“Travel is ENCOUNTERS” (グリーンランド篇) #32
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2020.10.26
“Reflection”
さ、北極海のコーヒーを楽しんだので氷山ツアーの続き、続き。
北緯69°、低い雲の下。僕たちの小さい船は、ちゃぷちゃぷと進んでゆく。
わ、大きな雪のかたまりが近づいてくる。
朝日にあたってきらり。
遠くで低いバッシャーんという音。氷山が砕けたんだ。このぷかりぷかりの雪たちは砕けたカケラなんだろうか、それとも長い時間浮かびながら段々小さくなってきたのだろうか。
ずーっとずーっと海に連なる白い斑点。空にも雲の白い斑点が続く。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
ここは静かなエリア。船のエンジンの音と水の音。
雲の合間の強いお日さま。
シルエットの中に浮かぶ青い氷山。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
すーっと船が氷山と氷山の間に入った。
何、何、これ・・?
氷山の表面はいろいろなのがあるけど、これはまるで斜めのツララがギッシリ連なっているみたいだ。
でも、水が垂れてなったのではない。渓谷に積もった雪に力がかかってこんな皺になって海に放り出されて浮いている。
「ツララ」たちが反射してまぶしくどんどん迫ってくる。
山あいの「湖」みたいな向こうには朝の赤っぽい空が残っている。
しばし、茫然。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
“V.S.O.P.”
氷山のカケラの間を船がゆく。お日さまが上がってきた。
ときどき、船底にシャリッ、シャリッと小さなカケラが擦っている。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
あ、このカケラのフロートは大きめ。
水中の氷がライトブルー。大分向こうには巨大な平たい氷山。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
ここには「氷」が星のようにずらーっと流れている。天の川みたいね。ライトブルーのお星さまの間にはところどころ大きなかたまり。上から子供が大きな氷を地面におとしたまんまにもみえるよね。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
あ、この子は一つ、離れてぷっかり。と思ったら、船が減速した。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
船長さんが網を出して、「氷」をすくった。ガイドさんがその場でカチ割ってくれてみんなの口の中に。 今年とか去年の「氷」じゃなくて、少なくても数十年以上。もしかしたら千年以上前のかもしれないし、もっと前かもと思うとちょっと緊張。
おーー。まろやか。もちろんしょっぱくない。やさしい感じですっきり。
自然の「氷」のVery Superior Old Pale, V.S.O.P.
ウィスキー、ブランデーよりずっとずっと「熟成」しているのかもしれない。
なんか、元気になった気がする。うれしい。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
“Fly cool”
目を水面に落としたら、わ、ここにもカモメさん。港を出る時、行ってきますしたんだけど、もっと沖までいるんだね。そうか、疲れたら氷山の上で休憩できるものね。
お、その水しぶき、かっこいいじゃん。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
わ、このカモメは一羽だけ氷山を背景にどんどん、ゆくゆく。
目で追ってゆくと、楽しい、楽しい。
そのバック、すご。その壁、浮かんでるんだよね。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
一瞬雲がかかってダークブルーに。自然がつくった氷山の紋様に圧倒される。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
こんなすごいものを見ながらカモメは飛んでいるんだもの。カッコよくなれるわけだ。やっぱいいもの見なきゃな~。んでないと、モテないよ~。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
“Wall Art”
裾に入った斜めギャップ。その溝はダークブルー。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
ギャップまわりは、さざ波表面仕上げ。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
斜めスロープ、角度変化型。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
やわらかスロープ仕上げ。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
小紋表面吹付型。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
これは浮かぶ「大スキー場」。大スラローム会場かな。
滑降の後が何本も。うん? 滑り降りたところで一気に海に入っていくのかな?
まさか、カモメちゃんが滑った跡じゃないよね?
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
“別れ船”
大氷山に囲まれたエリアから帰港へ。振り返っていろんなかたちの氷山に別れを告げる。名残惜しい。でも明日は全く違う浮かぶ景色になるのだ。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
「島」が氷山の後ろに見えてきた。
浮かばないもの、浮かぶもの。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
カモメさんが舞う中、ボートに乗った漁師さんとのすれ違い。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
漁師さんたちの出船。次から次にできる航跡。
元気な白い帯。
Ilulissat, Greenland, Denmark; by T. T. Tanaka
そしてやっぱりカモメさんが出迎えてくれた。
帰ってきたよ。ありがとう。
“Art by nature?”
氷山。
遠くから見ていてもすごいんだけど、船から至近距離で見た氷山には圧倒されてしまった。
多分何回か息をするのを体が忘れていたと思う。
大きさや高さや、浮いていることにもびっくりなんだけど、そのひとつひとつのさまざまな造形や表情に・・。
どうしてあんな形や、スラロームの跡や小紋やさざ波やギャップなどができるんだろう。まさに自然によるアート。Art by nature.
人間の創造するアートも素敵なんだけど、人間を超えた異次元の自然の創造には息をのむ。自然ってすごい。
同じ地球だけど北極圏のグリーンランドまできてよかった。
あ、そうだ! あの人にこの氷山を送ろう。
ポケットから取り出したスマホ。
そりゃそうだ。電波圏外。一つも棒が立たない。
Wifiあるわけないし。
電源を切ったら黒い画面に。
なんとそこに写った自分の顔。
あ、顔もArt by natureなんじゃん。
創作年数はよろこんでいいのかどうかわからないけど、全然氷山の年数には及ばない。顔もアートだ。
Art by nature.すごいなあ。
あ、by をはずさないでね。
Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2020年より前の取材を元に書いております)
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。