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“Travel is ENCOUNTERS” (グリーンランド篇) #36
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2021.02.22
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“Hello, Goodbye”
グリーンランドの旅に終わりが近づいてきた。動く氷山に囲まれて暮らす一日にいつのまにか馴染んでしまっているのが不思議・・・。ちょっとセンチメンタルになりそうだったんだけどエイっと外に出た。
眼下の港には北極海巡りのシーズン最後の船が入港してきたところだった。
Hello!
あ、小さな船。
入船も出船も。
航跡があちこちで交差する。
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今日はちょっと曇りがちで霧がかかっている。
漁船の向こうにぼんやりと氷山のかけらが浮かんでいる。
カモメの鳴き声が海面を伝わって響いてくる。
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小さな氷山のかけらをよけながら船が水面をゆっくりV字に切り裂いて進んでゆく。
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この海は氷山が砕けて水中を酸素でかき混ぜてくれている。
それにミネラルを沢山含んだ氷のおかげでプランクトンもいっぱい、お魚も元気いっぱい。
大昔から色んないきものたちがつながってきた海。
青い海。豊かな海。
あの氷山は陸から放り出された雪のかたまりだったね。
そうそう。つい何日か前、船で氷山のまわりをまわったんだった。
同じ場所でも毎日景色は変わる。この氷山は今日の景色。
毎日、新しい友人に遭遇するみたいだ。
その友人はとどまることなく去ってゆくんだけど。
Hello, goodbye.
※ “Hello, Goodbye”は同名の大ヒットした曲があります。検索してみてください。
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“No fishers, no sea foods”
今日は、のんびり北極海を望む坂道の小さなレストランでランチ。
シーズン終わりで僕と二組だけ。
スチームしたズワイガニ、オヒョウ、エビ、アンコウにタラ、赤魚。。
白アスパラとレモンが添えてある。
さっぱりしてどれも新鮮でプリプリ。
ズワイガニはホロホロして甘いし、おひょうはとろけるよう。
素敵でしょ?
どれもここから日本に輸出されているんだって。
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海辺にはここで昔から漁をしてきた人とお魚オヒョウの彫刻がたたずんでいた。
ピンクの帯が入ったきれいな黒い石。
豊かな海への感謝の気持ちがこもっている。
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港には大きな船も小さな船もゴムボートも沢山。
湾内を漁師たちが行き来する。
船溜まりには波が静かに寄せてくる。
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夕方、海から陸にあがると、みんなの表情がゆるむ。
きれいな横顔のシルエットの男性。
後片付けを急ぐ男性の歩みは早い。
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女性たちも終わった~感もあるし、さあ帰ろう感もあるよね。
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帰る先が一緒なのかしらん。笑顔がこぼれていい感じ。
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港には小さく簡単だけど、しっかりした扉の建物があちこちに。
忙しく人々が出入りする。
防寒帽と長靴のおじさんは今日の漁の報告かしらん。お疲れ様。しっかり捕れているといいなあ。
あ、赤いコンテナ。暖をとっているんですね。あったたかそう。
帰るバンを待つ間。お顔もゆるんでスマイル。
美味しい新鮮なお魚。
みなさんがいなければいただけません。ありがとー。
No fishers, no seafoods.
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“Arctic key”
Marc(仮称)がにっこり笑ってカメラにおさまってくれた。
実は二日連続してお邪魔したのだ。
ここは町の中心近くからワンブロック奥にあるちょい小さなミュージアム(Local fishing and hunting museum)。ローカルのスーパーからの人の流れと直交してエイっと入ってみたらあったの。
昔からの漁の道具や歴史について展示してある。僕しか見に来てなかった・・・
入り口には、ほら、木製の昔のお舟。
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わあ。思いっきりタイムスリップ。
真空管の交信機や短波ラジオ。
厚い金属の前面パネルやアナログの針。パネルの文字もしっかりインクが残っている。
ぐるぐるカールしたコードの先は受話器、うん、ヘッドフォンとマイク一緒になったものね。
船との交信は生命線。
あやつる人たち、すごかったんだね。カッコよかったんだろうな。
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1638, 2638, とかの文字は「タイプライター」で印字されている。単位はKHZ(キロヘルツ)でラジオ局の周波数(FREQUENCY)。ホームページのアドレスみたいなものね。この数字にダイヤルで合わせるとその放送局が聴ける。インターネットなどない時代だから遠くの局を聴くにはそこから発信された電波が離れて消えるくらい弱まっていても自分で必死に 直接キャッチするしかない。自分たちの街にも局はあったと思うけど、北極海を渡ってくる電波からのヨーロッパの情報はとっても貴重。懸命に聴いてつながっていたんだね。Newsも音楽やお芝居も・・・。そ、浮かぶ氷山たちを背景に。。
消えそうな電波のハードロックでもギンギンに、いや、その前のビートルズやミュージカルかしら。ウキウキタイムもあったと思うんだ。
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これは家庭用のラジオかしらね。立派。MW(Mid wave)は中波、SW(Short wave)は短波。中波はローカル局、短波は遠くの海外などの局。
きっと、短波が聴けるというのがグリーンランドの街の家庭ではマストだったんじゃないかしらね。
まあるいダイアルをすこーしずつ回して選局して波をキャッチ。遠くとつながる。
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こっちはまだ現役のまあるい柱時計。ぜんまい仕掛け。
オークのような木が綺麗ね。何年たっても。
振り子のリズムが気持ちいい。
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いっぱい並んでかかっている鍵たち。
大きな輪がポイントかしらね。
えいっと簡単に釘にかけられる。
きっと、手袋しながら。極寒だとこれが便利だと思う。
タフに作ってあるんだね。凍る中で曲がったりしたらだめだもの。
そうこの鍵たちはsimpleだけどhard keys。
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あ、こっちはオルガン!
Ringkjobingというのはデンマークの西の地域だからそこから船で遠路、来たのかしら・・・。
たくさん並んでいるストップ(ボタン)。すごい。昔からこれらを使って音色を作っていたんだものね。
じゃあこの曲、どのKeyでいきますか?
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ちょんまげのMarcがここで会った日本人は僕が初めてらしい。
人懐っこくって色々お話ししてたら彼は色んな国のコインを持っていることがわかった。お爺さんがコイン集めしていたのをもらったんだって。香港の昔のコインもあるって。
Marc;「日本のコインには穴があいているのあるんだって? 今持ってる?」
僕; 「わーごめん。今、ないわ、ホテルに置いてきちゃった」
Marc;「日本はお花沢山咲くんでしょ? 漫画もいいなあ。いつか行けるかな・・・」
僕;「行けるよ、行けるよ。楽しいよ。きっと。おいでよ。ここのおいしいお魚、日本に入っているの。お寿司で食べてみて~」
Marc;「あ、そうそう。古いの好きなんでしょ? ちょっと待って」
さっきの鍵たちからちょっとはずれたところの鍵をとってきて何段もある大きな棚を開けてくれた。
Marc;「これね。100年以上前だと思うんだけど、ここに住んでいた人たちが描いた絵なの」
先住民たちが踊ったり祈ったりしている線画が沢山。。
僕;「わー。イキイキしているね。日本の着物みたい。紋様が素敵。。リズミカルに踊っているし」
直接手で触らず眺めさせてもらった。紙は皺があちこちにできていたけどあまり黄ばんでいなかった。貴重なものを見せてもらって嬉しくてニコニコしてしまった。
僕;「ありがとー。君に会えてよかった。嬉しい。日本においでね」
Marc;「うん。ありがとー」
手を振って別れた。
翌日は滞在最終日。空港に向かう前に、5円硬貨二枚と50円硬貨一枚、それと500円玉をホテルのメモ用紙にくるんでポッケに入れて、バッグをしょって必死に歩いて歩いて、また、立ち寄って彼に手渡した。
彼の嬉しそうな顔をハイっ、どうぞ。
元気でいてね~。
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“Here comes the sun”
一日中、斜光のグリーンランド。
お昼を過ぎると目の前の景色はどんどんwarm toneになってくる。
氷山の反射の光がゴールド。
海面も黄金色に反射してゆく。
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ディナー途中で見た窓の外。その景色にびっくり。走り出したい気持ちを抑えて、レストランを出た廊下をダッシュ! 部屋からカメラを取り出してホテルの中庭に飛び出した。
雲一面がオレンジ。氷山のシルエットはシャープな墨色。雲の層の向こうに太陽。日没が近づく。
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わ、来た!
お日様が顔を出しましたね。
雲と海の間に。
嬉しい嬉しい。
わ、まっすぐ。光線が広がらない。ずーっと。
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一気に向こうの空がスーパーゴールドに光った。
海がピンクに、雲が明るいパープルに。
氷山の手前を漁からの帰り船。
Deep purpleの中の航跡が手前にのびてくる。
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あの氷山はどれくらい氷河口から離れているんだろう?
水平線の上にぷっかり島のように浮かんでいる。
ただただこの景色を見つめていた。じっと。
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どんどん色が変わってゆく。空がピンクに。海が深い藍色に。
一気に暗くなっていくんだね・・・
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え!
沈んだはずなのに、今度は水平線が一面に沸き立って明るく輝いた。
わ。沈んだ太陽の光を下から受けているんだ。
そうなんだ。太陽は沈んでも死んでいない。生きているんだもの。
見えなくなるだけ。少しの間ね。
また、日は上る・・・
※“Here comes the sun”は同名の大ヒットした曲があります。検索してみてください。
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“Reborn”
北極海のGreenland.
5月GWに北米を久々に訪問した女性からのメールがPortlandからだった。「land」連想つながり! と、赤坂でのランチタイムがずれちゃって思わぬ巡りあわせがあり・・・翌々日ウクライナのキエフに向かう直前にGreenland往復の航空券を購入してしまった。地図上のおおよその場所以外は全く情報を持ち合わせていなかったのに、ここに行きたいと心ははやっていた。思いつきはかなり乱暴だったのに、直感的にここを歩いて撮影したいという強い気持ちが起きたのは何故かしら・・・。とっても不思議・・・。
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北緯69度。北極圏。地球最大の島は北半球最大の氷山の「産地」だった。タイタニック号にぶつかった大氷山もここから流れていった。来るまでは氷山が陸の氷河で生み出されるとは知らなかった。その大氷河はグリーンランドのあちこちに存在する。温暖化でどんどん後退しているんだけど・・・。
目の前に広がる北極海。頭ではわかっていても目の前の大きな「山」を見るととても浮いているとは思えない。それにその「山」があろうことか動いているなんて。次の瞬間には同じ場所にはいないし、とけるから形も変わってゆく。ここには毎分毎日同じ世の中というものがない。翌日起きると広がる景色がまるで違う・・・
そういえば自分が住んでいる日本でも他の多くの国でも、昨日、いやちょっと前と同じように見えているけど、実は変わってるのだ。そう。変わらないものはないのだ。ついそのことは忘れがち・・・。
ここで吸う空気は今の空気でもあるんだけど、同時に何万年も前の空気でもある。大昔に氷にとじこめられた空気がとけながら放出されるから。
同じ空気だけど違う空気。
雪、氷河、氷山、海、水蒸気、雲・・・と姿を変えて循環してゆく「水」。
ここにはすべての姿があった。
同じ「水」だけど違う「水」。
厳しい自然・気候だけど、ここに住む人たちも素敵な笑顔だった。
あの子供たちも、お兄さんも、おじさんも、女性たちも。
言葉は違うし、宗教も違うし、民族も違うけど。
ここで見る太陽もすごかった。
SunsetやSunriseはどこでも美しい。
でも、塵が少ない北極海での光線は広がらずまっすぐ僕に向かってきたし、くっきり氷山をシルエットに浮かび上がらせ、雲を下から様々な色でドラマにしていた。
日は沈む。そしてまた昇る。
お日様がずっと出たままの白夜は数か月続くし、まったく出ない極夜も数か月続く。
でもまた日は上る。
そう。生まれ変われるのだ。自分もね。
Reborn.
※“Reborn’”は同名のJazz曲があります。検索してみてください。
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Photos, essay by T. T. Tanaka
イラスト by 瀧口希望
(※2021年より前の取材を元に書いております。次回から某大陸に飛びます。お楽しみに~)
グリーンランドに関することはこちらのグリーンランドノートをチェック。
旅はENCOUNTERSアーカイブ↓
フロリダ篇
カリブ篇
アリゾナ篇
ワイオーミング篇
アソーレス篇
グリーンランド篇
ネブラスカ篇
ラトビア-バルト海篇
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T.T.Tanaka
のっぽの体形からつけられたニックネーム、トーキョータワータナカ。出身は兵庫県。フォトグラファー/エッセイスト。今までに30ヶ国以上を旅してきている。アメリカではフロリダ州などに在住経験あり。マーケティングの世界に身を置きながら同時にフォトグラファーとして国内外で活動してきている。国内外各地の風景、街、人、いきものたちのお茶目なサプライズを自由に切り取って写真制作および展示、スライドショーを展開してきている。写真集ENCOUNTERSシリーズ(Ⅰ,II,Ⅲ,Ⅳ,V,VI,VII;日本カメラ社)は幅広いファンから愛されている。最新刊ENCOUNTERS in Pakistan (みつばち文庫)は子供たちのピュアな笑いがいっぱい。
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