“Travel is ENCOUNTERS”
ラトビア(バルト海)篇 #49
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2022.03.22
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
“ Bridge to Nowhere(Tilts uz nekurieni)”
ラトビアの西の草原の中にある古都、クルディガ(Kuldiga)に車で日帰りしてみることにした。バルト海の港町リガ(Riga)から草原と畑の中をぐんぐん行く。
一時間ちょっとたった頃、ドライバーのM君が突然、
「橋の遺跡がもうすぐあるんだけど見ていく?」
ちょっとびっくり。不意を突かれた感じだった。この美しい草原と畑をぼーっと見ていて「建築物」などないと思っていたから・・・。草っぱらの脇に車が止まった。
「僕はここで待っているから、ほら、あの向こうに見えるでしょ?あれ。行って来たら・・・。Bridge to Nowhereっていうんだ」
「あ、ありがとう...」
あ、あれね。
え、あ、左も右もつながっていない・・・。
ということはあの下は川が流れているってことよね・・・。
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
建物の説明もなければ、見学場所っぽい看板も何もない。道なき草っぱらを勝手に歩いてゆくだけ。でも草の背丈は抑えられていて草刈りをした感じもあるから畑なのかしらん? 勝手に歩いていいのか不安に思いつつ橋を目指してゆく・・
近づいてきた。
結構きれいなアーチだね。
鉄筋コンクリート製だからそんなに古くも見えないけど・・・
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
建造物にあがれるように簡単なステップが置かれているだけ。
わ。結構すごい建造物。立ち止まってスマホで検索してみたら出てきた出てきた。英語に翻訳してようやく何なのかわかってきた。
この橋、幅55mあるんだけど、上に鉄道を通すための橋だったんだ。80年ちょい前の1940年にできているけど、鉄道建設は途中で頓挫して実現していない。
この辺一帯は1730年にロシア帝国に支配されてしまい、第一次大戦後の1918年にラトビアが独立。その独立国家建設プロセスの中で大プロジェクトがいろいろあり、その中に鉄道建設計画もあった。頑張ってこの橋ができたのに、ラトビアは1940年8月にソビエト連邦に併合されてしまう。さらに今度は1941年に第二次世界大戦の独ソ戦に巻き込まれ、ナチス・ドイツ軍政下に入ってしまう。ナチス達はこの建設計画をすすめようとした。この辺でもユダヤ系の人たちはソ連に逃げたり、とどまった人たちには虐殺もあった。が、今度は1944年第二次世界大戦終わり頃にソビエト連邦が再占領。鉄道敷設計画は消失してしまった・・・。ラトビアの意気込みはソビエト(ロシア)、ナチスに翻弄されてしまったんだね。ちなみに1990年にようやくラトビア共和国としてソビエトから独立宣言。2004年にEUとNATOに加盟。今年勃発した戦争からこれを見ると何とも言えない。
行く先がなかった橋。Bridge to Nowhere(Tilts uz nekurienis)。
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
この橋げたのアーチをのぼってみた。だーれもおらず、不安だったんだけど、そこからは、ゆったり流れるAbava川が見えた。西の方で300kmも流れるVenta川と一緒になってバルト海に到達する。
気持ちよい緑の草原と青空が広がっていた。
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
しっかりきれいに設計された八角形の橋げた。その向こうにはレールはなくて、緑がゆれていた。
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
シャープにささえる構造物には力強さを感じるね。
自分たちの国を作ろうというエネルギーに満ち満ちていたような気がする。
廃墟かもしれないけど、姿を保っていると人々の気持ちがずっと生きているようで嬉しい。
Sati, Irlava Parish, Latvia; by T. T. Tanaka
あらま、落書き。
ダメだけど、今この国の平和が保たれている証拠なのかもしれない。
M君、立ち寄ってくれてありがとう。
素敵な遭遇実現は君のおかげ。
コーヒーでも買ってってあげたいんだけど、ね、この辺、何もないんで許して~
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
“ Windmill(vejdzirnavas)”
車に乗り込んで出発、ほんの5分。
M君、また停車。
「そうそう。あれ、古い風車なのよ。あれも見る?」
「え、見るよ、見るよ」
あらら、結構大きいね。高さ6mはあるね。
三角錐の上がないし、羽もない。
このあたりはいくつか風車の廃墟が残っているらしい。
行ってみよう行ってみよう。
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
上が抜けてまあるく青空が見えている。
木の梁が折れちゃっているけど結構分厚い壁でしっかり作られている。
このエリアの麦類をあちこちで粉に挽くのに使われていたんじゃないかしら。
これは1830年だから200年近く昔に建てられて1944年まで使われていたみたい。ここは大きな川からはちょっと離れているし、割と平らだから水車じゃなくて風力が大切だったみたい。中はまるで要塞ね。歩くと足音が低く反射する。動いているときはすごい音がこもっていたんだと思う。
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
Saulites, Zemites, pagasts, Latvia; by T. T. Tanaka
風車の中から出てくるとまぶしい、まぶしい。
ずーっと広がる畑だったんだね。
デイジー(ひなぎく)の花が明るく光っている。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
“ Fruitful moment ”
クルディガ(Kuldiga)の中心部にもう少しというところにきて、ちょっとコンビニに立ち寄り。ドリンク補給ね。止めた車の上にりんごがいっぱいなっています。そんなに海抜はないんだけど、やっぱり北で涼しいところなのね。ゴールドがちょっとまざったレッドがきれい。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
お店の上の澄み切った空に飛行機雲が縦に進んでゆく。
あら、こちらはリンゴの形のブース!!
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
リンゴはあるし、Pear(西洋梨)はあるし、ズッキーニもあるね。
あら、キノコも。
おじさん、ちょっとシャイなの・・・。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
女性がにっこり笑ってリンゴをさっとナイフで切って試食させてくれた。甘くってシャキシャキ。ラズベリーも。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
ツヤツヤしてるでしょ? 大きいし。
1パック、ゲットしてしまいました。
帰ってからのホテルで楽しむものね。夜と朝と・・・
もちろん、いくつか頬ばってみました。
やっぱり、つぶつぶがしっかりめで甘味があって美味しい。
よーく熟している。
大切に作って収穫してくれた素敵なFruits!
感謝を伝えたかったんだけど言葉が全然通じなくって悔しかった・・・。
ありがとう。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
“ Water is Wide ”
古都クルディガ(Kuldiga)に入った。南のリトアニアから流れてくるVenta川の岸に駐車した。河口のバルト海からは60kmほどの距離なんだ。
あ、ちょっと大きめの水の音がしてきた~。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
わー。広い広い。
ここは滝なんだ。落差は2m前後だけど、幅ではヨーロッパ最大! といわれている。
知らなかった。その幅は250mもある。地質について詳しくないんだけど、4億年くらい前のデボン紀にできたものでかなり硬いらしい。この落差、昔は産卵期にサケとチョウザメ!! が大量にジャンプしてのぼっていた。1600年代に漁が盛んになり、でもその後、魚は減ってチョウザメは1892年に姿を消しちゃった・・・。今は海に棲む鯉の仲間のvimbaという魚が大量に上るんだって。
この「段差」には興味深い歴史もある。昔、ここにあったクールラント公国は17世紀半ばに内陸の「水運障害」解消のために滝に船を通す側溝をつくろうと一部破壊! を試みるも失敗。あきらめた。なのに、19世紀に入ったら今度はロシアがヨーロッパの全ての海と運河でつなごうという野望の下、トルコ人の戦争捕虜を使いバルト海と黒海の連結のための掘削を試みた。でもあまりにも硬すぎて1831年にあきらめている・・・「イシ」はかたかったのね・・・。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
滝に近づいてきた。お日様に向けて水しぶきがあがっている。滝の下は平らにキラキラ光っている。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
どんどん続いてゆく滝。向こう岸の木々のシルエットのところまで・・・
秋ごろ遡上するお魚の大群ジャンプ、すごいんだろうなあ・・・
歴史を超えて、今も、水は広く流れ続ける。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
水際を歩くと涼しい風が抜けてゆく。
砂の道をゆく足元の音がきもちいい。
あら、こんなところにオブジェ。
手と手を合わせるとハートの形になるんだね。
カーブの脇の木々はリンゴの木かしらん。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
大人のカップルも、坊やの二輪車も河原にやってきてはにっこり去ってゆく。
あ、ワンちゃんも一緒に階段おりてきたね。
日差しが緑に差し込んで明るい。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Venta川の河原は鳥の声でいっぱい。
あ、trailの向こうに赤いレンガの橋が見えてきた。
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
Kuldiga, Latvia; by T. T. Tanaka
なんとオルガンがまんまキャンバスになってる。
猫ちゃんが3匹。オルガンの上をはねて向かってゆく先に橋・・・。
(次号に続く・・・)
※ “Water is Wide” 同名の曲は、NHK朝ドラの「花子とアン」や「マッサン」などで歌われていますね。カーラ・ボノフ、Peter Paul and Mary (PPM)などのアルバムがヒット。元々は16世紀頃からのスコットランド民謡で、バグパイプでの演奏も素敵。検索してみてください~
“ Bridge over Troubled Water(明日に架ける橋)”
素敵だけど不思議な一日が始まった。
ラトビアの内陸にある古都、クルディガに向かった。
草原の中、両端が切れたままの橋、Bridge to Nowhereが突然現れた。
眼下にはゆっくりゆっくりAbava川が流れていた。
そしてたどり着いたKuldiga。
そこにはひろーいVenta川が滝になってしぶきをあげて流れていた。
それぞれの川に複雑な歴史が潜んでいるとは思いもよらなかった。
川を取り囲む緑の草原は穏やかで気持ちよく、幸せいっぱいに見えていたから・・・。
そうなんだね。陸続きの平坦で交通アクセスのよいところは昔から外部から狙われやすい。ようやく独立できたと思ったらまた支配されてしまったり、支配者がかわるとまた別の悲劇が起きたり・・・。最近のまさかの戦争のことも重なる・・・。
でもそこに住むいきものたちも植物たちも自然の中で命をはぐくみ続けている。
川も時を超えて流れ続けている。
人が住むと水も濁り流れも変わる。
溺れる人もいるかもしれない。
でも、それを救う架け橋を作るのも人なのだ。
雨のあとに光が差して現れる虹のように・・・。
※ 同名の曲,“Bridge over Troubled Water”(明日に架ける橋)は、1970年にグラミー賞を受賞したサイモン&ガーファンクルの曲。翌年にはアレサ・フランクリンがゴスペルでカバーしてグラミー賞。そのほか、エルビス・プレスリー、ロバータ・フラック・・・Jonny Cash, Victory Boyd・・・沢山。検索してみてください~
Photos, essay by T. T. Tanaka
(※2022年より前の取材をもとに書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。