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“佐渡の1月”
佐渡島篇 #82
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2025.01.22
“ 松に上るお日様 ”
わー、見事な松。あ、お日様も。
いつも外に開かれている能舞台。気持ちいい風が抜けて流れゆく。
新春の感触がまだ残る1月初旬。佐渡。
昨晩、雪は雨になり朝には静かに止んでいた。
島の真ん中あたりにある大膳神社を初めて訪れた。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
舞台背景の鏡板。松はしっかり枝を広げ、幹の元には笹がキラキラと光っている。そして、上の方には赤いお日様。見ているだけで元気になる。
そうそう、このお日様が一緒に描かれているのは大変珍しいとのこと。ますます佐渡でいろんなお日様に出会うのが楽しみになってきた。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
この能舞台は佐渡で最古のもの。
実は佐渡には30を超す能舞台がある。なんと日本全国の1/3以上がここに・・。
室町時代の1434年、世阿弥は佐渡島に流されてきた。以降、今に至るまで能が演じられ続けてきている。当時はどんな演目だったのだろう? 自然あふれるこの土地で・・
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
1846年に再建された能舞台は茅葺(かやぶき)。屋根が自然とつながっている感じで嬉しい。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
能舞台の向こうに本堂。
境内にヒヨの鳴く声。ピーッと響いている。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
雪が雨に溶けてまた凍って少し残っている。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
苔蒸す石灯籠の美しいシルエット。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
しめ縄の向こうに整然と光る瓦屋根。
壁の矩形もたくさん綺麗に並んでいる。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
屋根の後ろには大きな常緑樹。寒さに負けていないよね。それにしてもすごい屋根・・
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
境内に続く参道。赤い鳥居の下には溶けた水。晴れた空を映している。
大膳神社, 竹田, 佐渡 by T. T. Tanaka
人影がない。僕の足音だけが田園光景の中、伝わってゆく。
新年の歩み。
狛犬のにらみ。
いい一年になりそう。
“ ドラマ、ドラマ・・ ”
スマホ地図の海際に発見した平根崎。西海岸(佐渡海府海岸)。気になってやってきた。古い建物跡脇に車を停めた。コートをはおって外に出るとワンちゃんがススススっとやってきた。僕の匂いチェック。かわいい。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
私; 「こんにちは。ここはワンちゃんのお散歩コースなんですか?」
女性; 「あ、こんにちは。そうなんですよ。ここは初めて?」
私;「ええ。海にここから下りれるんですか?」
女性;「そうそう。すごい斜面よ。子供の時は夏だと海まで下りてって泳いだりしたの。でも、雪の後だし、冬はすべるから気を付けてー。」
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
波蝕甌穴群(はしょくおうけつぐん)との標識。
リアルのイメージがわかないけど、行ってみよう。
海に向かうのは僕一人。
お、目の前一面に見えてきた岩盤をのぼると・・
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
えっ!
ずーっと平らに斜めに海にそのまま落ちて行っている・・・
でも足元みるとギザギザホゴボコあちこちに穴があいている。手で触ると痛い・・。雨水も雪も、そして海からの波しぶきもまざって水たまりがあちこちに出来ている。おそるおそるちょっと下りてみた。ここはお日様がちょうどまぶしく反射している。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
波打ち際はこんな感じのところもあって割れた?地層と激しい波たち。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
斜面の途中から海を真下にみるとかなり急。波の砕ける音がバーンバーンと上に上がってくる。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
お日様と逆方向はこんな感じ。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
下りてきた斜面を真上に振り返るとこんな景色。
斜めなんだけど平らな壁がどーんとまっすぐそそり立つ感じ。
表面はボコボコ穴があいている。
1700万年前に大陸が割れてそこに海水が入り込み日本海が誕生。そのとき海底に砂や石が積もった。その頃は亜熱帯で沖縄のような海。サメなどが泳ぎ、海岸には大型の哺乳類のパレオパラドキシアが歩いていたとのこと。近くのトンネル工事の際、その化石が見つかっている。カバの姿のようでカバじゃなく、マナティーや鯨に近いものだったようなのだ。この海底は、その後、隆起を繰り返し、島となってきた。その時に斜めに隆起してこの景色。そんな元海底に立っていると思うとなんか不思議な感覚になる。
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
平根崎, 戸中, 佐渡 by T. T. Tanaka
そして波打ち際にはちょうど人が入るお風呂くらいの大きさの穴があちこちに・・
これが波蝕甌穴(はしょくおうけつ)群(国の天然記念物)。
窪みに入り込んだ石が、寄せる波でグルグル回されながらだんだん大きな穴を作ってきているのだ。
これは海底に砂が積もっていった時よりずっとずっと新しい最近のドラマなのだ。知らなかった・・ 二つとも古いけど古さの違う地球の自然のドラマ!! すご。
あ、その穴に白波が入り込んでゆく!!
“ ちゃんと距離とっとかな・・ ”
とんでもない地球のドラマにボーっとして時間が経っていた。
おっ、空を見ると晴れている! この海岸線をもうちょっと車で走ってみたくなった。
青い海と青い空にウキウキ気分で北に15分ほど走った時、あれっ? 何?と気になったものが・・・。すぐ戻って車を路肩に停めた。
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
不思議な形の植物があちこちに・・・
近づいてみたら、なんと、ひまわり。夏に咲いたひまわりの花弁は飛んで、種が落ちずに残っているのだ。
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
っと、気づいたら海までずっと広ーいヒマワリ(向日葵)畑なんだね。
ん? 背伸びして海方向をみると海岸に見えるものは?
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
あー、墓地なんだね。
気付かなかった。
歩を進めてゆくと・・
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
墓石がいくつも並んでいて、綺麗にされていてお供えもお花もいくつか見える。
あ、カラスちゃんも飛来。
お日様が一日中さして、ちょうど海を見渡せる素敵な場所・・。
深呼吸。ああ、お墓参り、僕、しばらく行っていない・・・と思っていたら、まさかの人の気配を感じてビックリ!
ふりかえると・・
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
一人のおばあちゃんがそこに・・・
私;「こ、こんにちは。ひまわりを撮っていたら、こちら墓地なんですね。」
おばあちゃん;「ああ、こんにちは。誰や?と思ったわ。車で来たんやけど、前に車が止まっていたし。年末に来たままほったらかしで、久しぶりにお花もってきたんよ。」
私;「ここは海が見えるしいいところですね。」
おばあちゃん;「ちょっと離れた**村に住んどるんやけどね、小さい時からやからどうこう思わんけど。」
私;「なかなかこれだけ海広いのは気持ちいいです。」
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
おばあちゃん;(手に持ったお供えのお花に目をやりながら)「あのね、コロナ時期あったでしょ。わかったことあるんよ。」
私;「あ、はい。」
おばあちゃん;「普段、みんなくっつき過ぎてるの、よーくわかったねん。なんでもかんでも一緒はあかんわ。ちゃんと距離とっとかなな。大切なもんは大切にせな・・・」
私;「コロナの時は大事なもん、大事な人、わかりましたもんね。」
おばあちゃん;「ほんま、そうや・・・ そうそう、こんな時期に旅しにきてんの? 私らずっとこの辺やから島の他もあんまり知らんけど、佐渡広いからな、いろいろあるはずや。美味しいもんあるしな。自分のペースで歩くんよ。私もこんなとこで人に会えると思ってへんかった。何かおかげさんでスース―したわ。ありがとさん。あんたも気いつけてな。」
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
私;「はい。ありがとうございます。お会いできてよかったです。佐渡来れてよかった。まだまだ寒いですもんね。お気をつけてー」
北田野浦, 佐渡 by T. T. Tanaka
道路に戻る僕。
軽自動車が一台、道端に停まっていた。
山のシルエットの上の太陽がまぶしい。
肌を撫でてゆく風は冷たくも気持ちよかった。
“ 幸せな時間・・ ”
今日の泊は尖閣湾近くの達者海岸の尖閣荘。姫津漁港に近い。
待ってました。美味しいお食事!!
(悔しいかな今飲めない・・残念至極)
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
旅館の西野さんご主人と奥様がこだわっておられる地のモノ食材。お魚は近くの姫津漁港からのものと自ら釣られたものだけ。
先付けからして、エビの素揚げ、行者にんにくの佃煮、そして奥にあるのは、ふぐ卵!で 半年以上塩水で毒抜きして漬けたもの。すごーく美味しい。旨味と甘味とつぶつぶと・・。あー飲みたい。
尖閣荘, 達者, 佐渡by T. T. Tanaka
尖閣荘, 達者, 佐渡by T. T. Tanaka
コリッコリッのふぐ天ぷらに、紫の菊の酢漬けも美味しくびっくり。
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
お刺身は、サザエ、シャキシャキの地元のイカ、こぶりの鯛、夏にゲットして-60℃で保ってあったマグロ、しめ鯖。
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
こちらはシイラの焼き物。暖流の対馬海流に乗って佐渡に北上してくるのだ。思ったよりはるかに旨味があって弾力性もすごくあって別物みたいに美味しい。
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
お汁ものは、イカの旨味がたっぷり染み出たすまし汁。ごはん、入れたい・・!
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
お味噌の入った鍋はタラの身に白子入り!! 絶品。
ああもうこのまま食べつくしたら寝ちゃいたい・・・
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
と思ったら、蟹があるんじゃん・・!!
姫津港で水揚げされたズワイ蟹。この時期は御馳走定番なんだそう。イキがいいし・・ 一心不乱の食べつくし・・(あまりのことで蟹肉、撮り忘れ)
尖閣荘, 達者, 佐渡 by T. T. Tanaka
これで終わりと思ったら、なんと、このご主人が自ら打った十割そば。とれたてのメカブがまたねっとり旨味がまざりあい・・
今日の日よ、さようなら・・・
あ、そうだ、ふふふ。さっき奥様に教えていただいた佐渡でお好きな所、行ってみようっと。
“ 佐渡の1月 ”
1月の佐渡は面白かった。
そしてひろーく開かれた気分になれた。
雪は山付近で深く積もるところがあって大変なのだけど、島全体では沢山の人達が思うほど多くはない感じ・・ その雪の合間に訪れた能舞台。きれいだった。舞台背景の鏡板に描かれた松とお日様は忘れられないほど印象的。いつも舞台が外に開いていたことも素敵だった。外の自然とも、人々ともつながっている気がしたのだ。鏡板に松に加えて太陽が描かれているのは殆どないとのこと。それだけ佐渡では太陽の存在が大きいのかもしれない。600年近くもの長い間佐渡では能の伝統が大切にされ、日本にある能舞台の1/3以上がここにあるのだった。
そして平根崎。相当にびっくりした。こんな景色は国内外で見たことがない。
斜めに隆起した昔海底だったところがずーっとずーっとつながって海に落ちていっているのだ。それは1700万年前に大陸から裂け、離れて後に日本列島が誕生していったときの海底。しかも亜熱帯で当時の哺乳類も含めた様々な命の化石が含まれているという。いきなりタイムマシーンで着陸した感じなのだ。そんなところで夏には子供達が遊んだり、釣り人たちもめいめいの時間を楽しんでいる。今とつながりながら時空間を半端なく飛んでいけるのだ。
思わず背高の植物の面白い「実」を写真に収めたのだけど、それがまさかのヒマワリ(向日葵)の種だった。そこは人が開拓したひまわり畑で、お日様を沢山感じられる所だった。畑の奥の海のそばには墓地があった。遭遇したおばあちゃんとの会話は今でも覚えている。
人とのつきあいは大事だけど、ずっとくっついていてはダメだと。距離を大事にしなさい・・ 一人、お花を持ってお参りにこられた彼女はやさしかった。
ふと軍事侵攻前のウクライナ、キーウ郊外を訪れた時のことを思い出した。そこには一面に人々が育てているヒマワリが咲いていた。ヒマワリ(向日葵)には人を結びつける何かがある。お日様ともつながっているしね。
そして美味しく豊富な食材。旨味ってこうなのねというぐらい、口に入れてはつい、にっこりしてしまった。ご飯も。えっ、春には山菜もいろいろあるのね。えー、果物もミルクも乳製品も美味しいのか・・ 一つの季節を少し味わっているだけなのにもう他の季節も来ようという気持ちになってきた。
1月の佐渡、ありがとー。
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2022年1月初旬の撮影をベースにしています。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。