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“Travel is ENCOUNTERS” (ネブラスカ篇) #41
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.07.26
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“Plain is your home”
Valentineの町を出るとまたどこまでも広がる大平原。
この辺りはNebraska州の北の州境に近い。西に西に来たけど、そろそろ東への折り返し点。どこも行くところは新しいところなのに折り返すとなるといつもなんとも言えない気持ちになる。
州道12号を進む前に昨日見かけて気になっていた町はずれのロードサイドに寄ってみる。それはhistorical marker(碑)。
ここにはFort Niobrara(ニオブララ砦)があった。先住民スー族(Sioux)との争いがあったところ。その結果1878年に彼らの居留区(Indian Reservationといわれた)が定められた。しかし、それでも居留区からの彼らの襲撃を随分恐れ、1880年砦(とりで)を作ったそうだ。ところがさしたる事件はおこらず、むしろスー族の、死者との交流ダンス(ghost dance)が気持ち悪いとされたらしい。この広大なエリアの中の砦はアメリカにとって大切な存在でここの将軍だったJohn J. Pershingは後に第一次大戦のアメリカの司令官となっている。ここはその後1912年にその居留区の一部が狩猟のための保護区に、さらにその後、野生動物保護区(Niobrara National Wildlife Refuge)に変わった。
野生のバファローや、テキサスロングホーン(牛)や、Elk(赤鹿)たちが多く生息しているとのこと。朝はここに訪問する。
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いきものだから思った通りに出会えないとわかっているんだけど野生保護区に入ると、つい、ウキウキ、キョロキョロしてしまう。
あら。でも、もう、入ったとたんに動くものが・・。
プレイリードッグね。地面の穴から顔を出してあっち向いたりこっち向いたりしている。近くにある土は地中に巣をつくるときに掘り出したものなんだって。
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この子は大きく背伸びして遠くをwatch。結構まっすぐ高く立つね。
きもちいいところだけどコヨーテ、ピューマ、鷹など天敵がいっぱい。みつけると仲間に犬のような声で知らせる。鳴き声には種類や大きさや色や形や怖さの情報を乗せているというからすごい。
・・・ってことは僕の体形やら動きやらも発信されてしまったのか。仔犬のような声がしていたもの。
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あ、この子は草を手にもってムシャムシャ。雨が少ないところだから草からいっしょに水分もとっている。
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ほらね。器用に手をいや、前足を使っています。
ここは君たちのホーム。
君たちがいてくれるおかげで草ぼうぼうに伸びずにまた新鮮な草が伸びてきてくれる。ありがとう。
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こんどは目の前に現れたのは10頭ほどの野生のバイソン。大きいのは3mくらいあるね。のんびり草をはみながらゆっくりみんなで移動してゆく。
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近くまでやってくると結構大きいし、角もあってドキドキ。
彼らの運命はまさにアメリカの歴史そのものだ。スー族は狩猟で衣食住のすべてをバイソンに頼って自然の中でバランスをとって生きていた。そこにヨーロッパから17世紀の移住で食用や皮革用の狩猟、農業や牧畜を妨害する害獣として駆除され、6000万頭いたのが1890年にはたったの1000!頭に。移住者の先住民族への飢餓作戦が輪をかけ、また、時にはレジャー目的のために銃で一気に殺されていった。先住民族たちは不慣れな農耕を強制され固有の文化も滅びてゆく。移住者たちの開拓が進んでフロンティアが消失すると、国立公園での保護するようになり頭数は回復してきた。そして2016年にアメリカの国獣に指定された。
なんとも悲しい歴史、もともと棲んでいたバイソンたちには責任はないのに・・・ 今目の前の景色はアメリカ大陸のかつての原風景かもしれない。これからは人間とうまく共存していきたいよね。
ここはきみたちのふるさと。 Pain is your home.
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バイソンが過ぎてふと足元を見たら、亀さんがあら、ひょっこり。少し向こうに川が流れているものね。
日差しが強くって甲羅はもうちゃんときもちよくドライです。
いつもはいないカメラをもった動物が歩いていると気になるよね。
首をもたげてしっかり見られてしまったよ~
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“Love call in the Plain”
ピー! ちょっと先から甲高い大きな声が飛び込んできた。
姿が見えない。またピー!
あ、わかった。僕は野生動物保護区の中の未舗装道路にいるんだけど、そのずっと先のちょっとカーブのところの標識の上。
あらー。小さい。すずめちゃんくらいかしら。でも空に向かって大きく口あけて鳴いてます。
かわいくて元気。
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こんどは、チュルチュルチュルっていう鳴き声。あの子は標識の端にとまっているし、そっちの子は枯木の枝の先端にとまっているし。エッジが好きなんだね。姿を見せたがらない鳥も多いんだけど、この子たちはもう目いっぱいスタンドプレイ。ニシマキバドリ(Western Meadowlark)っていうんだ。ムクドリモドキ科の仲間。
見て見て見て~! "Chu, chu, chu, chu....."
Love callかしらね。
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視線を進行方向に戻すと、わ。大きなシルエット。
赤鹿(Elk)が草原を左から右へ。道路をゆっくりわたっていく。
保護区内だから車はたまにゆっくりくるだけだから大丈夫なんだ。
あら、左からもう一頭やってきた。先頭の子はちょい足踏みして待ってあげている・・・
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草原の遠くに目が馴染んでくると、いるいる。Elkが沢山。ゴマ粒みたいに動くのもいるし。
3頭そろって移動している先には角が立派なElkたち。
そうなのね。雌たちが雄たちのところに集まってきている。
大草原のパーティね。
冬はすごーく寒いしドライだから、パーティーシーズンはやっぱり今かしらん。
Loveがいっぱい生まれてるのかもね~ 草原にあふれるLove call。
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“Plain splash”
野生動物保護区を出てそのままNiobrara川沿いに15分ほど東に下る。Smith Falls Parkについた。ちょっと信じられないけど大平原なのに滝があるらしいんだ。
水量豊かに流れる目の前の川と、白くにぎやかに咲いているハナウドを見ているとここが水が少ないエリアなんて忘れてしまう。せせらぎ音は気持ちよく、反射する光はきれい。
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道路から少し下りてゆく感じ。
わ、なんか急に日本の山にいるみたいでびっくり。せせらぎが段々になっていて流れる音が反射してくる。すーっと涼しい空気が流れてきた。
実はここだけ気温が低くって大平原なのにいきなり北のカナダのような植栽に遭遇する。
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流れる水は透明で、大きなしぶきの下には細かい泡も噴き出している。
どんどん変わる泡たちを思わずじーっと見つめてしまった。
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滝近くまではウォーキングボードで近づいていく。こんな感じ。見事な滝で、高さは20mちかくある。Nebraska州最大。
上からの水が大きく3方向にわかれてしぶきをあげている。真下の滝つぼは、夏休みとかになると、家族連れや、仲間グループでにぎわいを見せるらしい。
これ、気持ちいいものね。滝に打たれて修行するって人はいないと思うけど・・・
冬は凍ってツララになるんだって。
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水しぶきの向こうに地層が何層も見えている。
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一番上を望遠で見て見ると、わ、一気に水のかたまりが流れ落ちるって感じだよね。
ダイナミック。
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中段あたりはなめらかなな岩肌を伝わりながらもちっちゃな水の泡がはじけ飛んでいる。細かい細かい水蒸気がただよっている。
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太陽が真上から、落ちてゆくsplashを反射させ、木々のシルエットを並べている。
影になった葉っぱもときおり、ゆれてはまぶしい緑を目に届けてくれる。
大地の滝つぼからの景色を見ているとここはどこ? とクラっとしてきた・・・
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“Alice in Wonder Plain”
わ。素敵なおじさんがこちらを見てにっこり。
「どこからきたんだい?」
「そうかい。Tokyoか。せっかくだからいいこと教えてあげよう」
「え、いいことって?」
「ほら、あそこにベンチが見えるだろ? あの先をどんどん行くと、物語の絵巻物みたいなPaper Birchの木がはえているんだ。滝のそばで涼しいところだよ。その巻物をめくるんだ」
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わ、これだ。巻物。
これをめくるの?
エイっ。
きゃーーーーーー 吸い込まれてゆく~!!
冷たい水しぶきが顔にぶつかる~
滝にぶつかる~!! と思ったらいきなり空中に飛び出した。
一回転、二回転。今度は一気に地面が迫ってきた。え、プレイリードッグの盛り上がった巣穴が目の前に迫ってきた~
ひやーーー中に入っちゃうよ~
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巣穴に入って真っ暗になったかと思ったら体が平べったくなって洞穴みたいなところを突き進む。突然上を向いて飛び出したと思ったら気を失っていた。
目が覚めたのは橋の上。
え、鉄橋? どうしてここにあるの?
あれー。手を上げて渡っていく人がいるよ~。
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燕さんが急にその下から現れた。
「ちゃんと渡るんだよ、鉄橋。いいかい?」
くるりっと回って橋の下に隠れてしまった。
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橋をわたる体は何故か羽をはばたかせている。宙に浮いているんだ。
100年前の橋を下に見下ろしながら飛んで行く。
川はキラリと光るブルー。
あ、さっきの燕さんがやってきた。
「そうそう。そのまま飛んで、飛んで~。私のあとについてきて~」
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燕さんをおっかけて飛んでいくとキラキラの黄色い砂地が急に目の前に迫ったと思ったら舞い降りたのは川辺だった。
そこにはカヌーが一艘、シルエットになって横たわっている。
燕がその上をクルリクルリしながらウインクしている。
これに乗れということね?
燕さんの方向に向けて急いで乗り込み、パドルをこぎだした。
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2021回漕いだら不思議な木が生い茂る岸に着岸。
あれ、燕さんは? いつの間にか燕さんの姿が見えない・・・。
この木の幹は穴だらけ。
まさか、燕さん、この中に消えてしまったのかしら。。?
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わ、向こうに明るいグリーンが見えている。
手前の赤いコットンウッドがおじぎをしておいでおいでと呼んでいる。
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なんとそこにつくと真上はまぶしい空。
と思ったらいきなり雲さんが左から流れてきた。
その雲さんは「ここまでおいでよ~」と口を尖がらせている。
「そんな高いところまでいけないよ~」
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「ほら、足元のピンクの花があるだろ? それを靴に37個付けてロケットにするんだ。そしたらニオブララ*~って叫ぶんだよ」 *広い水の意味
「付けたよ~。エイっ。ニオブララ~~!!」
「わーーー 雲の中に吸い込まれてゆく~~」
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きゃーーーーーーーー
わー ぐるぐるまわるまわる吸い込まれる~~
ひやーーーー・・・・
(気絶)
突然目が覚めた。
黄色のふかふかのブランケットの上にいる。
甘くてすっぱ美味しそうな香りでとろけそうだ。
わ、あたりは、rosehip(ハマナス)のピンクのやわらかいフロアーね。
え、いつの間にかミツバチになってしまっている。
nectar(花蜜)に埋もれて・・
ここはGreat Plains。ネブラスカ州のNiobrara川のほとり。
あのベンチのお兄さんはどこに消えたんだろう・・・?
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※ "Alice in wonderland"(不思議の国のアリス)は1865年に小説発表、1951年に映画化。以降、多くのミュージシャンにカバーされています。JazzではピアノのBill Evansはじめ多数の演奏があります。検索してみてください。
“Laughter in the Plain”
雨が降ると外に出られないし、大切なデートも思い通りにいかなかったり・・・
でも雨だからこそ雨の中でつないだ手で相手のあたたかい心がわかったりする。
そ、ずぶ濡れになっても。
そこにある木の下で雨をかわしてkiss! ドキドキする。
幸せな気持ちを分かち合えるのだ。
雨に微笑みを。 Laughter in the rain.
平坦な景色が続いて足元にはプレイリードックの巣穴がときどきあいていたりするだけだけど、だからこそ、お互いの存在をいつもよりずっと近く感じることができる。
木陰も、そして、滝にも出会ったりすると、気持ちが高まる瞬間となるのだ。
大平原に微笑みを。 Laughter in the Plain.
※ "Lauhter in the rain"(雨に微笑みを)は同名のニール・セダカの大ヒット曲があります。検索してみてくださ~い。1975年に全米シングルNo. 1となり今でも多くのミュージシャンにカバーされています。Jazzではピアノの小曽根真さんやギターのEarl Klughさんたちがアルバムに収録しています。
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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