『MOAi』のキャップ

Just One Thing #44

『MOAi』のキャップ

越川 萌音(『Dirty Spoon』オーナー)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2023.11.16

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#44




「これ、中古の傘立てなんですよ」

部屋の隅、レコードプレイヤーが置かれたちょうどいい高さの台は、よく見たら事務所にあるステンレス製の無機質な傘立てだった。その部屋には、思いもよらないものが並んでいる。色とりどりで、愛らしくて、あまり見慣れないもの。どこでも買えるようなものではないだろうし、たぶん、誰もがみんな「欲しい」と思うものではないのかもしれない。それがこの部屋にある様子を見たら、とても素敵に見える。そんな感じ。

その部屋の主は、越川 萌音(コシカワ モネ、以下モネ)という。お菓子のブランド『Dirty Spoon』を立ち上げ、ポップアップやカフェへの卸で活動する。お菓子作り以外にも、服や雑貨、編み物等、自らのモノ作りを通してブランドとして発信している。



「本当にめちゃくちゃ色々やってるんです(笑) このキャップは、友だちと2人でやっているブランドのやつなんですけど、服同じ系統が好きな子と、自分たちが欲しい服を作ろうと思って」

夏休みにしたいたずらの自慢話をする子どもみたいに、嬉しそうな、少し恥ずかしそうな、でも言わずにはいられない。そんな笑みを浮かべて話してくれた。間違いなくいえることは、そのことがモネにとって、この上なく楽しいらしいということだ。

お気に入りは、自身が友人と始めたブランド『MOAi』で作ったというオレンジのベースボールキャップ。『New Hattan』のボディに刺繍が大胆にあしらわれていて、発色のいいオレンジとも相まって目を惹いた。他のこの部屋にあるものたちと同じように、この空間、そしてモネ自身と一緒にあることでより一層、魅力的に映る。

見回すと、部屋にあるものの中にはヴィンテージの家具もあれば、オフィス用品のようなものもある。そうしたものに混ざって、モネ自らが作ったハンドメイドの作品も目に入る。キャップも、この部屋にあるものも、モネの「好き」や「欲しい」を表現しているという意味では、同じなのかもしれない。



新しい物を作りたい、自分の好きな物を形にしたい。そう思ったら行動することはモネにとって、ずっと前からごく自然なことだという。

「小学校くらいから、趣味は作ることでした。高校生の時から、ブランドをやってたんですよ。デザインを入稿して、ボディにプリントして、誰かに見てもらうみたいな。それが当たり前になってて、みんなが旅行とか遊びにお金を使うことと、同じ感覚なんです。そこにかけるお金とか時間が周りからは『バグってる』って言われます(笑)自分では最近まで気づいてなかったんだけど……」

だとしたら、具体的にモネが作りたいという衝動に駆られるのはどんなときなのだろう。

「自分が欲しいものがないときですね。おかしを作り始めたのも、本当に同じで、そのとき食べたいと思えるものが家になかったから。両親が共働きで家にいなくて、姉は4つ上で色々なことをしてるんですけど、やっぱりいなくて……。一人でお小遣いもそんなにないから買えないし、家に食べたいものがないなあって」

欲しいものが手元にないから、作る。この意味でいえば、キャップも例に漏れず。



「完璧主義なんですよ。だから、ちょっと違うなあと思ったらそれは妥協したくないし、自分で作ろうと思っちゃう」

ここまでの話を聞いていると、モネが作るものが自己完結していないことが意外に思えてくる。極端な話、自分が食べたいもの、着たいもの、見たいものを作るだけなら、たった一つ、お気に入りのものがあれば充分なはずだ。誰かに見せたり、ブランドとして発信したり、そこにはまた別のベクトルがあるのではないか。

このキャップを友人と一緒にやっていることに彼女のもう一つ大切にしていることが見えてきた。

「元々はおしゃれだなあと思って(その友だちを)Instagramでフォローしてたんです。ある日、『Toner』で働いてる時に、その子が来ていて(笑)『絶対その子だ!』と思ったんですけど、声かける勇気なくて(笑)DMで『もしかしていますか?』って聞いたら『います!』って返ってきて。そこから仲良くなりましたね」

実はこの日、モネが働いていた西五反田のカフェ『Toner』を卒業した翌日だった。高校を卒業後、調理師免許を取得してから製菓学校へ通い、オーセンティックなフレンチレストランでパティシエとして働いたのち、カフェへ転職した。物作りの中でも、特にお菓子を作ることが好きだった彼女にとっては、ずっと志していた道だった。

「ちっちゃい頃から、ずっとパティシエになるって決めてたんですけど、この部屋を見てわかる通り、いろんなことが好きで(笑)だから、もっとなんか、お菓子を今お店で作っている形だけで済ませたくないっていうか。もっと、捉われたくないなって思って」

様々なジャンルのクリエイターや専門家が集まり、化学反応を起こすような実験的な空間が好奇心と創作意欲に満ちたモネにとってこの上なく刺激的な職場だった。このキャップを作った友人とも『Toner』で会ったことがそのことを物語っている。



様々なテイストのものが同居する部屋が物語るように、ジャンルや枠にはまらない、壁を作らずに興味が向くままにありたい。物作りにおいて、彼女がずっと変わらないもう一つの側面だ。

そのためには、周囲の人や普段歩いている街、目に入るものといったすべてがきっかけをくれる存在であり、刺激になっている。このことは、もしかしたら彼女自身はあまり意識していないのかもしれない。

「作ったものが『結果』だから、何のためにとか、これを作ってどうしようとかはあまり考え過ぎないようにしていて。でも、カフェで働いていると作ったお菓子を食べた人の表情が見えるし、ポップアップをやってみてもそうだなって」

モネ自身が欲しいものであるとともに、イメージを形にした結果でもある。だから、形にしたことで初めて人の目に触れることになるし、その反応はモネにとって常に予想外のものになる。

お菓子にしても、服にしても例に漏れず、好きなものを作る。だからこそ、その好きなものが誰かの手に渡ることで、モネにとって刺激となる新たな出会いのきっかけが生まれている。



ブランドを作る相棒は、モネのケーキをカフェで食べた日が最初の出会い。その友人と始めたブランドがもしかしたらモネにとって新しいきっかけになるかもしれない。

キャップを手に取った人が彼女のお店へ行くかもしれないし、何か新しい創作をしたくなるキーパーソンになるかもしれないし、たまたま街やInstagramで見て素敵だと思った人がポップアップを訪れるかもしれない。

「『Loop』ってブランドを彼氏と始めて、縄を編んでます(笑)これ、電球とロープを組み合わせてみたんです。彼氏はこのキャップを作っている友だちのお兄ちゃんで……」

どうやら既に、このキャップが新しいきっかけを生んでいる。作ることが好きだから、次に何を作りたいかがごく自然に浮かんでくる。次部屋を訪れたとき、きっとまた、新しいものが増えているだろうなと思った。



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越川 萌音(『Dirty Spoon』オーナー)
埼玉県出身。スイーツのブランド『Dirty Spoon』のオーナーとして、ポップアップやカフェへの卸を中心に活動している。趣味はおかしに限らずあらゆる物作り。これまでに制作したものは服や雑貨、ハンドメイド等多岐にわたる。お気に入りのショップは原宿の『Dill Pickle Club』。

Instagram:@m_o_n_e___
Dirty Spoon Instagram:@dirtyyyspooon
MOAi Instagram:@_moai_store

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