
“Travel is ENCOUNTERS”
(ワイオーミング篇) #22
Photos, essay by T.T.Tanaka
Local / 2019.12.24

運転席の前は大きな釜。鳩がシルエットに。。

片足の鳩ちゃん。よろ。。。釜の上

カップルの鳩ちゃん。
“Night and Day”
お、おおきい!
蒸気機関車が道端に。
つい、車を停めてしまった。
かつてアツアツに石炭焚いて湯気をつくっていた釜。
今はロッキーの気温の変化になじんで佇んでいる。晴れた日の昼間は温かいし鳥たちにとってはぴったりの休憩所だ。ベンチはあるし、止まり木はあるし、「港の・・」じゃなくて「ロッキーの見える丘公園」みたい。ちょっと酔っ払った感じで千鳥足、いや鳩足の片足立ちの彼もいるけど、やっぱりデート中の鳩ちゃんカップルもいるね。
雄の鳩; 「お、ありゃ、なんだ下に光っているは・・?」
下をわざとらしくのぞき込む。
雌の鳩;「え、何、え、どれどれ・・?」
彼にジジジとにじり寄る。
雌の鳩;「ね、私、昼も夜もあなたのこと思っているの。」
雄の鳩;「ぼ、ぼ、僕もだ。。。」
Night and Day.
いい丘だね~。あら、鉄板があぢーくなってきたじゃん。。。

Wyoming州には南と北に大きな路線が二つ走っている。Burlingtonルートは北の路線だ。鳩がいるね。

大人の身長近い大車輪。
力強くレールを駆けていたんだね。

機関車の先頭にある「MD 20-20」というプレート
ロッキー山脈の手前にちょい控えめのビックホーン山脈、これとて標高2,700m以上で一番高いところは4,000m超だ。そのふもとにある町、Sheridan。今でも西はカリフォルニア、東はシカゴまで鉄道でつながっている。
人口 17,000人あまり。ワイオーミング観光の都市として有名で、ロデオ大会もあり、職人たちがカウボーイグッズをしっかり丁寧に作っていたりする。
でも、ここは、かつて全米でも有数の炭鉱があった。北のモンタナ州まで川べりにつながるエリア。掘られた石炭を一気に積み出して東に運んでいたのが1892年につながったシカゴの鉄道会社のBurlington Routeだったんだ。鉄鉱石や小麦や牛なども運んでいた。石炭は蒸気機関車に、火力発電に、暖房に使われていた。1930年にはほぼ炭鉱は石油にその地位を奪われて閉鎖されてすたれていったんだ。
当時はあっちこっちでシュッシュッと厚い鉄の蒸気機関車から湯気と煙があがり、明るいときも暗いときもいそがしく汽笛が鳴りひびいていた。
Night and Day.
あら、この保存機関車5631番なのに、頭のプレートは MD 20-20 になっている。何だろう? 気になって調べてみたら面白かった。20-20というのは20 oz(約500g)の 20%アルコール濃度のお酒のことみたいなの。そ、ワインは大体14%くらいまでだから、更にアルコール強化した飲み物の代名詞らしいのだ。 しかもMDはワイン会社の略称らしいのだけど、Mad Dogとも呼ぶ人もいるみたい。狂犬! そう。言ってみればすごーく強いお酒のことで手ごろ価格でいい気分になれるらしいんだ。しかもNight Train(夜汽車)なんていうブランドがあるみたい。炭鉱と鉄道とそこに働く人たちの賑やかなりし頃の下町ドリンク「狂機関車号***ハイ」みたいな感じ。
この保存勇姿機関車のプレート、しゃれっ気たっぷりじゃん。
あら、鳩ちゃん、やっぱり、酔っ払っていたのかしら。。。 気を付けて~


わ、また会いました。マウンテンライオン(= パンサー = クーガー)に。ここはストリート。本物にはまだ会えてないけど。すーっとする空気の中ですっと背筋を伸ばしている。かっこいい。そうだよね。ロッキーのふもと。炭鉱や鉄路か開かれなければ大自然そのもののエリアだもの。まさか自分たちがブロンズの彫像になるなんて。見たらどう思うんだろう。人間て不思議な存在だね。
れんがの壁の前ですこーし、青っぽく、黄色っぽっく光っている。うん。君は偉大だよ。


おっと、おしゃれなワンちゃんに会えた! と思ったら狐さん。
ロッキー山脈エリアには狐がいるし、コヨーテもいる。かつては狼も沢山いた。ネイティブアメリカンやここに住む多くの人達の間では、狐は貪欲でもなく、利己的でもなく親子愛が強い存在と信じられているらしい。このストリートのお店の人かしら。パープルのリボンを蝶ネクタイのように飾ってくれている。おしゃまさん。かっこいいね。素敵。
僕がよくいく神社の狐さんは油揚げの方が好きみたいなんだけど。。。


ネイティブアメリカンにとってThunderbird(雷神鳥)はそれぞれの部族の祈りに登場する大切な存在だ。人々を邪悪から守る鷲のような鳥。その鳥の踊りの彫像はエネルギーを思いっきり発散している。
こちらは笛を吹いて歌を奏でる様子。とっても気持ちがこもっている。音色が体の奥まで入ってきそう。

構えるのは獲物を狙うためなのか、部族間争いのためなのか、新大陸にやってきた人々と戦うためなのか・・不安と緊張がよぎる。。


そしてカウボーイ。馬に乗り、銃をもっている。歴史的に色々なドラマがある中でアメリカを築いてきた人たちでもあるのだ。

1900年前後にSheridanのストリートにはどんどんレンガ造りの建物ができた。1910年には何と全米では当時珍しい電気のストリートカー(路面電車)まで走っていたんだ。
レールをギ~ッと行く路面電車の音、馬車の音、そして鉄路の汽笛の音たちが建物の壁に一日中こだましていたんだね。
その頃、ここには、炭鉱や鉄道や農業にヨーロッパ系のポーランド、イタリア、ギリシャ、ドイツ、そして、メキシコや日本からの人たちも住んでいたんだ。
今でも残る建物たち。その上を大きな鳥が弧のシルエットを描いて飛んでいく。

これは130年ぐらい前の1893年に建築されたCADY オペラハウス。ストリートにいぶし銀のようなたたずまい。1906年に3階が火事で焼失してしまった。その後、ホテルに使われたりして、また、オーケストラのいるオペラハウスとして使われた。無声映画の上映、そしてトーキー(音声入り)映画などでにぎわってきた。きっと1928年にディズニーの最初のトーキー映画ミッキーマウス「蒸気船ウイリー」も上映されて人々でにぎわったはずだ。
舞台から、スクリーンからのいろんな楽器や歌声や人々の歓声などが響いてくるみたい。
今でもストリートに面してフードストアやポストオフィスが入って頑張っていてとってもえらい。
これからもみんなを見守ってね。
火事のことは乗り越えていこうね。
きみたちがいるところは素敵な通りだった。
On the street where you live.


Sheridan, Wyoming, U.S. by T.T.Tanaka
Walk, chat and go!
古い建物が後ろに。資料を片手に歩く歩く。前に。

今日は金曜日。ちょっと嬉しいランチブレイク。レストランまでは踊りのテンポ。
今練習中なのかしらん。。



井戸端、いや、道端SNS談義、道端リアル会議~。ぺたんとすわると落ち着くものね。大きな空、雲がゆっくり動いてゆく。
大地でChatする時間は青春だ。
いいなあ。。

わあ。かっこいい。
投げ縄の女性。カウボーイでなくてカウガールだね。
そう。WyomingはEquality stateといわれているんだった。女性の参政権も、知事も治安判事も全米で最初に実現した州。
女性たち、Go!


Fool on the hill
草原にさよならしてBighorn mountainsを四駆で上ってゆく。
後ろが見たくってここで車を停めた。
丘の向こうにはまた丘がつづいてゆく。
緑の中にくねくねといく道路。
池と、赤い小屋がちっちゃくなって点在している。


小学生姉妹が休憩。ガサガサ、タコチップスナックの袋。。
「わー。あんなにちっちゃい。わたしたちのおうち、見えないわね~」
「見えるわけないじゃん。ここは地球が見えてるのよ」

気が付くと後ろにオレンジ色の鳥が一羽。
目があっちゃった。
僕;「こんちは。この辺りに住んでるの?」
鳥さん;「冬の間は川べり近くの低いところにいるよ~。寒くなる前にここで木の実たくさんゲットするの。松も多いんだよ。今日は気持ちいいから川まで降りるといいよ~。じゃあね~」

わあ。丘の上には大きなシルエットの枯れ木。真っ黒になっている。雷が落ちたんだね。

ならんだ柱を地層が横切っている。陰影が混ざって。。
頬をcoolな風がなでてゆく。
この丘にはこのシーンを見ている僕だけ。
Fool on the hill.



Climb every mountain
更に上に車は上ってゆく。
ひやー。山の斜面が裂けている。。割れ目が渓谷じゃん。。どれぐらい昔のことなんだろう。まだ岩肌だけのところも多い。
なめらかになった斜面にも侵食された深い谷にも緑が育ってきているね。時の流れはゆったりだけどすごい。
うーん。この渓谷の両崖は100mくらいはありそうだ。


水のくだける音、ぶつかる音、また一緒になる音。この丘まで反響してのぼってくる。あ、鳥ちゃんの声もまじっている。早朝や晩にはきっと鹿ちゃんたちの歌声も加わるんだね。


橋の手前で停まった。引き込まれるように川の流れのところまでどんどん下りてきた。水しぶきがすごい。ポプラの木の枝なのか、流れの中でひっかかっている。
あ、土筆(つくし)だ! 日本で見慣れたのに比べるとちょっとブラウンね。だから、Horse tailっていうんだ。馬さんの尻尾。ここは徒歩か馬さんに乗ってしかこれないものね。


僕が車を停めたのにつられてか、後の大きな車もとまった。
子供たちがきゃあきゃあ急斜面を転がるように下りてきた。川に手をつけて、
「Freezing!!」
そう。流れているけど凍りそうなんだ。
子供たちは雰囲気に浸るなんてことしないもんね。
「Bye! I will climb the mountain!」次なの。次。
見上げると子供たちと、針葉樹たちのシルエット。
そう。登ろう。登ろう。すべての山を。
Climb every mountain!

ふー。ふー。やっと登ってきたら更に向こうに斜面が目に飛び込んできたではないか。なんだ~あれ~!!
地層がかたまりに見えている。すごーい大胆な墨絵みたい。一番上に木がずーっと並んでいてシルエット。
暗いところはよくみると、針葉樹の塊だね。うわ。よく育ったこと。

Sheridan, Wyoming, U.S. by T.T.Tanaka
目を右にふると、わわ・・・これなーに。
濃~い地層の手前に緑の斜面。ぽつぽつの深緑は木の密集だね。
激しい景色なんだけど、じーっと見てたら地層がブルーベリーレアチーズケーキのように見えてきた。
あら、ちょっと待って、あの上のちょい左側のごつごつ、なんか口あけた横顔みたいだけど。。。

うわーーーーー。びっくりしたーーーーー。
ゴ、ゴリラの横顔じゃん。なんで?
口開いているよ。目は小さめだけど。鼻の上にどうして一本、松の木があるのさ。。。
大昔、ここに旅してきたのかしらん。。
今は向こうのロッキーに視線を送っている。
ゴリラはファミリーに子供たちにやさしいけど、同時に握力500㎏もあって怒るととっても怖いと言われている。
そうか。ロッキーを守っているんだね。ずーっとずーっと。狛犬みたいに。
自然からも悪い人々からも守らねば。
ありがとう。僕たちも頑張るからこれからも頼むね。
会えてよかった。

「Smoke gets in your eyes.」
煙は私たちの日々の生活からどんどん消えている。
一日煙に会わなかったという日も増えている気がする。
煙は何かを燃やすときにあがるもの。水蒸気は水からあがるもの。
両方とも熱く活発なときに、ぶわーっと発生してくる。。
今は観光でにぎわうWyomingのシェリダン。
このエリアは130年ほど前の1890年代には大きな炭鉱があった。世の中のエネルギー源として石炭がどんどん掘り出されていた。
鉄路は石炭を焚いて水蒸気を発生させていた。蒸気機関車は熱~い塊。
国内外の色々なところから人も集まっていた。日本人もね。
熱気も活気もあったんだ。
石油がとってかわるのは炭鉱が開いてから40年後くらい。
世の中はあっという間に変わる。
鉄路からハイウェイに主流が変わると人々もハイウェイ沿いに移り住んでゆく。
煙は燃えているときに盛んに出てるけど、炎が消えるときにも出るんだ。
すーっと。
バーッと燃えている頃、消える時が来るから気をつけろよ~とあんなにみんなにいわれていたのに、その時がこないと気が付かないものだ。
炎が消えたときの煙は哀しい。
目にしみるのだ。
失恋のように。
Smoke gets in your eyes.

イラスト by 瀧口希望
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。




















