“Travel is ENCOUNTERS”<br>ラトビア(バルト海)篇 #48

“Travel is ENCOUNTERS”
ラトビア(バルト海)篇 #48

Photos, essay by T. T. Tanaka

Local / 2022.02.21


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

“Wonder Palace”

ラトビアは一番高いところでも300mくらい。このあたりもなだらかで気持ちのいい草原と森が広がっている。バルト海の港町、リガ(Riga)から南に車で一時間くらいのところだ。ここにやってきたのはラトビアで一番美しい宮殿といわれるランデール宮殿(Rundale Palace)があると聞いたから。1740年に建てられた宮殿。

堀や塀が目立って大きく空にそびえるわけではなくおだやかな雰囲気。道端にアーチが続いてきれいな赤い壁がカーブしている。なんと、これは馬のための厩舎。「入口」から素敵なデザインで見とれてしまった。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

厩舎を過ぎると目の前には広大な敷地が広がっている。
楽しんできた観光客とウィンクしながらすれ違う。
わあ、大分奥のあそこが正門なんだ・・。遠いよ~


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

門柱には存在感ある王冠をかぶったライオンの像がシルエットでくっきり・・
ヴェルサイユ宮殿みたいな雰囲気が好きな人も多いんだって。
撮影もOKのチケットを払って入るよ~


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

一面に石畳。目の前には2階建てのイエローの宮殿がコの字状で迫ってくる。138もお部屋があるらしいのだ。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

周りが静かな草原の中で、ここは特別の空間。
人々の出発や到着は馬車の音と重なり建物にドラマチックに反射したんだろうね・・。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

この辺りは、昔、一時期、クールラント公国(Duchy of Courland)といわれたところ。一説ではかなりのネガティブ評判だったとされるビロン(Biron)大公が愛したロシア女帝アンナ(ロマノフ王朝第4代皇帝)のために夏の離宮として建築されたんだそう。バルト系やドイツ系の小さなクールラント公国はアフリカやカリブ海にも植民地をもち、象牙・金・毛皮・香辛料や、砂糖・たばこ・コーヒー・香辛料を輸入していたんだ。その後、スウェーデン、ポーランド、リトアニアの争奪対象となり、また、ロシアもからんでいった・・。
バロック様式の宮殿は16もの建物からなっていて総面積は14,249m2。全体設計は若くして、ロシアに移り多くを建築したイタリア人のラストレッリ(Bartolomeo Rastrelli)。2007年、ルンダーレ城はヨーロッパの遺産に登録されている。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

庭を望む廊下は壁から天井にかけてずーっとずーっと絵が続いている。
想像の世界と現実が混じりながら・・・。
当時絵師たちがここを描いている光景を想像するだけですごい。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

ここは黄金の広間。戴冠式などが行われたところ。
明るいウキウキする空間で、キラキラする光と青空の下、女性が楽器を鳴らしている。楽器から音符が飛び出している感じ。思わず天井を見入ってしまった。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

大きな廻り縁の彫り物と金ライン、金細工・・・
天使たちがバラのリースを手に持っている。
溜息・・。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

“陶磁器のビックリ!”

お部屋の隅に瀬戸物の天井近くまでの大きな置物があった。素敵な絵が細かく一面に描かれている。箱のようなものが何段にも縦に、数本の瀬戸物の筒でつながっている。 僕はこれが何なのか全くわからなかったんだけど、なんと薪ストーブ! だった。

でも何か変じゃない? そうなの。燃料薪の出し入れ用のふたがないし、薪をどこで燃やすかわからないし・・・。さらにびっくり。この陶器は裏が壁の向こうとつながっていて、部屋から見えないところで人が薪を焚べる。だから当時も今のエアコンや電気ヒーターのように煙も匂いも部屋ではしなかったんだ・・。そもそも瀬戸物自体貴重で高価なものだったんだけどその瀬戸物タイル製の熱ーいヒートパネルみたいなものね。裏方さんたちは大変だったし、ここに描かれている鳥さんのペアたちは貴重な「舞台」で踊りながら一生懸命、熱を発散していたんだ・・。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

鳥ちゃんたちがお家の近くの枝に止まっていたり、唄っていたり・・・


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

こっちは猪みたいだよね。教会? の前でこの子は一休み中?


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

ストーブの正面の絵。
タイルが何枚も貼ってある。
真ん中の動物はワンちゃんかしらんね。
鳥が飛んで、雲が流れ・・・ それを見る人。
日常がイキイキ描かれていて素晴らしい。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

赤やブルーの壁クロスもあったけど、ビロン(Biron)大公寝室のクロスはグリーンでお花の絵が染めてある。お部屋の中でも自然といろいろな命に囲まれて素敵な空間。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

“白の広間”

こちらはひろーい白の広間。まさに天井も壁もホワイト。舞踏会の空間だったんだね。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

やわらかい石灰岩でレリーフが作られていて天使もあちこちに飛んでいる。
白だけの表現で影の濃淡がとっても美しい。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

高い天井からシャンデリア。
外が明るい。きらめきとシルエットが美しい不思議な空間。
外が暗くなると・・・目に浮かぶ昔の夜の光景。シャンデリアも壁も明るく光り、踊る人たちが浮かび上がっていたんだろうね。キラッキラッと・・・。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

そうそう。親子連れも楽しい楽しい。みんなでタイムスリップできるもんね~


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

歩いてみると楽しいよね。ちょっとダンスみたいに跳ねながら、跳ねながら・・・。
床は板が碁盤のように組み合わせてある。今でも靴音がきれいに響く。

僕は何かに感動すると単純にすぐその場でそれができないことを悔やむのよね・・・。
今まで何度も後悔を繰り返していて・・・。今回はダンスやっておけばよかったのにと・・・。ふふふ。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

白の広間の奥にはこんな空間があった。滝が流れるように磁器が飾られている。
きっと季節とかみんなが集まる目的とかで陶器たちの組み合わせは変わったのね。
沢山ある棚のどこにどんな陶磁器を置くのか?
担当した人は、楽しかったのかしら? いや、頭痛だったのかしらね?
あら・・日本製のようなものもあるね・・・。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

女の子がこの陶器の滝の壁に見入っています。
大人の二人は壁や天井のレリーフに目が釘づけ・・・

そもそもとんでもない財力と人脈ゆえにできた宮殿。
そのホールの舞踏では様々なドラマが生まれた。
そしてその舞台を支えた、はるかに多くの人たち。ここには彼らの悲喜こもごものいろんな気持ちがあふれている気がする・・・

女の子がくるっと回って、元気な足取りで帰っていった。
ちょっとほっとした気持ちになった。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

“お庭”

建物の南側に出ると、にぎやかにぎやか。
お庭と宮殿敷地全体をめぐる見学ツアーカートが出発したところ。
ほら、みんな楽しそうでしょ? お日様浴びて気持ちいい。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

↑(上から見た図)この宮殿は広大な庭園と森林もセット。フランス式庭園は宮殿と一緒にデザインされ200m×500mくらいもある。整って左右対称。2005年から始まったバラ園はラトビア最大。18世紀からの流れが残っている。森林公園は庭園の3倍くらいで宮殿全領土はこれらの倍くらい!

僕は歩いてゆくよ~


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

誰も教えてくれなかったけど、これ、きっとナス科のたばこの花・・・。
見事にてっぺんから降るように華やかに咲いている。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

これはキバナコスモス。日本でもファンが多いよね。ウキウキするような色合い。イエローの宮殿を後ろにコラボレーション。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

宮殿から一直線に伸びている並木道。
遠くから針葉樹なんだろうなあと思っていたらハートの形のかわいいまあるい葉っぱ。樹形もまあるく刈られている。これはBasswood(アメリカ菩提樹, Linden tree)といわれるものらしい。小さなかわいい白い花はたくさん放射状にひろがり全体が球形になる。お花も葉っぱもお茶にして飲まれて体にいいんだそう。ウクライナでも見たことがあったけど名前は知らなかった。 2020年11月にラトビア中央銀行はこの葉っぱをデザインにした5ユーロの記念コインを発表。ラトビアのみんなにとっては大切なお馴染みの葉っぱ。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

これはぶどうのアーチ。1700年代から今までに梨、リンゴ、梅、杏、桃、栗なども沢山植えられている。あ、ビールの原料のホップもね。ワインもビールもできちゃう・・・。そういえばラトビアの生鮮市場に行くのも楽しみなんだ。


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka


Rundale Palace, Latvia; by T. T. Tanaka

あっという間に時間が経ってしまった・・・。
空色に、キラリ黄色の宮殿。
ありがとう。300年も前のまぶしい時もきらめく空間も旅できた。
人々が植えた草花や木々の子孫たちは今も元気に育っている。
今、訪れる人たちの笑顔も素敵だった。
そろそろバルト海の港町、リガに戻らなきゃ・・・

“ルンダーレ宮殿 に来たよ”

ラトビアのレストランで、「300年くらい前の大きな宮殿が保存もよくって素敵よー」と教えてもらった。またまた前知識もないまま、早速訪ねてみることにした。ルンダーレ宮殿(Rundale Palace)。

港町リガから車で1時間ちょい。フラットなエリアだった。地政学的に、商売的に、魅かれるものがあればすぐに狙われ攻められてしまうところだったのだろう。

宮殿が建設されたのは1740年だから徳川吉宗のころ。普段ではなく、いい季節の時に別荘のように使われた離宮というものだったみたいなんだ。かつてここにあったクーラント(Couland)公国のBiron大公がのちにロシア女帝となるアンナに愛され、彼女の夏のために財をつくし建築した宮殿といわれている。歴史的には複雑で僕のような素人にはわかりづらいのだけど、ここにもロシアとのつながりが見られる。

面白いのはその当時、大きな庭園が宮殿と同様に重要とされていて、そのお手本はフランス庭園が主流だったみたい。そのためか、ベルサイユ宮殿に似ているとも言われている。サイズは違うけど、お庭が大切だというのは日本も同じよね。

建物は壁から天井までいろとりどりの壁画でおおわれた黄金の広間や、庭園をのぞむ真っ白なダンスホールなど見事。僕はあるときから名所旧跡なるところは、意識してなるべくミクロというか細かいところを見て冒険することにしている。細部にはそれを担当した一人一人の技やセンスや気持ちが込められているような気がするから。今回もカラフルだけど上品な絵の具づかいや筆遣い、繊細な染め方や織り方の布地、木材の削り方やはめ方、そして、造りも絵も凝った瀬戸物のストーブなど・・・。個人がそれぞれの力を発揮できるのは小さな部分かもしれないけど、ミクロに躍動感たっぷりで見ごたえのある冒険だった。

子供連れのファミリーが何組か来ていたんだけど、キャーッ、ワーッといった時間のあと、各々、座ったり、立ったり、近づいて凝視したりしてジーっとした時間を過ごしている。そして多くの人たちが元気になってにっこり出て行った。そんな気持ちになれるのはとっても嬉しい。いろんな背景があっても後世に見られるように残してゆくのはいいことだなあと改めて感じたのだった。
細部は最後に様々な人が作り動かすのだから・・。

今回はそんな「冒険ENCOUNTERS」を皆さんとシェアできれば嬉しいです。
次回もちょっと珍しいところに行きますよ~。お楽しみにね~。


Photos, essay by T. T. Tanaka(改行)
(※2021年より前の取材を元に書いております)



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