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“Travel is ENCOUNTERS”
(ワイオーミング篇) #23
Photos, essay by T.T.Tanaka
Local / 2020.01.21
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“Good morning, Rocky”
スマホの目覚ましスヌーズ二回目。ぶるると起き上がる。
そうそう。貴重な朝だもの。
朝食前にロッジのトムにおはよーを元気よく言って重い木のドアをギギギーとあけた。。。
あらー。入口のデッキが真っ白。チェックインしたときはなかったのに。
そっと歩くとシャキッと。あ、ソルベみたい。
僕の足跡がモノクロに残る。
逆光の朝日の前をのんびり横切ったのはライチョウみたい。
ああ、ロッキー山脈エリアに入ったんだ。
アメリカ大陸の尾根。
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川の方へ降りて行ってみようっと。30代の地元のトムが教えてくれたトレイルは国道の向こう。ガソリンスタンドの横を入ってゆく。あらー。いきなり、大きな倒木が真横に通せんぼ。その先も大きな枝があちこちから落ちているよ。。
徒歩か馬でしか行けない。スノーモービルとオールテレインバギー(雪道に入っていけるバギーカー)もロッジには用意してあるんだけど。脇道お散歩はできないね。
この倒木はダークブラウン。大きなヒノキみたいで直径60㎝くらいもある。パウダーシュガーにまぶされたガトーショコラみたい。
横の斜面は石の黒いつぶつぶだけが顔出しているけど、ふかふかの真っ白のエンゼルケーキになるのも時間の問題ね。
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山の上の方は雪の中からツンツンと針葉樹が頭を出している。
葉っぱ一枚残っていないね。まるで華道で使う剣山みたい。山の稜線にもびっしり。
あ、あの雲が雪を降らせるんだ。
でもこの剣山も春にはやわらかグリーンになるのよね。
痛くない剣山もみたいよ~。
冬来たりなば春遠からじ。
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少し坂道を昇ってくると、わー。剣山の上にピ、ピラミッドが。。
なんで、あんなきれいな面ができるんだろう。。
あのてっぺんからはアメリカ大陸が全部みえるのかな。。
あそこからつるーっとスキーで滑り降りると気持ちよさそうだ。
あ、でも、ダメーダメー。剣山にぶつかっちゃうよ~。
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普通の自家用車も長期滞在のキャンピングカーも大陸分水嶺を越してゆく。
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車を停めて記念撮影したり歩いたり。。このファミリーの一番下の女の子はじっと標識をみつめている。
“Left or right?”
Continental Divide(大陸分水嶺)。この標識が道路に何カ所もある。フツーに車で通るので錯覚してしまうけど、とっても高い、空気の薄いところを走っている。ここは高度7988ft(フィート)(約2400m)。もっと高いところもある。国道の脇に止めて、車を降りて歩いているととっても不思議な気分になってくる。
大陸で一番高い尾根をつなぐと分水嶺になる。ここに降った雨は左か右かに分かれる(Divide)。左に流れると太平洋に、右に流れると大西洋に、あるいは北極海に。。
雨は着地する位置がわずかに違うだけでその後の進路が大きく変わってゆくのだ。流れ流れ、いろいろなものに出会いぶつかりながら。。。 中身もかわってゆく。
海に流れたもの同士はまた同じ空間にいることになるのだ。でもお互いがまた出会うことは奇跡かな。
うーん。人の出会いやつきあいも水の流れみたいなのかもしれないね。
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大陸分水嶺の近くを流れるSnake river. 高~いところを流れている。せりあがったGrand Teton山々から雪解けの水や雨水がまざって流れてくる。このあたりは十数億年前のコア地層が褶曲・断層となり、更に180万年から一万年前まで氷河がのっかったところなんだ。そこを来る日も来る日も削りながら水が下りてくるのだ。
岩を割り、石を転がしながら。
この川原の石たちが初めて水から顔を出して陽の光をあびて呼吸をしたのはいつなんだろう。
来年はまた違うところにいるんだね。そう。もうちょっと海に近いところ。。
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あっという間にいろいろな水が集まり川になる。Wideになる。
砕ける水の音、その中に石を削り流す音も混じっているはずだ。
尖がり帽子の針葉樹が美しい。流れの音を聞いて育ったんだね。
浅くて幅広で早い流れの水。波がどんどんつながっって一気に下りてゆく。一秒たりとて同じ水面の景色はない。つい水の動きに見入ってしまう。こんな急流がロッキーの山々のあちこちに流れている。
このエリアでアメリカ合衆国の水源のなんと1/4を占めるらしい。巨大大陸の、そして地球の命の血液がここから流れている。。
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イエローストーン公園が北につながるGrand Teton国立公園。日本ではあまり知られていないけど、多くの人々にアメリカの国立公園の中で一番美しいといわれている。
高度2000mを超える大きな湖Jackson Lake。北からのSnake riverの水でたたえられいる。風が吹くと大きな波がおし寄せてくる。湖からそびえるのはTeton山(4197m)たち。Tetonとはフランス語で胸の意味。白く光る氷河と刻まれた深い渓谷。
湖水に触れた指がピリリ。そのまま凍ってしまうかと思った。この湖は夏でも16℃を超えることはない。Lake trout, Brown trout, Cutthroat trout(ニジマスの一種), Mountain white fishなど様々なマスが棲んでいる。サンショウウオも生息しているんだって。そして熊やオオカミも。
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え!? 山に沿って飛び立った白い大きな鳥。わー。ペリカン? ブラウンペリカンにフロリダで会って以来久しぶりだ。温かい海の近くに棲むとばかり思っていたのでびっくり。大きくゆっくり重そうに飛んで行く姿は同じだね。寒いところだけど巣作りの島が湖の中にあるんだって。
高山、氷河とペリカン。また常識を上書きした。
好物のお魚多いし幸せに育ってね。
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目の前をシルエットがよぎった。今度は青いサギ。さっきまで水際の草むらにじーっとしていたんだけど。お食事はもうすませたのかな。足をぴゅーっと伸ばしてるね。かっこいい。嘴も細く長い。そうお魚ゲットが得意だものね。元気そう。いい感じ。
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Sunny
あ、お日さま。
まぶしい光芒が漏れてくる。
濃い雲のシルエット。
ロッキーの山は高く、雲は低い。
大陸の一番高いところで見るおひさまの光線は強い。
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太陽が傾くと空はどんどん色をかえてゆく。
針葉樹のシルエットが燃えるようにくっきりと浮かび上がる。
今日はお日さまをしっかり見上げていなかったけど、沈む前にしっかり見つめてしまった。
この素晴らしい時をありがとう。
うん。今日だけじゃなかったね。今までずっと。
心あたたかく微笑んでくれた。多くの痛みも大きな傷も消してくれた。
明日の朝まで休んでいてね。お休みなさい。I love you!
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It might as well be spring.(まるで春のようだわね)
いきなり広がる圧倒的な大草原。
低地におりたように錯覚してしまうけど2000mを超す高地。氷河が運んだ瓦礫の堆積でできているらしい。雲が低く迫る向こうにロッキー山脈のGrand Teton連峰がどんと。
10,000年以上前にはアメリカ先住民たちがここで狩猟キャンプ。
数千年間、人々の移動や交易の交叉点だった。人々が自然に移動しやすかったんだね。
この近くにはJackson Holeといわれる谷がある。毛皮猟師のジャクソンが猟のために身を隠すお気に入りの深い谷(穴)Holeがあったので1829年にそう名付けられたとのこと。その中にできた町が観光拠点でもある都市Jacksonなのだ。
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高いところはあんなに鋭く切り立った氷河があるのに下りてくるとなだらかなほっとする景色になる。
道路もやわらかくカーブしてすこーしあがったりさがったり。
お日さまがあたると、まるで春のようでうれしい。
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この大草原では僕は会えなかったけどヒグマ、クロクマ、ピューマ、オオカミ、コヨーテ、ヘラジカ、バイソン、ウサギ、地リスなどが棲んでいる。野生動物保護区の近くにはNational Museum of Wildlife Art がある。見事なヘラジカの彫像がお迎えする。ここから見える景色は春のようで心が溶けてゆく。
先住民が制作したトーテムポールは空からの光を受けている。
いろいろな命をアートに感じるとちょっぴり自分もやさしくなれたかなと思うんだ。。
ありがとう。
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Preserve America Communicy
ロッキーのふもとの町、Jacksonに着いた。Wyomingの最終地なんだ。
いきなりお家の表に緑の人形が道行く車に旗を掲げてSLOW。赤いかわいい帽子。
その向こうから山の斜面をバックに自転車がやってきた。目の前を過ぎてゆく。乾いた空気がきもちいい。
大きく育った針葉樹のてっぺんから聞こえてくる鳥のさえずり。
Jacksonは夏は最高28℃くらい、冬は厳しく最低ー15℃くらいになる。
人口は約1万人の小さな都市。でも全米で地方が落ち込む中、珍しく増加している。小さな町に毎月平均70万人もの観光客が訪れるらしい。Grand Teton国立公園はすぐそこだし、全米で最古のYellowstone国立公園もその奥につながっている。大きなスキー場は三つもある。街にはレストランやバーやカフェ、ミュージアム、アートブティックやjewel art店などが連なっていて楽しい。
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長く交易の中心地だったこの町は歴史を感じさせるものであふれている。100年前の車のFordはしっかりおめかししてもらっているし、再現された馬車はカポンカポンと音を響かせながらダウンタウンをめぐっていて元気だ。
毎年自然に落ちるヘラジカの角を積み上げて作ったアーチも見事で美しい。ヘラジカの広大な保護区も近くにある。
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今は100人ほどしか住んでいないけど、もともと5部族ほどのアメリカ先住民たちが住んでいたらしい。カフェやホテルなどのインテリアに彼らの存在がある。哀しい歴史でもあるけど今住んでいる人たちの中には彼らへの尊厳が脈打っているように感じられる。彼らの自然への畏怖や自然との一体感は人類として大事だもの。
あ、熊ちゃんにももちろん感じているよ。そのままそのまま、木に登っていて~。
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わー。素敵なコート。先住民のデザインパターンにも見えるけど、青と白と黒と。アートショップからすっと出現。
この観光地は元気な女性たちであふれている。
Wyoming州はEqual stateと言われ、全米で最初に女性が参政権を得た州だ。2019年で150周年となったんだって! ここJacksonでも1920年に女性市長が誕生し、同時に女性保安官、女性財務部長が誕生している。日本だと大正9年だね。Wyomingではあちこちで女性の活躍を後押しする催しも多いんだ。
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Cowboy hatにサングラス。颯爽とストリートを過ぎてゆく。かっこいい~。
ちょ、ちょっとカフェ入ってストリート見てることにします。。。
そういえば、大女優のサンドラ・ブロックはここに別荘があるんだった。。
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「あ、こんにちは。かわいいワンちゃん。何歳ですか?」
「あら、ありがとう。3才でまだ子供なの。まだちっちゃいでしょ?」
「プ、プードルですか? トイプードルなら日本にも多いんだけど。。」
「そうよ。とっても賢いの。勇敢だし。子供たちにも優しいの。ね、Harrison」
ハ、ハリソン・・!
そういえば大俳優ハリソン・フォードはここに大農場をもっているんだった。。。
あなたの笑顔が素敵なワンちゃんハリソンを育てるのよね。演技力だけでなくって人間力。じゃなくてワン力。。
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「降りし雨 別れ別れて流れゆく 海に入りても顔は合わせじ 作者;Continental divide. 」
今、もしかしたら日本ではアメリカは馴染みがなく存在感が希薄になっているかもしれない。
でもそこには自然の中では変わらない偉大さが厳然とある。
巨大な大陸。合衆国だけで日本の25倍!! もある。そこは本当に多様な自然に命にあふれている。
その大陸の尾根といわれるロッキー山脈。高度4000mを超えて南北に4800km。本州が1500kmぐらいだからその3倍の長さ。
一番高いところをつないだ稜線が大陸分水嶺。Continental divideといわれる。
うん。なるほど。大陸がそこで分かれるのだ。水が分かれるごとく。
国道も分水嶺をよぎっていく箇所がいくつかあって標識が立って高度が記載してある。多くの人が気になって車を停めて下りてくる。別に名所旧跡といったわけじゃないんだけど。。 僕もつい止まってしまった。不思議な感覚に襲われるからかな。
雨は地面につく位置がちょっとずれるだけでその行く先は大きく変わる。運命的に。それまで一緒に降ってきた仲間たちとはまったく違う方向にいってしまうのだ。ほぼもう二度と出会えない。。
風がちょっと吹いただけ?
一瞬がその後の歩みを大きく変えてしまうことは、私たちだってある。歩む世界が違ってしまうこと。
時とともにぶつかりぶつかり歩みつづけ、低いところの大海に流れ込むとやっとほっとするのかもしれない。でも決して安住じゃない。ぶつからないかわりに大きなうねりや波にのまれたりもする。日々また別の試練なのだ。
あ、あのとき。ふとしたことで別れてしまったあの人は今どうしているんだろう・・? さすがに年月がたっているからお互いどこかで海に流れ込んでいるかもしれない。なら、また、巡り合えるかもしれない。その確率はすごく小さいけど。
でも、今度会えた時にはもっと分かり合えると思う。それぞれに膨大な苦労と経験を重ねてきたはずだ。だからお互いを理解しあえるやさしさも身に着けているだろう。
海の水一滴一滴はそれぞれ含むものが異なる。生まれたそれも、触れてきたそれも違うから。でも大海はそのことなる滴たちの集まりだ。時に一緒になって形を作り、力にもなる。
どこかに必ず友はいる。かつての友もまだ見ぬ友も。目の前に一緒にいなくても共に生きていこう。
アメリカの力。それは人種だけではなく、いきもの、自然も含めた多様な命が生きてゆく力じゃないだろうか。
水がいろいろな滴でできているように。
大陸に、Wyomingに来てよかった。
No rain, no divide. No waterdrop, no ocean.
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イラスト by 瀧口希望
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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