“サウスウェストビーチ、リリーとリッキと”

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“サウスウェストビーチ、リリーとリッキと”

奄美大島篇 #78

Photos, essay by T. T. Tanaka

Local / 2024.09.09



“奄美、サウスウェストビーチ”

奄美大島のサウスウェストエリアの海岸にやってきた。観光客にとっては一番到達しづらいところかもしれない。島真ん中の一番賑やかな名瀬エリアからは車で1時間半かかるし、北部の空港からは2時間半ほどかかる。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


わ、この大きく欠けたような不思議な岩。
斜めの線が入っているし、てっぺんにはソテツの葉っぱがゆらいでいる。囲むコーラルブルーの海からはしぶきがあがる。頬に当たる風、風の音も気持ちいい。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


砂浜にところどころ顔出しする岩に元気に鳴くヒヨドリ。
シルエットをじっと見ていたら、あ、蝶々がヒラヒラ・・


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


ちょっと曇り空だけど、グリーンがかった海にゴールドの砂浜。美しい。このビーチを歩いているのは僕だけ・・・


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


寄せては消えゆく波。いつまでも見ていたいし、聴いていたい。
この海岸の背後は低い丘。かつては岬の向こう側に行くのに船をこいでゆくのではなく、舟を担いで丘を越していっていたことから船越(フノシ)海岸というそう。賢いけど、大変。このビーチは広ーくて、800mもある。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


足元にはこんな打ち上げられた珊瑚がコロンコロン・・
大潮の引き潮時には海一面にリーフが広がり珊瑚礁が顔を出すんだそう。その時に来てみたい! 貝やタコが山ほど採れるんだって!


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


波打ち際にはこんな穴があっちにもこっちにも!


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


やっぱりね。蟹ちゃん。ツノメガニみたい。ちょっとでも僕が動くと一気に地中にもぐってしまう。速いし、保護色だし、なかなかその姿をキャッチできず、でも、エイっ。
そうそう、この子は英語ではghost crab(幽霊ガニ)。姿がわかりづらく影だけが動いているみたいだからだそう。幽霊というわりにはかわいいし明るい感じなんだけどな・・・


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


足元の石ころには赤や青や白やまざったもの・・・
あら、白い石はツルツル。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


黒い石、紺色の石、そして枝さんごのかけらがいっぱいのところもあるね。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


ちょっと潮が引くと、一面にさんごのかけらが広がってくるんだ。
波が当たってひいていくと一緒にザザザザーっと音が一斉に降ってくる・・・
心地いい。


“アダンの実”

歩いて湾の縁まで近づいてくると、波の音が低く響いて大きく聴こえる。
崖の上を見上げるとまぶしい。
シルエットが細く美しい。蘇鉄の影もしっかり目に入る。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka



船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


この木は何だろう? 
崖の縁でもしっかり育っている。
頑張れー。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


ザクっと割れた岩壁が錆みたいに赤くなっている。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


斜めの層は堅い炭のように見える。ちょこっと育つ植物がアクセント。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


海の縁だったのが隆起したのかしらね。洞穴のようにえぐれている。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


こんなゴツゴツの壁の下にいろんな緑が元気に育って丈を伸ばしている。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


これはモンパノキ(紋羽の木)。本州ではみられない木で海岸の砂地に育つ。ちっちゃく細かい白い羽毛で覆われてビロードみたい。海水の飛沫をブロックしているのかしらね。つぶつぶの果実がなると密集してつながりまるでタコの足みたいになるんだ。木質は軽く柔らか。昔、潜水漁法のためのミーカガン---めかがみ(目鏡)の方言---といわれる両眼式ゴーグルに使われたんだそう。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


そして、これ、画家、故 田中一村(いっそん)も描いていたアダンの実。パイナップルみたいで甘い香がしてヤシガニの大好物。葉っぱは煮て乾燥させて、かつては座布団や草履やゴザなどに使われたり、漂白して作られた帽子は輸出されたりしたとのこと。今でもパナマ帽になったり敷物や籠の材料に。実はほとんど食べられないとされているんだけど、僕は一回、琉球料理で食べたことがある。旬のタケノコみたいで甘味もあってとっても美味しかった。実の芯部分のアク抜きの手間が大変だけど、昔は食用でお盆など、仏前のお供えになっていたんだ。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


アダンの実とコバルトブルーの海。
背景がまぶしい。
ウキウキする景色に主役の存在感・・・

さて、そろそろさよならをして砂浜からあがろうか・・・
おっ、子供の声が聞こえてきた・・・


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


浜辺の駐車場に止まった車から降りてきた子供が元気よく海に向かってかけてゆく。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


私;「あ、こんにちはー。きれいな砂浜ですよね。お嬢さん、今日は水泳? お得意なんですかー?」
お父さん;「こんちわ。水遊びは好きなんだけどね。海、結構流れあるからさ。この辺、あまりみんな泳がないんだわ。」
お母さん;「おーい、**子~!! 泳ぎ得意かーー?って。ふふふ。」

※この砂浜の「もうひとつのストーリー/Another different story」が一番最後にあります。


“リリーの港、リッキの夜”

島の南端で加計呂麻島を目の前にした海峡の町、瀬戸内町に泊まることにしたのだ。
ここはかつて海軍の基地があったところで、今でも多くの船舶が寄港する。
人っ気を多く感じられる街で陽が沈む頃には町灯りでほっこり嬉しい。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


日没時には岩壁につながれた漁船やフェリーがオレンジ色に染まっている。岸壁でおとなしくチャプチャプという音。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


塾帰りなのかしら。生徒達の自転車の背後の壁がピンク色に・・


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


空いっぱいに広がる赤味がきれい。
舟のシルエットが動かずにまわりの色が変わってゆく。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


30分もするともう夜のブルー。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


家路を自転車がゆく。ヘッドライトと家の光と。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


波止場の錨のオブジェ。シルエットが夜空の濃紺に吸い込まれてゆく。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


あら、こんなところに碑があるね。ふむふむ・・・
えっ、ここは昭和のシリーズ映画の名作といわれる「男はつらいよ」(山田洋次監督)の ”寅次郎紅の花” のロケ地だったのだね。シリーズ最終第48作目(1995年)でこれは世界の映画史上シリーズ最多記録らしい。
そのストーリーは、ちょうど阪神大震災の時、主人公、寅さんが神戸にいるところから始まる。そして奄美大島のこの港の向いの加計呂麻島にひっそり暮らしている「最愛」のリリー(浅岡ルリ子)を訪ね、そこでいい感じで長く滞在することになるのだ。そこに久しく会っていなかった甥っ子の満男=妹 さくら(倍賞千恵子)の息子に遭遇する。満男は好きだった泉(後藤久美子)が岡山県津山の医者への嫁ぐとの話に直面し、失意のどん底でふらふらとここまでやってきてしまう。上の碑に刻まれているのはそのシーン。
で、ああ・・ ちょっとしたことでリリーと喧嘩別れしちゃった寅さんは、震災後に初めて迎えた1996年の正月に神戸市長田区で地元の人達と再会を喜び合っているという展開・・   上映封切は1995年12月、直後の正月が過ぎた1996年8月に渥美清さんはこの世を去った。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


碑の余韻にひたりながらの波止場。
人々の足音、流れだした夜風・・ ひとりひとりにドラマがあるのよね・・・


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


あ、このフェリーはリリーの暮らしていた加計呂麻島からだ!
ブブンとかかったエンジン。船から降りたオートバイが遠ざかってゆく。
さあ、じゃ、そろそろ今日の〆にご飯にいこうか・・・。ぐっと回ると・・・


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


巨大なオブジェ!!
ま、まぐろ!!
クロマグロね。
あ、そうか、有名になった近大マグロはここで卵からの完全養殖実用化に成功したのね・・・。奄美は今、クロマグロの養殖日本一。
お腹、どんどんすいてきたー!!


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


この南の町、瀬戸内の一番賑やかな古仁屋(こにや)エリア。
気になっていた島料理の「リッキ」にお邪魔することにー。お魚もお肉もドリンクも・・ウキウキ!!

笑顔で迎えてくれておしぼりとメニュー。ワクワク。
えーっと、まずはお刺身盛り合わせ。勿論のクロマグロと地元ではお馴染みの “とびんにゃ”という巻貝の塩ゆで。にゃ は貝のことで飛ぶ貝。テラダとかチャンバラガイとかマガキガイ ともいう。ちらと見えているツメのようなもので海底を飛ぶみたいに移動するんだって。サザエみたいな感触は、ワタも甘くっておいしい。これだけ一皿頼みたくなるわ。まずはギンギンに冷えたビールも忘れません。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


綺麗な色がツヤツヤ!
奄美の空と海の光景が目に浮かぶ・・・


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


鶏の唐揚げもプリプリ、ほこほこで美味。
意外な大根のフライはあまくってジュワーっと噛み応えもグッド。
そして氷で割った黒糖焼酎は地元の「龍宮」。カメ仕込みの甘さが口の中に一気に広がり、ぐっと効いてくる深い味わい。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


アオサのだし巻き玉子も旨味抜群。パクパクといただき、豚肩ロースのステーキ。かみごたえとジュワーっと肉汁。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


自家製シロップを使った黒糖ジンジャーエール、深ーい甘さにうっとりしながら、〆に豚肩ロース炒飯。

お腹いっぱい。幸せーー。
普段遭遇できない美味しい食べ物はやっぱり旅の醍醐味。
じゃあ、帰るよー。


瀬戸内町, 古仁屋, 奄美大島 by T. T. Tanaka


暖簾をくぐってお店を出ると提灯、リッキ。
ありがとう、美味しい奄美の時間。

振り返ったら、一瞬、にっこり顔がお辞儀をした気がした。
微笑むリリー、お店の中からは明るい寅さんの声が・・


“もうひとつのストーリー / Another different story”

どうしても触れておきたい Another different storyがあるのだ。
哀しいお話は苦手という人はスキップしてくださいね。

訪れた島内でもベストに入るかもしれない島南西部の宇検村、船越海岸。
この一角にある碑に気が付いた。2017年に完成したものだ。
そこには、対馬丸慰霊碑と刻まれている。


船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka



船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka



船越海岸, 宇検村, 奄美大島 by T. T. Tanaka


「対馬丸」というのは第二次世界大戦に関係する事件としてどこかで聞いた記憶はあったのだけど、まさか美しいこの浜にその多くの児童たちを含む犠牲者たちが流れ着いたところだとは思いもよらなかった。地元の人達のことも。 太平洋戦争で日本が敗戦濃厚になっていた1944年8月22日の悲劇。それから72年たって語り部も減ってゆく中、その史実を刻んで残すことは本当に大切なことだ。今では沖縄県と奄美大島の人々、地元の小中学生たちが参加して恒久平和学習交流事業が行われている。

変わらぬ美しい自然と、歴史の巡りあわせ。
つながり続いてゆく人々の心。

旅はそんな大事なことを美しい自然と一緒に教えてくれる。
ありがとう。奄美大島。


Photos, essay by T. T. Tanaka


※ 政府は1997年に沈んだ船体を水深870mで発見したが引き揚げや遺品などはそのままとなっていた。2025年度から水中調査が始められる予定とのこと。
2004年沖縄に対馬丸記念館が設立された。
2024年 8月 那覇市で慰霊祭が行われた。

対馬丸に初めてご興味を持たれた方は調べてみてくださいませ。



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