Travel is ENCOUNTERS
“ソルトとノンソルト”
奄美大島篇 #73
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2024.04.23
“ハイビスカスが咲いているよ”
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
大島の北の西海岸の小さな手花部(てけぶ)というところに車を止めた。
海際から入ったところの道を少し歩いてみたかったのだ。古いお家がちょんちょんと続いてゆく。
僕が通ったら草むらの蟹ちゃんがびっくりして走り出した。ハサミをふりかざしながら軽トラの真下に・・ あらら。ごめんなさい。 そのすぐ脇には真っ赤なハイビスカス! 山からのきれいな水の音に合わせるみたいに花弁がゆれている。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
すぐ横の塀にもハイビスカス。猫ちゃんやワンちゃんたちも一緒に描かれている。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ブルーの着物に三味線。やさしい表情。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
わあ、こどもたちも手を振ってくれているし、動物たちもイキイキ輝いている。大きい木もね。 子供の時にこんな絵をみながら通園通学できたら楽しい思い出になりそう・・ 耳をすましても子供たちの声は聞こえてこないけど・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ふと目に入った素敵なタイル模様。ちっちゃなカラータイルを組み合わせると素敵よね。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
わあ、赤い実の月桃。素敵なアクセント。見つけると亜熱帯らしくってうれしい。
お家で月桃を植えることがよくあるそう。葉っぱは、あまーくいい香りだし、根はお薬にもなるのよね。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
こんなしっかり大きなバナナも見え隠れ。
葉っぱは大きいけど薄くって筋が入ってやさしい感じ。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
視界を何かよぎった!と思ったら、カラスアゲハちゃん。
ハラ~ハラ~と飛んでゆく。あら、触覚がくるっと巻いているよ。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
あ、ここにもハイビスカス!
アゲハが蜜吸いにとまるよ~~!
“サトウキビ畑の十字架”
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
更に川沿いを歩いてゆくと突然現れた十字架。青く塗られた建物。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
まわりにはサトウキビ畑。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
カトリック 手花部教会の板が・・・。
このエリアでは1898年(明治31年)に福音宣教が始まり1901年には30名が洗礼を受けられたとのこと。この建物自体は半世紀以上前の1968年に出来たもの。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
かわいい教会の入口付近にはゴムの木が元気よく育っている。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
壁の十字架
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
蘇鉄(ソテツ)も葉っぱを元気に伸ばしている。島では蘇鉄が自然に育ち、群落もいくつかあるそう。見て見たい。この子も思いっきり育っているものね。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
蘇鉄の幹が気になってじっと見ていたら、
あ、ちっちゃなシジミチョウが・・・
“新田。その先マングローブ”
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
教会前の道路は海に面する国道58号線。
ブイーンという音とともにスクーターが坂を下りてきた。そこには一日に何本かしか通らないバス停。表示には「二次郎新田」とある。この脇を曲がってみると・・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ちょうど木に囲まれた一角があってそこに銅像が・・・。名前には本田二次郎と刻まれている。あ、バス停名が「二次郎新田」だった! 彼はこの奥一帯のエリアを、工事機械もなかった頃に、台風の襲来も多い中、農地開拓に尽力されたとのこと。この地域の整備のご苦労はいかがばかりか・・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
彼を囲むように育った木が実をつけている。これはグアバ(バンシロウ)の木ね。地面にいくつか大きく熟した実が落ちている。つやつやした実の一つをそっと像の下に置かせてもらった・・。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
深呼吸して立ち上がって川の方向を見ると目の高さにかわいい紫の花。これは砂浜で時々出会うハマゴウ(浜香)。お花にはあまり出会えないのでとっても嬉しい。葉っぱも花びらも濁りがなくすーっとした色。葉っぱからも花からも、すっきり少し甘い香りがする。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
そして一気に広がってきたサトウキビ畑。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
川から引かれた灌漑用水。畑の間には細い道。
まさに開拓された二次郎さん、大変だったろうなあ・・・
一瞬陰った雲がまた抜けて明るくなってきた。
数メートル先、あっ、あれ、動いてゆくのは蟹だ! と思って駆けていったんだけど見失ってしまった。ああーーと思った拍子に足元がずるっ・・ 頑張って踏ん張ったら、何、これ?
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
地表の根や葉っぱを覆うように染み出て流れる水。その中につぶつぶ泡みたいなのが・・・ 何かの卵?
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
思わず凝視してしまった。なんと、この玉みたいなのが「はがれて」水面にまで浮いてきては消えてゆく・・・。また、別のところの下からも・・・。
植物たちの呼吸なのかしらん? 日に当たってできた酸素なのかな?
一面卵に覆われたような景色に唖然・・。こんな景色には初めて出会った。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
立ち上がるとサトウキビ畑と山を背景にすっと育つ木。
僕のゆく細い道はこの辺では珍しく直角に交差して次の畑、次の畑に続いてゆく。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
海側の林には星のような黄色い花?があちこちに・・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
なんとこれ、メヒルギ。マングローブを構成する木。ちょうどお花が咲き終わって実になってゆくところ。もっと細長く伸びて根を出して、とんがったところを先端にして泥地に刺さり、根付いてゆく。もう先が尖がっているものね。黄色いお花かと思ったらお花は真っ白なんだ。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
そのメヒルギたち、お行儀よく川沿いに並んで育って、葉っぱも元気よく光っている。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
おっ! サギ君飛来!
グリーンの中のまぶしいスポットとなってゆっくり川の中を歩いてゆく。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
そして湾に川がカーブしながらそそいでゆく。
この坂下川(手花部川)は干潟から400mぐらいがマングローブの群落。
メヒルギの木たちの大人の身長は2mぐらい。僕よりずっと高いね。
“君たちに逢えてうれしい---I’m glad there is you”
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
おっ、海の浅瀬にもサギちゃん!
水色グラデーションの中に美しい立ち姿。
さっきの川にいたサギちゃんの家族なのかしら・・?
頬を気持ちよくなでてゆく海風がうれしい。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
東シナ海から大きく入り込んだ湾。中に伸びる半島。
僕のいる手前の水辺は浅瀬。満潮時を過ぎこれから潮が引いてゆくところ。
ちょんちょんちょんと見えているのは川沿いで出会ったメヒルギ。
この子たちはちょうど、お風呂につかっているみたいでかわいい。
この辺がマングローブの育つ日本での北限なんだ。
マングローブの後方には干潮時には円弧のように潮垣(シュガキ。マシャンキリともいわれる)が姿を現す。これ、江戸時代に積まれた石組みとのこと。満潮時に内側に入り込んだお魚さんを干潮時に収穫する古代漁法。そういえば、アメリカ、フロリダの先住民たちも昔、メキシコ湾沿岸に石組をつくっていた。春分秋分のお祭り料理用のお魚を沢山収穫していたことを思い出した・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
マングローブたち、クローズアップしてみたらそれぞれかわいい。水辺に反射する影がゆらゆら。
思わず岸で寝転んで目を閉じてみた。風に吹かれて気持ちいいこと。お日様の熱はしっかり感じつつ、ぼーっと・・。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
鳥の声に目をあけるとマングローブの向こうにさっきの白いサギ・・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
水に触れたくて少しゴールドっぽい水際の砂地に下りてみる。
マングローブの根元がちょっと赤っぽい。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
潮が引き始めると根元が見えてくる。
こっちの木は結構太くって直径50cm以上はあるね。水辺だからしっかり根を張らないとね。
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
じーっとしていたら、あっちこっちで動くものが・・・ 蟹ちゃん!
大きなハサミにしっかりお目目。シオマネキね。片方のハサミが大きいのがオス。この子は左利き。近づくと穴にもぐっちゃうから1mくらい離れたところで静か―に待っていたら、ほら、こんな感じでおでまし。潮を招くみたいにハサミを振り(waving)だしました。これ、まわりのメスへのアピールみたい。小さい方のハサミは砂泥をすくい口にいれてプランクトンを食べるのにうまく使っている。干潟をきれいにしてくれるんだって。穴がこのあたり一帯あちこちにあるなあと思ったらちょうど満潮のときに水面にかかるぐらいの位置。こんな干潟はどんどん減っている。日本ではシオマネキ君にも絶滅の危機が迫っているのだ・・
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
と、更に跳ねる生き物が・・・。砂の色と模様に馴染んでいて遠目にはわからないわ・・
目がキョロちゃんみたいにクリクリッと。前脚っぽいのも見える全長5cmくらい。
お魚のミナミトビハゼ(トントンミー)。ムツゴロウよりぐんと小さい。この子は水際の陸地にピョンピョン飛んできてエビ、蟹、ゴカイなんかをゲットしている。普通の魚より皮膚呼吸能力などが高いから空気中で活動できるんだそう。スゴ!
笠利町手花部, 奄美大島 by T. T. Tanaka
あ、こんなふうにひたひた寄せる海水につかるとこんな感じ。
なんか、地味な色合いなんだけど、かわいいというかひょうきんというか、見ていて飽きない。この子たちも干潟あっての命なので日本では準絶滅危惧種になっている。
サギ君にもシオマネキ君にもトビハゼ君たちにも逢えてうれしい--I’m glad there is you
これからも元気でいてねー。
※”I’m glad there is you” ; 1941年にJimmy Dorsey達に作られたラブソング。以降、数多くのミュージシャンたちにカバーされてきている。ジャズでもスタンダードナンバー。フランク・シナトラ、トニー・ベネット、コニー・フランシス、キャノンボール・アダレイ、サラ・ヴォーン、ランディ・クロフォード、オスカー・ピーターソン、スタン・ゲッツ・・ チェックしてみてくださいね~
“ソルトとノンソルト”
阪神間で育った自分にとっては、子供のころからいつのまにか亜熱帯と聞くとウキウキして行ってみたいエリアになっていた。頭の中のそのあこがれのところは、まぶしい日光が降り注ぎ素敵な海がうちよせていた。そして大人になった頃にはその景色にマングローブ林も描かれていた。
奄美大島。子供の時から思い描いていたあこがれのその景色が現実になって目の前に展開されているのだ。人生をタイムスリップした感覚もまざって不思議な素敵な空間・・・
赤いハイビスカス、白い水鳥、シオマネキやトビハゼ。バナナやグアバの実。月桃の実に、ゴムの木や蘇鉄・・・ そしてマングローブ林。
マングローブ林は二種類の水がまざるところだった。
海の塩水と川の淡水と。ソルトとノンソルトだね。
潮の干満に引っ張られて、それらは一日中いったりきたり・・・。
お日様の照る時も、曇りの蒔も、雨の時でも・・
そんな二つの水に身をおいてマングローブは育ってゆくんだね・・。
両方から鍛えられるけど、両方から栄養を摂取して・・・。
ぼーっとこの二つの水を眺めていたらいつの間にか体中の力みが消えてしまっていた。
この感覚を味わえてとっても幸せ。奄美大島。ありがとう。
Photos, essay by T. T. Tanaka
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
カリブ篇
アリゾナ篇
ワイオーミング篇
アソーレス篇
グリーンランド篇
ネブラスカ篇
ラトビア-バルト海篇
台湾篇
フロリダII篇
奄美大島編
Tag
Writer
-
T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。