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“Travel is ENCOUNTERS” (ネブラスカ篇) #40
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.06.24
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“Is it dull plains?” “No, It’s Great Plains”
Broken Bow を出て州道2号をグリーンの平原の中、さらに西にゆく。
途中の小さい町に立ち寄りたい気持ちを我慢して70㎞ほど突き進んだ。Halseyという町の近く。この辺では珍しい森林エリア、Nebraska National Forestに着いた。
この中にScott Lookout Towerという見晴らし塔があるらしい。こんなにずーっとひろーく続いている平原だもの。どうなっているのか上からも見てみたい。
木のてっぺんに一羽、鳥のシルエット。その向こうに見えているのがきっとその展望塔ね。
車を停めた。わ。階段。トコトコ登ろう登ろう。だーれもいないけど・・
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おー。見えた~見えた~!
ずーっとモコモコ続いているのがGreat Plainsね。これは砂丘に草が覆っている状態なんだ。厳しい気候でもともと木は育ちづらいんだけどこんなに年月が経ってもまだ少ない。昔から造林活動もおこなわれてきたんだけど・・
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太陽の方を向いた。そのままはるか向こうまで吸い込まれそうになる。
その下の方にはロッキー山脈がひかえているはずだ。
思いっきり思いっきり深呼吸・・この景色の素晴らしい瞬間。自分だけが体中で感じている。幸せな時間。
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頬を風で強くなでられて我に返った。おっと、足元は塔のまわりのほんの数十センチ幅のボードだけ。降りよ降りよ。
わ。登るときには気づかなかった。地面に松の木がクロスして倒れている。竜巻も襲うらしいし。冬は風が強いらしいし。
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Nebraska National Forest, Nebraska, USA; by T. T. Tanaka
日本でもおなじみの松ぼっくりちゃんがいっぱい落ちている。
え、でも、どうして、サボテンも生えているの?
地表には水はやっぱり少ないせいかしら。
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見上げると巨木。7mぐらいはある松の木。
仲間も少ないけどよく折れずに頑張って大きく育ったね。苦労はその幹が語っているよ。You are so great!
大平原はダルでつまらない? Is it dull plains?
なんのなんの、グレイトです。
そ、It's Great Plainsなんです。
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“ビーバーがいたよ”
National Forestに別れを告げてまた大平原の中、今度は北へ60㎞進む。Valentine National Wildlife Refuge(野生動物保護区)に着いた。
この保護区の大きさは14km × 20kmぐらいもある。さりげない入り口から未舗装道路を入っていく。ずーっと続いてこんな感じでときどきあるカーブを進んでゆく。窓をあけると砂をタイヤが踏んでゆく音が嬉しい。
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保護区には伏流水と泉があちこちに湧いていて無数の湖と池が散らばっている。
遠くには時折風車がみられる。風車はネブラスカのアイコンにもなっている。風で発電して、飲料や農牧に必要な水を汲みだすポンプをまわすんだ。
小川の向こう岸にはコットンウッドの木がシルエットに。
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日本の湖畔などに見られる蒲(ガマ)の花穂だけど大きい。飛んできたブラックバード(Red-shouldered blackbird)。肩のところが赤くてピリッとアクセントに。かわいい。ヒヨドリぐらいの大きさで、とまるとたわんで蒲の穂を揺らしている。
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枯れ木の上から鳥がはばたく。はるか昔からの砂丘の上を飛んでゆく。ここでは年間260種もの鳥さんたちが観察されているんだって。雷鳥もね。春と秋の渡り鳥シーズンには15万羽!! も集まるらしい! コヨーテや黒い鹿や白い尻尾の鹿、ジャコウネズミ、亀やビーバーも・・。わー。すごい。
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あれー。あの水の中のかたまりは、もしかして巣じゃないの?
わ、泳いできたの、ビ、ビーバーじゃん!
顔みせてよ~。
あ、目だけ見えた!
※beaverっていう言葉は褐色っていう古い言葉からなんですって
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“はるかなる水の上に”
6月の草原はジリジリと太陽もあつい。広すぎる保護区はどこまでもどこまでも続いている。その向こうに水が流れていると思って歩き出してもなかなか到達できない。左右の木がお互いに挨拶してアーチみたいになっているところであきらめてエイっと曲がった。足元には大きなアザミがほら、この通り。元気いっぱい。
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Valentine National Wildlife Refuge, Nebraska, USA; by T. T. Tanaka
こっちの方向は、まさに最後の氷河期! に運ばれた砂でもりあがった砂丘。気持ちよさそうなグリーンカバーだけど氷河期の跡・・・。
何故かうっすらと道ができていて、すごーく急なんだけどきれいなグリーンだし、その斜面を登っていくことにした。
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立ち枯れの木々が急坂に続いてゆく。
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え、ここにも斜面の上に突然現れた塔。
古く見えるけど何なんだろう? 近くの説明プレートにはFire Tower で1930年代、CCC(Civil Conservation Corps=市民保全部隊)によって建設されたとある。その頃は世界大恐慌で失業者が町にあふれかえっていたんだ。アメリカではその対策の一つとして200万人を超す若者たちが "市民保全部隊"として雇用された。各地の厳しい環境下で月30ドル!(今の価格で10万円くらい!)で労働力として、道路、フェンス、運河、ダム、車庫、橋、国立公園、野生動物保護区や国有林などの建設や植林、山林火災消火などにあたった。現場の厳しい自然のエリアにキャンプ生活していたんだそうだ。時代背景はコロナ禍下か、いや、もっと暗かったかもしれない。
知らなかった。ここValentine National Wildlife Refuge(野生動物保護区)にはなんと180人もキャンプして、保護区の今あるほとんどの建物や道路等を彼らが建設したとのこと。この塔は山火事の見張り塔として作られた。さっき通ってきた急な坂も彼らが作った道だった。
そんな塔なのかと見上げて茫然としていたら、塔の下をピョンピョンと白いお尻の鹿さんが跳ねて消えて行った。瞬間、何が起こったかわからなかった・・・
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鉄塔をあがる足取りはちょっと重かった。でも一番上に着いたとき、また違う気持ちになった。鳥も鳴き、ブルーの空とブルーの湖、砂丘に広がるモコモコのグリーン。立ち枯れの木々もあるけれどまた目の前が開けていた。
なんとここには地中に世界最大級の水がめ、オガララ帯水層(Ogallala Aquifer)があってそこにつながっているのだ。湖水やせせらぎやここで降った雨水は砂でろ過されてこの巨大な地下水プール(日本の1.2倍の面積!)に注がれてゆく。
もともと2000万年~500万年前までの間にはるか西のロッキー山脈から流れていた水路がこのあたりで土砂に閉ざされ大量に水がたまった。その地層が地中に残って巨大な水がめとなった。氷期に蓄えられた「化石水」ともいわれているんだ。そこにこれもまたその頃できた砂丘の上から、現代の水が染み込んで流れ込み貯められてゆく。
Great Plainsの雨が少ないこのエリアの地下には巨大水がめのしかも一番厚い水層があるとは信じられない。でもGreat plainsエリアの人たちの水源にそして全米の様々な水源にもなってきたんだ・・ これからも大切に大切にしたい水。
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“It’s Valentine”
ヴァレンタイン(Valentine)の町に着いた。
あら~。ストリートのマークにハートが。かわいい新しいお家も並んでいます。
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子供たちをお家まで送っていったスクールバスが戻ってきました。お疲れ様。午後の町並みと空が窓にうつっています。
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お家の前のストリートを子供たちがにぎやかに駆けていきます。お友達のお家の前で ”おーい、早く来いよ~。行くぜ~" 学校から帰って日暮れまでは、やっぱり遊びのゴールデンタイムだよね~。
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こっちはお家に帰ったお母さんとお嬢さん。近所のおばさんと一緒におしゃべりね。
にっこりにっこり。
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この建物は1897年にハイスクールとして建設されたもの。ネブラスカ州で現存する学校の建物としては最古。124年前だものね。外観がとってもきれい。今はMuseumとして使われている。
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こちらはダウンタウン。古いコカ・コーラ広告のウォールペイントが大切にされている。流れる書体が美しくてアート。
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ステーキのにおいがただよってきたよ~。
新しいバイクでお兄さんがレストランへ。いいなあ。
今日という日も、古い日も、両方とも素敵。相思相愛。愛し愛されね。
It's Valentine!
お腹すいてきたよ~。
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“Handsome cowboy”
お腹がすいてきたし、日はもうすぐ沈むんだけど、もう一か所見ておきたいところがあったのだ。そこに急ぐよ~。
車に乗ろうと思ったら隣にかっこいい四駆が。
ペイントはロデオかしら。ダイナミックなシルエットにカウボーイが踊っている。
なんかちょっとウキウキした気分でエンジンをまわした。
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やってきたのは国道20号の旧道。Valentineの東のはずれのNiobrara川にかかるブライアン橋(Bryan bridge)。
これを見ておきたかったのだ。のびのびとしてきれいなアーチ。
もうすぐ沈む日にその姿がきれい。
橋には詳しくないんだけど、 Arched cantilever truss bridge(片持ち梁・けた構え・アーチ橋)といわれるもので真ん中は一本のピンで繋がれているのはアメリカで唯一なんだそうだ。88m長×7.3m幅。1932年製だから90年近く前。Bryanは知事の名前。設計者はロシアから移住してきてネブラスカ大学工学部卒のJosef Sorkin氏。1932年にアメリカで "最も美しい鉄橋" に選出され、1988年にはNational Register of Historic Placesになっている。
綺麗。
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川岸から橋を横目にサンセットが迫る。
6月の緑を日光が明るく照らしてまぶしい。顔にあたるお日様の光も熱も名残惜しい。
そろそろ上にあがらなくっちゃ。
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せっかくだから橋を渡って川を見下ろすとちょうど向こう岸から橋にあがってくる人影が・・。あ、向こうは牧場なんだね。現れたと思ったらワンちゃんが後ろから。
「こんにちは~。ワンちゃん、いつも一緒なんですか~?」
「そうなんだ。まだ1歳なんだ。ほら、甘えん坊でしょ」(ごろーん)
「きれいな川ですね」
「うん。日没も日の出もキラキラするんだよ」(お兄さんの白い歯もキラキラ)
「明日もいい日でありますよう祈ります~。ワンちゃんにもね」(バイバイ)
わあ、今日はいっぱいきれいだったなあ・・
さあ。ステーキ、食べに行くよ~!!
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“But beautiful”
アメリカの真ん中にあるGreat Plainsはそのまま訳すと大平原。
平らであまり特徴がなくだだっ広いというイメージかもしれない。
だけど実際に来てみたらGreat surprises!
あまりに何も知らなかった。
モコモコ続いている平原は最後の氷河がつくった砂丘に草が覆われたものだった。
雨が少ないからサボテンまで生えているし、でも、地中には日本より広い面積の巨大な水ガメがある。
その厳しい自然の中でも松は頑張って生えているし、鳥も元気だし、水の流れにはビーバーもすんでいる。
そこにある鉄塔はかつて1930年代の大恐慌に巻き込まれた若者たちが厳しい自然の中で作り上げたものだった。
Valentineという古い町も人口は少なく2700人程度。
でも100年前の建築物や広告が大切にされている。
そこの子供たちも明るく弾けていたし、美しい旧橋で出会った若者はハンサムで優しかった。
ワンちゃんも可愛かった。
厳しいけど美しい。
悲しい事実もあったけどそれを乗り越えるのは美しい。
古いけど美しい。
少ないけど美しい。
・・・ But beautiful.
※ "But beautiful" は同名のヒットした曲があります。検索してみてくださ~い。
レディ・ガガとトニーベネットが歌っているものも、トランぺッター市原ひかりさんが歌っているものも思わず涙・・
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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