Travel is ENCOUNTERS
“Footprints と Reborn”
台湾篇 #59
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2023.02.22
“生まれ変わったハヤシ百貨店”
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
夕方になってきた。急ぎ「ハヤシ百貨店」というところに行ってみることに。
台南の中心部にあるこの「日本の百貨店」のことをここに来るまで全く知らなかった。
日本の統治時代の1932年12月5日に実業家の林方一さんが創立。台湾ではその直前台北で開店したばかりの菊元百貨店と二大百貨店として競うことになる。台南エリアでは唯一近代的なエレベーターが設置された鉄筋コンクリート(RC)5階建ての高層建物であった。山口県出身の林さんは1912年に単身台湾にわたり奮闘されていたそうで、なんと開店直前に倒れられ、この建物を見ずして12月10日に台北で病死されている。設計は建築家の梅澤捨次郎さん。台湾で今でも残る数多くのアールデコ建物を設計されている。
このハヤシ百貨店、1945年日本敗戦で事業は終了していたのだけど、1998年に市の文化財(市定古跡)として台南市政府のものとなり2013年1月に修復工事終了。そして公募でこの空間が、新しいスタイルの百貨店として再生・運営されることになった。
ざらっとした外壁はコンクリート打ちっぱなしではなく、洗い出し石とタイル貼りを使って、石やレンガのような模様を演出したものなんだね。縦にまあるい円が5個みえるのはエレベーターの各階の窓。入ってみよう入ってみよう!
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
わ、この階段。見るなり、もう日本でも殆ど残っていない懐かしいスタイル。細かい石が入ったコンクリートに溝の切ってある金属のステップが縁に貼ってある。窓からの光に輝いてとってもリッチな感じ。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
かつては1Fはたばこ・お酒・化粧品・お菓子、生活用品、2Fは輸入品雑貨・子供服・寝室用品、3Fは織物・紳士服・婦人服、4Fは食器・おもちゃ・文房具・統計、5Fは洋食レストランと喫茶店 だったみたい。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
明かりが入り込む窓の枠も時計も置かれた椅子も雰囲気があってかっこいい。
ストレートに走っているラインも気持ちいいよね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
そして屋上階はエレベーターの機械室と展望台がある。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
屋上からは台南エリアが海まで見晴らせて気持ちがいい。
手前にあるのは当時のまあるい電灯シェード。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
あ、これ、鳥居の残骸?
なんとこれは神社「末広社」なのだ。商売の守護神として開店一年後の1933年に信仰の対象として完成。台湾の商業建物では唯一の存在する神社。それが1945年3月1日に連合国軍による激しい台南攻撃があり被弾して壊滅的な被害が受けた、それを保存して一般公開しているのだ。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
こんな感じで色んな人がめいめいの想いとともにスマホにおさまってゆく。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
子どもたちも若い人達も、あ、ワンちゃん連れもね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
台南の海に陽が傾いてゆく。
ほっこりまあるいランプにもうすぐ明かりがつく。人生を懸命に台湾で過ごされたハヤシさんは完成したこの百貨店も、台湾の景色を見ながらお詣りできる神社も見ることなく亡くなられてしまった。更にその後、まさかの戦争で悲劇が訪れることなど思ってもおられなかっただろう。
でも、80年後に生まれた新しい息吹を知ってニッコリしていてほしいな。
僕もタイムマシンに乗ってハヤシさんに会えたみたいで嬉しい。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
屋上から降りてきたら、わ、ハヤシ百貨ラムネだって。今や珍しいラムネね。そうそう、かつて日本ではやった「玉詰め瓶」に入ったレモネード。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
なんと、もうちょっと早くきたら食べれたのに・・・。抹茶ソフトクリーム販売機! しかも京都宇治抹茶。
そういえば、ラムネもソフトクリームも日本語でも書いてある。
“From Narrow Door to Happiness”
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
もうすぐ陽が沈む。
学生たちの元気な声が横断歩道を渡ってゆく。
暗くなる前にもう一ヶ所行くんだ。「窄門咖啡」(Narrow Door Café)というところ。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
え、ここ行くの?
体を斜めにしながらスリスリと隙間を入ってゆく。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
これが表。建物と建物の間が38cmしかない。
そこに掲げてある「窄門」(narrow door)の看板。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
通路の途中にお店への入口が示されている。
京都の先斗町も狭くいろんな店が奥にあるけど、ここはその次元を超えている・・・。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ここは南門路にある築100年の古民家カフェ。日本統治時代からある木造の住居だったのが1990年からカフェに。入口をくぐって階段を上がると素敵な香りが漂う空間が・・・。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
アンティークの家具や家電がインテリアに・・。これはGE(General Electric社)の扇風機ね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
パンケーキもチョコもお茶やコーヒーと一緒に食べられるなんて・・・。外は25度はあって一汗かいたし、夕飯前でちょっとのアイスコーヒーだけで我慢した。窄門特調氷咖啡。あれー。チベットバター茶とかキンカン茶とかアイスラムティーなんてのもあるね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ここには、鉛筆削り器や、台湾のCHINA AIR(中華航空)の飛行機や、裸婦の彫像や、JAZZのLPアナログレコード。 ちょうど 1930年代のスタンダードナンバー “Alone together” がギターで流れてきた。ハヤシ百貨店が出来た頃の歌・・
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
窓際に描かれた存在感大きな猫ちゃん。通りの声が漏れてくる。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ここにも猫ちゃん。
ゆったり時間が香りとともに流れている。
あ、そういえば、うちの近所の猫のハナちゃん元気にしているかしらん・・・。
“レストランでタイムスリップ”
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
猫ちゃんのカフェを出たら今度はワンちゃんがトコトコとやってきた。あ、お家の人達はバーベキュー中なのね。
ごめんね~ これから僕もご飯にいくのよね~
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
「筑馨居」 Zhù xīn jūという台湾家庭料理のお店に。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
このお家が建てられたのは1876年。日本統治時代よりも前の清朝時代。その時からの家屋をリノベーションして素敵なレストランになっている。レンガが年季入っているよね。
こういう特別な空間でのお食事は嬉しい。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
メニューはなくって次々にお料理が運ばれてくる・・・。最初が台湾お惣菜3種盛り。生卵・塩漬け卵・ピータンの3種玉子の蒸し料理、さつま揚げのようなものもプリプリで美味しい。
あちあちの麻油鶏は生姜とゴマ風味で決まっていたし、エビや芋の葉のお料理もよかった。角煮も。大根入りの排骨スープも
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
このお魚、鯛みたいなんだけど、これがやわらかくって旨味があって身もさくっととれて美味しかった~。 豆花(豆乳プリン)もデザートについてきた・・・ こんなに美味しく満腹になれて・・ありがとう。
と、店を出ようとしたら、奥にアンティークコレクションがあるから是非見て行ってください~と言われ・・・ 足を踏み入れたら・・
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
板に直接描かれたバラの絵の額入り
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
日本製のアンティークがずらり。
箪笥や引き出し。鉄の鍵と銅のつまみと・・。これは何が入っていたのだろう・・・
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
これは自転車の後ろに乗せる配達用の出前のケースね。オムレツとかほこほこ熱いのを急いで運んだのかな。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
これはお店のお金管理用キャッシャー。親切 勉強 って書いてあるのは、顧客対応への心構え? Japan Tokyoの文字。木製よね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
SEIKOの大きな時計。お店とかに掲出していたものかしらね。真ん中の穴は動力源用スプリング(ぜんまい)を手巻きする穴。左に回す矢印。電池使わないからエコでしたね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
お薬屋さんのお薬一覧。
**丸とか、***丹が多いのね。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
こちらは更に大きな表示だからかなりのおすすめのお薬か・・
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
こちらもお薬を入れる壺。
そういえば、何人もの台湾の人に言われたことがある。お薬は日本製が信頼できてとっても安心だって。
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
あ、昔の看板、太田胃酸だ~。
まさか、食べすぎちゃったかもの僕にこれ見せたかったのかしら・・・ふふ
台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
わー。美味しかったし面白かった。
ぽーっとしながらお店を出ると、ちっちゃなワンちゃんが・・・
人懐っこい足取り。
かわいい影がゆっくり通りを横断していった・・・
おやすみなさい~
ありがとー。台南。
“Footprints と Reborn”
台湾で出会ったそれぞれの町がユニーク。今までに体験したことのない、時間を超えた遭遇に驚いてしまう。台南は歩くとそんなドラマが次々に繰り出してくる・・・
台湾大好きJちゃんNちゃんに教えてもらった「ハヤシ百貨店」。2013年に超久しぶりに再開した「デパート」。まるでタイムマシンに乗ったみたいに1930年代をリアル体験できる。しかも日本の記憶満載・・。 屋上に残る戦争で壊れた鳥居。当時の最先端設計と施工がよみがえった空間。階段、窓、床、天井・・・そして売り場。1912年に日本から来てビジネスを起こした林さんが1932年12月完成直前になくなってしまったこと、そのあと戦争で破壊されてしまったこと、敗戦でビジネス撤退したことも悲しい現実。だけど、まさかの修復と新ビジネスの展開。彼の足跡を活かして今の人達が未来に向かって新しく歩みだしているのは感動的で涙だった。 宇治抹茶ソフトが終わってしまっていて食べられなかったのは残念だったけど・・。
「窄門咖啡」(Narrow Door Café)はまさかの38cm巾!通路の奥にあるカフェ。これも100年以上前の木造民家を頑張って活かして国内外の若者たちや観光客の人気スポットに生まれ変わっている。孔子廟の見える窓辺で芳しい香りの中の置物猫ちゃんは幸せそうだった。
清朝時代に建てられた家屋を活かしたレストラン「筑馨居」も素敵だった。年季の入ったレンガの中で人々が美味とともに交流。そこにも大切にされていた日本のアンティークたち。イキイキとインテリア演出の役割を享受しているみたいだった。
台南では流れている時間が今の時間だけでない気がする。その時代の人達とともにそのリズムで呼吸しているような感じ。その空間に身を置いてみると、その時代の人達と共に自分も元気になって次に向かって生まれ変わるような・・ 新しい一歩・・
ありがとう。台南。
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2023年より前の取材を元に書いております。現地のナビゲートや色々な情報は大塚典子さん、飯田淳さんにご協力いただきました。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。