サーフィン

えもーしょん 高校生篇 #31

サーフィン

2013〜2016/カイト・高校生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.06.01

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#31
「サーフィン」
(2013〜2016/カイト・高校生)

海へ向かう車の中は

いつもとは違う、空気を放っていた。

とても、幸せだとか

楽しいとか、ワクワクとは言えない。

むしろ、真逆に近い。

緊張が走っていれば

それは、それでいい空気感だが

これは、なんというか

そうではない。

ある大会へ、なぜか

同じスポンサーのチームと

向かうことになった。

3泊4日の旅だ。

1番後ろの、1番端っこで

誰の視界にも入らぬよう

息を潜め、じっと

窓の外を見つめる事

5時間。

1番、年下のボクは

こうして、チームと行動すると

いつだって、みんなのストレスの矛先だった。

5時間も、車の中にいれば

みんなのストレスは、空腹とともに

メラメラと、湧き上がってくる。

デコピン大会は恒例行事だ

大きめの、ハイエースに乗った

5人のアスリート。

大会へ向け

闘争心やら、アドレナリンが

ムンムン、ムラムラ。

そんな彼らの、ムラムラが

指先に一点集中し

デコピンという形で放たれるのだ。

1番後ろの、1番端っこのボク。

眠っていると

膝の辺りが熱くなったのを感じた。

ハッ!と起きると

真っ赤になっているのだ。

「なに寝てるんだよ」

と、3つ上の先輩が言った。

「眠いから」

そういうと

「なめてんのか」

と、またバチン!

デコピンされるのだ。

「はぁ、帰りたい」

ここで1つ目の「帰りたい」。

大会は、嫌いだった。

とにかく、嫌いだった。

簡単に、嫌いという

言葉で片付けてしまっているが

正直なところ、理解が出来ないのだ。

物心つくと、隣には

スケボー、絵具、筆、ぺん、サーフボードがあった

隣にあるので

全部、使った。

スケボーをして、友達ができ

イライラして

絵を描描き

気持ち良くなりたくて、波に乗る。

たった、これだけの

小さな出来事と生活が

ボクには、1番心地よく

幸せだった。

真冬になると

穴の開いた、ウエットスーツに着替え

凍えながら、海に入った。

家に戻ると

穴が増えていて

ママが、縫ってくれるのだ。

どうしても、縫えない穴には

ワッペンを貼ってくれた。

ボクだけの特別なウエットスーツが

好きだった。

気がつくと

暖かく、よく伸び、体にぴったりの

ウエットスーツを着ていた。

最初こそは、感動したものの

どこか機械的に感じ

素直に喜べなくなった。

どこから、なにが原因で

小さな幸せが

崩れたのだろうか。

文明の発達がそうさせたのか

あるいは

くだらない、ローカリズムが

ボクを変えたのか

ある日を境に

誰かが、気持ちよく波に乗るだけでは

物足りず

競い合い始めたのだ。

それは、人間の欲望が向上心を作り

そうさせたのか。

あるいは、サーフィンを仕事にした

大バカ者が、現れたのか。

わからないが

ある日を境に

サーフィンをスポーツにしようとした

大バカ者が現れたのは確かだ。

続く


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