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“Travel is ENCOUNTERS” (ネブラスカ篇) #42
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.08.25
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“Summer time”
あらー。すやすや・・・。気持よさそう。
大平原の夏の午後はあぢいけど大きなトラックの下はクール。
ときどき風も流れるからお昼寝ベストポジションね。
僕をちらっと片目あけてみたけど、すぐまたお休みです。
ここは前回のSmith FallからさらにNiobrara川を東に60㎞ほど下った平らなところにある小さな町、Springview。この町、人口は250人弱。Wikipediaで調べてもほんの数行しか記述がない。
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人影まばらなストリートにブラックバードがのんびり。
虫をついばんではあっちにこっちに。
昼下がりは車もめったに来ない。
住宅街のきれいに刈られた緑も美しい。
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通りで出会ったお母さんにカフェの場所を聞いていたら、そこに「ママー!」と走ってきた女の子。
「どこ行くの~? 今晩BBQなのよ~」
「楽しみね~ 食べすぎ注意ね~」
ちょっとサンダルが大きめ。暑いし、まぶしいよね。でも夏休みはうれしい。
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大きな木。シルエットの葉っぱがくっきり揺れている。
キラキラ、短いけど夏は輝いている。
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Cotton woodの向こうはグリーン。
小さなコミュニティーにマキバドリのさえずり。
トラックの荷台がまぶしい。
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“刻まれた歴史”
表通りはサンサンと夏の太陽。ひろーいお家の前にはトラックやワゴンや、あ、牛や馬を運ぶいろんなトレーラーもあっちこっちに。
これはまあるい屋根ね。車でひっぱって後ろにつなげるタイプ。高いところにストップランプが付いている。
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これは年季が入っているね。窓も大きくあいている。愛馬でロデオとかに出場するのかしら。
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グリーンとブルーの中にのびやかにパーキング。
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かわいいカウボーイハットのようなワンポイントマークが付けてある。
こだわりがうれしい。開拓時からの年月が今に流れている。
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1885年に4人の地主達がそれぞれ40エーカー(400m×400mくらい)の土地を提供してSpringviewという町を作った。そして当時Keya Paha(先住民の言葉で "亀の丘")郡庁所在地に決まった。郡庁として必須だった裁判所がここに建設され、また、郵便局も設立された。1890年に4000人近くいた郡の人口は今は800人。40以上もあった学校は9校に、30あった郵便局は2つに。過疎地になってしまったけど、当時からの歴史がここには流れているんだ。
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Civil war(1861-65 南北戦争),Spanish war(1898 米国とスペインの戦争), Great World war(1914-18第一次世界大戦)に命をささげた郡の人たちをたたえる碑。
彫刻の大鷲はアメリカの国鳥。後ろになびくのはアメリカ国旗。
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こちらの大理石の碑にはアメリカ国家のために第二次世界大戦で命をささげた郡の人たちの名前が刻まれている。日本と戦って命を落とした人たちもいるのだろうか・・・
彫られたイヌワシが眼光鋭く彼らの想いを受け止めている。
合掌。
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“In the wee small hours”
小さな町のメインストリートに着いた車。
一人のスーツ姿の男がアタッシュケースを手に歩いてゆく。
その先にはハサミのアイコンのヘアサロン。隣には赤茶けた不思議なかたちの建物。わ、郡の図書館って書いてあるよ。小さいけどここには数千冊の図書、映画、雑誌、オーディオブックや、ケーキ型も貸し出ししてくれるんだって。火曜、水曜、金曜と明るい時間あけている。お話し会もあって毎月第一火曜の14:00~だって。あらーそれ、もうすぐ始まるじゃん。ひょっとして彼はそれによばれたのかしら。
ウキウキ彼を待っている人たちがいるのかもね。
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通り過ぎてエッ? と、振り返った。
Springview Herald って看板が目に入った。
Heraldってつくのは確か新聞とかに多かった名前では・・・?
調べたらやっぱりそうだった。
北中部ネブラスカと、サウスダコタ州にかけてのコミュニティー新聞で1886年から続いている。人口は250人だけど700部出版しているとのこと。頑張っているよね。
コミュニティーの生活やその時間はちっちゃいかもしれないけど、
みんながつながる役割は応援したい。
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大平原にもwater tower。
平らだから高いところに水を蓄えて住民の蛇口に供給しなければ。小さくても重たいからささえる鉄塔はがっしり。でもてっぺんは尖がり帽子みたいでちょっとかわいい。
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ガソリンスタンドはこの町にはひとつだけかしらん。100年くらい続いてきた燃料もいよいよ電気チャージになったり水素に変わっていくのか・・
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わあ、大平原の夏の雲。
南北に走る国道183号と西に向かう州道12号の交差点。
建物が少ないとこんなに空も、雲も大きい。
小さな町の大きな空間ね。
とってもダイナミック。
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町ができたときにはなかった風力発電の大きな羽根が大平原にゆっくりまわっている。
家畜を乗せたトレーラーが南に向かい、
ガソリンを乗せたタンク車が北に向かってくる。
Great Plainsでは昼間でもライトONが励行されている。
自分の存在アピールも大切なんだ。
小さな町のいろんな小さな役割アピールもね。
Wee small hours in the small town.
※ "In the Wee Small Hours of the Morning" は1955年にフランクシナトラが発表した同名アルバムに収録されたのが最初です。多くのミュージシャンがカバーしてjazzでもよく演奏される曲。検索してみてください。
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“Horse power”
お店から出てきたお買い物のカートに夏の陽がギラり。
シルエットがゆっくり過ぎてゆく。
看板には馬とともに大平原をゆく人が描かれている。
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お店の前にはガソリンスタンド。この交差点は小さな町で一番人が集まってくるところだ。きれいな荷台の車も来るし、60年前のトラックも現役でやってくる。
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磨きなおして、エンブレムもピカリ。
古い車もイキイキしている。
惚れ惚れするHorse power.
元気をくれてありがとう。
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“こんな感じかい?”
町の中心部の古いエリア。木の電柱にブルーの標識。空と馴染んでいる。
右にゆくとCub CreekというNiobrara川にながれゆくせせらぎに面したキャンプ場がある。町民のレクレーションサイトでピクニックやカヌー、チュービング(浮袋で流れをくだってゆく)、フィッシングなど週末にみんなが楽しむんだ。ちなみに町には9ホールのパブリックゴルフコースがあるんだけど、大平原ならではサンド/グリーンのコース。毎週末のトーナメントも開かれているんだって。
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こちらは レストラン/カフェ。CATTLEMAN’S LOUNGE(牧場の牛飼いたちのラウンジ)って名前が横断幕に書いてある。風車も描いてあるよね。月~金ランチは牧場のホームスタイル。観光客目的じゃないからネット場でもほとんど書き込みがないけど、ステーキのリブアイ(Rib eye)やpulled pork(ほぐした低温調理の豚肉)が美味しいらしい。今食べると夜食べられないもの・・・。涙。
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こっちは George's BEER GARDENって。わービールだ!
5人目はタダ~! それと、金曜日はお魚フライ出すよ~って看板だしてある。
そうか~。ビーフじゃないお魚フライはここではスペシャルなんだね。
この電球装飾いいでしょ。この白い柵の中なんだよ~。
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ガーデン横に室内カフェも併設。ブルーペイント。
氷売ってるし、ビールのBUD LIGHTサインが外に向けてあるし。
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George's WINDMILL CAFE っていうんだね。このブルーの塗装きれいだなあ・・・と見入って写真撮っていたら、おじさんが中から出てきました。
「このブルー、きれいですね~。ご自分で塗られたんですか?」
「おー。ありがとー。いい色だろ? おいらの好きな色なんだ。どこから来たんだい?」
「あ、こんにちは。日本から来たんです。この色合い素敵で大好きです。お願いがあるんですけど、日本の読者の皆さんにお見せしたいので、お店の前でお撮りしていいですか?」
「そうかい。いいぜ。こんな感じかい?」
コロナ禍が続いたし、おじさん、今も元気なんだろうか? 今はお店はやっているんだろうか?
実はもうネットでは出てこないんだ・・・。
FISH FRYでビールを飲んでおけばよかったのに・・と悔やまれる。
おじさんのおすまし顔が脳裏にこびりついている。
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“Nothing but the blues”
Springviewという町に来た。なぜ、ふらっと立ち寄る気分になったのかよく覚えていない。もしかしたらその名前から泉(Spring)がある素敵な町と思ったのかもしれない。
そこは250人に満たない小さな町だった。なのに、郡庁となっている。郡の名前はKeya Paha。先住民の言葉で "亀の丘"。130年前の1890年に4000人いた郡人口は今その1/5。かつてあったSpringはもう消失。でも、石碑は残っている。南北戦争、スペインとの戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦に命をささげた人たちの名前が刻まれている。アメリカ国鳥の大鷲の上にアメリカ合衆国旗がひるがえっていた。
ここでも目に留まった新しい風力発電の姿。一方で大切にされて元気に走る古い車。
大平原にのんびり流れる時間と、そして、にっこり心温まる人たち。
ここには三階以上の建物はかぞえるほどしかないし、スーパーマーケットもないし、スターバックスもマクドナルドもない。観光客はこないし。
でもちっちゃい図書館はあるし、700部出版の新聞もある。
みんなが集うカフェもあるんだ。
そう、大都会の香りは何もないけど手塗りのペンキの素敵なBlueはあるんだ。
それは大平原に広がる空のみんなのBlueかもしれない。
Blueだけかもしれないけど。
"Nothin' But The Blues"
※ 同名の曲、 "I Ain't Got Nothin' But The Blues"(1937年Duke Ellington作曲)があります。検索してみてください。 1929年に始まった世界大恐慌。アメリカでは4人に1人が職を失い、多数の自殺者も出て、その影響は10年にも及んだ。 簡単に比べることはできないけど、今、世界的に長引くコロナ禍の世の中の気分もそれに近いのかもしれない。 "I Ain't Got Nothin' But The Blues" は お金がなくて、靴がなくても、熱いコーヒーがなくても、休まるときがなく、何の勝ち目がなくても・・・ブルースだけはあるんだ・・・と歌っている。ブルースしかないと思うのか、ブルースがあるぜと思うのか・・・。
僕は「俺にはブルースがあるんだぜ」と口ずさんでいる。
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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