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“Travel is ENCOUNTERS”
台湾篇 #55
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2022.10.19
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カメラをもつ僕に、
“日本から来たの?”
とダメージジーンズの彼。
ほら、かわいいワンちゃんでしょ? 河原のすぐそば、後ろに牛さんも見えるかな? 直前まで撮影中の僕に突進してきてゴロン。ひざのところにスリスリして甘えていたんだよね。ダメダメ~って彼が飛んできて、ワンちゃんのあごをおさえて・・・僕は犬も大好きだから全然OKって言ったんだけど言葉がうまく通じず・・・・でもポーズをとってもらって一緒にニッコリ。
台東に昔から住んでいる彼。
“日本、行きたいです”って。
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その後ろ、振り返るとブルーの建物にバナナと元気なグリーンの木。これは、台東県立新生国民中学(新生國中)。あ、それで10代の若い子たちにもさっきからよく出会うんだ。
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と、その間にあるこれ!
見たことないものだけど、一瞬でただものではないことだけはわかる。これはいわゆる「トーチカ」といわれる戦時のもので、この中に兵隊が潜んで敵がこないか偵察して、攻撃するために潜む。空いている隙間はそのためのものなんだ。
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ぐるっとまわるとこんな感じ。
やっぱり不思議な建造物。隙間が二か所あるんだね。
右横は川が流れて橋がある。海までは3kmぐらい。
僕のいるところは元線路の道路なのだ。
太平洋戦争のときに日本軍が作ったものらしい。もう80年くらいになるけどそのままになっている。
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ちょっと沈んだ気持ちになっていたら、またワンちゃんが・・・
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この子は僕に挨拶したあと、ぐるーっとまわってトコトコと河原に走って行っちゃった。飼い主さん、ちゃんといるのかな?
戦争由来の建物に遭遇したからこそ、こんな平和な時間が大事に大事に感じられました。
“Free on the rail”
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学校の前は、長ーい自転車道が続いているんだ。
わ、鮮やかなピンクのブーゲンビリア! やっぱり熱帯だね。こういう色に出会うとウキウキしてしまう。
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2001年に新台東駅ができて、街中にあった旧台東駅まで延びていた線路が廃止された。そのレールはそのままにバイクロードに変身。「台東山海鐵馬道」と言われている。人も歩けるようにウッドデッキになっていて気持ちいい。グリーンにも囲まれていて、歩きたい歩きたい。うん、デートルートとしてもいいよね。青春時代をしっかり演出してくれている。
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カラフルな自転車がスイスイ。
友達同士でワイワイいくのも楽しい。
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ランニングも気持ちいいよね~。木立が素敵。
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タカタカタカタカ・・という音が聞こえてきたと思ったら、まさかのワンちゃんランニング。走りやすいしね、気持ちいいよね~。僕をチラ見して直線走りしていきました。
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気が付いたら僕の動きに合わせて動くものが・・・
平行した道をワンちゃんが、トコトコとこちらを見ながらついてきています。
あ、こっちにきたいのね。軽やかな感じで楽しそう。
でも、もう、飼い主のところに戻りなさいね~
ホウノキ(朴ノ木)みたいな街路樹の緑がきれい。
“明るいアート”
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わ、面白い。カクカクした赤い壁に三角の屋根。
この建物は何なんだろう?
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その先をもう少し歩くと今度は、あ、赤いビル。台東劇団 since 1986って書いてあった。男女が笑顔で時々、体のアクション交えながら沢山行ったり来たり。劇、踊りなど教えたり上演したりしているのかしら・・? と思っていたら、コーヒーを飲みほした一人の少年に遭遇。カタコト会話だったけど、ここによく来てダンスを練習しているみたいで、僕に撮って撮って~! バイクに座って、はい。こんな感じ。ちょっと踊って見せてほしかったんだけど、おすまし気味におさまっています・・・。
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これはね、ワッフル(鬆餅)屋さん。メープルのあまーい香もまざってほんのり看板が楽しい。(注; この店舗は今閉まってしまっているか・・・)
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こちらは色々なパンが楽しめそうなカフェ。 猫ちゃんがかわいくwelcomeしている。
ウォーキングボードからいろんなお店の看板が見えて・・・
いま入っちゃうと夜食べられないから・・・がまん・・(涙)
もう一泊すればよかった。
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ここは広い通りに近い角っこ。壁に楽しい子供の絵。あ、この子はサッカーしているね。
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こっちは、うーんと、歌っているのかな、いや、バレーボールかしらね。素敵な声が元気よく出ているね〜。
ここはね、幼稚園なんだ。こんな絵が描いてあると毎日行きたくなるよね~いいなあ。
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わ、びっくり。
大きなカラフルなものが大口をあけていると思ったら、ワニかしらんね。
さっきこの上に子供が元気いっぱいまたがったり、立ち上がったりしていた。
歯がしっかりたくさん見えているけど、噛まないもんね。
廃線の跡をのんびり歩くと、いろんなアートに出会えて楽しい楽しい・・。
ワッフル、食べたい~!!
“鉄路の終点”
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この廃線跡を旧台東駅まで歩いてゆく。
こんな錆びた鉄路が秋の落ち葉とともに伸びていて、趣があるよね。
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駅が近づいてきた。線路が分岐して駅のホームに向かっていくのね。20年前までは列車がスピードを落として近づいて行ったんだ。
枕木もそのときのまま。
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あらー。楽しそうな笑い声が聞こえてくると思ったら、頭に大きなものを乗せたちっちゃい機関車みたいなものが・・・。くじらちゃんが屋根に・・。
こどもたちとかを乗せて、構内をいったりきたりするのかしら。
ペイントしてある鯨もかわいい。海岸は太平洋に面して雄大だったものね。
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ここが終点の旧台東駅ホーム。
まだ屋根も当時そのまま。
でも「台東」の文字はかすれてしまっていて「台」しか読めない。オレンジのはきっと、昔の車両なんだ。
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ああ、終点の感じ。
これ、車輌止めだよね。
グリーンに覆われてきもちいい草原みたい。
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ね、こんな感じでワンちゃんも木陰で気持ちよさそう。
うん、君は列車や人々が往来していた時代を知らないけど、お気に入りの場所ね。
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今日は入れなかったんだけど、昔の機関車や設備が入った車庫も保存されている。
その前で瞑想している人が・・・。
人も犬もマイペースですがすがしくって、そして、ちょっとうらやましい・・・。
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こちらは保存されているホーム。ホーム間は板でつながっていて、いったりきたりできる。
ワンちゃんもこんな感じで元気いっぱい。うれしそう。
“鉄路の向こう”
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終点からちょっと伸びて、残っている鉄路の向こう。見えるのは国立台東大学。ヤシの木が育っているね。錆びた鉄路の向こうに、若者たちが学ぶ校舎が見えるとなぜかほっとする。
旧台東駅は台湾の東海岸の南端に飛び出たところにある終点だった。
かつての日本の統治時代には、台湾全体を一周する路線はまだなかった。
その途中の駅(旧卑南駅)が大きく増改築されて新台東駅となった。前回このコラムで触れた、卑南族の3000年前の遺跡はその工事中に発掘された。今では東海岸を南に降りてきた線路は、台東の海岸近くまで下りずに、西海岸に向かい山のトンネルへと進んでゆく。旧台東駅と新台東駅の間は盲腸みたいに残っていたけど、遂に廃線となってしまったのだ。この路線には、日本の企業も関係していた砂糖製造工場に隣接した馬蘭駅もあったのだけど、今は若者たちも集まる芸術村になっている。
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台東大学の手前に残る、まあるいターンテーブル。終点の台東駅に到着した機関車はぐるっと方向転換して、また台東発の列車を引っ張っていった。
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これは昔の腕木式信号機というもの。
本来はまあるい二か所の上には赤色、下には緑色のレンズが入っていた。左のレバー(腕木)が水平になっていると、右の丸いのが明るく赤く見えて「止まれ」、腕木が下に下がると上の赤が隠れ下の緑がせりだして見えて「進め」になる。
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こちらは蒸気機関車(SL)に給水していた塔。ここに機関車がひっきりなしにやってきて、補水しては汽笛をならし出発していったんだろうね。ヤシの木の背景で、音も立ち上るほどの煙も体験してみたかった。
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駅の構内にもこんなレンガの建造物が残っていた。太平洋戦争時に建設された防空壕らしい。中にいる人が穴から外を偵察し、必要があれば銃を発射できるようになっている。駅と町、国を守るためだけど、なんとも言えない雰囲気が漂っている。
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道教寺院や仏教寺院、展望台などがある鯉魚山を背景に、2001年まで走っていた車輛がひっそりたたずんでいる。
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イエローに塗られた車輛の扉は大きくひび割れている。
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なんと、この車両、1969年に生まれた日本の東急車両製。
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運転席を下から見上げるとこんな感じ。約50年の年月を感じるね。
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南の町で、海の香の中にたたずみ、雲を反射させている車輌。
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今は回らない、まあるいターンテーブル。
今は動かない、オレンジの車両。
雲は湧きいでて、はるか先の海まで流れゆく。
歴史は回り、時代は動いてゆく・・
“Rail and Road”
海の香りに包まれた台東。
鉄道で到着したときの(新)台東駅にはびっくりした。増建築されたときに駅のすぐそばから3000年も前の先住民、卑南族の巨大遺跡が発掘されたから。そして、海寄りの街中に旧台東駅があることがわかった。泊ったホテルがすぐ近くだった。廃線跡を見つけるのは大変かなと思ったら、まったく逆で、元のレールがそのまま素敵なバイクロードに生まれ変わって、人々が元気いっぱい往来していたのだった。自転車もね。
このロードを歩いてみたら面白かった。普通、建物は線路には後ろを向けていることが多いんだけど、どんどんその背面が前面に変身していたから。以前はひっそりしていたはずの裏庭にオブジェが置かれていたり、壁に絵が描かれたり、おしゃれでかわいい看板がロードを向いていたり・・・。
町にいきいきとした帯が太く太く、生まれ育っている感じだった。
ランニングや自転車の人達と笑顔を交わして、犬を連れていた少年ともお話しすることができた。線路沿いにあった工場や倉庫がアートや音楽関係の会場に生まれ変わっていた。このまま残していくのかどうかわからないけど、太平洋戦争時、統治していた日本が対敵のために使っていたトーチカも当時の姿そのままで大事なメッセージを送っていた。
レールは錆びて、機関車はもうその上を走らないけど、新しいロードの上にさまざまな人々の命が往来していた。いろんな笑顔に出会えることは本当に幸せなことだと思う。
素敵な旅をありがとう。台東。
あ、やっぱり、あのとき、ワッフル食べておけばよかったな・・・。
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2022年より前の取材を元に書いております。現地のナビゲートや色々な情報は大塚典子さん、飯田淳さんにご協力いただきました。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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