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“台南を温(たず)ねて・・”
台湾篇 #60
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2023.03.22
“安平開臺天后宮” (Anping Tianhou)”
いきなり大きな口をあけた、でもちょっとひょうきんな感じもする「狛犬」が目の前に・・・。ここは台南の海に面した安平地区の一番大きな廟。台湾にとって歴史上大切な人物、鄭成功が彼自身の艦隊とともに持ってきた「媽祖」3体。1668年これらを祀って建てた寺院。その後、彼自身を崇拝する場所にもなっているんだ。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
「媽祖」は、中国沿岸部を中心に信仰を集めてきた道教の女神のことで航海や漁業の守護神になっている。960年(宋の時代)にお役人の娘として生まれた実在女性で、村民の病を治すなど奇跡を起こして崇められていたとのこと。台湾には大陸 福建南部から移り住んだ人たちも多いんだけど、無事台湾に到着したことを感謝して「媽祖」は島内各地で信奉され親しまれてきた。ちなみにこの「媽祖」には、もともと悪神であったけど改心した「千里眼」と「順風耳」の二つの神がお仕えしてお守りしているんだそうだ。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
屋根にはカラフルに飾られた道教寺院ならではの三清祖。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
中に入ると高い音、低い音、さまざま響く中、体中にお線香の香りが注いできて特別な感じがする。正面に「媽祖」が祀られている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
カラフルなお線香がずらーっと並んでこれを購入させていただいてお祈りする。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
お供えには熱帯ならではのピンクの大きなドラゴンフルーツ! 柱サボテンの実だよね。それにミカン、柿、この辺では高価なりんごも。カラフル。豊潤なフルーツの香りが漂う中、お祈りをする。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
人々が次から次にお詣りにやってくる。
柱が赤い色と金色でまぶしく反射して建物の中を照らしている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
わ、一瞬この目つきにどきっと。ごめんなさい。あなたが「媽祖」にお仕えする「千里眼」だったのね。1000km以上離れたところの出来事を察知したり透視する力を持っているんだね。守ってくれてありがとう。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
奥には、水にまつわる5人も水仙尊王としておまつりされている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
支える臣下たちの像も沢山。ゴールドの糸が垂れ、龍も登っていて・・・見事。
この人たち、今にも体がシャープに動き出しそうで、それに、それに、カッコイイですよね・・
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
と、気づいたら一人のおじさんと目があっちゃった。
あら、右手にラッパのような楽器を手にしていますね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
台湾の言葉ができない僕だったんだけど、ほら、音出していないけど、このニッコリ ポーズ。ちょっと待ってて、待ってて、もうすぐ吹くからさ~っていう感じなの。
それに、このにっこり笑顔がいいでしょ?
チャルメラというのか、この管楽器の音、おじさんが吹くところ、聴いてみたい・・
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
突然、お祈りが木魚と鐘の音とともに始まった。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
それとともにおじさん、楽器を口にくわえました!
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
真剣な表情とともに思っていたよりはるかに高い音が一気に鳴り響いた。
体中が細かく振動するような・・・
皆の姿勢がすっとした。
あらためてお祈りをささげた。
ありがとう、おじさん。
体の中からほっこりしたよ。
“安平古堡” (ゼーランディア城)”
「安平開臺天后宮」を出ると沢山垂れ下がるガジュマルの枝。その向こうに大きな砦の跡が迫ってくる。人々の声もにぎやか。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ここは「安平古堡」(ゼーランディア城跡)。1624年オランダの東アジア拠点として建設され、このエリアの統治、対外貿易の中心だったところだ。安平は台南の海岸エリアの地名。1662年に鄭成功が落城させてオランダ人を一掃した。その後、清朝傘下に入り、また、日本統治下にもなり、第二次世界大戦後の歴史の流れに・・・
最初に築城したものの多くは破壊されたのだけれど、一部の外塀70mほどがこんな感じで400年後にも残っている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
積まれた小さめのレンガには苔も生え、また、ガジュマルの枝も付着して成長している。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
今でも残る赤レンガを積んだ正方形の土台。この上にかつてあったオランダ洋館は日本統治時代に取り壊され、のちに建てられた税関宿舎の洋館が・・・
白い展望塔は新しい観光用。入ってみよう、入ってみよう。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
わ、目の前はさっき行った「安平 開臺天后宮」だね。屋根の装飾がすごい。龍のシルエットも。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
東西南北の目印がわかりやすいね。手前には緑の森。向こうに見えるマングローブの海岸にはトキとかサギが棲んでいるのね。そして遠景は、広大な平野にそびえる台南中心部のビルたち。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
こんな感じでかつてのお城の上からの景色が見えるのよね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
そして、台湾の人達に尊敬されている鄭成功の像。彼がこのあたりを支配していたオランダの城を落城させたんだ。なんと、不勉強だったんだけど、彼は平戸出身で日本名は「田川福松」。お母さんは田川マツ、お父さんは福建省出身の鄭芝龍。弟 七左衛門さんはそのまま母と一緒に日本で過ごし長崎で商売を成功させた。鄭成功はその後大陸沿岸で相当な力をもち私兵を擁していた。滅びゆく「明」を支えた父子だったけど、「清」朝に下った父とは生き別れとなる。その後、力をつけるために台湾にわたり、このお城を陥落させることになったとのこと。あの焼き物の柿右衛門の発展にも彼が関与している。今回の最初に訪問した「安平 開臺天后宮」も彼が建てている。近松門左衛門が彼をモデルに書いた「国性爺合戦」は浄瑠璃、歌舞伎として演じられていた。 興味持たれた方は調べてみてくださいね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
城跡に大きく育つガジュマルの木。太陽は真上に、影は真下に。そうそう、熱帯なんだもんね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
階段を上る人たち、木陰で休む人たち。親子連れも多くてにぎやか。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
チェーッスと滑り降りてきたサングラスの子。
気持ちはよーくわかります~
変わりゆく時代の中でいろんな人々の歓声も悲しい声も響いてきた海の町。
新しいジェネレーションたちの新しい歩み、頑張れ~!
“台南孔子廟”
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
あ、暮れる前に少々時間がある。台南最後の訪問になるね。急いで「台南孔子廟」に。
観光客も地元の人達もたくさんいるけど緑も多く少し静か。柿の木、桑(マルベリー)、龍眼、釈迦頭など果物の木がいっぱい育っていて気持ちいい。
とってもきれいなハンサムワンちゃん連れのお二人にご挨拶したら、はい、にっこり。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
受験生たちも親たちと一緒に合格祈願にも沢山やってくるんだ・・
ここは国内初の孔子廟で儒学の中心。「全台首学」と言われかつて台湾の最高学府の学びの場所だった所。
古くは優秀な人材がここから沢山巣立っていった。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
中に入ると静かでおごそかな雰囲気になる。
なんとこの台南孔子廟も、1665年鄭成功氏や後継者たちの提唱によって建てられたんだそう。台湾の日本統治時代の1917年に改修された。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
層が重なる屋根。螭吻 (ちふん) と呼ばれる龍の像。
赤と緑と紫の色がまざって美しい。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
全部で15棟もある建物群。東側には学びの「国学」というエリア、西側には孔子をおまつりする「文廟」というエリアがある。その中央にあるのはこの大成殿で孔子が奉られている。歴代の元首の額(扁額)も飾られ、蔡英文さんのもある。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
今も孔子は16人の弟子たちに脇を固められている。
静かに漂うお香。
若者たちこの空間で真剣に学び羽ばたいていったと思うと、また特別な気持ちも沸き起こってくる。
“台南を温(たず)ねて”
今回が台南の最後。
毎回だけど、また知らないことに遭遇してしまった。
訪問した、媽祖をまつる安平開臺天后宮” (Anping Tianhou)、オランダが築城したゼーランディア城(安平古堡)、かつての最高学府の台南孔子廟。そして、これらいずれにも深く関係していた平戸生まれの鄭成功(日本名-田川福松)。
色んな人たちが「台南は台湾の京都」といわれるのが最初はピンと来なかった。台南は熱帯だし、建物が古いといってもスタイルも目にする植生も違うから・・・。
清朝時代のことや日本統治時代のこと、そしてその後の歴史の流れはぼんやりとは頭の中にあったんだけど、オランダの足跡はほとんど不勉強だったし、3名所いずれにも鄭成功という人物が関与していたことも知らなかった。台湾国内で成功という名前をつけた学校や施設がいくつもあったことを急に思い出し頭の中でようやくつながった。
孔子の教えといわれる「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る・・」
温(たず)ねるとは肉を煮詰めてスープをとるという意味があるようで、過去のことを丁寧に調べることはとっても大事でそれがあってこそ新しいものに飛躍できる・・・との解説があった。
僕は普段いい加減に生きていて、旅もいきあたりばったりが多いのだけど、旅をすると時々深くささるものに遭遇できる。そうするととっても充実感もわいて、嬉しいし、旅してよかったと思える。でも、ふと考えると、旅しなければそんなきっかけも作れない自分なのかもしれない・・
あ、そうだ。旅だと普段にないキョロキョロ挙動でアンテナも高めているんだもんね。なら、ときどき、日常でもそこにあたかも旅で来た感覚になればいいのか。その感覚で目の前に展開されていくものに接すればグッドなのかしらん・・・ あ、それだけでなく、網にかかったらちゃんとそれを丁寧に調べて煮詰めなければ味わえないんだった。そうすると飛躍できると・・・
ふむふむ。
そうか、上手に丁寧にじっくり煮込んだスープをまじめに味わうと新発想、イノベーション起こせるかもなんだ。
あ、そうだ! 久しぶりにあのとろけるシチューのお店に、帰国したらまず行こうっと~
(あいかわらず成長のない私でした・・・スミマセン)
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2023年より前の取材を元に書いております。現地のナビゲートや色々な情報は大塚典子さん、飯田淳さんにご協力いただきました。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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