ある日のこと。

えもーしょん 中学生篇 #16

ある日のこと。

2010〜2013/カイト・中学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.03.02

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#16 「ある日のこと」
(2010〜2013/カイト・中学生)

それは、本当に普通で

楽しくも無いし、つまらなくも無い。

何か、あるわけでも無いし

無いわけでも無い。

普通の、ある日のこと。

朝7時。

携帯のアラームに起こされて

目が覚める。

「カレーライスが食べたい」

朝起きた、第一声が

これだった。

「福神漬けは、たっぷりで」

なにを言っているんだか

あぁ、寝ぼけているな。

自分に呆れたボクは

ベッドから、出るや否や

そのまま、ゾンビのような足取りで

キッチンの冷蔵庫へ向かう。

「カレーライスはないね」

「福神漬けもないね」

と、自分でも何がしたいのか

よくわからないまま

冷蔵庫の扉を閉めた。

「なにしようかなぁ」

この言葉が、何もない日の

始まりだった。

なにか、ありそうでない。

ないのは、わかってるけど

やる事もないから。と

家の中をうろうろ、うろうろ

森を彷徨うように、歩き回る。

「あ、そうだ」

と、机の引き出しから

双眼鏡を取り出し

ベランダへ、向かう。

途中、床に落ちていた

バスタオルを拾って

ベランダへ向かう。

ベランダの、隅に置いてある。

キャンプ用の椅子を持って来て

外がよく見える場所に広げた。

さっき、床に落ちていた

バスタオルを頭からかぶり

首にぶら下げた、双眼鏡で

家の向かいの、中学校を

監視する。

「今日もやってるねぇ」

下町のおっちゃん風に言ってみた。

双眼鏡から見えた景色は

余りにも、残酷だった。

それは、まるでお葬式のように

暗く、冷たい空気が漂う

空間で、その部屋にいる

同級生、全員が椅子に座り

机に向かい、黒板を見つめ

同じ、体勢をしていたのだ。

10分、30分、何時間見ていても

一向に、面白くなる気配がない。

困ったもんだ。

「暇だ」

ボクが、そう言うと

「おい、遊んでくれよ」

と、愛犬バローズが

よだれを垂らして、近づいてくる。

「散歩でも行くかぁ」

バローズにそう言うと

彼は、逃げた。

ボクは、また

双眼鏡で、学校を覗く。

覗いているうちに、だんだんと

なんだか、あっちの方が

楽しそうな気になってきていた。

「うーーーん」

暇だけど、自由なこっちの世界か

暇はないけど、自由もないあっちの世界か

背伸びをして、空を見上げる。

ゆっくり目を閉じて

眠ろうとする。

この瞬間が、好きだ。

「あぁ、これこれ」

「暇って、幸せなことだな」

ボクはそう言って

今日も昼寝をする。


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