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“Travel is ENCOUNTERS” (ネブラスカ篇) #43
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.09.24
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“Love drive from Canada”
Spring View(アメリカ、ネブラスカ州)の町を出ておなじみになったフラットな草原の中、国道20号を東に120㎞。人口3700人のO'Niell(オニール)という町に着いた。オマハ到着までの最後の宿泊地なんだ。日没まではまだ少しある。
おっといきなりホテル前に数台の大型バイクがとまっている。
しかもピッカピッカ。全部HONDAだね。
「こんにちは~。きれいな色、光っていますね。どちらからなんですか~?」
「おー。ありがとー。お気に入りだせ。仲間と一年一回、夏休みツーリングで来るのさ。カナダからなんだ」
「え? カナダ! すごい距離ですね」
「このバイクならラクチンだぜ。みんなも一緒にこれからステーキ食べにいくんだ」
「と、撮っていいですか?」
「うん。いいぜ。バイクと一緒に頼むな。こんな感じかい?」
メタリックオレンジが輝いています。
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あ、お友達もホテルから出てきましたね。一緒にステーキだからニコニコね。
そ、ポーズお願いします。
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カナダの国旗にカナダのシールね。
仲間同士の久しぶりのツーリング。
バイクも遠くまで来て嬉しそう。ピカピカ輝いている。
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あら~。 "Money Pit"(金食い虫)って書いてある。同名の映画もあったけど。
高級大型バイクだものね。いつも家族に言われてる自虐ネタなのかしら?
みんな頑張って働いて、それぞれの旅は嬉しい。
あのおじさんの笑顔みたいに。
何かしら、故郷に戻ってのんびりしているような雰囲気・・・
カナダのお家に帰ってみんなとおみやげシェアも楽しみですね~
Love drive from Canada.
でも、どうして、カナダから 1,800km も走ってきたんだろう・・・?
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“Shamrock and Blarney stone”
町を歩いていて、あら、ここにも、あ、また、ここにも・・・
クローバーが目に入る
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歩道にも公道にもペイントしてある。
道行く人にこれなーに? と聞くとShamrock(クローバーのこと)と返ってきた。
このO’Neill という町、アイルランド人たちの子孫が多く、なんと、ネブラスカ州のアイルランド系の「首都」と名乗っているんだ。
南北戦争(1861-65)当時、将校をつとめたアイルランド生まれのJohn O'Neillは1874年にこの町創設に尽力、アイルランドからの入植を進めた。母国で1840年代に発生したジャガイモ飢饉のために数百万人がカナダに渡った。彼もそうだったんだけど、その後アメリカに移ってくる。彼らの多くがカトリック系であったことや、アメリカではイギリスなど他の国からの入植より遅かったことなどから普通の職になかなかつけず、リスクの多い警察官、消防士、軍人などになった人も多いとのこと。軍などの儀式のときに今でもアイルランドのバグパイプの演奏があるのはその流れを汲んでいるからなんだそうだ。
1860年代にはアイルランドからの移民はアメリカ国内の全移民の1/3を占めた。その子孫にはケネディやレーガン、バイデン大統領など著名人たちが沢山。
母国アイルランドはあちこちで緑のクローバーを目にする島で、国の象徴植物にもなっている。色々な儀式のときにはクローバーや緑のものを身につけることが多い。アイルランド語のひびきをそのまま英語表記にするとShamrockになり、rockとは無関係。
St. Patrick dayは一年で最大のお祭り。このストリートに描かれたクローバーのまわりにパレードが行われる。アイルランド民族衣装を着て踊り、演奏も華やかに行われ、お馬さんも緑で飾られる。州内外から住民の何倍も集まるんだそうだ。たのしそー。 あ、そうそう、毎年、道路のクローバーは新しく子供たちも総出でペイントされます~
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警察署の壁。国旗と、そして、ここにもグリーンのShamrock が描かれている。
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ダウンタウンを歩いていると、交差点に大きな石がゴロン・・。
とても大切にされているのでよくみると、Blarney と彫ってある。
不思議に思いながらも説明文がなく、後から調べてみてわかった。
これもアイルランドに関係しているのだった。
Blarney城というお城がアイルランドにある。そこに1400年代に巨石が運びこまれた。なんと1800年代から多くの人たちがその石にkissしにくるようになったんだそう。何があったかというと、ある有力者が裁判に巻き込まれた。そのとき、彼は助言どおりにその石にキスして勝利を誓った。するとその裁判で彼は相手を傷つけずに雄弁に論破できたんだ。それで、マスコミやスクリーンなど、しゃべりで活躍する人たち多くがゲン担ぎにやってくることになったんだ。
O’Neillのこの石は6000㎏(6t)! もある。アイルランドから来たものじゃないと思うけど、お祭りの時には多くの人のkiss攻撃にあっている。こんないわれを前から知っていたら、僕もkissしてきたのになあ・・。活舌も言葉のキレもよくなったかもしれないのに・・・
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巨石の向かいにはレンガ造りの古い建物、旧Nebraska State Bank。
1882-83年に建築されたO’Neillで最古のレンガ造りの建物で国の登録歴史建造物になっている。今はHolt郡の歴史博物館として保全されているんだ。
もうすぐ沈む夏の西日がその建物にまぶしく照り付けている。
交差点の信号の柱と、Blarney巨石のシルエットがなが~く伸びている。
お祭りの日じゃないけど、先祖の母国の影は道路にくっきりと浮かび上がっている。
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“Irish dancing in Nebraska”
町にかつて2本通っていた鉄道。その1本は今も貨物支線で残ってシカゴまでつながっている。踏切を渡るときに気になるものが目に飛び込んできたと思ってよく見ると線路脇の倉庫にながーいウォールアート!
そこには "IT'S FUN TO LIVE IN NEBRASKA" と "HOME OF YOUR IRISH DANCERS" ってペイントされている。
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左半分には牧場が描かれて大平原に広がっている。
元気に沢山育っている牛さんや馬さんたちも。
ひろーいブロックの壁がキャンパスだね。
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真ん中にShamrock(クローバー)の絵。
右半分はダンサーのペインティング。
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みんなで手をつないで足クロスで踊っているね。
あ、衣装はグリーンでシャムロック(クローバー)グリーンなんだ。
若い人たちもおじさんおばさんたちも楽しそう。
今ではコンペティションも開かれるし、色んなスタイルのIrish Danceがあるんだ・・ふるーい壁だけどみんながイキイキと動いているみたいで楽しい。
3月のSt. Patrick Dayに来てみたいな~
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“Warm-hearted and safe”
メインストリートから一本入ると広がる住宅街。
塀がなくってみんなのおうちも道路も大平原にのびのびとつながっている。
見事に育った大樹のシルエットもみーんなのものだね。
ほんのり灯りがついたお家の前にモミの木が育っている。
きっと素敵なクリスマスツリーになるのね~
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電柱や踏切の柱も木製。
人の手が入っているものだけど、木でできていると、あたたかい感じがする。
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すごい馬力を支える頼もしい大きなタイヤ。
日没近くなって今日はもうお休み。
雲が白く流れてゆく。
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地面が響いてきたと思ったら、巨大なトラックが連なってきた。
家畜を運ぶんだろうね。
ネブラスカで元気に育って大都会に・・・
白い雲の下で、少し複雑な気持ちがよぎる。
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ダウンタウンに戻ろうと思ってUターンしたら、
大きな標識が目に飛び込んだ。
わ、消防車、はしご車だよね。
この横が消防署だから気を付けなさいね、駐車も禁止よ~てことなの。
そうだった!
開拓時の祖先たちの職業のひとつだった。
長い年月、コミュニティーを守ってきてくれた彼らだけど、
最近は地球が乱れて天候も狂うことも多いから、更に大変かもしれない。
人口は減りつづけているけど・・・
このサインをみると、
ちょっと安心感がよぎるんだ。
守られている感じがするもの。
ありがとー。
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“Friday sunset in the Great Plains”
日没近し。
小さな町でもやっぱりダウンタウン。
明るい時は駐車は最大二時間までだけど、夜はのんびりで制限なし・・・。
お仕事終わったら、一旦、お家に帰ってから出直してくるってことね。
今日は金曜日だし。
ふふふ・・・僕は、ホテルの受付のお姉さんにお気に入りレストランを教えてもらったんだ~。バーボンソース!のステーキなんだって~。
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ダウンタウン歩いているとこんなお兄さんにも出会えちゃうんだ。、ほら、ビールを持ってるの。
Coors Lightね。
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どんどん暮れてきた。空はほんのり赤く、濃いブルーに・・・
車も減って・・・
気温も下がってきた。
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わーもうすぐ沈むね。街灯もついたし、車のヘッドライトもまぶしく過ぎてゆく。
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店の屋根にお日様が沈む。
まぶしい。
小さな町たちのエネルギー。
アメリカ国鳥のイヌワシが力強く空に飛んでゆく。
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“Danny Boy”
”Danny Boy” という曲をネブラスカのshamrock(クローバー)をみながら思わず口ずさんでいた。
この曲は小さい時から何度も聴いてきたけど、大好きになったのは大人になってJazzミュージシャンたちの素晴らしい演奏を聴くようになってからだ。
この曲の歌詞がアイルランドにちなむものであるとは知らなかった。歌は第一次大戦の直前1913年に発表されていた。
出兵する息子への親の切ない心と愛。
息子よ必ず帰ってきてと・・
今は夏だけど冬でもいいから、いや、自分が墓に入っているときかもしれないけど無事に帰ってきてと・・・唄っている。
この想いを当時の多くのアメリカ人の親は味わったはずだ。
まして、歌詞にはアイルランドのことがつづられている。バグパイプ、これは兵士の招集命令で演奏される楽器。また、アイルランドの山や草原のことも。
さらに、息子を送る親世代の多くはアメリカに住むアイルランド系移民だったのだ。つまり自分たちも若い頃、戦ではなかったけど食糧飢饉から若い頃、母国アイルランドに別れを告げ異国に向かったのだった。親としての心情と同時に、自分たち自身のつらい記憶とともに、心に深く深くささる曲だったんだと思う。
それから150年ほどたった今、大平原のネブラスカの小さな町、O'Neillでアイルランドの息吹に出会うとは思っていなかった。アイルランドの国の象徴植物でもあるshamrockやアイルランドダンスが街中のあちこちにイキイキとしている。
自分たちがどこから来たのかを大切にしながら、でも、様々なみんなで手をとりあい、国全体で進んでゆくバイタリティ。それは本当に他人へのやさしさがなければ実現しないと思う。
そういえば、あのバイクのおじさんたち、素敵な笑顔だったなあ。昔、多くのアイルランド移民が最初たどりついたカナダから来たんだった。もし、違っていたらごめんなさい。1500㎞も走ってきた彼ら。あのにっこり笑顔には先祖とその母国への愛がにじみ出ていたと感じた。
ありがとー素敵なDanny Boys.
大変な世の中だけど、みんなそれぞれが持つ歴史を大切に、ちゃんと命を大切に、一緒に歩んで行きましょう~
※ "Danny Boy"は、Sam Cookeなどのsingerの他、Bill Evans, Keith Jarrett, George Benson, Lisa Ono, David Hazeltine, Renee Rosnes,木住野佳子など多くのjazz演奏家たちがプレイしています。
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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