルーはズボッっと落ち込んでいるみたい。
白いところもしわしわがいっぱい。海が紺色。
ここのどこがグリーンなんだろう?
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雪の皺がたくさんあっちこっちに。おちこんでいるところもいっぱい。
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わ、雪にかぶっていない筋が入った岩盤のようなエリアも見えてきた。
ちょっと緑っぽいといえば緑だけど。。 奥はずーっとずーっと真っ白に続いている。
そういえば、グリーンランドは地球最大の島。地図では真っ白とか一色でベタっと塗られていることが多い。それは大地が平らだということではなくて、雪の下の形が解明されていないかららしいんだ。何せ、アメリカのグランドキャニオンの数倍のものが雪の下にあるのが最近解明されたらしいのだ。
さ、着陸するよ。
北緯69度。日本からは真北なのに、でも、西に西に北に進んで到着するのだ。
North by Northwest.
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“Colors in the arctic”
Ilulissat(イルリサット)に着いた。もう夕方。
高台の小さな空港から町の中心まで下りてゆく。
岩盤の上に道が一本。
かかる雲。
向こうの方に海。北極海だね。
わ、寒いわ。
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あ、人影。
旅人だね。
あ、カモメ。
カモメ、いるのね。
教会の十字も見える。
あの向こうは北極海が見えるのかな。
道の両脇は粉雪みたいなのがかかっている。
9月半ばだけど零度以下になるのね。やっぱり。
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岩肌がごつごつ続くアップダウン。グリーンじゃないね。ちょっと赤っぽい。
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なんと赤く見えていた岩肌はCrowberry(クローベリー)という植物。エリカの仲間。食べられる黒い実がなる。先住民たちも収穫して冬場の食物に重宝していたんだって。アントシアニンを含んでいるから目にもいいのかな。
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白い花も近くに…。
名前はわからなかった。
派手じゃないけど明るい感じ。
短い夏の終わりに急いで咲くのかしら…。
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ちょんちょんとはずみながら飛ぶコマドリ。
黄色のくちばしがかわいい。冬の間、どうしているのかしら。
色合いもきれいね。三毛じゃん。
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“わくわく、ウキウキ”
こちらはまあるいかわいい赤い葉っぱのビルベリー(Bilberry)。これも紫っぽいブルーベリーのような実をつけるみたい。こんな岩盤でやせたところなのにしっかり育っていい感じのレッド。ここは西日があたるね。
真下は渓谷がまんま河口になったような海岸。そこにプッカリ、プッカリ浮かんでいるのは氷山!
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望遠レンズでのぞくと、わ、縞々の氷。じゃなくて、雪のかたまり。
こんな近くにあるのですら、高さ5mはあるものね。
これからどんな氷山に出会えるのか、わくわくする。
でも、なんでこんな縞模様になるんだろう…。? 誰かに聞いてみようっと。
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崖の上のホテル。ウォーキングボードの下は絶壁で海岸まで落ちている。
岩盤が白ーく光っている。この湾の左が港、その向こうから左にずーっと世界最大級の氷河があるはずなんだ。
もう夕方で太陽が大分下がってきた。
遠くのシルエットはよくみると陸ではなくて氷山たち。
雲もきれいに明暗の帯が続いている。
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ホテルの向かい側のお家。
窓に映っているのは岩山のシルエット。
陰る雲、光る雲。
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壁に描かれた海に浮かぶ氷山のグラフィック。
車と空と旗が映りこんでいる。
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初めて出会ったタクシー。
人口4000人くらいなので少ないんだけど観光客の空港とホテル往復で頑張っている。この絶壁の道路からも氷山が見えているね。
あ、そうだった。Ilulissat(イルリサット)の意味はグリーンランド語で「氷塊」だった。
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これは街中のウォールペイント。
先住民たちが乗るカヤック。
北極海の海と空と。
ブルーの絵の具がいっぱい自然に使われている。
明るい海にシルエット。
大きく弧を描く雲。
あ、道にごろんごろんとあるの、大きな大きな石?
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あら、ピンクのぬいぐるみ。
ここで日本発のキャラクターに出会うとは思わなかった。
よく子供にだっこされていたのか、お顔脇の布がちょっとすれています。
車の後ろはブルーの壁。オレンジ色の壁のお家。青の北極海。
意外にカラフルだね。
扉をあけるファミリーの明るい声も聞こえてくる。
だんだんウキウキしてきた。
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“Summer floats”
街の中心部といっても道が交差してバス停と何軒かのお店とレストランがあるだけなんだけど、びっくりした。交叉点で90度横を見たら、そこに氷山が見えたから。
街灯の向こうにいきなり。だってこれ、海に浮かんでいるでしょ?
まず木とかは生えていないから高いのは街灯だけ。で、その向こう。そ、岩盤の向こうね。
氷山は海にフロートだから動いているの。風に吹かれ、海流にのって。
だから、明日はどこかへ行ってしまっているか、別のが来ているか…。
そうなんだね。ここの人達、一瞬たりとも同じ景色を見ていないのね。
そう思うと、目に飛び込んでくるものたちをつい敏感になって目を凝らしてしまう。
表面のしわしわも見ちゃうけど、もともと、とけ出す前は上部が尖がった三角形で高さもこの何倍もあったんだろうね。
いつのまにかタイムマシンに乗っているじゃん……。
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海際のストリート。すぐそばにプッカリ。
高さ7mくらいあるけど、これでも大分溶けてしまっているはず。
ほんの氷山なんだね。
え、水中にはこの10倍の体積の氷があるっていうから、えーーー。
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こっちはちょっとした島みたい。雪をかぶっている島…。
でもそうじゃなくて氷山。雪のかたまり。
手前には岩みたいな小さなかたまりも浮いている。
後、何日ぐらいでとけちゃうのかしら。それともそのまま冬になるのかしら…。
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これは大きく平らなフロートね。墨をたらした崖みたい。
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あんみつ、かかったかき氷の上空を鳥さんが飛んで行く。
カップルかしらね。スイーツにはとまらないみたい…。
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北極海はすごく冷たいんだけど漁業が盛ん。おひょう、タラ、シシャモ、カニ、エビなどいっぱい。氷山からミネラルたっぷりのお水、それに砕ける氷山は海を攪拌して酸素をゆき渡らせてくれる。プランクトンたーくさん。お魚さんたち大喜び。お魚さん多いと鳥さんもハッピー。。 なるほど。 生きもの豊かなところなんだね。
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目を凝らして遠くをみると大きな氷山が浮いてる浮いてる。
船に乗って近くまで見に行くのが楽しみ。今日はほんの序章だね。
でもいっぱいいっぱい夏のフロートをみていたらジンを加えて炭酸注いでムース乗せて…あ。今5度だった…。湿度0%。
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“Late summer”
キラキラキラキラ……
北極海の港。陽が傾くと一気に反射する。
ついこの前までは陽が沈まない日々だったのに、夜が戻ってきた晩夏。
犬たちの背中の毛がゆったり光っている。
出番がなかった、そり犬たちの夏ももう終わり。
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残雪、根雪。
夏の間もとけなかった雪。
少し雲がかかると一気に冬景色。
しゅーっと山の上から下りてくる氷風。
家家のうちつける釘音のピッチが上がった。冬の来る前に修繕しなければね…。
ちょっと寝ていられなくてそわそわ犬小屋から出てきたワンちゃん。
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陽が落ちた。最後の飛行機が飛んできた。
ヘッドライトも翼のレッドライトも北極海に迫ってくる。
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漁からの戻り船。
陸ではライトがほんのり。小さな氷山も紺色にゆれる。
夏すぎゆけば冬来たり…。
冷えてきた。
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お日さまの名残の空はピンク色。
ブルーのグラデーションが美しい。
忘れていた頃に遠くでザッバーンという音がする。氷山が砕けて海に落ちるのだ。
花火の音ではなくてこの音が夏の風物詩なのかもしれない。
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ホテルにともった明かり。濃い青の中にアクアブルーの氷山が浮かぶ。
こんな大きな氷山もゆっくりゆっくり動いている。
明日の朝はもうこの氷山はいないかもしれない。
景色は気づけば激変しながら確実に時は過ぎてゆく。
晩夏(Late summer)。
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“The Island” ---地球最大の島, グリーンランド
地球最大の島、グリーンランドにやって来た。
ずっと旅先として頭の中をよぎったことがなかった。
地球は丸く、地図は平面。なので位置関係がわかりづらい。
日本からは真北の方向にあるのだ。東京からまっすぐいければロンドンまでより1500㎞も近い。
飛行機の運行ルートだとぐるーっとまわらなければならない。
西へ西へ行ってそれから北にあがってゆく。
Icelandから更に1400㎞も離れているんだ。
北緯69度の北極圏。夏至中心二か月は陽が沈まない時期、冬至中心一ヶ月半は陽が上らない時期がある。
9月中旬の私の滞在一日目。びっくりの連続だった。
そのあとにひかえる大きなものに比べればほんのさわりだけど……。
いわゆる土がない。岩盤だから。
いわゆる木がない。厳寒で育ちづらいから。
いわゆる固定的な景色がない。どんどん形のあるものが動いていくから。
ジャリジャリと歩いている岩盤の向こうの海に氷山が何気に浮かんでいる。
視界をよぎるのは高い木ではなく街灯のポールだけ。
そしてしばらくするともうそこにさっき見えた氷山はなかったりする。
温帯に住んでいる人間からするともう不思議極まりない景色。
私達の景色も一刻として同じじゃないんだけど、そのことを、時間の流れを、もっと意識させられる。
そうなの。景色がまるで生きもののように現れてくるんだ。
※ “The Island” 同タイトルのJazz/vocal があります。検索してみてください
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(※2020年以前に取材したものです。)
Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
グリーンランドに関することはこちらのグリーンランドノートをチェック。
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
カリブ篇
アリゾナ篇
ワイオーミング篇
アソーレス篇
グリーンランド篇
ネブラスカ篇
ラトビア-バルト海篇
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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