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Travel is ENCOUNTERS
“水辺のドラマ”
奄美大島篇 #77
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2024.08.08
“セミトロピカル・ミスト”
奄美大島で一番高い山は、694mの霊峰といわれる湯湾岳(ゆわんだけ)。
ここを水源とするアランガチ(新小勝)の滝は三段になって落ちてくる。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
まわりに響く低い音に混ざる細かなサーッという音。
全身がセミトロピカル・ミストでおおわれて気持ちがいい。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
滝つぼの手前で分かれ左右からしぶきが流れてくる。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
モコモコと綿菓子みたいにもりあがっては変わりゆく形が面白い。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
目を高速で止めると、怒涛のように落ち続ける姿はなかなか激しい。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
たっぷりした白い水しぶきは滝つぼに落ちると神秘的なグリーンに変身する。
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
おっ! 滝の右上部に注目! 人がーーーー!
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
流れ落ちてゆくーーーー!
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アランガチの滝, 宇検村湯湾, 奄美大島 by T. T. Tanaka
「すごーい! 滝つぼダイビング、決まりましたねー」
「ありがとー。最高! 気持ちよかったーー」
ガイドの方も入れてみんなでエイっ!! いい笑顔。
コウガン(川ガニ)がササササっと滝つぼに向かって歩き、緑の水の中をタナガ(川エビ)がススススーっと泳いでいった。
さ、この水の流れに沿って島の南、大島海峡まで下りてゆこう!
“サキシマスオウノキ(先島蘇枋木)”
大島海峡に面する海岸は砂浜もあるし、絶壁がどんと下りてきているところもある。トンネル脇に海が見え隠れする昔からの道路が・・ 地図上ではその脇に島内最大のサキシマスオウの木があるらしいのだ。 下りてゆく山道へのさりげない入口がみつかった。車を脇に停めた。ここから行ってみよう。急斜面を分け入ってゆく。目の前に広がる緑ぎっしりの林。この先、本当に巨木に行きつけるのか? その先、海まで到達できるのかしら?
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
数分茂みの中をエイっエイっと歩いたろうか。海の音が聴こえてきたエリアに大きく育った木々たちが現れた。四方にながーく平たーく板根が伸びている。
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
これこそ、サキシマスオウの木。この板根、幅50cmくらいあるだろうか。アオギリ科の大木で幹が白っぽい。熱帯アジア、沖縄、奄美大島まで分布し、この辺が北限になるみたい。板根は船の舵(カジ)にされてきたとのこと。また、樹皮にはタンニンを含んでいて、染料や薬になるそう。鹿児島県の絶滅危惧II類に指定されている。この木になる実の種はつるんとした楕円でてっぺんがちょっと尖がり、掌にちょうど入るくらい大きい。撮っておけばよかった・・・。ウルトラマンの顔面に似ているとされるこの種は海に浮かび流れ着いて発芽してゆく。
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
樹齢約150年。
波の音の流れ来る中、どっしり育つサキシマスオウ。
海辺の砂地でも大木をしずまずしっかり支える板根。
あれっ、背景のパームツリーの葉っぱがわずかに揺れた。
鳥がピーッと元気よく鳴いて飛んで行った。
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
いろんな緑がモコモコ、すくすく育っている森。
この枝の下をくぐって、更にくぐって海に抜け出てゆきたい。
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
突然遭遇した白い綺麗な花。つぼみもすっとしていて、赤い実はマンゴーのよう。これ、ミフクラギ(沖縄キョウチクトウ)の木。おいしそうな実でつい手にとりたくなるけど、なんと、これ、樹液も種も猛毒なんだ。気を付けよう気を付けよう。
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
えいっと枝をぐいっと上にあげたらついに外に出た。
わっ、いきなり砂浜。思いっきり脱力・・・
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瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
水辺に腰をおろしてしばしぼーっと・・・
まわりには誰一人いない。
音もしない波がゆったり寄せて来る。
目の前には停泊中のヨット。
雲におおわれた空がブルーに染まってきた。
島影も段々濃くなってきた・・・
さ、次に行こうかね・・
“忘れていた遺産。手案(てあん)にて”
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
すっかり地図というものを持たなくなってしまったけど、スマホ画面に出てくるmapはなかなか面白い。拡大すると意外なものが表示されてくることが結構ある。ここも、さんざんどうしようか迷ったあげく、やっぱり寄ってみようと思ったのだ。
僕の後ろは自動車教習所。で、目の前は山の斜面。
これが国指定の文化財。
トンネルの入り口みたいになのが3つあって、一つは国の奄美広域地震観測施設。残り二つは中でつながっていて見学できる元 弾薬庫!!なのだ。
誰でも入ることが出来る。この奥にある電灯スイッチを自分でおそるおそる入れる。
中に入ろう・・・
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
電灯をつけても結構暗い。ずっとずっと奥まで続いているかまぼこ状の空間。入口に元々あった鉄の扉は紛失しているのだけど、残った蝶番は当時の扉の厚さを、びっしりついた錆は90年以上の時間の流れを物語っている。ここは昭和7年(1932年)に旧日本陸軍に構築された弾薬庫。奄美大島要塞全砲台用の火薬庫だったのだ。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
格子状になっているのは、コンクリートの中に組み込まれている鉄骨。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ここに5万トン以上の弾薬が保管されていたとのこと。陸海軍の弾薬貯蔵補給基地だったのだ。住民には一切知らされていなかった・・・ その弾薬は第二次大戦の終戦とともに目の前の海峡沖に廃棄された。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
コンクリートの一部が崩落して、穴があいているところもある。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
3つの弾薬庫はいずれも二重構造の洞窟式。海に近い湿気の影響を受けないように作られている。当時の工事はさぞ大変だったろうなあと二重構造部分を眺めていたら、僕のすぐ脇をヒュインヒュインと羽の音を立てながらすりぬけてゆくものたちが・・。
あ、上に黒い飛形が見えた! コウモリじゃん!!
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
奥深くまで掘られた三つの弾薬庫。その二つの間は往来できるように直交する側道が掘られている。山中にこんなH状の施設があるなんてとっても不思議な感覚。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
大気と隔離されていた空間に、自分の足音が反射する。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
側道はアーチと直線がきれいで、そんな古いものとは思えない。ここを弾薬と人が移動していたと思うとなんとも言えない気分になる。
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手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
中をぐるーっとまわって外の明かりが見えるところまできた。緑の木々が見えると何故かほっとする。
手安弾薬本庫跡, 手安, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
外に出て、来たところを振り返って呆然としていたら、そこに車から降りてきた近所の女性が・・・ 軽く会釈したら、
「親たちもここにこんなものがあったなんて全く知らされていなかったの。戦後になってわかったって。びっくりでしょ?」
「はい。唖然・・。考えさせられました。こうやって見れるの大事ですね。」
「ほんと。あ、そういえば、コウモリに会った? ずっとトンネルにすんでいるのよー。会うといいことあるわよ。いい旅をねー」
2022年に奄美大島瀬戸内町にある奄美大島要塞跡群のうち手安弾薬本庫跡を含む3つが国指定の文化財になった。いわゆる戦争遺産。海峡はさんだ向かいの加計呂麻島には木製の無防御のボートで敵艦に特攻出撃する「震洋隊」の設置跡も残っている。この「震洋隊」の出撃もアメリカ軍の奄美群島上陸もぎりぎりで回避されている。
奄美大島は第二次大戦敗戦後、沖縄より19年早い1953年に本土返還され既に70年以上が経つ。
2021年には奄美大島は世界自然遺産に登録された。いきものたちには国境がなく戦争もない。彼らも私たちも一緒にいきる自然の遺産。
そして愚かにも人間が戦をしてしまった戦争遺産。
“奄美の島に日が沈む”
さ、今晩泊る予定の奄美の最南端近くの古仁屋(こにや/瀬戸内町)に着いた。海峡をはさんで大きな加計呂麻島が目の前の南方向にドーンとある。5000人ほどが住むこのエリアは歩いていても人っ気を沢山感じて楽しい。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
夕飯前のこの時間はゴールデンタイムかもしれない。自転車で友達と合流して、海際で釣り糸を垂れる。
そう、覗いてみて覗いてみて!
波のこの寄せる感じ、今日は釣れるんじゃないかな?
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
塾帰り?の友人と並んでの自転車。潮風の中、おしゃべりしながらこいでゆく。そこでぐいっと曲がってもお話はそのまま続いてゆくのだ。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
お日様も大分傾いたね。ブルーとグリーンと。ちょっとオレンジも混ざってきた。ちょうど満潮で海峡の流れがとまった気がする。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
海峡をずっと見ているのは気持ちいい。
舟が港に帰ってきた。
ゴールドまじりの光の中、シルエットが美しい。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
海峡に向かって釣り竿を投ずる。
また、一投。そしてまた、一投。
あら、水が少し流れだしたね。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
ピンクの空の中、加計呂麻島の山の影が何層にも落ち着いた色に沈んできた。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
急に明るくなったと思ったら、雲の合間に顔を出してきたお日様。
そうだ、今日、しっかり姿を見るのは初めてで最後。
まぶしい君は放射状に光を元気に放っているね。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
オレンジに染まってきた空の雲間に顔出し。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
お、更に姿を見せてきた。まぶしい白色球ね。
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古仁屋, 瀬戸内町, 奄美大島 by T. T. Tanaka
島と島の間をつなぐ川みたい。
ながいながーいキラキラが一日を美しく締めくくってゆく。
今日も沢山ドラマに遭遇できた。
ありがとう。奄美大島。
“水辺のドラマ”
体中にふりかかるセミトロピカルのミスト
低い音と高い音のまざったクールシャワー。
南の島の滝は自分との距離感が近い感じがして嬉しい。
水辺で育つサキシマスオウの木の板根。
砂地だからこそしっかり木全体を支えている見事な平らな根っこ。
そしてここでも全く知らなかった歴史の痕跡との遭遇。
水辺だから作られて残る弾薬庫跡。
島で息をして吸い込む空気は水っ気を含んでいて気持ちいいんだけど、その湿気を遮断する施設が海の近くの山中に展開されていた。
ひっそり、人々にわからないように・・。
戦争遺産と世界自然遺産と。
目の前に横たわる加計呂麻島。
目の前の大きな海峡。
キラキラと光るお日様。
日は沈む。
そして、また昇る。
水辺のドラマたち。
ありがとう。奄美大島。
ほんのちょっぴりだけだけど、
昨日の僕よりやさしくなれた気がする。
Photos, essay by T. T. Tanaka
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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