“Travel is ENCOUNTERS”<br>ラトビア(バルト海)篇 #52

“Travel is ENCOUNTERS”
ラトビア(バルト海)篇 #52

Photos, essay by T. T. Tanaka

Local / 2022.07.20

“Berry Berry Red”


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

わっ! 真っ赤に目の前に広がるいちごたち。となりも、そのとなりも・・・。
バルトの初夏は果物たちのラッシュで市場はキラキラしている。
はい、つまんで試食はもちろんOK. うわ、じゅわーっとで甘いわ~~!!


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

こっちはラズベリーたち。口にいれるとつぶつぶがほろほろっと甘い。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

男女問わず若い人もシニアも子供たちも訪れて、元気いっぱいの果物たちを買ってゆく。お値段はkg単位、ラトビアはEUに入っていて通貨はユーロ。

え・・・イチゴ1kg200円! Kirsi(サクランボ)は100円!!くらい・・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

味見でお店を決めたり、なじみのお店に今日も訪れたり・・・。
うん、お財布開いてゲット!


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

ここは中央市場なんだ。
果物とお金が元気に行き交っている。同時に会話も行ったり来たり・・。そう、笑顔もね。いつものあの人に会えるのは嬉しいもの。お店の人もお客さんもね。


“Lead Zeppelin? No, it’s Lively Zeppelin”


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

中央市場は超広い。5つもドームがあってそれぞれ食材が違う。
あ、こんな感じで、ドームの間の通路を楽しそうな足取り。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

あら、カクテルドリンク。シェイクするヒゲおじさんがにっこり。
そうなの、買うだけでなくっておいしく飲食もできるんだ。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

お鍋料理が。あ、こっちは巻き寿司みたいね。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

こっちのドームはこれでもかと次々にあらゆる種類のお肉が登場する。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

このエリアはいろーんなチーズたちの行進。ベーコン、ソーセージ君たちはその隣のエリア。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

となりのドームは魚介類の嵐。ヨーロッパではこれだけ揃うのはなかなかないみたい。ラトビアは豊かな海、バルト海に面しているからタラ、マナガツオ、ヒラメ、ニシン、スプラット(ニシンの一種)、大きなハマグリも、イカもタコもイクラも、いや、名前がわからないお魚たちもいっぱい並んでいる。塩漬けも酢漬けも干物も燻製も。瓶詰も缶詰も真空パックも・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

なんとここは毎日10万人! くらいも賑わう。ラトビア、リガの街は歴史地区として世界遺産登録されているんだけど、旧市街だけでなくって、ここダウガヴァ川近くの新市街の中央市場もその中に含まれている。そしてここは5つの巨大なドームが寄り添っていて1930年に市場としてオープンしている。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

更にびっくりしたのは、この巨大ドーム、1900年から世の中に誕生した、空飛ぶ船、飛行船に関係があるのだった。当時、世界的に話題を振りまいた、特大のドイツの飛行船、Zeppelin(ツェッペリン)。その格納庫がラトビア領内にあってそれが移設されたもの! 飛行船は大きいもので全長200mもあり、船より高速で航続1万キロ!! を誇った。海じゃなくて空を飛ぶ船。一時期、北半球周遊や、ドイツからアメリカや南米までの長距離空路線も運営されていた。なのに不運なヒンデンブルグ号などの墜落事故などあってビジネスも不時着してしまったんだって。
1968年結成のイギリスのロックバンド、Led Zeppelinは、この墜落事故、Lead balloon(鉛の風船;同じレッドという発音=)大失敗にからめた冗談からの命名ともいわれているみたい。
巨大な空に浮かび飛んで行く飛行船が「停泊」していたことをこのひろーい市場で空想するととっても不思議な気持ちに・・・ でもお買い物しているとウキウキと空をのぼってゆく気持ちになるのだった・・。あ、ドームの上には、尾翼の上の尖がった部分を覆う尖がり形が・・・!!!


“Seventh heaven from the market”(市場の幸福)


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

もう、市場のあちこちでいろーんな食材の匂いに出会って興奮していたら、わ、今度は、お料理のいい匂いに遭遇。ありました、FISH & CHIPSの文字が見えるシーフードレストランが・・。入らなきゃ。
調理具や秤や瓶などがインテリアに飾られていて、振り返ると壁のポスターがアートね・・。これは旧ソビエト連邦の缶詰の広告ね。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

ショーケースの中にはサーモンピンクがはみだしたサンドイッチやカナッペが並んでいる。金色に光るニシンの燻製も・・。えーっと、そのこたちと、スプラット(ニシンの一種)のマリネとベイクドポテトセットを頼んで、あ、それから東欧~ロシアの微アルコール飲料、KBAC(クワス)(クアーズじゃないよ~)も飲んでみよー。
あら~美味しいわ。サーモンはもちろん、ニシンは身は脂がのってて甘味がほんのり。旨味があるね。KBAC(クワス)はライムギと麦芽発酵のようで酸味がきいたさっぱりした飲料。お魚たちと相性よくって食が進んでしまう。空間も面白いし、つい、もっといたかったんだけど、入口で待っている人たちもいるからね。Paldies(パルディス -ありがとう-)と声をかけて外に・・・

と、思って歩きだしたら今度はドリンクバーが・・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

え、何、400円くらいなんだけど、PURVA MEDUSというボトル。訳をスマホでみたら沼地(Purva)の蜂蜜(Medus)!! ラトビアにはかつては地球で最北のワイナリーがあったらしい。それにスグリやグースベリーや、ラズベリーや野リンゴやさまざまなベリーでデザートワインも作られているし、バルサムといわれるリキュール類もある。これはヨモギやショウガや樫木や樺の木、オレンジの皮などさまざまなもので作られる。いろんなドリンクが「発明」されて次々出てくるようなんだ。この蜂蜜酒を飲んでみるね。前に飲んだドイツの蜂蜜酒(ミード酒)はとーっても強かったんだけど、これはローズマリーのような香りがほんのりして、思ったほど強くなく、苦くもなく、素敵な甘味がまわってスッキリ。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

そうなのよ~
なんでこのバーに立ち寄ったかというと、グリーンヘアの女性店員さんの魅力にひきよせられてしまったからなんだ・・・
飲んでる僕に、どう~っ? て感じでちらっと目くばせ。
グッドよ~と指サインを送っちゃった。
「味も香りもわかる俺スタイル!!」で背筋のばしてかっこよく飲んだ(つもり)なのであった・・・
ああ、まさかの至上の幸福(Seventh heaven)・・、え、いや、市場の幸福・・・。
ふと、グリーンヘアの向こうの窓に目がいった。
空に陽が傾いてきているのがみえた。
あ、いそがなきゃ・・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

外に出ると足早の人たちが・・・。カップルたちのクイックな笑顔も僕を追い越してゆく。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

パパとお嬢さんかしらね。
パパがお買い物バッグを下げて、
さあ行くよ~。
はい。ちゃんと手をつないであげてね。
今晩のお食事は何かしらね。
バッグの中から幸せがのぞいている。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

こちらはベンチ前。お花を買って帰る女性が・・・。
買ったものはカバンに詰めかえて、お花は大事に持って帰らなきゃ。
久しぶりに会うお母さんにかしら? それとも大切なお祝いかしら?

みんなに至福の時間をね~
Seventh heaven from the market.


“Fool on the tower”


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

明日はもうこの地を去る。市場を出たら、リガの旧市街にちゃんとサヨナラをしたくなった。高さ123m聖ペテロ教会の塔に上った。
平らな陸地に雲がダイナミックにかかる。
男の子とママのシルエットがくっきり。どこまでもどこまでも景色は続いている。

ラトビアで遭遇したいろんな人の笑顔も、僕に寄ってきた猫ちゃんたちのことも思い出す。初日に見たユールマラ(Yurmala)海岸の日没のことも忘れられない。
その海岸の背後に広がる大湿地帯。行かねばと気にしつつ、ついに最後の日になってしまった。最後の最後で、もう日没に間に合わないけど、西に向かうことにした。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

車を西に飛ばして40分。Kemeri大湿地帯の入口に。ここからNational Parkになっていて4kmほどのボードウォークにつながっている。
ああ陽がちょうど落ちるくらいだけどまだ見れるはず・・。
いそげいそげ・・・
塔の影が目の前に見えてきた。
ボードの途中にある見晴らし台。
はやる気持ちをおさえつつのぼりきると・・
青い上空とほんのり赤い水平線と・・映りこんで反射する池たち。
これを見ているのは僕しかいない。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

紀元前4000年ぐらいまではまだバルト海の一部だった20km×20kmの公園エリア。湖が点在した湿地帯。第二次世界大戦では沢山の戦車がこのぬかるみにはまり沈んでいった・・・。ミネラルを含む泉や硫黄泉も沢山あり、貧栄養だからこそ野生の様々のベリー類(クランベリー、クロウベリー、クラウドベリー、ブルーベリーなど)が育っている。酸素が少なく大きな木はあまり育たず、逆に光線は行き届いて様々な貝類やコウノトリやカワウソなどが棲息して自然豊かなところになっている。昼間も来てみてみたかったな・・・。
黄昏時。低木のシルエットがブルーの湖面に反射してくっきり鮮やかに・・・。思わず凝視してしまった・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

やせた白樺の木の向こう。日没とともに地面が冷えてどんどん霧がわき立ってきている。地面が雲海のように・・・。
ウォーキングボードはどこまでもどこまでも続いていてこの世のはてまでいきそうな感じ・・。その空はうっすらとピンク色に染まっている。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

夜が近づくとみるみるブルーが濃くなってくる。空も湖も。
緑の葉っぱの背景の色が徐々にフェイドアウトしてダークになってゆく。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

どうして反射している方がくっきり見えるんだろう?
リアルと虚像と、どちらも素敵だけど、映りこんでいる方に目が釘付けになってしまう・・。

そして、さらに時間がたつと・・・


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

この水面にはさらに色んなブルーがあふれてきた。
もしかしたら海に今でもつながっているのかもしれない・・・。
いや、はるか昔につながっているのかもしれない・・・。


Riga, Latvia; by T. T. Tanaka

もと来た方へ戻ろう・・・。
くるっとターンしたら、一面の霧が向こうから押し寄せるように流れてきた。
消えそうなピンクがわずかに混ざっている。
どんどん暗くなってあらゆる姿が見えなくなってゆく。

もう本当に暗くなってしまう。急いで帰らなきゃ。
カメラをバッグにさっとしまって、立ちあがろうと上を向いたら、
なんと、空いっぱいに星があらわれてきた・・・。

夢のような空間から現実に戻るのは・・・と気持ちが落ち込んでいたら、
ちゃんと現実の空も素敵なのよ~とくっきり見せてくれた。

ありがとう、ラトビア。
きみのことは忘れないよ。
さよなら、ラトビア。


※ “Fool on the tower” じゃなく “Fool on the hill” は1967年にビートルズが発表した曲。以降さまざまなミュージシャンによってカバーされてきていますよね。検索してみてください。


“サヨナラ、Latvia”

2022年1月から連載してきたラトビア特集も今回で終わり。
途中で思いもかけなかった軍事侵攻が発生し、コラムを書く気持ちもグラグラ揺さぶられてしまった。こんな事態になる前に訪問したラトビアも、バルト海をはさんだ国や、また陸続きの列強たちに繰り返し翻弄されてきた歴史がある。コラムでも触れたBridge to nowhere(行く先のない橋)や運河になりかかった古都KuldigaのVenta川に横たわるヨーロッパで最大幅の滝、ベルサイユ宮殿と比較されるルンダーレ宮殿・・・。
美しい景色とそこに潜む悲しい歴史と・・。
その流れの中で民族は頑張り自分たちの国を築いてきた。


初日に見たバルト海リガ湾に沈む夕陽。
最後に見た大湿地帯に沈む夕陽。
この二つの夕陽の間に遭遇した村や町の美しい光景や人々、いきものたち。
どうしてあんなに素敵に感じたんだろう?
瞬間瞬間で見た素敵を都度かみしめなおしていたような気がする。
もしかしたら複雑な背景の深い味がにじみ出ていたのかもしれない。

最後に見た暮れゆく湿原の光景は今までみた日没でもかなり強く印象的なのものだった。リアルにストレートに目に飛び込む像より湖面に反射して目に入る像の方に心ゆさぶられた。湖には、はるか昔からの水が湧いているのかもしれない。
さまざまなミネラルを含み、ゆっくりゆっくり海に流れていっているのかもしれない。
いきものたちが起こすゆらぎの水に空の色も混ざりこむ。
やせた木々なのに、映りこむ姿は別のいきもののようにくっきり鮮やかにイキイキしていた。

自分をとりまく空気や水や光、支えてくれる舞台、そして一緒に踊ってくれる人たち。
自分自身も大切だけど、みんなとともに、時の流れと自然の中にいる自分はもっともっと素敵なのかもしれない。

そんな勇気をラトビアからいただいた。
ありがとう、ラトビア。


Photos, essay by T. T. Tanaka

(※2022年より前の取材をもとに書いております)


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