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Travel is ENCOUNTERS
“ガジュマルくん 支えられるの? 支えるの?”
台湾篇 #58
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2023.01.25
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
わーい。以前からずーっと来たかった台南にようやく着いた! 台湾で最も早く開けた180万人が住む都市。熱帯にある。台南全域で高いところでも海抜30mほどしかなくフラット。河口エリアは大きくもともと干潟が広がっていたところ。高雄から電車にのって30分ちょい。 駅ホームには様々な人々がやってくる。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
改札を出ると若い人たちのシルエットが元気よく動いていて活気にあふれている。 まずは台湾大好き友人のJちゃんNちゃんおすすめのところに行こう! 海に面した安平(An-ping)というエリア。駅から7km弱。そこにある “Tree House” ってところに。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
あ、まったく、勘違いしていた。“Tree House” って聞いて、てっきり木の枝の上にのっかったキャビンみたいなのかなあと思っていたら・・何、これ!!
安平樹屋-徳記洋行 というところなんだけど建物の内壁が木の「枝」だらけ。
この空間、若い人たちも多くってあちこちで写真をとっていて歓声があがっている。ここでコンサートもやるのね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
なんと、この安平というエリアは台湾で最初にできた港。16世紀半ばにはオランダ、スペイン、明や日本から多くの商人が訪れていたんだね。オランダがここにゼーランディア(Zeelandia)城を作って東アジアの拠点にしていたんだけど17世紀後半に鄭氏王朝に降伏。以降、イギリスの東インド会社の他、海外商社がいくつも設立された。その後、清朝の下に入るが1858年に清朝が敗戦するとまた外国とどんどんつながった。「洋行」といわれたアメリカ、ドイツ、イギリスなどの商社が積極的に活動。今いるところの建物は1911年までイギリスの「徳記洋行」のもので主な輸出品はお砂糖だったんだ。が、1895年以降の日本統治で貿易が制限されて1911年に撤退。日本の製塩会社に売却。事務所移転後は荒れ放題となりガジュマルが生い茂り・・という歴史。 1979年以降、市政府に整備されて新しい観光資産としてよみがえってきた。
カンボジア、アンコールワットの天空の城ラピュタのあのシーンにも出てくる巻き付いた樹木がまさにこれなのだ。ガジュマルは南北アメリカ大陸にはみられずアジア特有の樹木。壁だけでなくって床にも一面に根が張っている。
でも、すごいなあと思うのはそれを伐採してしまわずに(そもそも無理かも)覆ってしまった全体を逆転発想で景勝地にしちゃったのよね~。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
鉄骨をうまく入れ込んで全体の建物と樹木の両方を「保護」している。階段も屋根の上までつくってあって、全体を見下ろすことができる。もう、子供たちは嬉しくっていったりきたり。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
びやーっと伸びた枝が屋根の上にのしかかっている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
え、まっすぐたくさんのびている太いのは柱?
いやいや、枝からたくさんまっすぐ細ーい根(気根)が地面におりてのびてゆくんだけど、そのうちいくつかが着地して、地面に「根」をおろし、その気根は育って太ーい柱のようになってゆくのだ。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ふりかえったらその光景に呆然と立ち尽くしてしまった。
根が地面からつながって壁全体が川の流れのようになっている。
上方向にもどんどん伸びている太い幹と枝。
これらが毎日毎日じわじわ更に増えていく。本格的に伸びだして70年以上経っている。寿命は100年以上だね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
人間が足場を組んだみたいに、何本かで横に伸びる枝を垂直にささえている。あまりにまっすぐでびっくり。いや、もう、ほんとに支えているんだろうね。壁と屋根はびっしりおおわれて、建物全体が強いネットにくるまっているような・・
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
上から下にのびている太い気根。
下に見える黒いのは鉄骨で建物の形が崩れないようにしている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
気根て空気中の水分を吸収するんだけど最初はこんなひげのように細い。何本かは赤っぽい。そういえば、日本で観葉植物としてポットで育てていても細い気根はでてたりするよね。こんなに数は全然多くないけどね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
そして幹の下の方はこんな大きな板根になっていて、つるーっと平たく光っているところもある。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
これも大きく育った気根。
幹なのか、地中に出ている根なのか・・。
この紋様も形もきれい。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
もともと室内であったはずなんだけど、地面というか床というか、敷き詰めてあるレンガのすきまに根が縦横無尽に入り込んでいる。
この床に目を奪われながら壁の外に出ると・・・
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
一気に明るい空に向かって階段。
お、ずーっと開けているね。
のぼっていくと・・
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
え! また目を疑ってしまった。
緑いっぱいのマングローブ林!
ちょうどこのあたりは内陸から流れ込む河と海とのフラットな汽水エリアなんだ。
アメリカ, フロリダ半島の沿岸そっくりの風景。
白い点があると思ったら、サギが一羽、干潟にたたずんでいる。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
町は昔から栄えて人がいっぱい、船の往来も沢山あってここは港だったはずだけど、それをまた自然が上書きしてこの美しい景色。
歴史のwonderlandに入り込んでしまったみたい・・・。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
ガジュマルで覆われた倉庫エリアの横には通りに面して2階建て洋館の「徳記洋行」の一部が残っている。白い漆喰は銀行員たちの宿舎の壁だったみたい。
アーチの奥にベンチが白く光っている。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
2Fもアーチになったポーチ。ブルーグリーンの美しい欄干。部屋は強い光からも雨水からも逃げられる。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
扉も天井もブルー。
アーチをくぐった光にあたりながらのんびりしてみたい。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
古い建物とグリーンがきれい。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
中を歩いてみると、
あら、これ、映画なのね。「新 安平追想曲」
「安平追想曲」をしらべてみたら、えーっと、1951年にはやった台湾語の民謡なんだ。
Youtubeでもすぐでてくるね。オランダ人船医と安平の商人の娘との間に生まれた金髪の少女。母と同じように西洋人船員に恋をするがその彼とは音信不通に・・ 安平港で恋人との再会を待つ様子・・。
そしてこれを元にできた1978年公開の映画。いろんなところから人々が集まり毎日の生活の交流、ドラマが繰り広げられていたんだなあと思うとジーンとしてしまう。
あとで繰り出す街は今どんな光景になっているのか興味は尽きない・・・。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
え、鹿のはく製。ああ、このあたりの自然はもともと、鹿たちも沢山いたんだね。ますますフロリダみたい。「いきもの」にも出会えるし子供たちはおおはしゃぎ。
さ、建物からでるよ~
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
見上げるとイエローの実がたくさんなっている高木。たぶん、センダンね。
「センダン(栴檀)は双葉より芳し」(能力のあるものは幼少のころから抜きんでている)といわれる木。本当に香が芳しいかどうかは別にして虫よけ剤になるみたいで、材は家具や楽器などに活躍中。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
建物がないところの「自然状態」の道端のガジュマル。
あ、建物がないとこんな感じでのびてゆくし、垂れてくるし・・・
そして幹は太くなってゆく。ひげをいっぱい伸ばしながら・・。
やっぱりすごいわ・・・。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
安平エリアでは大きな墓地にも遭遇する。ここは中国系の墓地で入口に后土(こうど)と書かれた守り神が祀ってある。中国道教の最高位の全ての土地を統括する地母神。あれ? 后土は女神って聞いたんだけど・・。黄色の衣装が鮮やか。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
墓石の前には金の獅子が光っていました・・・
個人の肖像を瀬戸物に描いて墓標に入れ込んであるのも多い。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
水辺のひろーく開けた交差点。きもちよさそうに抱っこされて渡ってきたワンちゃん。そこからは着地してお散歩ね。おとうさんがケージもって後から。ワンちゃん先頭で幸せいっぱい。
真ん中にあるのは教会?
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
十字架がある建物ね。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
壁画がカラフル。
あ、ヨーロッパの人達が来た年号が描かれた歴史になっているのね。
当時のお船と十字架。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
強ーい日差しの中、男女が過ぎてゆく。この先にはおいしいお店が沢山、通りにあるんだもんね~
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
えーっとね。
こちらはしばし立ち止まり中・・・
お日様の下、いい感じなんだけど、ランチ、もう済ませたのかしらん・・。キラっキラっと葉っぱのシルエットがゆれています。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
はい、今度はJちゃんNちゃんおすすめスイーツ! 「同記 安平豆腐」のお店に来たよん。人気でずーっと途切れることなくお客さんが出入り。半世紀以上の老舗で豆腐のような豆乳プリンを出してくれる。3タイプを注文。伝統白豆花タイプで緑豆を添えたもの、竹炭入り黒豆花タイプ、濃く甘いミルクをかけた香濃鮮奶豆花タイプ。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
僕は甘いミルクがかかったのをいただいたんだけど、とろーんとしてプルルと元気のいいプリンみたいでとってもすっきりして甘い。お豆腐とは思えない・・・。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
美味しいスイーツ食べるとにっこり。そうよね、開運で財もたまりそう。
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台南 (Tainan), 台湾; by T. T. Tanaka
幸せな気分で外に出ると、斜めに陽の光が・・・
そしてガジュマルの大木が木陰をつくってくれている。
こんなところを歩けて台湾に来れてよかったー
“ガジュマルくん 支えられるの? 支えるの?”
僕は旅にいくときってほとんどあまり調べずに出発してしまう。
どんな村や町にも必ず素敵なところがあるって確信している。
写真も何が撮れるかわからないけど心にささる作品を作れると強く思っている。
そしていつも何かに遭遇してさらにそこに驚きがついてくるのだ。
ガジュマルって観葉植物で育てたこともあるんだけど、アジア固有でこんな大木になるってしらなかった。ひげのような気根が幹から出ることも知っていたけど地面に垂れ下がってそれがこんな柱のようになるなんてびっくりして凝視してしまった。
垂れ下がっていったものがいつの間にか立派になって本体をささえていて・・・
それに、建物にかかっているかなという枝がいつのまにか全体を覆い、そのうち、逆に建物自体を支えている・・ そして、人工物と自然の命が合体してしまう・・
そういえばかつて人がつくった港だったところもマングローブで覆われて鳥がゆききしていたりもする。
これは人の住む熱帯独特の景色なんだろうか?
時間とともに人工と自然が入れ替わってとけあってゆく。
もしかしたら、そうならないで人工物が常に更新されてゆく町の方が真の都会って思っているのかもしれない。
でも支えているつもりが支えられてしまったり、そのうち、その役割もとけて合体してしまったりするのもすごく親近感をもつんだけど・・・
ね、ガジュマルくん、これからもよろしくね~
台南、ありがとー。
Photos, essay by T. T. Tanaka
※ 2022年より前の取材を元に書いております。現地のナビゲートや色々な情報は大塚典子さん、飯田淳さんにご協力いただきました。
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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