日焼け止めのいい匂い

えもーしょん 中学生篇 #43

日焼け止めのいい匂い

2010〜2013/カイト・中学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.08.05

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#43
「日焼け止めのいい匂い」
(2010〜2013/カイト・中学生)

真夏?

いやいや、まだ7月。

なら、ゾッとする…。

まだ、夏本番ではないこの時期に

36℃の猛暑日が今週は3日もあった。

気のせいでしょうか。

1番暑かった日の昼間。

ついに、ミーンミーンミンミーと

鳴いていたセミの声がしなくなった気がしたのは

ついに、虫たちも暑さに勝てず

土に戻ったのかと思ったのは

ボクだけでしょうか。

暑い、暑すぎる!

自転車でスーパーへ向かう最後の難関

急斜面の長い坂。

この暑さで…

「仕方がない」

「だって、他の道も結局は坂道だから…」

と、はぁはぁ言いながら

思いペダルをひたすらに、漕いでいる。

中間地点で、後ろから電動自転車の音がする。

「やめて…今は来ないで…!」

追い越されまいと

必死に、必死にペダルを漕ぐ。

綺麗な制服、これから学校へ行くというのに

もう、汗でびちょびちょ

こんなに汗をかいたら

150% 学校へは行かない

じゃあ、どうしてこんなにも

頑張ってスーパーへ行くの?

と、言われたら特にないけど

今は、ただ

目の前の坂と、電動自転車の人にこの必死さを見られたくない。

あと3漕ぎ

あと2漕ぎ

あと、もう一歩。

は、

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

「も、もうむり」

「もうむりだよ」

「このまま坂降って帰ろうかな」

ふぅ

一息つくと、電動自転車の音が聞こえた。

そして、電動自転車はボクの横に来て

「弱虫」

声がして、横を見ると君がいた。

「弱虫」

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

突然、現れた君に

暑さと、疲労で呆然とするボク。

「弱虫、全部聞こえてたよ」

「はぁ、はぁ、なんだよ、声かけてよ」

「近くに行こうとしたよ? そうしたら突然スピード出すんだもん」

「そりゃ、さ…はぁ、はぁ、はぁ」

「凄い汗だね、止まらないね」

「止まらないよ…!」

「そんなに、暑い?」

「暑いわ!」

「そ、そっか…ごめんごめん」

「いいよ」

「これから学校行く?」

「もう、行かない…」

「行かないよね〜」

「授業ないしね」

「ね〜」

「暑い…」

「アイス食べる?」

「そうだね」

「スーパーで買って公園で食べようか」

「公園…」

「ふふふ、冗談だよ」

「…」

「なにがいい?」

「ゆずシャーベット」

「お〜いいですね〜」

「いいでしょう?」

「私もそんな気分」

信号が変わり、先に行く君。

君が前を通る時

必ずボクは、鼻から深呼吸してしまう。

暑苦しい、ボクの汗の匂いの先に

君と君の柔らかい

日焼け止めのいい匂い。

あぁ、頑張った甲斐があった…。

「変態」

にこりと笑って君が言った。

ドM心に火がついた。


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