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“Travel is ENCOUNTERS”
(ワイオーミング篇) #18
Photos, essay by T.T.Tanaka
Local / 2019.08.20
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Devils Tower
6月後半、Gillette(ジレット)空港に降り立った。
アメリカ、Wyoming(ワイオーミング)州東部の人口3万人の都市。
空が広い。そうそう。これなんだ。グレートプレイリーといわれる大草原。
アメリカ大陸の西には高さ2000~4400mのロッキー山脈が南北に走っている。そこから500km東にくると、もう全然フラット。同じ州なんだけどね。
空港から更に東に100㎞。たまに起伏があるけどずーっとずーっとハイウェイをまっすぐ。そして北に曲がって40分くらい。。。
「み、見えた~! あった~! ひえーあれだ~!!」
Devils Tower(デビルズタワー)。
大草原の中に忽然と現れた巨大なタワー!
ここに来たかったのだ。
木があんなに小さい。そう。地面から高さ300mもあるんだって。
山というよりタワー。近づけば近づくほど今までに味わったことのない不思議な気分になってくる。
ここはどこなんだろう?
え、す、筋が上から下までずーっと走っているし。。。
ど、どうやってできたの? どうしてできたの?
Devil(悪魔)っていうからこわいのかな?
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Devils Towerはアメリカで1906 年に最初に認定されたNational Monument(国定公園)。多くの子供たちは遠足できたり、夏休みとかに大勢でやってきたりするんだ。 真下まで行けて、「塔」のまわりを一時間くらいで歩いてぐるっと回れるんだ。ね、ほら、どんどん迫ってくるでしょ。
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縦にするどく走る柱のような(柱状節理)のが2億年前、地中から噴出したマグマの跡なんだ。そんな昔の地球のしかも地中からの噴き出し。。。
この地域には我々祖先とも近いアメリカインディアンが何部族か住んでいた。彼らの中ではあの縦ラインは、巨大な熊(グリズリー)の爪痕だといわれていたんだって。熊は大陸で一番大きな哺乳類だったから特別な存在でさまざまなモチーフに使われてきている。この「塔」は多くの部族にとって聖なる地だったのだ。
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柱はずっとずっと伸びてそのまま空にささっている。マグマの勢いはすごかったんだね。青い空には大きなコンドル(turkey vulture)が舞っている。
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柱を拡大してみるとほんとにずーっとつながっている。マグマが急冷してぎゅっとつまってこんな巨大な縞模様になったんだね。均質な単色ではなくてさまざまな色が混じっている。すごいなーと見とれていたら、その前をコンドルが横切っていった。このコンドル。巨大で羽根を伸ばすと3m近くにもなるんだよ。
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わあ。このカーブ。まわりからぎゅーっと絞り出すような感じで噴出したのかな・・・? その前の松はすっと伸びているんだけど、小さくてかわいく見えてしまう。
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地表部分はこんな感じで大きな石がごろんごろん。。これらは地中深くにあつーくどろーっととけて流れていたのに地表にでて一気に固まってそしてくだけたんだね。
実はDevil(悪魔)って呼ぶのは恐ろしい存在で悪魔が宿っているからではないんだ。コロンブス以降、新大陸とされたアメリカ大陸にヨーロッパからどんどん人が入ってきた。彼ら
にとっては「新発見」が繰り返されていた。そこにはアメリカインディアンたちとの壮絶な戦いがいくつもあった。次々に探検隊が東から西へ、ロッキー山脈へ、そしてそれを超えて太平洋側まで行くんだけど、この地を探検した時、通訳者が熊信仰の地で聖なる場所を間違ってDevilと訳してしまったらしい。それ以降来た人たちの間で誤訳が広まってしまい、その言い方が定着してしまった。なんということだろう。。 残念なことに彼の頭には聖なるものかもという連想回路がなかったのかもしれない。
大分前になるけど1978年当時32歳のスティーブン・スピルバーグ監督が作った映画、「未知との遭遇」(Close encounters of the third kind)でUFOできた宇宙人と地球上の人類が遭遇する象徴的なシーンがここなのだ。 アカデミー賞を受賞している。
ちなみに彼は砂漠の広がるとなりのとなりの州、アリゾナで育ったんだ。砂漠のシーンも出てくるのよね。今年、アリゾナ砂漠を移動していたとき、地面に立つと宇宙が手に届くくらいとても近く感じられた。その地面を突き抜け「塔」が空にささってしまうと、もう宇宙の中だ。「塔」は宇宙とどんどんつながる基地のように思えてくる。
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今日も、国内外からの老若男女たちが「塔」を目指してゆく。
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「塔」をぐるっと回りながら広がる大草原をのんびり楽しめる。くねくねと川も流れている。そうゆるい少し起伏があるね。草原をコンドルがゆく。
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あら。松ぼっくり。木はすっすっと高く伸びている。大昔の噴火の後の大草原にはあちこちで元気に育っている。種は鳥さんが運んできたのかしらね。
そういえば、松の実を食べていた恐竜もいたんだった。。。!
きょ、恐竜がDevil’s Towerの前で松の実、食べている光景って・・!
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聖なる煙---The Circle of Sacred Smoke
ワイオミング州の北西部にYellowstone 国立公園がある。火山帯で温水が高く噴き出す泉があり、きれいな山川や生きものなど日本でも割と知られていてツアーもある。同じ州だけどそこから東に500㎞以上離れたこのDevils Tower National Monumentは日本では殆ど知られていない。でも世界中から年間40万人が訪れているんだ。アメリカ人なら多くの人が知っている。
アメリカ国旗が高く掲げられた入口でパークレンジャーに入場料を払う。25ドル。なんと一週間! も有効。
彼女に聞いてみた。
「あの、まあるい輪の大理石の彫刻がこの公園内にあるって聞いてきたんだけど、どこにあるの?」
「はーい。入って左方向にずっといくとメインのキャンプ場に行くサインがあるの。その近くだからすぐわかるわ」
窓をあけて慎重に運転する。
「あった、あったー! しろーいリング~!!」
Devils Towerを真正面にみるベストポジション。彫刻をぐるっと眺められるようになっていてベンチもある。彫刻の説明には 日本の彫刻家、Junkyu Muto作と記述されている。
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作品のタイトルは、The Circle of Sacred Smoke by Junkyu Muto, 2008
Nativeインディアンの女性が昔、パイプを部族にささげた。みんなのお祈りのときの聖なる煙。武藤順九さんはこれにちなんで作品を作ったんだ。彼は東京芸術大学を卒業して石の彫刻がやりたい一心で20代でイタリアにわたり、ずっと作品をつくってきた。このSmoke ring、ねじれたメビウスの輪みたいで、とても石で作られたとは思えない。彼は、人が自然を征服するのではなく、私たちは自然とつながった命なのだととらえている。作品は自然の妖精。素材の大理石は大昔からの生きものたちの歩みが凝縮されたものでもある。彼の作品はローマのバチカン、インドのブッダガヤにも永久設置されている。人種、宗教、国を超えて愛されているのだと思う。この作品に是非会いたかったんだ。
(※2019年6月より東京都昭島市昭和の森に作品が9体設置された)
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Devils Towerにふんわりと聖なる煙がのぼっていくみたい。
Devilじゃないんだもの。
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Devils Tower, Wyoming; by T.T.Tanaka
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Devils Tower, Wyoming; by T.T.Tanaka
煙の合間に「塔」が見え隠れ。曲線の光と影が浮かんできれい。
Smoke ringが空の雲と会話しているみたい。
太陽が動いていくとどんどん表情も変わって面白い。
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子供たちをつれたファミリーも、シニアも、カップルも、お祈りのインディアンたちも次々にやってくる。みんなで彫刻とDevils Towerを一緒に撮ったり、彫刻の感想をそれぞれ言ったり、彫刻に触れたり、そのまわりをかけっこしたり、まわりの砂を素手でもりあげて塔をつくってみたり、彫刻の中に顔を突っ込んだり。。 わあわあやっている。
一日本人の作品がこんなにみーんなのものになっているのを見ると本当にうれしい。
感動してしまった。アートってこうありたい。アートがみんなのものになると幸せだ。
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お祈りをしているインディアンのカップル。そこにやってきたおじさんは彫刻に興味津々。
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「こんちは~。キャンプ中なの?」
「そうそう。彼女ときてるの。君はどこから来たの?」
「日本から~。その作者と一緒の日本人なの~」
「え~! 作者は日本人なのかい? この作品、いいねえ。大好きだよ」
「それは嬉しいですね。いいキャンプしてくださいね~」
「はいよ~」 彼は去っていった。と思ったら、3分後にあわてて僕のところに戻ってきた。
「僕の写真撮ってくれる? ね、彼に、僕の写真と一緒に最高だったって伝えておくれ~」
「うん。じゃ作品とDevils Tower後ろに手を振ってにっこりしてくれる?」
「おう。こんな感じかい?」
嬉しい嬉しい時間だった。
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アートと自然と人々と。
雲の流れをぼーっと見ているとあっという間に影が長くなってくる。
女性たちのシルエットも美しい。「塔」と「彫刻」を思わず振り返ってしまう。
そうそう。ここから立ち去りがたいんだ。
でも、そろそろ行かなきゃ。
後ろ髪をひかれる。。
あ、今晩泊るB&Bに行ってチェックインしにいかなきゃ。。
気が付いたらランチ、プリングルズ(ポテトチップス)しか食べてないじゃん。
食べに行こう、食べに行こう。あまいものも欲しくなってきたよ~。
喉も乾いていた。。
う・・ん? Devils Towerがプリンに見えてきた。マグマじゃなくてカラメルが縦にとろーっと。いやあんな形のかき氷があったよ~。たかーく盛ってあってスイカのシロップとか、かかってるの。ここはアメリカだからメープルシロップかかってもいいよ~
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公園を出て10分ほどでカフェが見えたので車を止めた。
太陽が斜めにさしている。
あら、お家の壁にDevils Towerのシルエットが。。。!
フェンスの上に飾られている鉄細工の影なのだ。
きれい。ちゃんと夕方になると壁スクリーンの上に映るようにデザインしたのね。そうか。冬はもうちょい左にずれるのね。
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カフェ。
お腹すいているから入るんだもんね~。
え、入口頭上にコンドルがいるじゃん。
Devils Towerまわりにも沢山飛んでいた。
ね、こっけいな顔がかわいい。
コンドルで顔が赤いのは七面鳥みたいでTurkey vultureっていわれているんだ。
食べに来た僕がぼんやりしているとコンドルに食べられちゃうよ~。
でも、こんにちは。
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Platters(お肉大皿)にしよーっと。うん? Menuにやたらsmokedってあちこちに書いてあるね。頼んでみようっと。ふーん。バーベキューみたいに外でゆっくりスモークするんだ。
わ、出てきた。すごい。大きいよ~。そう。頼んだCoronaビールもね。ライムと一緒に。
ぐびぐび。。あー。大陸に来た感じがする。あ、いかんいかん、ヴェジタブルファーストだった。貴重なブロッコリ、最初にたべなきゃ。。
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このままDevilsの夢をみてしまいそうだったところ、ブラックコーヒーをいただいて頑張って立ち上がった。
あら、キャッシャーのところにクマちゃんいるじゃん。かわいい。
Devils Towerの縦の筋はクマの爪あとっていわれていたんだった。うーん。このキュート
なクマちゃん、爪をうまく使って木登りは得意そうだけど、マグマへの彫刻はまだできないね。でも、頑張って生きて~。大きく育ってね。そのときは会えないと思うけど、ちゃんと彫刻は拝むよ。 みんなも守ってね~。
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レストランを出たら陽がもう落ちていた。
道路の脇に思わず止まってしまった。
青い空に雲のシルエット。赤い空にDevils Towerのシルエット。
大草原の日没は宇宙につながっていた。
あのJunkyuリングにふんわり乗っかっていきものたちも人々も宇宙人に会いに行くのだ。 ありがとう。Wyoming。生きててよかった。
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「Your Devils Tower?」
Devils Towerには本当にびっくりした。
月並みだけど、この世のものとは思えない造形だった。自然が作ったものなのに。
なんでここに来たかったかというと、一番は武藤順九さんの作品に会いたかったんだ。次に最初のNational Monumentであることや、スピルバーグの映画の代表的シーンのところであることも引っ掛かっていたが、その”Devil”という名前が気になっていた。自然のものなのになぜ悪魔と言っているのだろう? ひょっとして相当危険なところなのか?などとも思った。しかし、その英式ネーミングは探検隊同行通訳者のほんの誤りだったとわかったときにはヘナヘナと力が抜けてしまった。
きっとその通訳者もこの「塔」をみて腰を抜かしたに違いないのだ。ただ、彼はインディアンにとっての聖地であることや、畏怖の存在でもある熊の爪痕を連想するより、悪魔の仕業と考える方が合点がいったんだろう。現在にいたるまでこの地名のままなのは、多くの人にとっては納得しやすかったせいなのか・・と思うと悔しい気持ちにもなる。
これから、まだ未体験の場所は、ちょっとした情報から自分の思考パターンで単純に
頭を巡らしすぎないようにしようと思う。DevilではなくてSacred(悪魔ではなくて聖なるところ)だったもの。
そして、「塔」はこの世のものとは思えなかったけど、この世のものだった。ただ、普段は見えない自分たちの奥のマグマが大量に表に出ただけ。人の血液みたいなものかもしれないね。
私たちの作品や、プロダクトも、Devils Towerかもしれない。奥にある熱い思いやキモチが表出してカタチとなって初めてみんながおどろいたり、よろこんだり、幸せになったり
してくれる。
そうだ! どんどん、自分たちのDevils Towerじゃなかった、「熊の爪痕」を見てもらおうね~。
あ、宇宙人にも見てもらえるかも~。
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イラスト、ロゴデザイン by 瀧口希望
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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