
“Travel is ENCOUNTERS”
(ワイオーミング篇) #21
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2019.11.18


“It’s the small’s world.”
朝、ねむねむだけど目をあけたらどこまでも広がる緑の大地。Great Plain。
二度寝したい。。むにゃむにゃ・・しながら緑のじゅうたんの手前の縁を見ていたら、ひょこひょこ動くリスみたいなものが。。あら。プレイリードッグじゃん。手先がかわいい。ねずみに近いんだけど、草をハムハム・・している。
ロッキー山脈の東側の平たんな大地は砂質らしく風は強く竜巻や嵐が発生するけど水が少ない。木々は少なくて草原(プレイリー)が広がっているんだ。
プレイリードッグは地面に穴をあけて中で寝泊まり。前足が器用でかわいい。後ろ足で立ってwatchしている。狼のようなコヨーテや大きな鷹が天敵。発見すると犬みたいにキャンと鳴いて、みんなに知らせて地中にもぐる。一応、僕は大丈夫な存在だったみたい。キャンは聞くことができなかったけど。
ここはきみたち小さな動物たちの世界なんだ。大きな平原だけど。


西の方には大陸分水嶺、ロッキー山脈。
手前は大草原が広がる。大きな町はほとんどない。でも昔からある地形に沿ったくねくね道路は大好きなんだ。
ふと立ち寄ったArvadaという村。ここは昔、Suggsといわれていた。1890年代に近くの川の渡し船が出ていたり、Gilletteという東の町までゆく鉄道支線の駅があったりした。橋や鉄路の建設や、浅い地層で石炭や天然ガスが出たりしたこともあったのだ。かつては人が往来してバーやギャンブルや宿などもあり郵便局もあった。今は人口約30人(18家族)で殆ど当時の面影がない。
美しい大草原にお家と小屋がぽつんぽつんとある。吹いてくる風はおだやかだった。
ふーっと深呼吸。


馬がお家の横につながれている。シルエットが動いている。
そう。雪がつもると、馬でないと入っていけない。大切な家族。
いつもと違う旅人の気配。ごめん。気になるよね。こっちむいちゃった。頭だけだけど。
すーっとほほをなでる風の向こうにかわいい目線があったよ。

鳥がピーっと語尾を上げて鳴いてすっと電線に止まった。ブラックバード。
シルエットがきれい。背景にやさしい雲。
その声、馬ちゃんにも、プレイリードッグにもみんなに聞こえているよ~。
「おーい。みんなおはよー。元気かな~? じゃ、今朝の一曲歌うぜ」
みんなgood neighborな感じ。
It’s the small’s world.


“It’s a small village. “
道端の交通標識。学童に注意。
小さい村だけど子供たちが集まるところがあるのかな。標識がひび割れしているのが気になるんだけど。。


真っ青な空にちっちゃい教会の白が光っている。みんなできれいにしているんだね。
後ろに見える雲がかわいくてきれい。
毎週みんなこのデッキを歩いていくのね。踏みしめる音とみんなの声を聴くと大地に生きているって感じられそう。

昔頑張って働いていたトラック一台と出会ったよ。塗装もはげて錆びているけど、流線形でつるんと大地に座っている。


1956年のナンバープレート。60年以上前に走っていたシボレー。
強い風が吹いても力強く切り裂いてみんなと一緒に働いていたんだね。
よしよし。えらいえらい。


わー。スペシャルバイクに会っちゃったよ~。このくねくねステーとハンドルはどこからきたの~? この大草原でエイっと作っちゃうこのパワーが大好き。いっぱいみんながほめてくれるよね。うれしくなるし、元気がでるもん。
こっちはドラム缶胴体の鹿さん? これはスプリングスマイル。お目目もくっきり。
お会いしたいから見渡したけど作者が見当たらないよ~。
人口30人だけど、作品の君たちもカウントしてあげるもんね~。
オズの魔法使いみたいに空飛んじゃうのかな・・・。



It’s a small bar.
メインストリート、といっても一番広い砂道をあるいているだけ。きもちいい。
すこーし降りてくると雲形にカットアウトした鉄板に穴をあけた看板が地面にささっている。ここの地名をつけたARVADA BAR。ライダー歓迎。
鷲と鹿角?が年季の入った広告とともに迎えてくれる。
喉かわいたし、入ろうっと。。

ぎーッと分厚い木のドアをあけて入ったら、長い髪の女性店員が一人。
彼女の頭上の角シルエットがきれい。
彼女も美しくてドキドキしてしまう。
大きなカウンター。何人も座れるね。僕しかいないけど。。
「アルコールじゃないんだけど、喉乾いたから何かフレッシュジュースあったらいただける?」
「オレンジジュースしかないけどいい? 氷入れるわよね?」
「うん。お願い。古い時計とか広告とか沢山あるのね。聞いていい? この辺の生まれなの?」
「車でここに通ってるの。隣町から。観光客なんてこないのよ。あ、撮ってもいいわよ~」

ネイティブインディアンの女性の肖像や鹿の剥製がどーんと。

多分、昔、西部開拓者たちが乗っていった馬車。人形になって飾ってある。

ビリヤード。プールバーじゃん。
あ、そりゃ、集まるよね。一日の仕事終わって勝負しながらのビールは美味しいし、仲間を冷やかして。。WEEKENDにかしらね。おいら、この村のハスラー。

青いチョークのキューブ。ビリヤードのキュー(突き棒)の先にこすってつける。キューの先で掘れて深い穴になっている。結構使われているね。ボールが元気よくはじけてウッドの天井に響く音がしてきた。うきうきのMambo innの曲が頭に流れてきた。。

おー。なんと古いピアノ。1870年に誕生した会社のもの。
ああ。ここが栄えていた時にはるばるシカゴからやって来たのかしらね。
バーや宿場があったというから、人々がこの音色にはじけた時間も流れたんだね。
うーん。ミュージカルやブルース誕生のずっと前だ。どんな音楽だったんだろう。
僕の好きな作曲家のスティーブン・フォスターの「草競馬」(1850), 「スワニー河」(1851) , 「おースザンナ」(1848)をピアノに合わせて歌う人もいたのかな。
今は弾く人も歌う人もいないみたいだけど。。

「それ、近くの川から発見された大昔の大きな骨なの。バファローなのか、なんなのか、わからないけど。。すごいでしょ?」
カウンターのコーナーに大きなガラスのケースに入れて飾られていた。ドライのお花、草といっしょに。巨大。
今は厳しい自然だけど、太古は海が近くまで来ていたし、川も流れて豊かな大地を動物たちが闊歩していたのかもしれない。
立派な命だね。ちゃんと今も大切にされているよ。
昔の命に触れながら味わうビールは体の奥にジーンとしみ込むんだろうな。。
いいところだね。

何年前の鹿かわからないけど、剥製がウッドウォールに。

その奥には、なんと。。Mountain Lion = Cougar = Panther だ。初めて見た。北米~南米大陸に今も住んでいる。ワイオーミング州の大半が生息圏だ。ネコ科ではジャガーについで大きい1.5m~2.8mくらいあるんだって。ネズミ、ウサギ、リス、コヨーテや鹿! などを急襲するので恐れられている。めったに人の前には現れないから僕も今まで出会ったことはない。1900年以降、牧畜などの害獣としてどんどん駆除されて激減した。人間が生活していくためには仕方ないことなんだけど、元々は彼らの生態圏だったことを想うと複雑な気持ちになる。ネコ科で小さい時、若い時はかわいい。なんか、まだ若かったこの子の顔をみていると人間みたいだし、かわいそうな気がしてしまう。でも彼らからすると一番の天敵は鉄砲を持つわたしたち人間なのだ。
うーん。。
自然を頑張ってぼくたち守るからこれからも人のいるところには現れないで生きていってね。



Badgerがいるよ。
店を出たらまた緑の草原。わ、左から一気に尻尾をなびかせて駆けてくるワンちゃん。
おっと、目の前に体格のいいおじさんが。
おじさんのところにワンちゃんが駆け寄ってきた。おじさんのワンちゃんなのね。
真下に影くっきり。
「いい天気。きもちいいところですね~」
「おー。今日はいい天気だ。(犬が僕に一気に近づいてしまい。。)おいおーい。。。こらこら」

Arvada, Wyoming, U.S. by T.T.Tanaka
どーっと僕のところに近づいてきて、ほれ、この通り。くんくん。
どのワンちゃんに会ってきたのか匂いチェックされてるのかしらん。そんなに顔よじってまで。。
かわいい。

大草原は乾燥地帯だから晴れるとカラッカラ。喉かわくから、はい。おじさんもペットボトル持参で歩いています。
「おいら、ここに畑もってんだよ。こいつと住んでんの。昔は駅や郵便局もあったんだけどさ。この辺はな、Badgerがいるんだぜ。ガラガラ蛇もいるから気をつけな。お、こいつ、あんたのこと好きみたいだな。いい犬だろ? 一日、ずっと俺と一緒なんだ。じゃな」
「あ、ありがとうございます。いい一日を~。あなたのワンちゃんもね」
う・・? Badgerって何? 調べてみたら、え、アナグマのことだって。主に夜単独行だって。あら、かわいい。スカンクみたいね。穴掘って住んでるんだ。プレイリードッグやネズミやトカゲ、トウモロコシやヒマワリ種も食べるって。見てみたいけど、今はお昼寝中ね。きっとあのワンちゃんはBadgerが出てくると気づいておじさんに教えてあげるんだ。いい子。


ぐるっと村の砂の道を歩いて降りてきたら線路際に大きな木と影が。
あ、おじさんとワンちゃんだ。
休憩ね。気持ちのいい風。ワンちゃんに話しかけるおじさんのシルエットが見えた。手を振ったら、気づいて振り返してくれた。
そういえば、おじさん、僕にどこから来たの? って聞かなかった。。
30人しか住んでいない大草原の中の村。
一緒にいる命がとっても大切だ。お互い。あたたかい会話が聞こえてくる。


鉄路の先
Arvadaには鉄道の支線の駅があった。昔は駅があるかどうかは町にとっては大きなことだったはずだ。人の流れの生命線。カーブ線路の向こうは大草原のちょっと大きめの町につながっている。
大きな逆三角形のウォータータワー(給水塔)。そのサイズは今の人口30人には十分すぎる。
誰の馬なんだろう? つながれた白馬は塔の影に身を寄せる。君たちの一番の出番は冬なのかしらね。そうか。白ーい雪原は厳しくとも待ち遠しいのかな。元気蓄えてね。

かつて駅があったところの鉄路。僕がいる間は通らなかったけど、ときどき貨物が通るらしい。
あら。鳩のカップルかしら。仲良くならんで歩いている。
ちら。二人そろって僕にご挨拶。
こんちは。
僕の見慣れている鳩ちゃんとちがってシックな色合いね。秋に似合いそう。
あ、ごめんごめん。こっちみなくていいから、そのまま、そのまま。
平均台、ちゃんとそこから飛ぶんだよ。

大きな黒松。幹をおおっている大きなうろこみたいなの。強い風も厳しい寒さもがっしりガードしている。100歳は超えているね。このあたりがにぎやかった時代も一番君が知っている。わあわあ人々がくるんとした車に乗って行ったり来たり、バーのドアもしょっちゅう開いたり閉まったり、煙をあげた熱い蒸気機関車が水や石炭をいれたりくべたりしていたこと。

鉄道標識。大草原の空にかかる雲。あ。鳥ちゃん。あ、そんなに前かがみになって。。
シルエットがかわいい。大草原の空。気持ちいい。

この先は鉄橋。大草原の中でつながっている。向こうと。。

そしてロッキー山脈がはるか向こうに。
これから向かうんだ。
あそこから風も吹きおろしてくる。
うん。進もう。
ちょっと立ち寄ったこの村で僕の心はあったかくなったもの。
ありがとう。

「It’s the small’s world.」
人口30人。
僕はちいさい村、ふと訪れるの、好きなんだ。
有名なものはないかもしれないけど、ちいさい村でこそたくさんのものに遭遇できるから。
朝起きて出会ったプレイリードッグ君も、走り回る人懐っこいワンちゃんも元気だった。
あちこちみかけた馬さんも。
ふと出会う人たちからも色々教えてもらった。
50年代のトラックはまあるい形のまんまで鎮座しているし、今や大きすぎる給水塔も、かわいくきれいな教会も素敵なんだ。
かつて駅があった近くには、松の大木と、100年以上前のものたちがギッシリのバー。
19世紀末に作られたピアノ、鹿やMountain lion(クーガー/パンサー)の剥製も、川から発掘した巨大な生き物の骨も、インディアンの肖像や、西部開拓の馬車の人形も。堂々としたビリヤード場やビール黄金時代のポスターもそのままだ。
そう。人だけが少ない。
色々な時にも、色々な命にも出会える。
そして、これからも元気でねとサヨナラする。
Every time we say good bye.
ちょっとさびしい。
でも新しくつながった感じがして嬉しい。
都会にいると世界は小さいねって思うこともあるけれど、
ここでは、みんな小さいけど、もっともっと世界とつながっている気がするんだ。
はるか向こうとも、いろいろな命とも、昔とも、未来とも。
It’s the small's world.
ありがとう。

イラスト by 瀧口希望
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
