“Travel is ENCOUNTERS”
台湾篇 #54
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2022.09.26
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
ビーチの向こうは大海原。
太平洋の波の音が体中に降ってくる。
目の前に石がころんころんとまあるい。
ちょうど、手のひらいっぱいの大きさ。
つるんとしているんだけど、筋があったり凸凹があって、結構重たい。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
こっちは緑のころん。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
こっちは白っぽく大きなおにぎりみたい。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
白い筋が入っているちょっと平べったいころん。青味もまざっているね。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
縞々入りソフトボールみたいなのもあるんです。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
これはなんか地図みたいな紋様混じり・・。
まあるい石達がこんなに素敵にころがっているなんて思わなかった。
ここは台湾の南東の海岸の町、台東。人口約11万人。
まわりはどーんと太平洋が広がっている。
最南端の墾丁(Kenting)にいたとき、台湾の東海岸に行ってみたくなった。バスで鉄道の枋寮駅まで1時間。そこで山の中を突破する列車に乗り継いで1時間。大変じゃなくって快適に途中の温泉街や素敵な海や渓谷を見ているうちにあっという間に着いてしまいます。
僕は地質とかに詳しくないんだけど、台湾は海のずっと底で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに入り込んで数百万年かけて盛り上がってできたんだって。高いところは3000m級の中央山脈となって南北に走っている。東は河川や海の浸食や堆積が繰り返されて変化に飛んでいる。1600年代の大航海時代にポルトガル、スペイン、オランダが台湾に来ているのだけど、ポルトガル人が台湾東部の自然の景色に圧倒されて「FORMOSA(美しい島)!」と叫び、以降台湾はフォルモサとも呼ばれてきた。台湾の東の景観は西とは随分異なり、農業文化も長く息づいていて"台湾の裏庭"とも呼ばれてきたんだ。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
大海原の波! すごいでしょ?(海怖い人ごめんなさい・・・)
まあるい小石たちにぶつかって一気に消えていく。
一瞬遅れて流れくる海風は頬や耳や腕でも目いっぱいに感じられて気持ちいい。
歩くと、ころんころんの石達に遭遇するのはちょっとしたドラマで飽きないし・・・。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
海から一歩二歩下がると、キラっキラっの光の回廊が伸びてゆく。太陽がまぶしい。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
沖には漁船のシルエット。船首が上がったり下がったり・・・。
白い波しぶきをあげながら進んでゆく。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
振り返るとパームツリーが一本。
すごーいところにまた来てしまった。
「裏庭」って言われてきたところみたいなんだけど、ダイナミックなドラマにどんどん出会いそうだ・・・。
“チヌリクラン(Cinedleran)”
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
あのパームツリーをあとに、海岸から町の方に戻ってゆく。
おじさんの自転車も過ぎてゆく。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
海の近くってあまり大きな木が多くはないんだけど、ときどきこんな大きな木立がある。やっぱり木陰は気持ちよくって木漏れ日の下、ちょっと休憩よね。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
町に近づいてくると、こんな感じでバイクのお兄さんお姉さんとすれ違う。
あ、そうそう、一旦停止ですよ。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
と思ったら、キーコキーコと自転車が・・・。
おじさんに手を振ったら、にっこり。
言葉がわからないんだけど、壁の方を見て見て~って感じで指さしてくれた。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
わっ。この壁にたーくさん絵が描かれている。ここは小学校の壁で行く人たちが楽しめる通りね。
これ、きれいなお舟。カラフル。お魚も泳いでいて。あ、さっきのビーチもこんな感じだった・・・。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
わっ。これは儀式ね。沢山の人が舟をかついで海に出てゆく。舟の上の人は兜みたいなものをかぶって、刀を持っている。舟の前後のへさきには飾りがついている。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
わ、皆で漁をしている。トビウオ(飛魚)が飛んでいるね。
後で調べてみたら、海岸から70kmくらい沖の蘭嶼島(Lanyu Island)にタオ族(別名ヤミ族)が住んでいて、昔から伝統的な漁や農業を営んできている。子供たちが描いた絵はその人たちのたくましく元気な様子だったんだ。漁はトビウオやシイラなどがメインで、その船がこのチヌリクラン(タオ語)といわれる木造船。みんなで舟をかつぐ儀式は威嚇して悪霊(アニト)をはらうとのこと。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
これで僕、謎が解けました。
台東新駅の敷地内に展示してあった見慣れない印象的だったこの舟!
何かと思ったけど、まさに、そのチヌリクラン!
へさきが上に大きく尖がっている。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
全長は7mくらいだろうか。一本をくりぬく丸木舟みたいに見えるけど、20枚ほどの竜眼(リュウガン)やフィリピン原産ともいわれるパンノキなどの材木を組み合わせているんだって。赤、白、黒3色が多く、赤は赤土のベンガラ、白は粉砕した貝殻、黒は煤(すす)でイキイキ、くっきりしている。描かれているそれぞれの紋様がとっても力強くきれいで、でもほっこりもしていて印象的。どんな意味が込められているんだろう?
ほら、この鳥ちゃんもね。
(2006年にドキュメンタリー映画「チヌリクラン 黒潮の民ヤミ族の船」(イギリス、アンドル・リモンド監督)が制作されていることがわかった!!)
“石のドラマ”
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
ここは新駅の入口。正面奥に赤く見えているのがチヌリクランの船。
いろんな人たちが人を待ち、人を見送り、そして往来する広場に設置されているんだ。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
その広場の中にこんなカラフル、モザイクが・・・。
PUYUMA 。プユマ(卑南)族のことだと気づいた。
実は、台東に来たら是非行ってみたいと思ったところがプユマ(卑南)遺址公園なんだ。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
プユマ(卑南)族はこの台東地区を中心に全台湾に13,000人ほどいるといわれている。
ひょんなことでその存在を知った。台湾国内のあるセミナーで横に座った親日の学生。自分の先祖がプユマ(卑南)族で台東に行くなら残っている古い遺跡に是非行ってみて~と教えてくれたのだ。聞いた内容を詳しくは覚えていなかったんだけど、彼の人懐っこい笑顔と親切な印象で行きたい! と思っていたんだ。
まあ、来てビックリ。唖然。場所がまた意外なことに駅のすぐそば。台東は山が海に迫ってきているのだけど、鉄道の台東新駅工事中の1980年に地下から石棺が数千体!! も発掘された。遺跡は80ヘクタールもあり、その中に2~3000年前の大集落が完全な形で発見された。台湾での発掘集落の中では最大。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
住居跡がくっきり・・・。石がいたるところで使われている。斜めに大き目の石が整然と並んでいるところは床の部分のよう。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
右下の方にあるのは石の階段! そして上の方にあるのは直角に曲がって曲がってゆく石の壁。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
手前が石臼。左真ん中あたりのものはまあるく石積みした構造物だけど何かしら・・・
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
↑これ。いっぱい使われている石、これらの形、あ、あの海岸で見た石たちにそっくり。色とりどりで。上流から海に流れていく大量の石たちが使われているのね。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
これは石臼の拡大。陸稲や粟(あわ)などを植えていたようだからそれらを臼でひいていたのね。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
こちらは縦に石の薄い板を柱のように立てていて、残っている部分みたい。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
こういう薄い石板があちこちで出土している。長さは1.8m~3.6mのもので直径12cmか13~15cmの穿孔が空いている。石板は地面に立てて住居の柱として使ったみたいなんだ。穴は、そこに梁を通したんだそう。軽くてまっすぐなフウ(マンサク科の落葉高木)やヤシ科の檳榔樹(ビンロウジュ)が使われてた。壁や屋根の表面や小さな梁には刺竹(シチク)や長枝竹(チョウシチク)を使ったんだって。
最初この石板を見たときは何に使うのか、なぜ穴があいているのか全く想像できなかった・・・。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
この石たちは、海近くのすぐ北の山中の産地から卑南大渓(河川)で運び出していたみたい。都欄(Dulan)山は標高1190mあって聖地とされている。
こんな感じでまあるく綺麗にくり抜いてある。どんな方法でやったのだろう? 沢山の石板にやるなんてすごい。そんなことができる職人たちがそろっていたんだろうね。
腹ばいになってこの穴をのぞいてみたら、ちょうど秋の落葉が黄色い顔を覗かせてくれた。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
こんな大木も育って枝ぶりも見事。こんな木の陰に大きな家が並んでいた当時の景色を見たかった。
イタリア、ポンペイの遺跡で家や街の跡をみたけど、あれはAD 79年だからここの遺跡はそれより500~1000年くらい前かもしれない。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
これが月形石柱といってここの遺跡のアイコンになっているもの。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
後ろにまわるとこんな感じ。確かに石の板ですね。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
ほらね。三日月のような感じ。
でも、どうして、これ、月のような形なの?
ようやくとけた謎。この板が長い年月の中で、偶然何か自然の力がかかったのかちょうど真ん中で割れたんだね。まるで自然が作ったアート。こんな割れ方をする石もいくつかあるんだ。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
そうそう、こういうのもあの小学校の壁画にあったんです。
今でも残る大昔のおうちの石柱さんたち。
太陽と山と川と海と、そして穀物やお魚さんたち。
海には海の民がいて、山には山の民がいて・・・。
イキイキと命をいっぱい感じさせてくれる絵です。
今のこどもたちが描いてくれた。
とってもとっても嬉しい気持ちになりました。
ありがとー。
台東(Taitung), 台湾; by T. T. Tanaka
ピーッと高い鳥の声で思わず振り返ると綺麗なシルエット。
竹の枝の先に鳥たちが・・・。
風にゆられて、月形石柱に近づいたり離れたり・・・。
あ、石柱が横顔みたいに見えてきた。一緒にお話しているみたい。
こんな会話をこれからも大切に大切にしていきたいなあ。
すごいこと、素敵なこと。
台東にきて出会えてよかった~
“Moon of the East”
丸石や東に出づる月を見て
台湾の東、台東にやってきました。
西海岸は台北、台中、台南、高雄と新幹線も通りアクセスもよくメインストリームな印象が強い。この前の最南端の墾丁(Kenting)もびっくりしたけど、エイッと足を東に延ばしたこの町も一日目から思いもかけないドラマの連続だった。
長い年月をその風土の中でこそ刻んできた様々な人たち。そんな人たちがいたことさえ知らなかったのだ。タオ族(別名ヤミ族)やプユマ族(卑南)などのこと。暮らしていくのにとっても大事なトビウオ漁。それを支えた舟はまさにアートだった。そして、広大な遺跡の中に残っていたまあるい穴のあいた石板たち。それは自然の素材を見事に生かした人々の知恵と素晴らしい技だった。まさか真っ二つに割れて月が生まれるとは思わなかったけど・・・。
小学校の外壁に描かれたチヌリクラン(Cinedkeran)舟や月形石たち。大人じゃなく子供たちの描く絵はイキイキとそして純粋に心を動かしてくれる。今でもその景色が頭に浮かんでくる。子供たちの多様な命が素敵に生き続けている感じがするのだ。
あ、最初、海岸で遭遇したまあるい石たち、きれいでした。
海の音を聞きながらいつまでも見ていたかった・・・。
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2022年より前の取材を元に書いております。現地のナビゲートや色々な情報は大塚典子さん、飯田淳さんにご協力いただきました。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。