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“Travel is ENCOUNTERS” (ネブラスカ篇) #37
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.03.26
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“Great plains”
ひろーいひろーいきらきら光るグリーン。青い空とモコモコした雲と。
日光と風と。
のんびり息ができて気持ちいい。
ここはアメリカの大陸地図の文字通りど真ん中、ネブラスカ州。
ほんの二時間ほど前、日本からオマハ空港に着いたばかり。
空港でレンタした四駆で大平原を西に。
一週間の旅が始まった。
わ、大きな車輪。ながーい横幅。どーんと置かれた昔の農機具。馬さんが頑張ってひいていたんだね。鉄さびが語る長い年月。100年以上前のもかもしれない。
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まあるくカーブした鉄製のシート。ここにすわって馬さんたちをあやつるんだ。
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車輪の上には青い空。車輪の下には緑の大地。
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お、さかさま。履き古した大きな皮ブーツ。杭のてっぺんに。お役御免じゃなくてお役立ち。そのまま雨ざらしだと切り口から朽ちるからかしらん。大地を踏ん張る耕作仕事は重労働。足元をささえる靴は相棒だ。
この辺は自然条件も厳しく先住民たちは先祖代々知恵を振り絞りながら生きてきた。160年前に入植が奨励されドイツ系、アイルランド系、チェコ系、スウェーデン系などのヨーロッパからの移民たちが移り住み、切り開きながら大規模な農業に発展させてきた。そこには数えきれないほどの様々なドラマがあったのだろう。
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道路脇のスチール製郵便箱。白く塗られたペンキで錆びずに頑張ってます。ポストマンは郵便物をお届けすると、箱脇の目印をエイっと90度回して立ててゆく。家の中から遠目にも配達されたことがわかるんだ。確かにこれだけ離れていてもリアル合図ができてうれしい。
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傍らにかわいいピンクの花。日本のハマナスに近いのかな、Prairie wild roseって言われている。広大な畑をつっきる未舗装道路の粗い砂利もちょっとピンク。
このエリアは、また、かつて1800年代中頃モルモン教徒たちが横切ってはるか西1300km先のソルトレイクシティーまで移動していていったトレイルが残されていたりもする。
色々な歴史が大平原の中に散らばっている。
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“モロコシの大地”
ずーっと、ずーっと続く畑。
もともと平らな土地だったとはいえ、よくこんなにどこまでも耕したと感動してしまう。
この先カーブね。忘れていたころに曲がる道路。う・・ん? ここ未舗装砂利道なのに、カーブでも、え、40M.P.H.(=約時速64km)!!
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おー。来た来た来た~!! 土煙上げて。低い砂をはむ音が大きく、ジャリジャリジャリ・・・
手を上げたら締め切った窓の奥から男女で手を振ってくれた。
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ピックアップトラックの長い荷台が過ぎてゆく。昼下がりの逆光がまぶしい。
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トラックの轍(わだち)。ずーっと畑。
はるか向こうに並木。きっと灌漑用の水の流れなんだろうね。
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大地に降り注ぐ日光。どこまでこの畑は続いているのだろうか?
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緑の芽が一面に広がるモロコシ畑。
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畑の縁に見つけたトウモロコシの芯。一つ転がっていた。
種は鳥さんたちがぜーんぶ食べちゃったのかしら。
ネブラスカ州は、別名、The Cornhusker State(トウモロコシの皮をむく人たちの州)ともいわれるくらい、全米でも大トウモロコシ産地。
ヨーロッパから「新大陸」に渡った人たちは先住民たちからトウモロコシ栽培や料理方法、ポップコーンの作り方などを教わったとされている。あ、七面鳥やクランベリーについてもね。
トウモロコシはイネ科! で原産地のメキシコから伝わってきたらしい。原種から10個くらいしか種がとれなかったのに今や300とか400もとれるように進化してきたんだ。すごいわ。
ほこほこのモロコシもコーンスープも大好きだよ~。
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“中の島”
ネブラスカ州には西から東に大平原を切って大きな川が三本流れている。これらはミズーリ川に流れ込み、そして、ミシシッピー川に入ってはるか南1400km近く離れたメキシコ湾に面したニューオリンズにまで続いている。ここは一番南側を流れるその川のひとつ、Platte Riverのすぐそば。市の名前はGrand Island.川の中に大きな島があるからついた名前。そうそう、「中の島」みたいな感じ。
来るまで知らなかったんだけど、このあたりは全米でも有数のバードウォッチング人気のところで、春には50万羽!! も飛来するSandhill cranes(カナダ鶴)を見に数千人が集まってくるんだ。
インターステート道路80号のすぐ脇にはキャンプ場も中にあるMormon Island State Recreation Areaがみんなのくつろぎの場になっている。入口は荷車に花壇がのっかっていてお出迎えしてくれる。
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川岸に育つ大木はCotton treeと言われる州の木。10年から30年くらいで20~45mくらいにものびるポプラの一種。幹が大きく割れていて意外にやわらかい。ちなみに種には綿毛がついて空中とおーく飛んでゆく。
湿ったところに強く、洪水で土砂をかぶったりしても丈夫なんだ。この木のおかげで水際の木陰が木漏れ日とともに気持ちいい。
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Lake frontまでやってきた。静かな湖で、木立も雲も湖面にきれいに映っていて茫然。。
あ、水面までいける桟橋。ピクニックテーブルもあるね。
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泳いじゃダメ・・? 深いのかしらね。
それに、お、お魚さん情報。
な、なになに?
「釣り人よ、Muskellunge(マスケランジ)は40インチ(約1m)以下は採ってはならない!」
え、1mって巨大だよ。
左にはMuskellungeとNorthern Pikeの違いっていうのが解説されている。
釣りに詳しい方なら御存知かもなんだけど、これらはカワカマス属、pikeといわれる仲間なんだ。日本では海のカマスに形が似ているからそう訳されたみたいだけど、いずれも日本にはいない。アメリカ大陸や中国やヨーロッパにはすんでいて1m以上になる大魚で食用にもなるらしい。アメリカやロシアの潜水艦の名前になったりもしている。高温に弱くきれいな水で丸い石ころが水底にあったりするところを好むみたい。
こっちの標識は、小魚(panfish)は一日10匹まで、ナマズ(channel catfish)は3匹まで、ラージマウスバスは21インチ(53cm)以上のもののみ1匹限り。
小さいお魚や珍しいお魚は皆で守っているんだね。この家族連れはさっき釣れたちょっと大きめのpanfishを自慢しあってスマホにパチリ。すぐ湖にリリースして戻している。
それにしてもこの大平原にはすごいお魚たちが・・・。
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車をパーキングさせて、釣り竿だけひょいと持って湖畔に来たオフィスワーカーぽい人。
あれ、今日火曜日ウィークディだよね?
ひょっとしてランチブレイク?
うわ。いいなあ~。
そよ風もきもちいい~。
Cotton woodの大木の向こうのシルエットが嬉しそう。
大地とお魚と会話しているんだもんね。
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“Time after time”
踏切の向こうが遠い!
レールの幅が広いし、隣同志がゆったりしているし。四本も線路が走っているのはアメリカではあまりない。
160年近く昔の1866年にユニオンパシフィック鉄道が延伸してここGrand Islandに到達して以来、アメリカ大陸を横断する鉄路での物流中心地として発展したのだ。石炭や水の補給、修理、そして鉄道員たちの交替もあり、かつてはアメリカで最初のビーツ砂糖の工場もあり賑やかな歴史があった。今でもとうもろこし、大豆、牛や豚など出荷の中心。農機具や電飾看板や住宅パーツ、ガレージや車の修理など盛んで地方都市としては珍しく人口は伸びていて、といっても5万人ほど。
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鉄路がどーんとまっすぐ。
太陽光線が一直線にのびてくる。2100㎞ゆくとサンフランシスコ!
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踏切を越えたところのストリート。脇にEmergency SNOW ROUTEという標識がかかっている。雪が激しいときにはこの道には車を駐車してはいけないのだ。
ちょうど青森くらいの緯度。夏は30℃超えるんだけど冬は最低-10℃、最高2℃くらい。
木の電柱、いいでしょ?
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Cotton woodは街灯よりも、おうちの屋根よりも高く伸びてるね。道路の木の影が揺れている。
ひろーい道路。
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町の中心部に近づいてきた。
わ、きれいなシルエット。
古い建物ね。
調べたら120年近く前に建てられたドイツ式建築で当時は全部の郡のオフィスが入っていたとのこと。今は裁判所として使われている。装飾に大理石も使ったレンガ造りで中のドームは光が差し込む。アメリカの国の登録保存建物となっている。
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横の並木道は落ち着いた感じで素敵。
となりのアーチのレンガ造りも一緒に並んで素敵。
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わ、てっぺんは銅板で素敵なアクセント。緑青が空に馴染んでいる。
この塔から明かりが中に入り込むのね。
あのてっぺん。大平原、アメリカ大地が見渡せるんだ。
いいなあ。
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古い建物がいくつか並ぶダウンタウンエリア。
看板のロゴやオーニングが新しいアクセントで楽しい。
時計修理屋さん、素敵なネーミングね。古い時間をかみしめたあとには今の時間。繰り返しあるつらい時間、そして素敵な時間・・・。
あ、こっちは交差点にあるバー。わ、ビール飲みたくなってきた~。
だって、広告には僕のためのビールって書いてあるし。。
もうお食事の時間だ~。Time after time
※ “ Time after time ”は同名の大ヒットした曲があります。検索してみてください。
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“Sizzling time, Happiness!!”
ステーキレストランの重い木製のドアをぐっとひっぱって入る。
目の前にほんのりwaiting bar。
壁にはネブラスカ州の地図と鹿の剥製と。
仲間たち同志でもりあがる笑い声と、グラスの音。。
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壁にかかったTV。
番組名はわからないけど、にっこりほほ笑む女性が意味深。
画面が変わってステージの男女のダンスシーンが楽しい。
This is America!
まだ外は明るい。
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何はなくてもコロナビール。
この一杯で頭を駆け巡る今日一日の大平原。昨日が東京だったなんて。
わ、きました、じゅわーっと、サーロインステーキ。
ネブラスカのビーフブランドはアメリカで最高ともいわれているんだ。
グリーンビーンズのフライがご愛敬。ガーリックソースも一緒に。
わ。ごめんなさい。幸せな時間です。
Sizzling time, Happiness!!
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“Great Plain?” “No, it’s a Great Drama!”
"そう、ネブラスカに行くんだ" と周りに行ったら誰も反応してくれなかった。
"それ、どこにある国だっけ?"
"えー。それ州だよね。どこ?"
"見るところあるの?"
などなどさんざんだった。
でも、僕自身、ごめんなさい、その二週間前のその時までネブラスカの文字は頭の中には全くなかった。
ちょうどその時・・TVを見ていたら全米大統領選候補のニュースが流れて全米地図が映ったのだった。東海岸のNYやボストンやフロリダ州、西海岸のカリフォルニア州からの吹き出しは目立っていた。格差拡大や分断の話でもちきりだった。でも真ん中は何も記載されておらず空白だったし触れられもしなかったのだ。「あれ? 真ん中って何州? どんなところだっけ?」スマホで地図を拡大してみるとそこにはネブラスカ(Nebraska)の文字。聞いたことはあったけど、ここを凝視したのは初めてだった。
大きな山脈も湖もなく、フラットに見える。大きな都市も二三個しかない。ネットで調べても日本語ではあまりこれといった情報が出てこない。そりゃそうだ。その次のキーワードが浮かばないもの。でもネブラスカとは先住民の言葉で静かなる川らしいとわかったり、Great Plains(大平原)という言葉を思い出したりとかした。確か中学校で習っていた。もうこれだけで感覚的にここに行かねばと決めていた。日常の素敵こそ撮って作品にしたいと思っている僕は、ネブラスカの日常を見て見たいという強い衝動にかられた。
大平原は、厳しい気候で木も育ちづらいゆえ、だから大平原なのだ。でも、そこには今、トウモロコシ畑や牧場がとてつもなく広がっている。ヨーロッパから渡ってきたものの都会では苦労していた民族系住民たちが移り住み開拓した頑張りがあるけど、移動させられた先住民たちの悲劇もある。そして当時は高速道路ではなく鉄道がひかれたからこそ、農産物も畜産物も全米に販路が広がっていった。
落ちていたトウモロコシや、大きな鉄道の踏切からは、ニュースの吹き出しはないけれどその奥には複雑で無数のドラマが潜んでいる。
旅程のはるか先のオマハには巨大な食肉会社もあるし、ウォーレン・バフェットの世界最大の投資会社もある。
巨大な鉄車輪のアンティークの農機具、長ーい荷台のピックアップのシルエット、cottonwood treeの巨木、モルモン教徒トレイルの片隅にみつけたピンクのハマナス。そして、ジューシーなアメリカでも有数のブランド牛ステーキ。
どこがPlainなんだろう。初日からDramaだらけだ。
“Great Plain?” “No, it's a Great Drama!”
これからも間違いなく遭遇するドラマたち。
なかなか寝付けなかったのはコロナビールの飲みすぎだけではなかったはずだ。
よね?
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております)
ネブラスカノートはこちら
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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